徒然なる日記

蔵出し その2

2024/07/15 18:11
蔵出し
完成した作品とは全く異なる<邪神>柳星張の初期の原稿が出てきました。



<邪神>柳星張
バラン対イリス


[注意]
この作品は、年齢制限こそ設けてはおりませんが、内容の一部に性的描写、及びグロテスクな描写が存在致します。

その様な表現が苦手な方や嫌悪感を感じる方などは、読まない事をお勧め致します。

尚、登場する怪獣、及び関連させている作品等を愚弄、損害させる意図は全くありません。

また、この作品に登場する地域、団体は実際のものとの関係はない、フィクションです。




【登場人物】

朱雀火漸[スザクカゼン]
┗謎の旅侍。朱雀流百式剣法改の使い手。異世界から来た或る意味この世ならざる者。

(立花)辰兵[タツベイ]
┗村の生き残り。血の気が多く、気が早いが弱腰な若者。村の仇討ちをしようとする。子孫はGMKの主人公。最初にあった老兵の息子。

伊佐山嘉利[イサヤマ]
┗岩屋の山奥に住む仙人。遥か太古から聖獣に仕える者。聖獣同様にこの世ならざる存在であり、不老不死。

岩屋[イワヤ]
┗北上川上流の岩屋の国を納める領主。娘の身を案じているが、幽閉されている。最後は全てを背負い、領民に首を討たれる。

白姫[ハクヒメ]
┗絶世の美女。柳星張に操られ、柳星張を飼う岩屋の姫。柳星張の子を宿し、自決。

柳星張[リュウセイチョウ]
┗勾玉に封印されていた邪神が戦の死者の魂と邪念で覚醒した。戦死者と母の血から生まれた。本来の形を持たない為、血を吸い、能力と形を得る。技は吸血、触手、響光剣(超音波メス)。

婆羅陀魏山神[バラダギサンジン]
┗北上川上流の山村に伝わる山神。護国聖獣の一体であり、風を司る。潜在的な力は千年竜王に匹敵し、十握剣によって封印されていた。僅差で柳星張に破れるが、その霊魂を十握剣に込め、柳星張を滅した。技は風刹爪、毒針、疾風波。

勾玉[マガタマ]
┗柳星張を封印し、白姫を操っていた媒体。

十握剣[トツカノツルギ]
┗婆羅陀魏を封印していた剣。火漸が柳星張を倒す為に使った。

【序】

「ここでも戦が……。この世界も混沌に染まっている」
 蛆がわき始めた死体がまだ片付けられないまま辺りに横たわり、悪臭の立ち混む草原を歩きながら男は一人呟いた。
 旅の剣客であろう、男は太刀を腰にさし、長く伸びた髪は藁で乱雑に後ろで縛っている。
「……ぅ…」
 木陰から呻き声が聞こえた。剣客は木陰に近付く。そこには、瀕死の老兵がいた。
「………この傷では、今まで生きていたのが奇跡というべきだな。……何か言い残す事はあるか? 國まで言伝るぞ!」
「……嗚呼……婆羅…陀魏……山神様……。息子を……頼みま………す」
 男を焦点の合わない目で見ながら、最期の力を振り絞り言い残すと、老兵は逝った。
「婆羅陀魏山神、それがこの者の國の神か……。わかった。俺は息子を守る事が出来ぬが、せめてお前の髪を婆羅陀魏山神様の元へ届け、今の言葉を言伝よう」
 そして、男は老兵の髪を紙で包むと、亡骸を葬った。


 遠い昔、まだ世が戦国と呼ばれていた時代。
 各地で戦は絶えず、世は混沌としていた。明日の見えぬ生活に人々は神々を信仰し、同時に渦巻く多くの憎悪を魍魎として恐れていた。
 果して、それらは幻想か、或いは………。



