消滅
2005年9月22日17時。
先に仕掛けたのはG1であった。
グオォォォォーーーォン!
G1はG2も嵐も圧倒する咆哮と共に、自らの巨体を前に押し出した。崩れる日本橋をゴングに二匹の戦いは始まった。
「映画さながらの激しい戦いですね」
台場は、タックルにより後ろへ後ずさるG2を間髪いれずに追撃し続けるG1の光景を見て言った。もっとも、本当の映画にしては、この台風は戦いの光景を見づらくしすぎている。
G2は先制攻撃を決めたG1の追撃をかわし、大きな交差点まで下がり、その間合いを取ると、迫るG1を尻尾で叩きつける。
グオォォォォーーーォン!
先ほどとは違う。悲鳴のような高い鳴き声を上げながら、G1は東京駅八重洲口に頭を向けて倒れた。
弾!弾!弾!刺!刺!
倒れたG1に東京駅前に待機していた対G戦車隊による攻撃が襲う。
グオォッ!
G1のパワーブレスが戦車隊に炸裂。その衝撃に飛ぶ戦車の装甲は、まるで台風の風によって飛んだかのようにしなやかに飛び、東京駅八重洲を襲う。
G2がG1を尻尾で叩きつけようとするが、G1は再度パワーブレスを吐き、身を翻す。さらに、バランスを崩したG2を掴みかかり、横のビルへ頭を突っ込ます。そして、背鰭を発光させた。
しかし、G2も頭を上げずに尻尾を鞭のように使い、G1が放射能火炎を吐く前に自らが倒れるビルの隣に叩きつける。同時に放射能火炎がG1の口から吐き出され、ビルを炎上させる。
その激しい戦いの渦中に突入し、蒼井機は二体にニードルを浴びせる。
刺!刺!
溶解したビルの鉄筋を雨水とG1の血液が伝う。一方、G2はニードルを諸共せず、頭を上げるなり、蒼井機へパワーブレスを炸裂させる。
バランスを崩した蒼井機であったが、ガラクタのように積まれた崩れた東京駅の瓦礫と戦車に追突するギリギリの所で、コントロールを取り戻し、上昇した。
「蒼井さん、危ないなぁ………」
「お前のじいさんのお陰じゃないか?」
三神にグリーンは笑っていう。
G2は沈黙したG1と自衛隊を残し、新橋・汐留方面へ進む。
2005年9月22日17時30分。
G2が銀座を悠然と進んでいる頃、ビルに沈んだG1が目覚めた。
グオォォォォーーーォン!
勢いよくビルを崩し、その巨体を起こすと体を動物が行うそれと同じように揺すり、体にまとわる泥を払う。嵐の中で行うその光景はシャワーを浴びているかのようだが、シャワーというにはなんとも豪快なものである。
そして、遥か前方を優勝行進の如く悠然と歩むG2をその眼で捕捉すると、咆哮を上げると共に、その後を追い出した。
グオォォォォーーーォン!
残ったのは、瓦礫と咆哮の余韻、そしてG1の地響きに近い足音だった。
2005年9月22日17時50分。
G1が後を追う一方、G2は汐留にてガルーダと戦車隊、更に隅田川を下りてきた戦艦おおとと戦闘を繰り広げていた。
G2が巨体を揺らし、ミサイルを回避する。ミサイルは汐留シティーセンターに命中し、爆発、炎上する。ガラスなどの破片、粉塵が雨風と共に地上へ注ぐ。
「残る戦力を使い、可能な限り援護するぞ!各所報告!」
武田海将補は指示を出し、おおとの残る戦力の報告を聞く。
「それから、機械系等に一部バグが発見されました。どうやら先ほどのN‐バメーストの影響だと思います」
「復旧は?」
「基地で専門機関にチェックしてもらう他手段はありません。最悪のケースだと、後もう一発N-バメーストを近距離で使用された場合、再起不能になると考えられます。その場合、機械を完全に交換する必要があります」
「つまり、アレを使わす前に倒せばいいんだな?攻撃!」
刺!刺!
爆!爆!
おおとはG2へ攻撃をする。しかし、その弾道は予想を外し、G2の脇を通過、高層ビルを貫き、汐留シティーセンターに当たる。明らかに倒壊は時間の問題だ。
「バグによる誤差修正を行います」
「それで、どれくらいまともになる?」
「隅田川の時の様に、遮蔽物なしに直線でなら問題はないですが、今回は高度な三次元戦。浜離宮を挟んで汐留と隅田川では現在の天候も加わり、かなり落ちます」
刺!弾!刺!刺!弾!爆!
