文芸部は渡しません!
そこではた、と気付く。
そうだ、1人、ずっとわたしの傍にいて、話を聞いてくれた子が……。
なんて驚くわたしの顔を見て、君河くんは頷きながら答える。
「速水衣里(えり)は俺の姉です」
うっそ! と思わずツッコんでしまったけど、そうだ、そういや名字同じじゃん!
知らなかった、とやや呆然とした声で呟くわたし。
君河くんは何も言わずにいたけど、わたしを見る目は確実に「まじかよ」と訴えていた。
「だから、俺はあんたがどれだけ文芸部を大切にしてるのか、まぁまぁ理解してるつもりです。哲辻にもそれを踏まえた上で、廃部の話し合いをして欲しかったんですけど、あいつどうにも思考が行動に追い付かなくて」
全く、と溜め息を溢し、君河くんは呆れているようだった。
でも、そんなに相手のことちゃんと把握していて、万が一トラブルになってしまった場合に備えて、こうしてちゃんとフォローも入れてくる君河くん。
口は悪いけど、会長さんとはすっごく仲良しなんだな、と思う。
だったら、君河くん経由で、何とか会長さんに今回の廃部の話は無かったことにしてもらうよう伝えなきゃ。
「そう、文芸部は確かに部員も活動日数もギリギリだけど、必要としている子がいるのも事実なの。現にわたしはもう引退扱いだけど、まだ文芸部員やってたいし」
折角入ってくれた部員2人のためにも、そしてその次の代のためにも、わたしが先輩方から受け継いだことを、まだ伝え切れてないから。
「だから、今回は……見逃して欲しいの」
本音は今回は、なんて、生温いもんじゃないけれど、何とか今のこの状況を乗り越えて、時間を稼ぎたかった。
確かに君河くんの言うとおり、あの会長さんは何をしてくるかちょっと読めないんだよな。
何でそんなヤバイ人が生徒会長なんかやってんだって話なんだけど。
そうだ。
そもそも。
「ねぇ、どうして君河くんが会長にならなかったの?」
「え? 何いきなり」
あまりにも突然過ぎたのか、わたしの素朴な、且つ根本的な疑問に、君河くんが吃驚している。
何でって、と怪訝そうにわたしを見返す君河くん。
だってねぇ、冷静だし丁寧だし、ちゃんとしてるし、多分君河くんの方が所謂「生徒会長」ってイメージに近いと思うんだよね。
そうわたしが感想とか妄想とか織り混ぜた、総合的な見解を述べると、君河くんは視線をわたしから外し、ひとつ息を溢す。
それから語り始めたのは、今までのやり取りからは想像も出来ない、エピソード。
「……俺、中学の頃不登校だったんすよ」
えっ、と何の身構えも出来ず、本当に正直に驚いてしまった。
君河くんは中学1年の早い頃から、何故か教室に行けず、暫くして不登校になってしまったんだと。
衣里もそんな弟のことを心配していたんだって。
でも勉強は苦手ではなかったから、衣里は自分と同じ高校に通うように、お母さんと一緒に説得してみたらしい。