ニューヨーク



2004年10月27日9時?分。
 先程とは違う倉庫であの謎の男がまた木の箱の上に座っていた。
「団長。警備が厳重に成ってきました。このままではニューヨークへ行ってもマンハッタンには入れそうもありません」
 団長と呼ばれた謎の男は軽く頷いたが、別に動揺している訳では無いようだ。
「せっかくのチャンスなのだ。我々には全能なる神がついている。そしてこの現世には金や権力もあるのだ。その両方ともが我々には神の導きによって着いているのだ!あの愚かなる者達に知らしめるのだ!」
 団長と言う男は言うと、周りの子分らしい人々が同調した。
「………我々は今より『ゴジラ団』とする。それ以外の存在ではない。ゴジラ団だ!」
 オォー!!と子分達が叫んだ。


2004年10月27日9時50分。
俺達は出発した。乗るのは黒の4WD。運転はテリー探偵。助手席にはイリス嬢。後ろに俺とコンピュータ機器と鬼瓦さんが乗り、三列目に武器等と一緒に三神。
………三神。キャラが変わったな。ここ数時間で……。
「とりあえずニューヨーク市警の方へ行って情報を得よう。ヘレンとも市警前で落ち合うことになっている」


2004年10月27日9時55分。
ニューヨーク市警には直ぐについた。
「グリーンさん。あなたに会うのは初めてね。私はヘレン・グリコー。詳細はトゥルースさんに聞いていますね?」
「えぇ。初めて」
 ヘレンさんは初老に入るであろう婦人であった。テリー探偵の子供時代から世話をしているということは50歳くらいなのだろう。フィリップと同じ特殊な強さを感じさせる人だ。
 挨拶の後は、ヘレンさんとテリー探偵で話し出した。
「トゥルースさん。ギケー様の動きですが、今回はいつもよりも本気の活動の様です」
「本気というとどれくらいだ?」
「………10年前のあの時と同じくらいよ」
「ギケーのヤツめ!」
 テリー探偵が唸る。
 と、車の窓がノックされた。
 見ると筋肉質のガッシリした30歳くらいの黒人の男がいた。
 ドアを開いて男が乗り込んできた。
「彼らがさっき話していたゴジラと戦う専門家の人たちか?」
「まぁ、近からず遠からずだな。ジェームス・グリーン、アメリカ政府の方の人間だ。そして、彼女は放射能の専門医、優・鬼瓦。奥にいるのがゴジラの専門家、小五郎・三神だ」
「わしは『ジュール・マーフィー』ニューヨーク市警の警部をしている。トゥルースとは10歳程歳が離れているが大の親友だ。よろしく」
 軽く握手をした後、話し出した。
「ゲーン一家の動きはいつもと違う。今までの国際的マフィアというイメージが強かったのに比べて今回は市民軍と言ったイメージが強い。武器もバズーカ砲を十以上もこの2、3日中に仕入れたり、警察が泳がせている武器倉庫にも装甲車のような車両の出入りを確認している。その代わり、拳銃は資金調達の為か幾つものルートを使って売りさばいている。後、アメリカ陸軍の車を奪取した下っ端の話だが、理由は聞いていないらしい。しかし、ゲーン一家が大砲…砲台を三台入手したことを話した。シバいてさらに聞くと怪しげな計測機器も多数買い集めていると話した。他には下っ端だということもあって、それ以上は知らなかったようだ。わしにはゲーン一家が何をしようとしているのか。まるで見当が着かんわ」
 いよいよゲーン一家が何をしようとしているか予想通りに成りそうだ。
「トゥルース。一体どう言うことだ?」
「………ゲーン一家は市民軍の真似事をしようとしている。………ゴジラと戦う軍隊を作ろうとしている」
「そんなバカな話があるか?ゲーン一家はトゥルース。お前が一番知っているだろ?ゲーン一家がどんな組織なのかを」
「あぁそうだ。だが、ゲーン一家がそういう目的以外でそれだけの武器を入手するとも考えられないんだ。密輸目的なんてのはとてもじゃないが、考えられない」
「だが、アメリカ陸軍の武器を奪取しようとしたんだろ。アメリカ軍に喧嘩をフッカケる。これならあり得そうだぞ」
「しかし、仮にそうなら奪取をするよりも爆弾や銃を乱射して混乱した所で奪取なりをした方が効率的だし、実用的だ。何よりも頭脳的な作戦の方がゲーン一家は好む」
「つまり、お前はゲーン一家が味方だと?」
「そうは言ってない。あくまでもゲーン一家はゴジラと戦おうとしているというだけで、アメリカ軍や警察、そしてオレ達に協力するというつもりは毛頭無いと思う」
「………つまり、敵でも味方でもないということか?」
「あぁ。そうだ」
「厄介だな。ただでさえ警察は避難をしない多数の市民を避難させなきゃならないのに、それに加えてゲーン一家か」
「それはオレ達に言っているのか?」
「いや!別にトゥルース達は構わない。第一、命令を出している政府の人に協力をしているんだから問題はないだろ?」
「………あっ。確かにそうだ。では、避難しない市民というのは?」
「居るんだよ!こっちの気も知らないで、株価だの契約だのと言ってビルに立てこもっている会社が。しかも、一区画で三社もだ。いい加減にしてほしいぜ」
「………ジュール。避難しないのはその区画だけなのか?」
「いや。大学の方で若者がお祭り騒ぎをして警察とぶつかっているが、まぁ、わしらも予想していたからな。まさかいい大人までビルに立てこもっちまうとは思わなかったがな」
 マーフィー警部が苦笑をするが、テリー探偵は真面目に何かを考える。すると今まで影が極限まで薄くなっていた三神が言い出した。
「その会社ってゲーン一家と関係があったりしない?」
「ん?どういうことだ?ちゃんとわかるよう説明してくれ」
「つまり、ゲーン一家が何かをしようとして避難に応じない市民の振りをしてビルに立てこもっている可能性が無いかって言うこと」
 たまらず俺が言うと、三神は突拍子も無いこと言った。
「実はオレもその可能性が頭に浮かんだんだ」
 テリー探偵まで何を言っているんだ?
「考えてみろ。ニューヨークに怪獣が現れたらたった数社が頑張った所で経済の中心都市が機能しなくなった時点で世界規模で経済が混乱して、それっぽちの努力じゃ自分の会社を守るのだって怪しい。それなら他の会社のようにデータや資料を外部へ持って行って仕事をしたほうが被害は小さいはずさ。そして、三社って所も気になる。もう一つ『3』という数字があっただろ?」
「それって…………大砲か!」
「そう。グリーンわかった?」
「あぁ」
「警部さん。その会社はビルの何階にある?」
「………確か十八、十八、十九階だったな」
「約六〇メートルの高さだな。センターにあるゴジラの身長は50~60メートルとされている。丁度いい高さじゃないか?」
「言われて見れば、一理あるな、その意見は」
 俺が一応納得すると、突然待っていたかのように通信が入った。