【壱】

 土を掘る音が静まり返った村を伝う。村から聞こえる音は、土を掘る音と、一人の息遣いだけだ。
 土を掘るのは、若い男であった。彼の傍らには、麻布をかけただけの村人達の骸が転がっていた。
「待ってろ、母ちゃん。今、埋めてやるからな。………仇は、必ず!」
「……山賊の仕業か?」
「誰だ!」
 突然背後から話しかけられ、男は腰に刺した小太刀に手をかける。
 そこには、長髪で太刀を腰に据えた三十路過ぎと見える男が立っていた。
「旅の者だ。仇とは穏やかな話じゃないからな。……この村には通りかかっただけだが、人気はない。そして、唯一の村人らしき者は土を掘り、傍らには無数の骸。成程、流行り病にやられたかと思い、早々に立ち去ろうと思った矢先にお前の言葉が聞こえた」
 旅人は周囲を見回しながら、男に答えた。
「旅の方ですか。悪いですが、貴方には関係のない事。この村から立ち去っていただきたい」
 男は小太刀から手を離すと、旅人に言った。
「お前以外、皆殺しか? ………な、なんだ! 血の一滴も残さず干物になっていやがる」
 旅人は麻布を捲り、骸を見ると目を見開いて呟いた。骸は体液の一滴たりとも残さず木乃伊となった無残なものであった。
「見るな!」
 男は旅人を骸から離すと、麻布をかける。
「……お前のお袋さんか?」
「あぁ」
「こいつは……一体」
「偶にここらで起こるんだ。蛭の妖だの、蚊の妖だの、西洋の魔物だのと云われているが、その正体は誰も知らない」
「……ドラキュラ」
「え?」
「なんでもない。それで、昔からこういう風に村が襲われるのか?」
「いや。こんなのは初めてだ。なんで、私の村が襲われなければ……」
「なんで、お前は無事だったんだ?」
「………昨晩から川の近くにある村へ使いに出てたんだ。昼、村に戻ったら、この通り家族も、村のみんながこの有様だ」
 男はその場に崩れた。旅人は骸に手を合わせると、鍬を持つと、土を掘り始めた。
「貴方………」
「こういうのを放っておけない性質でな」
「す、すみません」
「気にするな。俺の好きでやっている事だ。……それより、お前。名前は?」
「辰兵」
「辰兵か。おい、泣くのもいいが、さっさとお袋さん達を葬ってやろうぜ」
「お、おう!」
 辰兵は立ち上がり、旅人と共に土を掘り始めた。
「貴方のお名前は?」
「俺か? ……姓は、朱雀。名は、火漸。宛てもなく旅を続ける世捨て人だ」
「朱雀火漸……。有り難う!」
 二人は日が暮れる前に村人全員を土葬した。


「それで、何にも心当たりはないのか?」
 晩、辰兵の家で火漸は夕餉を食べていた。
 屋内は荒れていたが、刀傷や血の痕はなく、人の手によるものとは考え難い状態であった。既に寝食に不自由がない程度に片付けを終えている。
「全くない訳ではない」
 汁を啜ると、辰兵は火漸の問いに答えた。
「なんだ。なら話は早い。後は捕まえる策を考えるだけだ」
「それが、そうはいかない。……関わりがあると噂されているのは、岩屋領主の一人娘、白姫様なんだ」
「白姫?」
 火漸が問い返すと辰兵は頷いた。
「ここら一帯は、岩屋様という領主が治める土地で、この岩屋の國は小さいながらもこの戦乱の世で隣國から攻められる事なく領地を守られ続けている」
「攻めも守りもせず……か」
「あぁ」
「まるで、演義の呉だな。………それで、そんな堅実なこの地の姫がなぜ蛭の妖と関係があると噂される?」
「別にまだ蛭と決まったわけじゃ。……白姫様が表に出るようになられた頃から此度の様な事が起こるようになったのです」
「成程な。………その白姫というのは美人か?」
「な! 何を言われるのかと思えば……!」
「別にいいじゃないか」
「私は拝見した事はないですが、見た者の話では絶世の美女だとか」
「それはよかった」
「何がいいのだ?」
「美人ならば、お会いする楽しみもあるというものだ」
 火漸は汁を煽ると、言い放った。辰兵は驚きつつ、聞き返す。
「お会いするとは? ……まさか、城に忍び込む気ですか?」
「そんな訳があるか! ここを使え!」
 火漸は自分の頭を指差して言う。
「では、どうやって?」
「まずは、城下へ行く。そして、俺は白姫の用心棒になり、堂々と城へ入り、件の事と白姫の関係を調べる」
「用心棒というのは、お庭番や護衛?どうやって?」
「そんなのは、俺の剣の腕があれば、どうにでもなるだろ」
「朱雀さんは、そんなに剣の腕があるのですか?」
「あぁ。朱雀流百式剣法改の使い手といえば、俺の右に出るものはいない」
「………それは朱雀さんしか使えないからではないですか?」
「なんだ。お前は俺の腕を疑っているのか?」
「いや、そういう訳では……」
「そうと決まれば、早速明日にでも城下に行くぞ」
 言うが早いか、火漸はその場に横になった。辰兵も就寝する為に囲炉裏の始末を始める。その時、疑問が浮かび、まだ寝息の立てていない火漸に聞いた。
「そういえば、朱雀さんはなぜ城下ではなく、この山奥の村へ来たのですか?」
「……ちょっと頼まれ事があってな。別に急ぎではない」
「そうですか」
 まもなく辰兵も床についた。
 その夜、村は静寂に包まれていた。




