大戸島

2004年10月23日17時。
 丸一時間も博物館を観覧していた。
 なんでも、博物館はもう閉館だそうだ。
 場所を研究センターの研究室の資料室に移した。資料室は研究室の一部をガラスで仕切られ、本棚とテーブルと椅子だけがあるだけのこぢんまりとした部屋だ。
 話は、本題であるゴジラの生存を証明するための条件についてに変わっていた。
「まず、はっきりしている事は、ゴジラは50年前に一度しか現れていないし、事実上10年前に正式に絶滅とされた。どちらにしろゴジラが載っている図鑑はUMAや恐竜の図鑑くらいで正式に生物学的に生物と定めているのか分からない。そもそも、テレビでも時々ゴジラの教科書問題が報じられる。具体的にいうと、歴史の場合だと戦後の復興とゴジラとで一ページで片付けられていること、経済ではゴジラの放射能とオキシジェン・デストロイヤーによる日本海の水産物被害についての記述についての問題、生物に関しては高校生物まで一切触れられていないという紛れもない事実だ」
「成る程…だが、俺は別だけど、何故ミカミはゴジラの研究をして生物学的な証明をしようとしているんだ?」
 少し嫌な顔をした。あまりされたい質問ではないらしい。
「それは答えなきゃいけない事かな?」
「いや…ただの俺の興味だ。嫌なら言わなくて良い」
「別に構わないよ。………さっきも言ったけど、僕がゴジラを研究して目指す目標はゴジラを生物学的に証明することなんだ。そうすれば、核に対する各国の考えが変ってくるかもしれない。その時、日本は原爆とゴジラの唯一の被爆国としてアメリカを媒介に核の廃棄を呼びかけて世界中から核兵器が消える……かもしれない。勿論、こんな夢物語のように事が進むとは思っちゃいないけど、人の使う核兵器よりもいつ現れるかわからないゴジラの方が世界の国々は恐れると思うんだ。そうすれば、放射能の恐怖を少しでも避けることが出来る。今度こそ、僕の手で核を無くすことが出来る…」
 ………確かに夢みたいな目的だ。国際情勢や国家の考え方をよく知っている俺には、それがとても難しいことだとよくわかる。
 しかし、気になったことは、ミカミが最後に滑らした「今度こそ」と言う言葉だ。気になったが、今は追及しないほうが良い気がしたのでしなかった。
「……で、ゴジラがいるという証明をするには何が必要だ?」
「それは簡単だよ。信用の出来る目撃証言と遺留物があればいい。証拠写真があればなお良い。ゴジラの場合は足跡なんかでも存在の確かな証拠となる筈だから」
「それが出来ないから、遠土遥々ここまで来たんだ!他に無いのか?」
「……そうだなぁ。ゴジラの行動を予想して、自分で証拠を見つけるってのが一番楽だろうな」
「自分で見つける?」
「そう。それなら、証明は凄く楽になる」
「確かにそうだが…」
 それが出来たら苦労はしない。
「…とりあえず、ミカミがゴジラを生物学的に証明しようとしていることを教えてくれないか?それを参考にしたい」
「わかった。少し長くなるけど良いかい?」
「あぁ」
 さっきから長い話ばっかりだから今更どうってことない。
「まず、ゴジラはどうやってあの巨体を直立二足歩行で支えているのか?これは、もし人 間をゴジラと同じサイズまで大きくすると自らの体重を骨が支えることが出来ないと計算で算出されているためだ。第二に、ゴジラは本当に古代の恐竜が放射能で変異、巨大化した生物なのか?これは最近の考古学の研究で明らかになったことで、ゴジラはさっき言ったとおり人間と同じ直立二足歩行で尻尾を下に垂らしている、それに対して恐竜は二足歩行だが尻尾を頭とで天秤状に支えて歩いていた。つまり、尻尾は立てていたんだ。よって、ゴジラは本当に恐竜が巨大化したのか怪しいんだ。第三に、ゴジラは放射能を帯びてその熱線を吐いている。それにもかかわらず、何故ゴジラは癌などの放射能症にならないのか?…これは言わなくてもわかるでしょ?」
「あぁ。俺もアメリカで被爆者の青年にあったからわかる」
「他にも寿命や、非常に高い生命力、何を食べているのか?熱線を吐くための器官はどうなっているのか?などなどいろいろある」
「成る程なぁ。しかし、どれもゴジラが今いるかの証明にはならないな」
「まぁ、学問としての証明だからね」
「ところで、先を急いでいるのかい?そうでないなら、しばらくこの島にいてゆっくり方法を考えてみれば?島の人も外人なんて滅多に会えないから、このまま帰ったらみんな寂しがるよ」
 そこまで言われて断る理由もない。ここは休暇を楽しむことにしよう。





????年??月??日??時??分。
ユサユサ。
 誰かが体を揺する。
「……………です……きて……」
 誰かが呼びかけているらしい。
「…………です。起きて下さい」
 どうやら俺を起こしているらしい。ダメだ。意識が……
バシィィーン!!