2004年10月27日10時。
 通信はフィリップからだった。
『ニューヨーク沖に仕掛けたセンサーが巨大な影を捉えた。水温も一度以上の上昇を確認し、放射能も安全圏内だが通常より高い。スミス大佐はこれをゴジラと判断し、たった今より状況開始となった。グリーンくん。三神博士と鬼瓦先生を連れて大至急戻ってこい』
ゴジラ!
遂に来たか!
「テリー探偵にみんな。すまないが俺達はゴジラの方へ行かなければならない」
「わかった。ゲーン一家はオレ達に任せとけ」
「後、これを渡しておこう。………最新鋭の通信装置だ。受信機は腕時計になっていて、今回のゴジラに合わせて好感度ガイガーカウンターが内蔵されている。良ければ使ってくれ」
「ありがとう!」
 俺は腕時計型の受信機と小型イヤホン・マイクをみんなに渡した。
 これは先程作戦本部に行った時にフィリップから受け取った物だった。
 予備に幾つか貰っておいたので、マーフィー警部にも配る事ができた。
バラバラバラ………
 外から轟音がする。
「なんだ?………ヘリコプター!」
 マーフィー警部が外をみて驚く。
『グリーンくん。フィリップだ。ヘリコプターに乗りたまえ!』
 通信が入った。ヘリからスパイ映画でお馴染みの縄ばしごが降ろされる。これ、見かけよりも上りにくいから止めてほしいだがな。
「やだ~!私、スカートなのよ」
 ゲッ!という顔で鬼瓦が言う。
「緊急時にパンツが見えるくらい気にすんなよ。別に誰も見ないから」
 三神が物凄く暴言をさらりと吐く。


