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巻き込まれアクシデント(監督生目線)

ここの学園に来てそんなにたっていないけれど、レオナ先輩のあんな姿を見るのは初めてだった。

最初に異様な姿のレオナ先輩を見つけたのは、エースだった。
「おい、ユウ。あれってレオナ先輩じゃ」
「本当だ。キングスカラー先輩…珍しい」
デュースも目を見張っている。

 レオナ先輩が、制服の上着を着て、あろうことかネクタイ迄締めている。あの人はいつもシャツの上にベストだけで、だらしなくシャツのボタンをあけている。しかもだ。普段は皮のサンダルを履いているのに、この日は
「レオナのやつ、靴を履いているんだゾ」
グリムの言う通りだった。なんと磨かれた革のウイングチップだ。

そして最も異様なのは…
「キングスカラー先輩のあの荷物」
レオナ先輩が珍しくキャスター付きのキャリーケースを運んでいるのだ。
「成績が悪くて実家に呼び出されたのかな」
「…俺たちじゃあるまいし、あの人に限ってそんなことないだろ」
確かに。レオナ先輩は授業はサボるわ、態度は横柄だわ、留年してるわ、と、とても尊敬できないところばかりだが、成績は悪くない…どころかどっちかというとかなり優秀な人だ。今更成績で親にお目玉をもらうとは思えないし、大体レオナ先輩がそんなことで実家に帰るだろうか。まだホリデー休暇まで2週間もあるのに。
「ラギー先輩は一緒じゃないんですね」
「というか、付き添わなくても普通、ブッチ先輩に荷物持ちさせるんじゃないの、普段のキングスカラー先輩は」
「なんか神妙な顔をしてるんだゾ、レオナのやつ」

 そうこうしているうちに、僕たち、と、レオナ先輩は鏡の前にきた。学園長が先輩と何か話している。やっぱりというか、レオナ先輩は不機嫌そうだ。学園長はその剣幕に押され気味だ。僕たちは慌てて身を隠した。
レオナ先輩はしばらく鏡を見ていたと思うと、不意に鏡に吸い込まれた。
「おれたちも行くぞ」
エースが僕とデュースの手を引っ張った。グリムが僕の頭によじ登り、まぶしい光が見え・・・・僕たちは気を失った。


 「ここは一体どこなんだゾ」
僕の顔の上にグリムが載っている。どいてくれないかな。
「グリム、お前ユウの顔つぶしてるぞ」
デュースありがとう。僕はむせながら立ち上がった。
空が暗い。そしてなんだか冷え冷えとした雰囲気だ。
(びょう、いん?)
僕たちは知らない場所の病院らしいところに落っこちたらしかった。
「やべ、キングスカラー先輩だ」
デュースの声に僕たちは思わず身を隠す。レオナ先輩は病棟のほうに歩いていった。僕たちもこっそり後をついていく。できるだけ見つからないようにして。そうこうしているうちに、レオナ先輩は長椅子のあるところで足を止めた。僕たちは自販機のあるコーナーに隠れた。