「起きろー!電話ですよぉぉぉ!!」
 思いっきりビンタをされた。
「………痛い」
 見ると役場のアイドルの『カワノ イズミ』が睨んでいた。
「電話です。早くして下さい!」
 ヒリヒリする頬をさすりながら立ち上がろうとすると、頭が痛い!
 そこで思い出した。
 俺の名は一応ジェームス・グリーンでCIAの諜報部員だ。
 確かここは、大戸島の役場の多目的ホール。
 段々記憶が戻ってきた。
 そう、あの日の夜から俺は島の異文化交流歓迎会とやらを急遽執り行われて、三日三晩入れ替わり立ち替わり、伝統のゴジラに捧げる祭り「ゴジラ祭」の踊りを見たり、地酒を飲んで騒いだんだった。今の俺は一瞬でここの地酒を利き酒出来るだろう。
 お陰で流石の俺も2日…何日酔いかもわからない位にキている。
 周りを見渡すと、役場の人と研究センターの男性陣がこの3日の間…ん?ホントに3日か?の間に知り合った顔は全滅している。いや、いないのがいる。漁師と農家と小学校の先生達はいない。流石だ。それに島で唯一俺の正体を知っているゴジラ学者─ミカミの姿がない。
「どう?グリーンは起きた?」
 と声がホールに響く。それと頭に響く…。
 見ると数日前と少しも変わらない…顔が少し赤いミカミがホールの入り口に地酒「大戸利一番!」を片手に現れた。
「来ないから携帯の方にかけ変えて貰ったよ」
 と言って、携帯電話を手渡してきた。
「誰?」
「例の上司。さっきからずっと自己紹介を聞いていた」
 御心痛察します。
 電話を代わると頭によく響く声が聞こえた。
『やぁ。ジェームス君!酔いは大丈夫か?』
「えぇ。まだ捜査…取材の途中です」
 何で現状を知っているんだ?
 ちなみに、ミカミ以外にはアメリカの雑誌記者で取材の為に来たという事にしている。
『もうその必要はなくなったぞ!喜びたまえ!ゴジラの足跡が見つかったんだ!場所は東海岸沖、ミニドア島という小さな島だ!そちらにヘリが迎えに行っている』
「…………」
『おい。聞こえているのか?』
「………あぁ。聞こえている」
『では、現地で待っている!それから、そちらからゴジラの専門家をつれて来てくれ!必要ならば経緯や正体を明かしてもかまわん!』
ガチャン。ツーツーツー………
 ………俺の苦労は何だったんだ……。
 頭に声が響くのとショックで放心状態になっていた。
「電話、何だった?」
「………足跡が見つかった。ゴジラいました。ヘリがここ来ます」
「ゴジラ存在の証拠が見つかったのか!やったじゃないか!」
「……ミカミは大丈夫なのか?俺と同じようにずっと飲んでただろ?」
 この疑問には役場のアイドルのカワノイズミが答えた。
「ミジンコさんはお酒に物凄く強いのよ。島に来て歓迎会をした時私も参加したんだけど凄かったわよ」
 ちなみに、「ミジンコさん」というのはミカミのあだ名で、名前の読みを変えるとミジンコゴローと成るところからきたそうだ。
「………そうだった!ミカミに頼みがある。一緒にアメリカに来てほしいんだ。専門家の力が必要なんだ」
「復活したみたいだな!いいぞ!喜んで!!泉さん!所長に伝えて来てくれる?僕は荷物を用意してくるから!」
 まだ、二日酔いは復活していないから……頭に響く……
 ミカミは今の俺には信じられないようなスピードで走っていく。
「あ、カワノさん。今は何日の何時だ?」
 部屋から出ようとしている役場のアイドルのカワノイズミを呼び止めた。
「えーと。10月26日の11時10分よ。大丈夫?」
「あぁ。ありがとう」
 役場…クドい!イズミはタタタと出ていった。
 俺は立ち上がって出口に向かって歩きだした。
……では改めて、