2004年10月27日10時3分。
「………いつもはジーンズのくせになんでこういう時に限ってスカート履くかな」
 ここはゴジラがいるであろう海の上空を旋回するヘリの中。
「しかも、ジーンズの生地のスカートってイメージチェンジにも成って無いじゃないか」
「海軍が魚雷による攻撃をする事になった」
「…………」
「この辺りの深さはどれくらいだ?」
「それで靴はスニーカーじゃ色気もない」
「………」
「はっきりとはわからないが、そんなに深くはない。ただ、六〇メートル以上はある。直立してもここからゴジラの姿は見れない」
「上だってそうだ。肌着のシャツにYシャツって歳を考えろよ………うぎゃ!」
「昼間で晴れているから影くらいは見えるんじゃないか?」
「歳は余計よ!」
「そうだ。しかし、今日は潮の加減でいつもよりも海の色が濃いらしい。勿論、透明度が悪いという意味だ」
「だからってひっかくか普通?大体どうしたんだよ、この髪型は?」
「………イッたぁ~い!変態!髪は引っ張らないで!」
「恐らくはまだ、ここよりも数キロは沖にいるのだろう。センサーはここよりも沖だ」
「戦艦はあれか?………五隻、妥当だな」
「変たっ。なんで髪引っ張ったら変態なんだよ。わからない」
「信じらんない。三神くん。髪の事だけじゃないわよ。さっきのスカートの事だってそうよ。鈍感すぎるの!」
「最新のイージス艦もいるな。ニューヨークを守る楯ってところか」
「三神くんって……大学時代の呼び方をするなよな。最初はさんづけしてたのに」
「そうだ。グリーンくんはあまり兵器に詳しくなかったが、流石にわかるか」
「それは三神くんの方が年下だってわかったからよ」
「またくんづけした!そういうのは差別だ。差別反対!」
「それくらいわかりますよ………すみません」
「なによ。さっきからビンタ一発されたくらいでグジグジいつまでも、そう言うところが年下だって言ってるのよ。み・か・み・く・ん」
「それを言うなら優の方だろ……」
「二人ともだ!!いい加減にしろ!こっちは今ゴジラと戦おうとしてるんだぞ!自覚をもて!」
「「……はい」」
 誰が誰だかは面倒なのでパス。なんせ何時ゴジラが現れるか分からないからな。
「グリーンくん。戦艦からの報告でゴジラらしき巨大な影を補足したそうだ。攻撃を開始する」
 窓から覗く。五隻の戦艦がダイヤモンドに並んで進んでいる。前方に薄い影が見える。
 先頭の一隻が魚雷を発射した。
 水柱が出来た。命中したかはわからない。
 ヘリの音が邪魔をしてあまり聞こえないが爆音が聞こえる。相当のボリュームらしい。
「命中を確認しました。ダメージはわからないそうです」
 フィリップに変わって、ヘリの前に座っている通信士が報告する。
「アメリカを舐めるな。ゴジラ!」
 フィリップが余裕の言葉を吐く。
「………」
 三神は黙ったまま、じっと海を眺めている。
 影が少し濃くなり、幅も小さくなった。海底に立ったらしい。
「砲撃開始です」
 戦艦の主砲が次々に光った。揺動作戦らしい。
 水柱が次々に上がる。
 海中では物凄く衝撃が起きているはずだ。
「中距離ミサイル発射します」
 戦艦の中心から次々にミサイルが上がり海へ落ちる、影に重なり、海面が膨らんではじける。
 辺りに霧が起きる。
 影の動きが止まる。
「よし!一気に叩き込むぞ!」
 フィリップが興奮した声で話す。
「………まだ、わからない」
 三神が爆発の繰り返す海を眺めながら静かに言った。
 この後、俺は三神の言葉の意味をイヤと言うほど思い知る。


2004年10月27日10時11分。
五隻の戦艦が影に近づいていく。
本当ならばこの後一気にに総攻撃の筈だった。
影と戦艦の距離が攻撃ポイントに近づく。
だが……。
その時、海が光った!
正確には影が光った。
大戸島で見たビデオの映像と同じ発光だ。アレを吐く気か!
「ヘリを早く離してください!」
「ゴジラからヘリを遠ざけろ!」
 俺よりも少し早く三神が言う。
 操縦士は慌ててヘリを影から離す。
 その刹那、海から光の柱が現れる。
 光の柱は淡い白で、映画の火炎のようなただ激しい光線ではなく、もっと煙のようだが、それとは違う引き込まれるような強さが、力がある光だった。
 あれが放射能火炎(Radiation flame)か。
 海水が邪魔をしているのか、光の柱───放射能火炎は僅か数メートルで消えている。
 変わりに、放射能火炎によるものだろう。海水の光っている周辺は激しく沸騰している。
「ふっ。脅しか。グリーンくん。恐怖の放射能火炎というからどんなものかと思ったが、宇宙船の噴射の方が強いのではないか?まぁ、放射能は危険だが」
 フィリップが一時緊張した顔を解す。
 フィリップだけでない。海軍も今のでゴジラの力を見定めたらしい。
 だが、俺は知っている。あのビデオに映っていた放射能火炎は東京を日の海にしていた。
 やがて、海面に僅かな炎と熱く熱せられた海水を残して、放射能火炎は止んだ。
 だが、影はなおも発光を続けている。
「なんだか、様子がおかしくないか?」
 俺は三神に聞いた。
「あぁ。僕の知る記録にあんなものは無い」
「やはり離れた方がいいな。頼む。いいな、クルーズさん」
「君たちがそこまで言うなら、少し距離を取ろうか」
 フィリップは操縦士に指示を出す。
 ヘリは大きく回りながら未だ発光する影から距離をとる。
 そして、戦艦も危険を感じ距離を置こうと離れ始めた。
その時!
 海が、海全体が光った!光りながら海面が一気に盛り上がった!今までの砲撃の水柱とはケタが違う。光の海が盛り上がった!
 その光は先頭の戦艦から次々に包み込む。
 恐らくこの間、1秒となかったであろう。
 しかし、俺、俺達には何十秒にも何分にも感じられた。
 そして、その光はこの世のものとは思えないおぞましい光を放ち、海を吹き飛ばした。
 ヘリが衝撃に揺れる。
「コントロールが………出来ま…せ…ん」
 操縦士が叫ぶ。
「……何とか手動で不時着しま……す」
 海面が近づく。
 海が動いている。津波が起きたのか?
 波に当たったらひとたまりもない。
 その時、奇跡!
「……コントロール戻りました!」
 海面が遠ざかる。
 助かったのだ!
 体を起こす俺達。
 そして、見えたものは………