【弐】

 翌、辰兵は村の外れに並んだ墓場の前で手を合わせていた。
 一言、いってきますと呟くと、辰兵は立ち上がり、村の入り口で待つ火漸のもとに歩いていった。
「別れは済んだか?」
「はい」
「生きて報告に戻れよ。出発の言葉ってものはそういうものだ」
「わかってる」
 辰兵は頷いた。それに納得したのか、火漸は静かに身を翻した。
 朝靄が完全にはれておらず、爽やかとは言い難い空気を感じつつ、二人は村を後にした。


「朱雀さんは故郷を離れて長いのですか?」
 山道の途中で休憩をとる際に、辰兵は火漸に聞いた。
「そうだな、もう遠い昔の話だ。……いや、そうとも言えないな。結局、京に帰ってもそこに俺の故郷はない」
「京の出身だったのですか?」
「意外か?」
「まぁ」
「……下らない話をしたな。行こうぜ」
 そう言い、火漸は歩き始め、慌てて辰兵は後を追う。
 火漸の足はすぐに止まった。
 突如、火漸の雰囲気が変わった。辰兵でもそれが何であるかがわかった、殺気だ。
「ど、どうしました?」
「近くに何か……いる。熊か、賊か………! 殺気が消えた」
 同時に、火漸に纏っていた殺気も消える。
「どうやら、腕が立つというのは誠のようですね」
 辰兵は火漸の様子を伺いながら、言った。
「怖気づいたか? そんな風では妖を倒すなど百年早いな」
「う、うるさい!」
「誰だ!」
 辰兵が言うと、道の先から声が聞こえた。
 声のした方角から、大男が現れた。六尺を超えていよう大男は、二人を見ると名乗った。
「我が名は、北山玄武。この地を収める岩屋の砲筒隊の長とは我の事なり!貴様達、この道は只今我が領主は娘、白姫様の御散策中につき、封じておる」
 それを聞いた火漸は細く笑みを浮かべると、北山玄武に言った。
「成程、運がいいらしい。北山と言ったな、俺は朱雀火漸という剣に生きる者だ。この者から、近頃この領地では妖が噂になっていると聞きまして。是非とも、岩屋様に雇って頂きたいと思い、城下へ向う道中でした。道が封じられているとは、気付きませんでしたが、これも一つの縁。是非、白姫様にお会いさせて頂きたい」
「それは出来ん。確かに、妖の噂は近頃この地で囁かれているが、それに対して用心棒を雇うつもりはない。白姫様に御接見などもってのほかだ」
 玄武は火漸の前に仁王立ちし、一切応じる事はないという意思を示す。
「玄武、如何した?」
「は! 白姫様!」
 そこへ現れたのは、成程絶世の美女と云われる白姫であった。その艶めかしいともいえる容姿に辰兵は思わず息を呑み、慌てて跪いた。対して、火漸は動じる事なく、むしろ一切の遠慮もなく言葉を発した。
「貴女が白姫様ですか、確かにお美しい」
「そなたは?」
 白姫は火漸の発言を咎める事もなく、眉一つ動かさずに言った。
「俺は、朱雀火漸。見ての通り、剣の修行を続ける旅人だ。此度は白姫様をお守りする任に就きたく、直接お願いに伺いました」
 誰もがでまかせであるとわかる様な口実を並べ、火漸は白姫に挨拶をした。
「ほう。……そこまで言うのならば、相当腕が立つのだろうな?」
 白姫は言った。この時初めて白姫の眉が動いた。そして、その怪しくも挑発的な瞳には確かに火漸に対して興味を持っていた。
「それは当然」
 火漸の口調からは自信を感じ取られる。
「ならば、玄武! この者と相手をしなさい。もしも玄武を負かせたらば、そなたを妾の護衛の任に就かせよう。しかし、そなたが負けたら、斯様な無礼を働いたのだ、二人とも打ち首。……よいな?」