2004年10月26日11時10分。





2004年10月26日11時45分。
大戸島の役場横の広場にヘリが到着した。
しかし、
「遅い!」
 俺は口に出して叫んだ。
「ミジンコさん。早く!早く!」
 島の子供達が、ミカミを引っ張ってくるのが見えた。
「さぁ。早く!」
 俺は急かす。
「ごめん。ごめん。荷物の準備に時間が掛かっちゃって」
 そう言うミカミの背中には登山用の大きなリュックが背負われ、更に片手にはアタッシュケースを持って、もう一方にはトートバックが持たれていた。
 ちなみに、今まであえて表記しなかったが、服装は下は細いラインを作りつつ決して機能性は悪くない男物には珍しい綿の紺の長ズボンに草履。上は黒いシャツに、赤のチェックのYシャツで、春秋用の通気性の高い淡い緑のロングコートとなっている。
 ちなみに、この三日間このスタイルで色を変えている以外は同じである。コートに至っては、これか、白衣か、着ていないかのどれかしかない。
 更に、言っていなかったが、ミカミは物凄く不思議な気がするが、整った顔をしている。背は一六五センチと俺より少し低い典型的若い日本人体系をしている。ただ、俺が見てきた彼の生活習慣は野蛮人レベルだ…学者はそういうものなのか?
 おまけで、俺の服装だがスーツにノーネクタイで短い髪を軽くバックで整えている。金髪で目は青だ。典型的な外人のビジネスマンをイメージすれば、ほぼ誤差無く俺になるだろう。
「ミカミ君。靴くらい履きたまえ」
 と所長さんが窘める。
「ちゃんと持ってますから。ヘリの中で履き替えますよ」
 そういって、さっさとヘリに乗り込んだ。
「それじゃあ、皆さん。行ってきます」
 と挨拶をした。
 ヘリはすぐに轟音と共に空へと浮き上がった。





2004年10月26日12時。
 大戸島はもう小さくなっていた。
 少し哀愁に浸っているとグリーンが声を掛けてきた。
「本当に着てよかったんだよな?」
「勿論さ。それにグリーンは、僕に…ゴジラ学者の僕にだけ正体を明かした。これってこういう事態の時に僕について来てもらう為に、わざとああも簡単に正体を明かしたんじゃないの?」
 これは、わからないから聞くのではなく、確信を持って聞いている。
「………確かにその通りだ。正体を明かせばゴジラの証拠を見つけるなり見つかったなりしたときに、俺に協力してくれると思ったから話した」
「話しても協力するかはわからないよ?」
「普通、初対面の異人に対して、腹が減ったからって自慢のカレーを食わせるような奴が、自分一人だけを頼ってきた者を見捨てるような人情の無い奴はいないからな」
「よくわかった。つまりこっちはうまく乗せて正体を明けさせたつもりでも、実は相手の仕掛けた餌にまんまと引っかかっていたというわけか」
「それは人聞きが悪くないか?」
「そうかな?………ところで、二日酔いの方は大丈夫か?」
「あぁ。カワノさんに薬をもらった」
「……随分、泉さんに世話してもらったみたいだね」
「妬いているのか?」
「残念だけど、泉さんは来月本土の市役所員と結婚するよ」
「ホントか!」
「あぁ。ショックだったか?」
「いや、別に……」
こんなやり取りを、ヘリの中ではずっと続けていた。





2004年10月26日13時15分。
 アメリカに着いた僕らはそのままミニドア島へ向かった。
ミニドア島は大戸島によく似ていた。島は1時間も有れば歩きでも一周出来そうだ。
 足跡は地面が凸凹していて、定期的に大きな窪みがあって、それが足跡とは普通じゃなかなかわからないだろうな。
 足跡は海岸の入り江部分から海岸線の集落を突っ切り、再び海に向かっていた。