陸では汐留の高層ビルに囲まれたG2とガルーラと戦車部隊が戦闘を繰り広げている。
『武田さん』
蒼井が通信してきた。
「なんだ?」
『責任、お願いします』
その言葉で、蒼井の意図を察した武田海将補は、ため息を吐くと、わかった、とだけ答えた。
次の瞬間、蒼井機は冷凍光線を発射した。同時に、G2を囲む高層ビルを攻撃した。
崩れる高層ビル。そして、それらは凍てつく氷の刃となって、G2に降り注ぐ。更に、冷凍光線はG2の上に積もった瓦礫の山を凍りつかす。
そして、G2は霜の張った瓦礫の山に消えた。
グオォォォォーーーォン!
一難去ってまた一難とはこの事か、間髪いれず今度はG1が咆哮と共に現れた。
「ちっ!今度はG1か。標的変更!G1を倒すぞ!」
武田海将補の言葉が合図とばかりに、おおとのみならず、陸自の加勢に来た対G戦車隊もG1へ攻撃を開始した。
刺!刺!刺!刺!刺!刺!
弾!弾!弾!弾!弾!弾!
氷結した汐留の氷柱や霜を踏み潰し、背鰭を薄暗い嵐の空の元、不気味に発光させる。
大型の戦車───大型ニードル砲装備戦車が新橋駅の方から砲撃する。しかし、大型ニードルがG1に達する前に、G1は爆熱火球を放つ!
大型ニードルはG1に衝突するものの、それは所詮ただの鉄の塊に過ぎない。巨大な鉄の塊は氷結した大地に落下する。その上をG1が歩く。
そして、G1が陸自を無視し、東京湾のおおとへ向かおうとする時、瓦礫の下へと沈んでいたG2がむくっと起き上がるなり、G1へ放射能火炎を吐いた。更に、起き上がった時に、瓦礫を投げつけたのか、G1へ瓦礫と放射能火炎が襲う。
グオォォォォーーーォン!
G1は放射能火炎をもろともせず、咆哮を上げながら、G2へ突進する。
倒れる二匹。
そして、地響き。
ふきつける大粒の雨。
そして、気温に溶ける霜。
グオォォォォーーーォン!
グオォォォォーーーォン!
二匹の激しい攻防は倒れた後も尚、続く。
もみ合い、へし合い。二匹は殴り、蹴り、噛みつき、叩きつける。
その激しい争いは、戦車を潰す。陸自は近づく事すらも、この戦いに介入することすらも許されないというかの如く………
2005年9月22日18時20分。
二匹の戦いは、汐留から場所を変え、東京タワーの目の前で繰り広げられている。
G2は姿勢を低くし、大きく息を吸う。G1は体を仰け反らせ、雨が吹き付けられている背鰭を発光させ、雨水を蒸発させる。
グオォッ!
グオォォォォーーーォン!
二匹は互いの攻撃にその身を倒す。G1は咆哮と共に放射能火炎を、G2はパワーブレスを放ち、相打ちになった。
東京タワーにG1が倒れこむ。鈍い音を立て軋み、いびつに傾く東京タワーとその根元に倒れるG1。そして、手前の公園にはG2が倒れる。
「こういう時に燃料切れとはついていない」
千載一遇のチャンスなのにも関わらず、こういう時にこそハプニングが起こる。蒼井機の残り燃料が限界に達してしまい、警告が表示されたのだ。
『蒼井、俺達に構うな。ここで無理をすれば全員の命を危険に晒す。お前ならわかっているだろう?』
『赤川さんの言う通りです。我々がゴジラを攻撃します。その間に燃料を補給してください』
「赤川………結城………。あぁ、わかった。すぐに戻る!それまで頼む!」
蒼井はそう言うと、ガルーラの進路をおおとへと変更し、戦線から離脱した。
「辛かろうが、これも立派な戦略じゃ。一人で戦う事は決して必ず正しいとは限らん。皆でいかに戦うかが重要なのじゃよ」
耕助は蒼井に言った。彼の性格は訓練で十分理解している。蒼井がどれほど戦線を脱する事を無念に思うかは理解していた。
「武田さん」
『ガルーダの状況はこっちで把握出来るようになっている。既に、燃料も使用できる弾薬類も準備させている。さっさと来い』
「了解!」
返事を返し、蒼井はガルーラを加速させ、一刻も早くおおとに着けるように飛ばした。
