親友発見。

「邪魔するぞ」

 そう、縁側から入ってくるひとつの声。
 ひょっこりと覗いてみると、いたのは当然だけど、鳳凰だった。

「あー、久し振り」

 俺は窓掃除をしていた手を止めて、鳳凰に挨拶。
 鳳凰は小脇に数冊雑誌を抱えた様子で、おお、と俺に気付いた。

「変わりないか華倉?」
「うん、まぁ特には。どうしたの今日は」

 にっこりと笑って鳳凰は俺を気遣う。
 俺もそんな風にいつものように受け応えていた。
 鳳凰は俺の質問に、ああ、と抱えていた雑誌を見せる。

「読了したのでな、返却に」
「……あーそれ」

 なんてやっている俺たちの許へ、割って入る魅耶の声。

「待ってましたよそれぇぇぇぇ!!」

 がらり、と襖が開いて、魅耶が叫んだ。
 何、とビビる俺と鳳凰。
 魅耶は鳳凰の傍まで来ると、1冊の雑誌を勝手に取り上げる。
 そして中身を確認した。

「何、どうしたの魅耶?」

 何かを探しているような魅耶に、俺が取り敢えず訊ねる。
 すると魅耶は発見したのか、あったあった、と呟いてから答えた。

「今連載してる作品の続きをメモしてありまして。うっかりそのまま貸しちゃったんですよ」
「……何と」

 魅耶のそんなおっちょこちょいなエピソードに、何故か驚いているのは鳳凰だ。
 何ですか、と怪訝そうな魅耶に鳳凰が残念そうに呟く。

「それはすなわち……我はネタバレを読んでしまったということだろう……? 何と言うことだ」
「……鳳凰の口からネタバレって」

 何か、いや、すげー違和感。
 なんてひとりショックを受けている俺の隣では、魅耶も何となく青ざめている。
 何、と俺がそれに気付くと、魅耶は独り言のように呟く。

「鳳凰とは言え、部外者に見られてしまっては……変更するしかありませんね」

 こういう発言、魅耶もプロなんだなって思う。
 魅耶は一応篠宮総本山で俺と一緒に山守してるけど、魅耶の本業はおそらく「作家」だ。
 ホラー小説家としてそろそろ7年くらい活動している。
 結構面白いらしくて、本も売れてるってことらしいけど。
 俺はホラーだの怪談だのが苦手なので読めてないのである。
 そう思うと、普通に読んでいる鳳凰って凄いなと思う今日この頃。

「して、他の雑誌はないのか?」

 鳳凰がそう訊ねると、あー、と魅耶は一旦仕事部屋に戻る。
 鳳凰がその後を付いていってしまったので、俺も一緒に入ってみた。

 魅耶の書斎は結構シンプルだけど、雑誌とか自分の出した本とかは綺麗に並べてある。
 ので、その量が圧巻なのだ。
 連載されていた雑誌も全部残してあるし。
 理由としてはそれが魅耶にとっての資料なんだそうだ。

「今月は別冊が出ましたので、それがありますね」
「別冊……」

 ほうほう、と鳳凰が興味津々に手に取る。
 何だかんだ、魅耶と鳳凰が仲良くやってくれているのは嬉しいと思う。
 何て言ってもこのふたりは敵同士だったわけで。
 まぁ原因は俺なわけですが。
 でも今は小説を通してこんなふうに普通に喋れて。

「鳳凰は読書家だねぇ」

 何かひとりしんみりしてしまっていたので、俺は率直に感想を述べてみた。
 そうか、と鳳凰は返すんだけど、既に視線は文章に釘づけだった。
 早く読みたいんだろう。
 何て遠慮して、それ以上声を掛けないようにした俺。
 しかし魅耶はと言うと。

「あーそうだ。ちょっと鳳凰、これやめてもらえませんか?」
「何だ?」

 魅耶が返された雑誌の最後の方を開いて鳳凰に告げる。
 きょとんとしている鳳凰に、魅耶がその箇所を見せながら続けた。

「アンケート記入したからって『出しとけ』って指示ですよ。命令しないでください」
「命令ではないぞ、依頼だ」

 もう、と怒る魅耶だけど、鳳凰にそのつもりはないようだ。
 鳳凰にとってはこれはお願いだったらしい。
 もー、とまだ怒る魅耶。
 それに、と鳳凰の書いたアンケートを見ながら呟く。

「それにいつも褒めてるのは浅岡先生だけですね……好きなんですか?」
「……魅耶読んでんの?」

 アンケートはがきを切り取りながら、魅耶が鳳凰に訊ねた。
 っていうか、丁寧に読んでいるのか。
 とか、いろいろツッコミたい箇所はあるんだけど、取り敢えずそれ。

 目に付くだけです、と魅耶は言うけど、まぁ、気にしてるだろうなぁ……人気。
 すると鳳凰は、ああ、と笑って答える。

「浅岡氏の書く物語が一番面白い。果てしない失望の中に唯一残された救いを見付けるのが好きでな」
「へぇー」

 そうなんだ、とほんと素人並の感想を漏らしてしまう。
 華倉は読まないのか、と鳳凰にツッコまれてしまうほどである。
 そんな鳳凰の発言を受けて、そうですか、と魅耶は頷いている。

「確かに浅岡先生本人とのギャップが激しいですもんね、作品は。とても繊細で優美で、あの人が書いているとは思えないほどの……」
「……魅耶会ったことあるの?」
「え、はい、数少ない作家友達です」
「何ィ!!!」

 なんて魅耶が語り出したので、つい素でそう訊ねてしまった。
 ら、魅耶は何と友達だったらしい。

 へぇー、と何となく嬉しいような寂しいような感じでいる俺の横から、鳳凰の叫び声。
 吃驚して肩が跳ねた。
 何ですが五月蝿い、と怪訝な目付きになった魅耶に、鳳凰が続ける。

「まことかそれは! 浅岡氏と面識があるのか!!」
「……だからそう言ってるじゃないですか」

 鳳凰、何か異様に食い付いてくる。
 何だろう、と思っていると。

「会わせろ! 話がしたい!!」

 ということだった。
 わぁ、と驚いている俺とは裏腹に、魅耶はいやに冷静。

「それが人に物を頼む態度ですか?」

 ……それに不機嫌。
 あー、と思って俺、鳳凰に助け舟。

「鳳凰、ちょっと耳貸して」
「? 何だ華倉?」

 ちょいちょいと鳳凰を手招きして、鳳凰に耳打ち。
 鳳凰は俺に教わった通りに喋る。

「……会せてくださいお願いします……?」

 でも語尾が疑問形になってしまった。
 あー、と苦笑する俺。
 取り敢えず魅耶にアイコンタクト。
 魅耶はそんな俺に免じてか、溜め息を吐いて呟く。

「仕方ないですねぇ」

 むー、と不本意ながらも、電話を掛けた。



 急なお誘いにも関わらず、浅岡さんは快諾してくれた。
 ので、まず鳳凰の服装を何とかしようという話になった。
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