「………これからが大変だな。見ろよ。あれはメディアヘリだ。島の上陸や行動の方は制限や禁止ができるし、こうして何も知らずに見たら、ただ特殊な地割れに見えなくもない。だけど、上空からじゃ足跡以外に見えようがないからな」
「………明日の朝刊は一面で『怪獣現る!』に決まりだな」
「あぁ。多分、報道規制してももう無理だね。あのヘリのロゴは確か衛星のニュースで、全世界に中継されてるから」
「……フィリップ。怒られるだろうな。明日には違う奴が上司になってたりして…」
「誰が怒られるだって!?」
 片言だけど日本語で声をかけられた。声の方を振り向くと、やや太っている大柄な白人で、私が知らないことは無い!といった雰囲気の男性がいた。恐らく彼があの上司だろう。
 何となく、「スパイ大作戦」のテーマソングが流れる。
「クルーズさん。彼がゴジラの研究をしているミカミ君です」
 と紹介されたので、こちらからも挨拶をした。
「三神小五郎です。よろしく。グリーンの上司のフィリップ・クルーズさんですね。この間は電話でしたが…」
「オー!あの時のか!覚えているよ。私の話を最後まで聞いてくれた青年だ」
「早速ですが、足跡を見たいのですが…いいですか?」
「アァ。ならその前に他のメンバーの紹介をすまして仕舞おう」
 そういって、クルーズ氏の先導でテント群の一際大きいテントへと向かった。
 きっとこれが作戦本部になったりするテント何だろうな。他のより格好いい。
 頭の中で映画「パールハーバー」のテーマが流れた。
 部屋に入るとそこにいたのは………






2004年10月26日13時25分。
 俺たちはフィリップの先導でテントに入った。
その中にはテーブルを囲んで数人の男女がいた。
一番奥にいるのは、俺も知っているアメリカ陸軍大佐の『アレキサンダー・スミス』だ。
 そして、他は俺の知らない人物だが、雰囲気から三神同様に世界中から集められた科学者なのだろう。
 三神に異変があったのはこの瞬間からだった。
 中に入った途端ギョッとした目をして立ちすくんでいた。
 視線の先には同じく三神を見つめている東洋系の若い女性が座っていた。しかし、彼女の方はまるで三神がここにいるのは当然という感じで、凛とした目で見つめていた。
 対する三神は未だに驚きを隠せずにいる。
 取りあえず、フィリップに促されて空いているイスに座った。
すると、スミス大佐が軽く自己紹介をして、彼らが呼ばれた理由、つまり、ゴジラについて軽く説明をした後、各研究者の自己紹介に入った。勿論、俺は全力でフィリップの自己紹介を早めに終わらした。
そして、三神と見つめあっていた女性の正体は、『鬼瓦 優』という日本人の国連の派遣医師であり、外科治療も出来るが本命は病原性微生物の研究らしい。なぜ彼女が、このゴジラ関連の学者に選ばれたのかというと、彼女は数年前の大学病院の研究者時代に放射能汚染の浄化能力の高い『DO-M』という微生物を発見し、研究した学者でもあるかららしい。何だか日本アニメにありそうな名前だ。
 それ以上は語らなかったので、三神との接点は知り得なかった。それにだからと言って、何故彼女が呼ばれたのか?大学での研究ならば教授やなんかの方が妥当なのではないか?
 意識を周りに払うともう既にアメリカの古生物学者『Mrs.クイーン』と原子物理学者『Mr.アシモフ』、2人の挨拶が終わり、三神が次に迫っていた。
 ふと、ある疑問が俺の頭によぎった。今まで三神の話は、全て日本語だった。勿論、簡単な挨拶程度の英会話はしていたが、果たして三神は英語が話せるのだろうか?