2005年9月22日18時40分。
おおとが見えてきた。
『格納庫に入れ』
指示通り、蒼井機はおおとの格納庫へ入る。
「よろしくおねがいします」
「蒼井ぃー!」
整備員の人達に挨拶をしていると、格納庫に響く声が聞こえた。声の主は言わずもがな、武田海将補であった。
「わざわざ来ていただかなくても………」
「蒼井、お前はさっさとトイレなり飲食なりを済ませて来い!補給はお前も同じだ」
「は、はい……」
武田海将補の勢いにおされる蒼井を無視し、武田海将補は耕助を見た。
「三神さん。あなたはここで降りていただきます。これは重大な違反行為です。先ほどは状況の真っ只中であった為、緊急の特例中の特例として私がガルーダに乗ることを許可しましたが、ここは戦艦おおとです。ガルーダから降りてください」
「嫌といえば?」
「強硬手段に出ます。あなたは元ガルーラ指導官であり、今は設計を担当した一協力者だ。アドバイスは歓迎しますが、介入はお断りします」
武田海将補は鋭い眼光で、耕助を見つめて言った。
「武田海将補!」
「蒼井一佐……その名で呼ぶということは、これからお前が言った事がどういう意味を持つかを理解しているな?」
「肯定です。進言したいことがあります」
「言ってみろ」
回りは何も言わず、二人を眺める。これからの二人の会話は一海佐が海将補への意見なのだ。言葉の持つ責任は戦況全てに影響を与えかねない。勿論、蒼井のキャリアにもだ。
「三神元指導官は現状において、必要不可欠な補佐であり、指導官であります。三神耕助元指導官の解任の取り消しを希望します」
「その程度の理由で、しかも希望か。では取り消す事は出来ないな」
「しかし!」
「しかしもあるか!今まではこっちの協力もお前自身の高いキャリアもあって、どうにか無茶も道理が通った。しかし、今回は協力出来ん!そして、お前はしっかりとした理由を説明出来ん。何をもって証明する?」
「現状において、証明どうこうは出来ません。しかし、現在彼の力は必要不可欠なのです。かつてゴジラとの戦闘を経験した三神元指導官の力は必要不可欠なのだと自分は……なにも確証もないことですが考えています。したがって───」
「もういい!早く自分のメンテナンスをして来い」
武田海将補は、燃料補給が終わりそうなガルーラを一瞥すると、言った。
「しかし!」
「三神指導官も、早く一息ついて下さい。2分後には再出撃ですよ」
「………武田さん!」
「三神元指導官を現時点を持って、私の権限により、指導官への復帰と蒼井機の補助操縦士を命じる。それから、蒼井、次の機会までにお前は交渉術を学んでおけ」
そういって、武田海将補はにやりと笑った。
「はい!」
蒼井は素早く敬礼をすると、休憩室へと走って行った。そして、武田海将補は一言つぶやくと、その場を後にした。
「これで勝たなければ俺は生きていけないな………」
2005年9月22日19時。
東京タワーは既に半壊状態になり、二匹はもみくちゃになりながら、六本木方面へ進行していた。
更に、嵐はより激しさを増し、あらゆるものを吹き飛ばす。
「ちっ!照準が合わない!………予想以上の風だ」
赤川は目を凝らし、二匹のゴジラに標準を合わせようとするが、中々あわない。
『陸自は一時的に距離を取るそうです』
「相当な嵐だな。わかった。これ以上怪獣に都内観光をさせるわけにはいかない。ここで俺達がけりをつけるぞ」
『了解!』
結城機と赤川機は二手から、一気にゴジラ達を攻撃した。しかし、G1は息を吸い込みながら、背鰭を発光させる。
「危ない!かわせ!」
赤川は叫ぶ。慌てて結城は方向を変える。次の瞬間、G1は爆熱火球を放った。
爆熱火球は結城機には当たらず、先にあった六本木ヒルズの高層階に命中。吹き飛ばす。
隙を突き、G2は背鰭を発光させ、放射能火炎をG1に浴びせる。
グオォォォォーーーォン!
