Family's Birthday
「はーい、じゃあ宿題の時間だぞー」
俺は綺麗に空になった食器を片付けながら、李依(りい)と蒔哉(まきや)に呼び掛ける。
李依は元気よく返事をしたが、蒔哉は不満そうに俺を見上げて来た。
蒔哉は小学生になったばかりで、まだ机に向かって勉強すること自体が苦手なのである。
「あとでやる~」
早速カバンから計算ドリルを取り出している李依の横で、蒔哉は駄々を捏ねた。
俺は一旦食器をテーブルに戻して、こらこら、と諭す。
「そんなこと言って。また終わらなくて明日寝坊しちゃうだろ」
蒔哉と目線を合わせるようにしゃがんで、俺は蒔哉の頭を撫でる。
でも~、と引き続き不貞腐れていた蒔哉だったが、不意に玄関から声がして、表情を変える。
「ただ今ー」
浅海(あさみ)が帰って来たようだ。
おう、と立ち上がった俺の横を素早く走り抜け、蒔哉はリビングに姿を見せた浅海の足元に抱き着く。
「パパおかえりー!」
蒔哉はほんとに浅海によく懐いている。
浅海も実の息子のように相手をしてくれるし、本当に引き取って良かったなぁと思う。
「蒔哉今日は学校どうだった? 割り算出来たか?」
「できない!」
浅海のそんな問い掛けに、何故か笑顔で元気いっぱいに言い切る蒔哉。
ある意味強い(ていうか多分状況を理解してない)。
でも浅海も怒るわけでもなく、あはは、と笑って返す。
「そーかそーか。でもパパは割り算出来る蒔哉だったらもっと大好きになるかもな~」
「えっ……!?」
蒔哉のショックを受けつつも嬉しそうな顔。
それを見ていて、俺は浅海に頼み込んでみる。
「浅海、帰宅早々悪いんだけど、蒔哉の宿題見てやってくれる? 俺も片付け済んだら来るから」
「おー、いいよ。じゃあおにぎり作って」
浅海がそう快諾してくれたので、ん、と俺も頷く。
じゃあパパと頑張ってみるかー、と浅海に誘われて、蒔哉は戸惑いながらも、おす、と返事をしていた。
そんな俺たちの横では、李依が黙々とドリルを進めていた。
俺と浅海は23歳くらいの頃から同棲を始めて、35歳くらいの頃に、遂に子供を育てることに決めた。
それから手順を踏んで、出逢ったのが、今年10歳になる女の子、李依と、8歳になる男の子、蒔哉だ。
李依を引き取ったときは5歳だった。
施設の話によると、赤ちゃんポストに預けられて、暫くしても親が名乗り出て来なかったので、施設に引き取られた。
その頃はずっと俯いていて、全く喋ることもなかったんだそうだ。
一方の蒔哉とは、2歳になる頃出会った。
交通事故で相次いで両親が亡くなり、親族が引き取りを渋っていたそうだ。
その話を聞かされたとき、つい勢いで引き取りを希望した。
結果としてはよい選択だったと思う。
「お父さん、ちょっと、ここなんだけど」
洗い物を一通り終えたところで、李依が俺を呼ぶ。
俺が李依のドリルを覗き込んでいると、部屋着に着替えて来た浅海が、蒔哉を連れて戻って来る。
蒔哉まじで浅海にべったりなんだよなぁ……。
「おにぎりと味噌汁、そこな」
俺は一旦顔を上げて、浅海に伝える。
おう、と浅海の返事を聞いてから、李依の方へ。
すると、俺のスマホが鳴った。
ん、と顔を上げる。
家族用に設定してある着信音だった。
珍しいな、と思いながら、スマホ置き場であるキッチンカウンターの方へ。
母親からだった。
「はいはい?」
『あ、裕(ゆう)? どう、元気にやってる?』
母親の声に、俺は頷きながら返事。
どうしたの、と訊ねると、母親はいつもの落ち着いたテンションで凄い内容を告げて来た。
「……は? え? あ、ああ、うん……」
俺は頭ではとんでもない一報だと理解はしていたのだが、いかんせん、母親の声色がやたらに落ち着いていたので、騒げなかった。
うん、うん、と冷静に話を聞き続け、カレンダーのひとつの日付に丸を付ける。
「うん、分かった。皆で行くよ。うん、親父におめでとうって言っといて」
うん、じゃあまた、と電話を切った。
……待てよ。