 顔面蒼白の辰兵に対し、火漸は平然とした表情で、頷いた。玄武も武具を構え、肯定の意思を示した。
 そして、火漸と玄武は白姫の前で向かい合った。
「かなり大きな長刀だな。弁慶の生まれ代わりか?」
「我の真髄は砲筒だが、近くの敵となれば、これが一番だ」
「そうか。いいぞ、かかって来い!」
「その余裕。命を失っても知らぬぞ!」
 刹那、玄武は長刀を火漸に突く。その巨体からは想像出来ない程に、早い。
 しかし、火漸は長刀にかすめる事なく、避ける。まだ太刀に手もかけていない。
 続く、払いも一切火漸には当たらない。玄武も早いが、火漸の素早さはそれを遥かに凌いでいる。
「避けてばかりか!」
「いや。………ならば、終わりにする!」
 言葉を発し終わるや否や火漸は、太刀に手をかけた。
 刹那、一陣の風が吹いた。
「安心しろ。斬ってはいない」
 いつの間にか玄武の後ろに立っていた火漸は、玄武に囁いた。玄武は失神し、その場に倒れた。
「白姫様、これでいいか?」
 太刀を鞘に収めると火漸は、白姫を見て聞いた。
「鞘から抜くと同時に刃を返しての胴の打ち抜き。……見事だ。妾について来い」
「俺の零式改を見抜くとは、中々いい目をされておられる」
 火漸が言うと、白姫は微笑を浮かべる。そして、淑やかに身を翻そうとする動きを止め、白姫は辰兵を見た。
「その者、名はなんと申す?」
「た、辰兵でございます!」
「辰兵か。すまぬが、他の者と共に玄武を城まで運んでもらえぬか」
「は、はい!」
 思わず返事をしたが、いざ玄武を運ぶ際、辰兵と玄武の部下はこの命を受けた事を大いに後悔する。


 先に城へ帰った白姫と火漸は、城の中の部屋へと向った。
 岩屋城と呼称されるそれは、山が連なる土地の一つの山の山頂に聳える山城で、城郭を構えた珍しい構造であった。
 火漸の通された部屋は、二十畳以上はある部屋であった。灯りが部屋の隅に置かれ、灯火は揺らめきながら二人と料理を照らす。部屋の広さ故に仕方がないが、薄暗い。
「このような食事は、そう食べた事がなかろう?」
 御膳といえる料理を前に白姫は、対面に座る火漸に言った。
 広い部屋には白姫と火漸の二人しかいない。
「そうだな。十年前でもこの様な御膳は食べなかったな」
「以前仕えていたところの話か?」
「そのようなところだ。異国の食べ物ばかり食べていた」
「聞いた事があるのう。異国を好む領主が南にいると」
 白姫が言うと、火漸は含み笑いをし、酒を掲げる。
「岩屋と白姫様に」
「堅くならぬでも良いものを」
 白姫は目を細めて言いつつ、酒を煽る。火漸もそれに倣う。
「これは美味しゅう御座います」
 火漸は感想を言った。
「そなたにその様な言葉は似合わぬぞ。気に入ったのならば、好きなだけ飲むがよい」
「良いのか? 俺はこれでも男子だぞ?」
 火漸が言うと、白姫はゆっくりと酒を口に流し込んだ。
 しかし、口の端から酒が滴り、首筋から胸元へと流れる。その艶めかしい姿を見せつけつつ、白姫は杯を置くと少し思案する素振りをする。
「ふむ。確かに、そなたに勝てる者が控えているもの達にいるとは思えぬ。……しかし、そなたはその様な事はせぬ」
「なぜ?」
 火漸が聞くと、白姫は流し目で杯を眺めながら答える。
「妾に嫌われとうないから」
「大した自信だな」
「では、違うか?」
 火漸は答えの代わりに、手前に置いていた太刀を右隅に置き、酒を煽った。
「それでよい」
 白姫は満足気に微笑すると、再び酒を煽った。今度は一滴と垂らす事なく全て飲み干していた。