2004年10月27日10時12分。
海から生える巨大な雲だった!
海は未だに荒れ、波が幾層にもなり陸や戦艦を襲う。
辺りには、塵の様なものが風に靡いている。
「あれはまさか……」
「キノコ雲!核爆発したのか!………被害は!通信の方は!戦艦の状況はどう?」
 三神が素早く通信士に質問する。
「出来ません!」
「コンピュータ機器の調子は?電波障害より深刻か?」
「一部完全にシャットダウンしていますが、軍の持ち込んだ物は当機同様無事であったり、落ちても直ぐに再起動しています!」
「EMP(電磁衝撃波)で間違いなさそうだね?」
「はい!恐らく!只今軍にある海洋での原水爆実験のデータと照合しています!」
「うん!それでお願いします」
 EMPと言うと、核爆発などの大きな衝撃が起きたときに発生し、電子機器に影響を与える程の強力な電磁波のことだ。
「被害は?」
 フィリップが聞くと、通信士が答える。
「通信障害が凄くて、あまりわかりませんが、港の本部は津波によって被害がヒドいようです。戦艦は1隻を残し、沈没や浸水で戦闘不能です」
「それ以上はわからないか?」
「恐らく、これ以上は直接眺めた方が正確で早いと思います」
 言われたとおり、窓から眺める。塵が大分風に流されたのだろう、視界がはっきりしている。
「この塵って、死の灰!?」
 鬼瓦が言う。
「多分ね。外の空気入れないようにね」
 平然と言う三神。
「見てればわかるけど、風は沖の方に向かっているから、ニューヨークには深刻な影響は無いと思うよ」
「……海軍の人は?大丈夫なの?」
「………わからない」
 鬼瓦の疑問に三神は静かに答えた。


2004年10月27日10時12分。
そこは地獄であった。
突如爆発と波が襲ってきたのだ。
戦艦の上部は吹き飛び、甲板は波に浚われ、外にいた者で残った者は炎に撒かれていた。
 皆が叫ぶが全て無声映画のように皆の聞こえなかった。爆発のせいで鼓膜が破れたのか麻痺しているのかは人それぞれだったが、皆声に成らない声を上げていた。
 他の戦艦は更に凄惨な状態だった。
 動力が二次爆発三次爆発を繰り返して、海に投げ出された人々を巻き込む大渦を起こしながら沈没していく。
 そして、海に投げ出された人々は岸や沈没は免れた戦艦を目指して泳ぐ、しかし多くの者はその熱く煮立った釜のような海水に体力を奪われ、力つきていく。
 そして、その真下の海中をその熱で海水を揺らがせながら巨大な影が、先にある大都会を目指して泳いでいった。


2004年10月27日10時12分。
『ザー………』
『何がありましたか?現場の……』
 キャスターの女性が叫んでいる。
 中継の映像が切れたのはつい30秒前の出来事だった。
 キャスターの女性は何度も呼びかけているが通信が全く取れない。
 このニュース番組は本来マンハッタン内にあるスタジオで収録されるが、今は避難先のニュージャージー州の内陸部に作られた特設スタジオで行われていた。
そして、中継が戻らないとカンペで教えてもらったのだろう。キャスターは呼びかけるのを諦めた。
『……電波状態が悪いようですのでまた改めて、映像が回復し次第中継に戻します』
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