 もし、英語がダメならば俺は常に三神に英語を通訳しなければならないということになる。それは勘弁してほしい。
「おい。三神。英語は話せるのか?」
 と英語で聞いた。
「問題なし!」
 と誰でも言える英語で返した。不安という文字が色々な言語に変換され頭の中を渦巻く。
イギリスの分子生物学者『Mr.ドイル』の話が終わった。
俺はいつでも同時通訳出来るように身構える。
「日本の国立放射性生物研究センターでゴジラを専門に研究しています。生物学者の小五郎・三神です」
 流暢に英語を話した。しかも気取っているのか、英国英語で。
 何か?という目でこちらを見据える。
 すると、隣の分子生物学者のMr.ドイルが話しかけてきた。
「Mr.ミカミ。もしかして、2年程前にDO-Mの研究をしていた。有用微生物環境学者じゃありませんか?ネイチャーに載っていた」
 なんだって!ネイチャーという科学雑誌は俺でも知っている。アメリカのサイエンスとイギリスのネイチャーは科学雑誌の最高峰と言われていて、それに載るのはもの凄い敬意あることだったはずだ。
「そうか。だから、共同研究者のMrs.オニガワラも来ていたのか」
 なるほど、そういうことなら三神と鬼瓦嬢の共通点があることになる。だが、何故あんなに仲が悪そうなんだ?
「三神氏はあの研究を辞めたわ」
 鬼瓦嬢が言い放つ。
 それ以上ドイルは言えなかった。互いに触れてはいけない事なのだと、彼は判断したのだろう。
 その後、他の自己紹介を終えた時、フィリップが見回しながら言った。
「おや?確か、ミミズ博士という学者をCIAが呼んでいるはずではないか?」
 CIA捜査員の一人が答えた。
「ニック・タトポロス博士はフィリップさんが連れて行ったと言われましたが?」
「何?私は知らんぞ?本当に私か?」
「博士が居られたチェルノブイリに行った時そう言われました。フランスに寄ってから行くとも言われました」
「フランス…フィリップ…!クソ!奴か!そのフィリップは保険屋を名乗らなかったか?」
「フランスの保険屋と言われました」
「あぁ!先を越された!保険屋フィリップ!『フィリップ・ロシェ』だ!」
 俺が聞いた。
「誰です?フィリップ・ロシェというのは?」
「フランス諜報部員だ!やられた…………」
 嘆くフィリップ。どうやらそのフランス人とは仲が悪いらしい。






2004年10月26日17時。
「つまり、このコースはニューヨークに向かうと言うのか!?」
 スミス大佐が叫ぶ。
 僕は更に続けた。
「海難事故からもゴジラは北上を続けています。海洋の放射能濃度は、ここミニドア島からニューヨークへ大きく弧を描くように動いています。勿論、濃度自体は通常から見れば異常値ですが、海洋資源にダメージを与える程ではありません」
「だが、何故ニューヨークなのだ?」
「それはゴジラの東京出現と同じ理屈です。ゴジラは人が大都会と言う所ほど出現し易いのです。夜でも消えないネオンの光。止むことのない雑踏の音。全ての要因がゴジラをニューヨークへと向かわせているんです」
 僕はゴジラのニューヨーク上陸を止めさせるには町から全ての人、機械を消さなければ無理だとも付け加えた。
 そして、この意見は他の科学者(鬼瓦優も含む)皆の意見とも合わさった。
 つまり、ゴジラのニューヨーク出現は確定していることになる。
 その後、僕らが出したゴジラ出現の時刻は13時間後以降、つまり明日の朝7時以降となった。





2004年10月26日21時。
 俺はミニドア島を一人で一周していた。フィリップに、ここはいいから明日に備えて休めと言われた。だが、なかなか寝付けるものではない。
 明日は3時にはこの島を出発して、ニューヨークの港に作られつつある防衛線に行くのだ。
 目の前に誰かが立っている。良く見ると鬼瓦優だった。
 俺は三神との事が気になり話しかけた。
「三神とは何があったんだ?」
 彼女は話がその話題になった途端、黙りを決め込んだ。
 俺は言った。
「明日はゴジラとの対決だ。三神と俺はゴジラを見ながら隊をサポートしなければならない。そのとき、気になることは無くしておきたいんだ」
 すると、覚悟が出来たのか。フーッと息を吐き、彼女は口を開いた。
「あなたの為に話しておいた方が良さそうね。あれは2年前………」
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