【参】

「いやいや、誠にすまなかった! ここまでお主に世話になってしまった。忝い」
 城下にある居酒屋の座敷の片隅で、玄武は辰兵に頭を下げた。
「こちらこそ、連れがご迷惑をおかけいたしました」
 酒を煽る人々で賑わう店内、辰兵は少し声を大きくして、玄武に言う。
「いや、我も長年多くの者と戦ってきたが、あの者に匹敵する腕を持っている者は出会った事がない」
「それ程に凄いのですか?」
「お主は知らなかったのか?」
「まだ出会って日が浅いので」
「そうか………」
 玄武は酒を器に注ぐ。
「ところで、殿がお心を病んでいるという噂は誠ですか?」
「お主の耳にまで届いているという事は、既に城下には広まっているな。耳を貸せ。……長らく臥しておられた白姫様が表に出るようになったのも、殿がご乱心してしまわれたからなのだ」
「誠ですか?」
 玄武は頷く。
「その為、今殿は隠し牢へ、白姫様が事実上の岩屋を担っておられる」
「つまり、時期を考えると、殿がお心を病んだのと、妖の噂が囁かれるようになったのは同じという事ですね?」
「お主達は何故、妖にこだわるのだ?」
「……私の村が襲われたのです。そして、私は唯一の生き残りなのです。朱雀さんは母を葬っている際に出会ったのです」
「そうであったか………。ご両親を失うのは、哀しき事だ」
「両親とはいえ、父は戦へ出たきり帰らず仕舞いでした。母は生きている事を信じておりましたが」
「という事は、一月前の隣國との争いか」
「はい」
「よし、朱雀殿も城に就いたのだ。お主も我の下だが、働かぬか?我が世話をしてやる」
「よろしいのですか?」
「さすれば、村を襲った者の手がかりもつかめるや知れぬ」
「ありがとうございます!」


 翌、火漸は白姫と共に昨日同様、山を散策しに向っていた。今日は、玄武は同行せず、数人の従者と共であった。
「いいのか? 今日は、あの大男を連れてこずに」
「よい。今日はそなたがおる」
「……!」
 突如、藪の中から矢が飛んできた。火漸が素早く動き、矢を叩き落した為、誰も傷つかなかったが、皆刀を構える。
「出てこい!」
「ふん! 中々出来そうなのがいるな」
「さ、山賊!」
 従者の一人が叫ぶ。その手に握られた刀は震えている。
「お前らは下がっていろ。そんな状態では、死人が増えるだけだ」
 そして、火漸が構える。が、山賊は構わず、従者にも切りかかった。
「ぎゃあぁあああああ!」
 山賊の刀に右腕を切り落とされ、従者は悲鳴を上げる。そして、落ちた刀を持つ右手を山賊は踏みつけ、従者の首を刎ねる。
「ちっ! ……零! 一、二、三式! ……改!」
 火漸は、玄武に使ったものと同じ型を取り、更に三段連続切りを繰り出し、一気に4人を打ち倒す。
「うぅ……」
「あぐぃ……」
「安心しろ、刃は立てていない」
 そして、刀を構え、山賊を牽制させつつ、白姫と従者を後ろへと回す。
「かかれぇ!」
「「うぉおぉおおおお!」」
 火漸は右手で鞘を握る。山賊達が一斉に襲い掛かった瞬間、鞘を取り、二刀流の構えをし、動いた。
「六十一、二、三、四、五! 六十………六式改!」
 体を流れるように運び、次々に山賊を叩き、最後は体をひねり、回転させて、一気に打ち倒す。
「……ち、逃げるぞ!」
「「お、おう!」」
 山賊達は尻尾を巻いて逃げ出した。
「大丈夫でしたか?」
「えぇ。妾は無事だ。しかし、尊い仲間の命を失ってしまった」
 白姫は悲しく、従者の無残な亡骸を見て言った。
「「ぎゃぁあぁああああ!」」
「化け物ぉおぉおおおおお!」
 突然、茂みの中から先程の山賊らしき悲鳴が聞こえた。
「な、なんだ? ………見てくる!」
 火漸は言うが早いか、藪の中に飛びこんだ。