レオナ先輩の向かいに、長椅子に腰かけた女の人がいた。
レオナ先輩と同じ獣耳を持ち、はちみつのような色の髪は胸まで伸び。紺色のワンピースを着ている。声が聞こえないのでわからないが、何かを話しているようだ。
 ふと、レオナ先輩がくるりと背を向けてこちらに向かってきた。
「や、ヤバイ!」
「な~あにがヤバいんだ?」
エースが小声で逃げようとしたのと、レオナ先輩がこちらに気づいたのが同時だった。
「…お前ら、3バカじゃねえか。なんでここにいる」
「あ、あの、その…」
「いいのか、こーんなとこでサボってて。お前らの寮長に知れたら、また首をはねられるぜ」
 レオナ先輩が内緒にすれば…とは言えなかった。そんなことが通用する相手じゃない。
「き、キングスカラー先輩こそ何してるんですかっ!」
デュース、君結構心臓強いよね。「ユウって大人しそうに見えて割と言うよな」って君だって似たようなもんじゃ…おっと、レオナ先輩苦い顔だ。
「こっちはクロウリーに許可取ってきてるんだ。…なんで俺のストーカーみたいなことしてるんだ、1年坊主」
 レオナ先輩の行動に興味を持って後をついてきたが、あいにくこの人にはすべてお見通しのようだ。改めてレオナ・キングスカラーは敵に回してはいけないと思った。
「な、なんで俺たちがついてきてるのが分かったんですか!」
レオナ先輩は人の悪そうな笑みを浮かべた。
「当然だ。獣人族の鼻をなめるな。こんな時間のこんな場所で知ってる奴の匂いがしたら気になるだろうが」
「レオナ様、どなたかいらっしゃるの?」
不意にとても魅力的な奇麗な声が聞こえて、先ほど座っていた女の人が近づいてきた。
「あああ、あのっ、ぼ、僕たちもお見舞いに…」
「ふふふ、どうでしょうか。ここは政府要人も利用する特別病棟よ。普通の人間は出入りできないわ。それとも、ナイトレイブンカレッジの学生は顔パスかしら?」
笑っている。レオナ先輩と並ぶとずいぶん小柄に見えるが、愛らしい人だ。そして多分頭もいい。
「どうせお前ら鏡の前で遊んでいて巻き込まれたんだろう。帰れといっても、”出口”がない」
「レオナ先輩、ここって…」
「俺知ってる。ノースキャロウェイ記念病院だ。ナイトレイブンカレッジからはバスで空港に出て、飛行機に乗って…1日半は移動にかかる」
エースはお兄さんと一緒に見舞いにいったことがあるらしい。薔薇の国からは2時間だそうだ。位置関係はよくわからないが、とにかく学園からはるか遠くに来てしまったことだけは理解できた。
「そしてここの移動用の鏡は決まった日の決まった時間にしか作動してねえ。お前らが帰れるのは1週間後かな」
レオナ先輩はニヤリと笑った。
…なんてことだ。
「クロウリーには、バカな1年生坊主が鏡の近くで遊んでてうっかり吸い込まれた事故だって連絡しておいてやる。まったく、俺の寮の奴じゃねえのに世話かけやがって」
「すみません、キングスカラー先輩。こ、このことはローズハート寮長には…」
レオナ先輩はニヤリと笑った。
「ああ、黙っておいてやるよ。他寮の1年生が俺のストーカーなんて面白えネタ、放出してやるほど優しくねえ」
やっぱり。傍らのエースを見ると、そんなレオナ先輩の思惑には気づかないまま、こんな質問をした。

「ところでレオナ先輩の隣の女の人、どんな関係なんですか」

…空気読め、エース。
「聞きたいか」
ほら、レオナ先輩怖いじゃないか!
「俺の許嫁だ」
「ま、マジですか」
エースはショックを受けている。僕は冷静だった。
「エース、レオナ先輩は高貴な身分なんだから、許嫁くらいいてもおかしくないんじゃないの」
「がーん、ショックだ…彼女くらいはいそうだと思っていたけど、まさか許嫁とか…」
「3バカに嘘や誤魔化しは効かん。特にお前、そこの草食動物」
レオナ先輩には因縁がある。その因縁のお陰か、先輩は僕に1目置いている、と、ジャックから聞いている。
「はい!」
「このことは悪いがまだ内密にしてくれ。国でもまだあいつを婚約者として披露する前なんだ。知っているのはごく少ない身内だけだ」
「わかってますよ、先輩」
「俺はともかく、あいつに迷惑はかけたくない」
 女性を大事にする(と、ラギー先輩から聞いている)国の王族らしいですねなどという軽口はきけなかった。それだけ、レオナ先輩の目が怖かったからだ。
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