Ep.1 仕事
湖水の街は、北に山、南に海とあり、比較的平らだが坂道の多い地形をしている。
だが、夏は南に近い方は普通に暑いし、北は冬に雪が降る。良いところは四季の彩りを感じられる点、悪いところは天気予報は湖水一帯で発表されるのであてにならない、といった点だろう。
そんな街の北の中心部に、任侠団体であるはずの宵宮組の拠点は位置している。
「ただいま」
昔ながらの平べったく長い日本家屋。無駄に面積の広い庭を突っ切り、母屋から遠い離れの玄関の戸を開き、靴を脱ぐ。
脱いだ靴を靴箱へしまうと、暗い廊下の電気をつけ、奥の部屋へ呼びかける。
「影 ?」
返事はない。あの野郎、また寝てる。
板間にギシギシと足音が響く。一番奥の襖を開くと、機械から漏れ出る青い光が照らす真っ暗な部屋で、パソコン机のすぐ側に位置するベッドにこんもりとした山ができていた。
「影」
ゆさゆさとゆすると、もぞもぞと出てきた手が俺の手を掴む。
「・・・起きる」
「燈からの呼び出しだ。仕事」
のそりと上半身を起こし、目をぱしぱしさせると、ググッと伸びをした彼。真っ黒な髪に白い肌、何処か黒猫のような印象を持たせる。
「・・・昨日も夜にやってた」
「知ってる。だからサボって寝てただろ」
「・・・え、潮は学校行ったの」
「早退したけどな」
「・・・」
拗ねたように押し黙る影の頭を叩き、背を向ける。
「荷物置いてくる。母屋行くぞ」
「・・・わかった」
廊下の反対側の襖を開ければ、こちらも青い光を灯しながら活動する機械の数々。ベッドの上に鞄を放り投げ廊下に戻ると、影がカーディガンを羽織りながら出てきたところだった。
「行くか」
「ん」
呼び出しだとは言っても相手はあの燈だ、服を着替える必要もない。さっきしまったばかりの靴を取り出し、ついでに影の分もそこらに放り投げておく。
「雑」
「いいだろ」
「潮だからだよ」
軽口をのろのろと叩き合いながら母屋の玄関口を開けると、掃除をしていたのであろう下級構成員が箒を持ったまま黄色い頭を上げた。
「影、潮!お疲れ様!学校は?高校は午前授業じゃなかったよな」
「日葵」
牧之段 日葵 。宵闇組の代表に代々仕える一家、牧之段家の息子。彼は次男らしく、家を継ぐ気もないので飄々と長閑に、たまにスリルありの生活を楽しんでいる。
「お前こそ大学は。今日は午前あっただろ」
「潮さっすが、ちゃんと覚えてんねぇ。教授が風邪ひいたらしくて、休講になったんだ。お前らこそ、これから何があんだ?」
箒を片手に駆け寄って来て、それこそ向日葵のような笑顔を見せる彼。名前通りの面しやがって。
長話をするつもりはない、とでもいうように一歩進む。
「燈は」
「副代表か?なんかさっき帰って来て、そのまんま自室に入ってったっぽいぞ。急いでいらっしゃるように見えたけど」
日葵の眉尻が下がり、黄色い目が細まる。
「危険なことに自分から首を突っ込むような真似はすんなよ。お前ら、肉体仕事できない癖に突拍子もない事しだすから。心配してんだからな!」
本気で心配しているようなので、軽く頭は下げておく。言われたとおりにする保証はない。自分がやるべきだと思ったことをやっているだけだから。
・・・きっとそれは、後ろの奴も同じ。
「・・・やるべきことをやってるだけなのに」
「そういうとこだよ!情報班のお前らが先陣切って危険に身を投じる必要はないってんだ!」
「身を投じるって言葉知ってたんだな」
「腐っても大学生だぞ!?お前ら、ほんっとに可愛げがねぇのな!」
ぷんすこという効果音が出ているのかと疑うぐらいに威勢のない怒りを背に、入り組んだ廊下を進んだ。
だが、夏は南に近い方は普通に暑いし、北は冬に雪が降る。良いところは四季の彩りを感じられる点、悪いところは天気予報は湖水一帯で発表されるのであてにならない、といった点だろう。
そんな街の北の中心部に、任侠団体であるはずの宵宮組の拠点は位置している。
「ただいま」
昔ながらの平べったく長い日本家屋。無駄に面積の広い庭を突っ切り、母屋から遠い離れの玄関の戸を開き、靴を脱ぐ。
脱いだ靴を靴箱へしまうと、暗い廊下の電気をつけ、奥の部屋へ呼びかける。
「
返事はない。あの野郎、また寝てる。
板間にギシギシと足音が響く。一番奥の襖を開くと、機械から漏れ出る青い光が照らす真っ暗な部屋で、パソコン机のすぐ側に位置するベッドにこんもりとした山ができていた。
「影」
ゆさゆさとゆすると、もぞもぞと出てきた手が俺の手を掴む。
「・・・起きる」
「燈からの呼び出しだ。仕事」
のそりと上半身を起こし、目をぱしぱしさせると、ググッと伸びをした彼。真っ黒な髪に白い肌、何処か黒猫のような印象を持たせる。
「・・・昨日も夜にやってた」
「知ってる。だからサボって寝てただろ」
「・・・え、潮は学校行ったの」
「早退したけどな」
「・・・」
拗ねたように押し黙る影の頭を叩き、背を向ける。
「荷物置いてくる。母屋行くぞ」
「・・・わかった」
廊下の反対側の襖を開ければ、こちらも青い光を灯しながら活動する機械の数々。ベッドの上に鞄を放り投げ廊下に戻ると、影がカーディガンを羽織りながら出てきたところだった。
「行くか」
「ん」
呼び出しだとは言っても相手はあの燈だ、服を着替える必要もない。さっきしまったばかりの靴を取り出し、ついでに影の分もそこらに放り投げておく。
「雑」
「いいだろ」
「潮だからだよ」
軽口をのろのろと叩き合いながら母屋の玄関口を開けると、掃除をしていたのであろう下級構成員が箒を持ったまま黄色い頭を上げた。
「影、潮!お疲れ様!学校は?高校は午前授業じゃなかったよな」
「日葵」
「お前こそ大学は。今日は午前あっただろ」
「潮さっすが、ちゃんと覚えてんねぇ。教授が風邪ひいたらしくて、休講になったんだ。お前らこそ、これから何があんだ?」
箒を片手に駆け寄って来て、それこそ向日葵のような笑顔を見せる彼。名前通りの面しやがって。
長話をするつもりはない、とでもいうように一歩進む。
「燈は」
「副代表か?なんかさっき帰って来て、そのまんま自室に入ってったっぽいぞ。急いでいらっしゃるように見えたけど」
日葵の眉尻が下がり、黄色い目が細まる。
「危険なことに自分から首を突っ込むような真似はすんなよ。お前ら、肉体仕事できない癖に突拍子もない事しだすから。心配してんだからな!」
本気で心配しているようなので、軽く頭は下げておく。言われたとおりにする保証はない。自分がやるべきだと思ったことをやっているだけだから。
・・・きっとそれは、後ろの奴も同じ。
「・・・やるべきことをやってるだけなのに」
「そういうとこだよ!情報班のお前らが先陣切って危険に身を投じる必要はないってんだ!」
「身を投じるって言葉知ってたんだな」
「腐っても大学生だぞ!?お前ら、ほんっとに可愛げがねぇのな!」
ぷんすこという効果音が出ているのかと疑うぐらいに威勢のない怒りを背に、入り組んだ廊下を進んだ。
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