 一方、辰兵は城の中を探っていた。
「意外と上手く忍び込めたけれど、さて何を探るか……」
 その時、足を踏み外し、辰兵は天井から落下してしまった。
 幸い近くに人はおらず、辰兵は胸をなでおろす。
「ん? 誰かおるのか?」
 背後から声が聞こえ、驚いて隠れる場所を探すが、当然見つからず、覚悟を決めて襖を開いた。
「……え、貴方様は!」
「なんじゃ、その姿は。忍びにしてはみすぼらしい格好じゃ。……この城の城主にようであれば、話してやってもいいぞ」
「岩屋様!」


「な、なんだ。これは!」
 山賊達が木乃伊になり、一面に転がっているのだ。
「来るなぁ!」
 声がした方へ火漸は走った。
 その目に飛び込んできた光景は、数本の赤黒い触手に体を囚われ、見る見るうちに体が干からびていく山賊の姿であった。
「お前が辰兵の村も……。死ねぇ!」
 火漸は触手を切り落とそうとする。しかし、触手は山賊の亡骸を投げつけ、火漸の動きを封じる。
 そして、素早く触手は藪の奥へと消えていった。
「待て………っ! なんだ、これは!」
 突然、耳に表現し難い痛みを感じ、立ち止まる。
 刹那、茂みの先にいる触手の先端から光の筋が放たれる。咄嗟に、火漸は光を避ける。光は火漸の傍の木を切断した。
「……な、なんという事だ。……奴は!」
 火漸が慌てて奥へ進んだが、既にそこには触手の姿はなかった。

【肆】

「」

そして、辰兵から白姫の正体を聞いた火漸は殿を救出し、白姫の元へ向かう。

【伍】





白姫の元へ到達した火漸達は柳星張とまぐわう白姫に遭遇。決してこの世の武器では傷つける事のできない、柳星張を傷つける。が、刀が切られ、退避。

【陸】
殿と共に脱出した火漸は、白姫と柳星張の過去を聞く。

【質】
追っ手から逃げた火漸達は、辰兵の村の先にある岩屋の神、婆羅陀魏山神の祠へと行く。そして、仙人に火漸の正体を見抜かれ、過去を語る。

【捌】
一方、成熟した柳星張が、白姫を取り込み、城下の民を襲う。仙人に誘われるまま、火漸は婆羅陀魏の封印を解く。

【玖】
婆羅陀魏と火漸、柳星張が岩屋の國で激しい戦いを繰り広げる。白姫が取り込まれている事を知った火漸は白姫を救出する。

【拾】
力が減退した柳星張だが、僅差で婆羅陀魏を倒す。火漸が婆羅陀魏の魂を込めた百式改を放ち、柳星張を滅する。だが、記憶のある白姫は自らの命を断ってしまう。
そして、民により反乱で殿は自決、岩屋の國は滅びる。

【終】

仙人が遥か昔に死んだ事を聞くのだが、火漸は動じずに旅立つ。
そして時は巡り、大戦後の1954年、辰兵の子孫はゴジラという新たな邪神と出合う。

「戦はこの先も絶えぬ。それが人の業だ。だが、砲筒を超える力が戦に使われ続けたら………いつか柳星張を超える邪神が現れるかもしれん。………その時、人はどうするのだろうな」
 数百年後、悪魔の如き光が多くの命を奪い、怪獣が生まれた。
 その怪獣の名は、ゴジラ。

-続-

"ゴジラ"、"ゴジラモスラキングギドラ大怪獣総攻撃"へ

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