神妙な面持ちでスマホを見る俺。
俺は綺麗に空になった食器を片付けながら、李依(りい)と蒔哉(まきや)に呼び掛ける。
李依は元気よく返事をしたが、蒔哉は不満そうに俺を見上げて来た。
蒔哉は小学生になったばかりで、まだ机に向かって勉強すること自体が苦手なのである。
「あとでやる~」
早速カバンから計算ドリルを取り出している李依の横で、蒔哉は駄々を捏ねた。
俺は一旦食器をテーブルに戻して、こらこら、と諭す。
「そんなこと言って。また終わらなくて明日寝坊しちゃうだろ」
蒔哉と目線を合わせるようにしゃがんで、俺は蒔哉の頭を撫でる。
でも~、と引き続き不貞腐れていた蒔哉だったが、不意に玄関から声がして、表情を変える。
「ただ今ー」
浅海(あさみ)が帰って来たようだ。
おう、と立ち上がった俺の横を素早く走り抜け、蒔哉はリビングに姿を見せた浅海の足元に抱き着く。
「パパおかえりー!」
蒔哉はほんとに浅海によく懐いている。
浅海も実の息子のように相手をしてくれるし、本当に引き取って良かったなぁと思う。
「蒔哉今日は学校どうだった? 割り算出来たか?」
「できない!」
浅海のそんな問い掛けに、何故か笑顔で元気いっぱいに言い切る蒔哉。
ある意味強い(ていうか多分状況を理解してない)。
でも浅海も怒るわけでもなく、あはは、と笑って返す。
「そーかそーか。でもパパは割り算出来る蒔哉だったらもっと大好きになるかもな~」
「えっ……!?」
蒔哉のショックを受けつつも嬉しそうな顔。
それを見ていて、俺は浅海に頼み込んでみる。
「浅海、帰宅早々悪いんだけど、蒔哉の宿題見てやってくれる? 俺も片付け済んだら来るから」
「おー、いいよ。じゃあおにぎり作って」
浅海がそう快諾してくれたので、ん、と俺も頷く。
じゃあパパと頑張ってみるかー、と浅海に誘われて、蒔哉は戸惑いながらも、おす、と返事をしていた。
そんな俺たちの横では、李依が黙々とドリルを進めていた。
俺と浅海は23歳くらいの頃から同棲を始めて、35歳くらいの頃に、遂に子供を育てることに決めた。
それから手順を踏んで、出逢ったのが、今年10歳になる女の子、李依と、8歳になる男の子、蒔哉だ。
李依を引き取ったときは5歳だった。
施設の話によると、赤ちゃんポストに預けられて、暫くしても親が名乗り出て来なかったので、施設に引き取られた。
その頃はずっと俯いていて、全く喋ることもなかったんだそうだ。
一方の蒔哉とは、2歳になる頃出会った。
交通事故で相次いで両親が亡くなり、親族が引き取りを渋っていたそうだ。
その話を聞かされたとき、つい勢いで引き取りを希望した。
結果としてはよい選択だったと思う。
「お父さん、ちょっと、ここなんだけど」
洗い物を一通り終えたところで、李依が俺を呼ぶ。
俺が李依のドリルを覗き込んでいると、部屋着に着替えて来た浅海が、蒔哉を連れて戻って来る。
蒔哉まじで浅海にべったりなんだよなぁ……。
「おにぎりと味噌汁、そこな」
俺は一旦顔を上げて、浅海に伝える。
おう、と浅海の返事を聞いてから、李依の方へ。
すると、俺のスマホが鳴った。
ん、と顔を上げる。
家族用に設定してある着信音だった。
珍しいな、と思いながら、スマホ置き場であるキッチンカウンターの方へ。
母親からだった。
「はいはい?」
『あ、裕(ゆう)? どう、元気にやってる?』
母親の声に、俺は頷きながら返事。
どうしたの、と訊ねると、母親はいつもの落ち着いたテンションで凄い内容を告げて来た。
「……は? え? あ、ああ、うん……」
俺は頭ではとんでもない一報だと理解はしていたのだが、いかんせん、母親の声色がやたらに落ち着いていたので、騒げなかった。
うん、うん、と冷静に話を聞き続け、カレンダーのひとつの日付に丸を付ける。
「うん、分かった。皆で行くよ。うん、親父におめでとうって言っといて」
うん、じゃあまた、と電話を切った。
……待てよ。
神妙な面持ちでスマホを見る俺。