(かわいい)

「100万ドルて、その表現が安っぽいわ」

 魅耶、どさくさに紛れてワンモア。
 しかし俺はその魅耶の勢いを何とか受け流す。
 ぐぐぐ、と俺を押し倒そうとしてきた魅耶の手を掴みながら、冷静にそう返した。
 ら。

「……。じゃあ2.3カラットのダイヤモンド」
「中途半端だな」

 魅耶は何故か拗ねたように例えを変えた。
 中途半端なのかどうかは、はっきり言って分からない。
 何せ宝石の価値についてはてんで素人だ。

 はぁ、と溜め息を吐き、俺は魅耶を頭を撫でて、宥める。
 そう言えば魅耶、ずっと缶詰状態だったな、と思い出す。

「うん、わかった。魅耶にとってとても価値があるのは分かったよ。取り敢えずお風呂入ろう? 沸かしてくるから」
「えっ、いきなり豪華なお誘いですね……。こんな朝から」

 そう、俺が気を利かすものの、魅耶は相変わらずの歪曲解釈。

「俺入んないよ? 魅耶だけだよ?」

 何で朝から俺まで風呂だよ。
 と俺はそう力いっぱいツッコミした。
 んだけど、魅耶は唇を尖がらせて文句を返す。

「えー、意味なーい」

 ぶー、と拗ねる魅耶。
 あれ、何か俺、頭痛してきた。

「……分かった、魅耶だいぶキャラ変わっちゃってるから、寝よう」

 そうだ、それだ。
 まずそれだ、寝不足を解消させよう。
 そう決めて、俺は勝手に魅耶の布団を用意しに立ち上がる。

 寝室はこの奥の部屋である。
 そんな俺の後を付いて来ながら、まだまだ魅耶は駄々を捏ねている。

「嫌ですー! 華倉さんと一緒じゃなきゃー」
「俺まだ庭仕事あるから駄目。つか俺起きたばっかだし」

 どうしても「俺」が欲しいらしい。
 しかし現在まだ午前9時を回ったところ。
 俺が寝るにはいささか罪悪感が。

「かぐらしゃーん」

 魅耶の分だけ布団を用意している俺に、魅耶がべったりくっついて甘える。
 俺はそんな魅耶に向き直ると、魅耶の顎を掴んで上を向かせた。

「ほら、いいから。おやすみ」

 さっきよりもちょっと深めのキスをして。
 すると魅耶はふにゃんと笑って、案外直ぐに寝入った。

 本当は限界だったのに、俺に構おうと無茶する。
 そんなところも好きだから、やっぱり嬉しいけど。

「ちゃんと寝るんだよ」

 そう、魅耶に布団を掛けてやって、襖を閉めた。


2017.2.3
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