《旧約》ゴジラ‐GODZILLA[2005]
スクリーンに『終』の文字が浮かんだ。
しかし、映画館の様に明るくはならない。
狭い部屋だ。そこに在るものは、さほど広くはないスクリーン、古ぼけた机、その上にある映写機、二つならんだパイプイス、そして、そこに座る二人の男。窓は無く、ドアが一つあるのみだ。
部屋の明かりは、映写機のもののみだ。映写機はフィルムを巻ききりカタカタという音が部屋に響いている。
「これがあなたのゴジラ-GODZILLA[2005]ですか」
男────名探偵・迷探貞が言う。
「いかがかな?」
もう一人の男────作者に言う。
「これには色々な方面から反論や苦情があるでしょう。ですから、私は特に罵倒はしません」
淡々と言う迷。
「ですから、私は名探偵としての解説を求めます」
「何について?」
迷の言葉に涼しげに聞き返す。
「なぜゴジラをテーマにしたか?」
「それは先の君の言葉とは矛盾しないのかな?」
「しません。私の質問は作品のテーマそのものです。テーマの中身についてではありません」
「…………なるほど。私がこの作品のテーマをゴジラにした理由か。確かにDO-Mだけをテーマにすれば無駄な反論もなく、せいぜいオキシジェン・デストロイヤーのパクリではないか?と言われる程度で済んだはずなのに、二次創作でしかも原作を批判するような箇所も在りき………テーマとしない方がよかった。か?」
頷く迷。
「しかし、大切な事を君は考えに入れたかな?」
迷は無言のままだ。
「…………私はゴジラが大好きだ。人生の一部とも言える。だから、あえて原作のデータと科学の知識からゴジラをあのような解釈で、存在した場合の可能性を描いた。…………君は恐竜と古生物学についてはどれだけしっているかな?」
「人並みには」
「では、恐竜はどのように出現し、あの巨体で1億8000万年間の中生代を生存することが出来たかわかるか?」
首を横に振る迷。
「未だにはっきりとはわかっていない。ただいえるのは、かつて地球上に存在したという事実だけだ」
「つまり、ゴジラも仮に存在した場合は事実が先になり、証明が後になるという意味ですか?」
「察しが良くてよかったよ。私はそれをテーマにゴジラを可能な限り科学的に生物として存在を証明しようとした。それがこの作品だ」
一息つく作者。迷もそれにつられる。
「では、本題に入りましょうか?」
迷の言葉に作者がピクリとする。
「なぜ、私を登場させたか?」
まだ黙る作者。
「私だけではない。アメリカのマフィアや探偵、軍人の方の中にもいましたね?もっとも、私はその誰とも未だに面識はありませんが…………現実にいる人物に実名で出演していると聞きます」
「現実と言うのは不確かだ。君の世界────君が現実としている世界で存在する人物だ」
作者が口を開いた。
「そうですね。私の世界です。しかし、よくマフィアまで出演しましたね?」
迷がなかば呆れ気味に言う。
「確かにな。………なに、コネがあっただけの話だ。彼らの話は真実だ。今も彼らはニューヨークで戦っているはずだ」
落ち着いたのか再び涼しげな顔で作者は答える。
「なぜ、私たちは互いに顔を合わせずに作品が完成してしまったのですか?」
迷はなおも聞く。
「ハリウッドなんかじゃそんなことは日常茶飯事だよ」
「あなたは意図的にそうした。それを聞いているのです」
しばしの沈黙。それを破ったのは作者であった。
「君の世界にゴジラ-GODZILLA[2005]という、異分子を入れたかった。それによる世界の影響を知りたかった」
深く息を吐くように言った。
「現実に干渉して貰いたくないな。あなたであってもそれは破ってほしくはありません」
迷の言葉に肩をすくめながらも作者が話しかける。
「そうそう。この作品ではまだ証明というか証拠が出きっていないんだ。第二弾を作ろうと思うのだが、君はまた出てみないかい?」
「私は私の現実───世界があります。もう私はこの作品には出ません。それに、出る必要ももう無いのではないのですか?」
作者は迷の言葉に再びすくめる。
「確かに、君はこの一作に出ていれば十分だ。そして、ここからは完全なフィクションだ。君の世界にはこれ以上は干渉しないよ。もうこれで十分だからな」
迷は目を瞑って話を聞いている。
「君の世界でこの作品は上映される。君の周りの人物も見るだろう」
迷はゆっくりと目を開く。作者の話はなおも続く。
「映画の意味は見る人間によって変わるよ。それは、君の周りの人物であっても…………」
その作者の言葉を聞いて、迷はパイプイスから立ち上がった。
そして、ドアへ歩み寄る。
「ここが分岐点です」
迷がドアを開く。
「もうゴジラ-GODZILLA[2005]に私が出る必要も意味もない。私は私の世界へ帰るよ」
迷はドアの向こうへ歩んでいく。
「しかし!」
作者が言い放つ。
迷の足が止まる。
「君の世界にはこのゴジラ-GODZILLA[2005]が存在してしまった。それが何を意味するか?それは、君自身の目で確認してくれ…………」
作者の言葉を背に受け、迷は部屋から出ていった。
部屋には、今だカタカタ回る映写機、机、スクリーン、二つならんだパイプイス、そして、イスには作者の姿────は消えて、代わりに一冊の台本だけが残されていた。
台本には、『D』とだけかかれていた。
それが何を意味するのかは、誰にもわからない。
名探偵にも、作者にも…………。