G1は、咆哮すると、放射能火炎を吐くG2に尻尾で強烈な一撃を加える。倒れるG2。
『よし、今のうちに叩きましょう!』
結城機は素早く、G1に冷凍光線を放つ。
しかし、G1はそれを察したのか、パワーブレスを結城機に吐き、光線の軌道を変えた。
「なっ!………そんな、明らかにゴジラの戦闘力が上がっている」
赤川は一瞬、その少しずつ確かに、強くなっていくゴジラに衝撃を感じた。
しかし、その一瞬が悲劇を招いてしまった。
G1、G2共に、背鰭を発光させた。更に、二体の位置は結城機を挟んで、丁度反対の位置となった。………考えられる悲劇が現実のものとなってしまった。
二匹は、結城機がその中間を通過する瞬間、同時に放射能火炎と爆熱火球を放った。
暗い嵐の中で一つの爆炎が輝いた。
2005年9月22日19時。
補給を完了した蒼井機は、猛スピードで嵐の中を進んでいた。先は、ゴジラと仲間のいる六本木だ。
「………見えた。ガルーラとゴジラだ」
蒼井は、ゴジラへ冷凍光線を放った結城機を見つけた。
しかし、蒼井は彼の元へたどり着く事はできなかった。
そして、その時、偶然結城機の通信を捉える事ができた。その通信は、結城の確かに最期の気持ちが篭っていた。
『今まで……ありが………』
通信が切れた。
蒼井が見る先には、G2の放射能火炎に加え、とどめをさしたG1の爆熱火球と、その破壊力と熱に破壊される結城のガルーラの最後の姿が見えた。
「結城ぃぃぃぃぃぃ………!」
蒼井の叫び声は枯れるまで続いた。
2005年9月22日19時20分。
「艦長。G1、G2共に品川ふ頭へ進行中。まもなく当艦射程圏内に入ります」
「………わかった。総員、戦闘配置!いつでもゴジラを攻撃出来るようにしろ!」
武田海将補は指示を出す。しかし、彼にもわかっていた。結城までもが死んでしまい、既にガルーラは残り二機。そして、残る戦力も限界に近い。こんな状態で何が戦況を変えるのかと、先の見えない不安に誰もがかられている事に。
『うおぉぉぉー!結城の仇!』
そんな時、蒼井の声が入った。蒼井機はありったけのミサイルを品川駅横をもみ合いながら進むゴジラ達に浴びせる。
『弾薬を無駄遣いするな!的確に命中させろ!』
続いて赤川の声、そして言葉どおりの的確に攻撃をする。
『そうじゃ!火力が多く残っているのは、わしらじゃ、無駄遣いをするのは適切じゃない!』
耕助の声も聞こえる。彼らは諦めてはいない。不安や悲しみの中、ゴジラを倒すために死闘に身を投じていた。
「よし!俺達も彼らに負けず、援護をするぞ!準備はいいか?」
「大丈夫です!」
「攻撃!」
武田海将補の声が、デッキに響いた。
グオォォォォーーーォン!
G2は咆哮し、G1にタックルする。G1はバランスを崩し、ふ頭の倉庫に倒れこむ。
弾弾弾弾弾………
そこへおおとの集中砲火がG2を襲う。
更に、赤川機が冷凍光線をG2に浴びせた。
「やった!」
G2の体は見事に凍った。更に、蒼井機がニードルを放とうとしたが、その時、G1が背鰭を発光させながら、起き上がり、爆熱火球をG2へ放った。G2は東京湾へ落ちる。
『なっ!』
予想外のG1の攻撃に不意を取られた蒼井機。更に、G1は留めとばかりに、異常な発光をする。
「N-バメーストです」
「いかん!蒼井!逃げろ!」
しかし、今回のN-バメーストは今までにもっとも早くチャージし、その時には今まさにG2、そしてこのままではその射程内に入ってしまう蒼井機に向かって放たれようとしていた。
「蒼井ぃぃぃ!」
武田海将補が叫んだ時、赤川機が動いた。同時に、G1は最凶の必殺技、N-バメーストを放った。
すべてが光に包み込まれる。蒼井機は、赤川機に衝突され、射程から出た。しかし、赤川機は、その光に巻き込まれた。
グオォォォォーーーォン!
東京湾からは、G2の断末魔が聞こえた。
やがて、光は収まり、嵐がすべてを洗い流し始める。
「おおと、機能不全。もうこの戦闘を続ける事は出来ません。現在、状況を確認中ですが、ゴジラから発せられる反応がG1のみになった事から、先の攻撃でG2は消滅したと考えられます」
「ガルーラは?」
武田海将補は、頭を振りながら聞いた。
「現在確認中ですが、わずかに蒼井機は目視できます」
「………やはり、赤川が」
武田海将補は、その場に座り込んだ。
確かに、存在した。この戦況を変えられる事が。しかし、それは人ではなく、今まで東京を荒らしに荒らしたゴジラ自身であった。
「結局、俺達は何をやっていたんだ?」