《旧約》ゴジラ‐GODZILLA[2005]

2004年10月23日15時15分。
 俺こと、ジェームス・グリーンは大戸島の生物学者の三神小五郎に彼の自宅でカレーをごちそうになっていた。
 三神がカレーを鍋ごと持って来ながら不意に話かけてきた。
「グリーンさんはカレーのよそい方にこだわりはある?」
「ない。………いや、やっぱり半々にしてくれ。死んだお母さんがそうしていたんだ」
 すると三神はにっこりと笑った。
「わかりました」
 そう言って、皿にご飯とカレーを綺麗に半々によそった。
「先に断っておくけど、このカレーはインド料理のカレーでは無く、日本独自の料理としてのカレーだから。醤油が苦手なら進めないよ」
「辛いのか?」
「辛いのがカレーというのは、愚か者の言うことだよ。インドのカレーは一言にスパイスと言っても香りと手触りを楽しむ事を目的に作られたものだ。もし、激辛カレーばっか食ってたらインドの人はみんな味覚障害になっちゃう。さぁ、冷めない内にどうぞ」
 俺はちゃんと頂きますをして箸ならずスプーンをつけた。
 三神の言うとおり、このカレーは日本の蕎麦やうどんを彷彿させる和の香りがスパイスの香りと見事に共存している。味は醤油や鰹などをベースにしている。
 三神が自分のもよそおうとしていた。
…………。
 皿ではなく、丼によそったご飯の上にカレーをかけていた。
 なんだ。これは!
 俺の視線に気づいた三神が説明してくれた。
「和風カレーの究極形カレー丼。洋食の持つハイカラなイメージを払拭して、和の中のカレーこそが和風カレー丼なんだ。和風の薄出汁で作ったカレーの水気を飛ばして、とろろ昆布や鰹節、ゴマなどをトッピングして、蕎麦つゆによって味をまとめた和風カレーを丼に盛り、味、見かけ共に和風のカレーを実現したんだ」
 なんだか、訳もわからずに圧倒されている俺がいる。
 三神はさらに続けた。
「和風の真の凄さは、和でない他文化を吸収し和の中に取り入れることだと思う。勿論、このカレー丼もそうだが、ここであえて洋食的な要素を与える」
 そういって取り出したのは、とろけるチーズ!
「カレーにとろけるチーズ……乳製品の味はとてもよく合う。これで、チーズが溶けてきたら初めて箸をつける」
 そう言って、箸で綺麗によそい取ってカレーを食べた。
 チーズが糸を引き、実に旨そうだ。
 俺は自分が食べるのを忘れてカレー丼に見とれてしまった。
「和洋印融合の味を食べてみる?」
「オー。ありがとう」
「箸は使えるか?」
「あまり上手くはないが、やってみる」
 俺は三神に渡された丼から箸で何とか一口分をすくい上げ、パクっと食べた。
!!
 一瞬、脳裏にインドの修行僧が富士山の山頂でアメリカ国旗を掲げながらモッツァレラ~と叫んでいるのが浮かんだ。
「モッツァレラ~」
 俺が叫んでいた。
「よくとろけるチーズ以外にモッツァレラチーズを入れてあることに気付いたね!」
 三神は俺の言動には気にせずに驚きながらそういった。
 俺は昔見た日本のアニメでミスター何とかというものの中で主人公の少年が作った料理のリアクションで宇宙を飛んでいたことを思い出した。そのときはそんなことはないと思ったが、本当にあった。
 俺は自分のカレーライスを食べながら思った。
………やっぱり箸よりもスプーンの方が食べやすいな。
………三神と居ると俺のスパイの能力がどんどん退化して いくような気がする。
 食べ終わったら三神にゴジラについて話を聞かなくてはな。
 秋風が吹き抜けた。
───終───
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