東京



2005年9月22日15時15分。
 潜水したおおとは、G2が潜水してくる前にニードルと魚雷の連続攻撃により動きを封じ、更に浮上しながらの大型ニードル砲にて、一気にダメージを与えようとしていた。
『武田さん!三神です!』
 そんな最中に、三神からの通信は入った。
「三神博士!G2は、おおとの戦力で上陸を阻止できますか?不可能であれば、戦力を消費する前に応援を要請する必要がある」
『恐らく、G2の能力はかつて東京に現れたG0と同等と考えていいです。G1よりは僅かながらも劣ると思います。そして、お聞きします。G2は東京のみを目指していますか?』
「間違いなく東京だ。他は見向きもしてない」
「二連式大型ニードル砲、発射します」
 その時、武田海将補に確認する。艦長として、ここはいわなければならない。
「よし!G2の両脇を貫くように放て!」
「誤差修正完了」
「打てぇぇぇ!」
「大型ニードル砲発射!」
「大型ニードル砲発射!」
 そして、おおとの主砲から大型ニードルが放たれた衝撃が響き渡る。大型ニードルは浮上するおおとから離れ、G2へと海中を割きながら向かう。
「すまない」
『構いません。お互い戦場なのですから。………しまった!ゴジラが目覚めた!』
 向こうも大変なようだ。そして、こちらも。
刺刺!
 艦内にも命中した衝撃が響く!
「ぐっ!」
 武田海将補は体を突っ張る。揺れが落ち着くのもままならない間に、武田海将補は次の指示を出す。
「………よし!被害がないか確認!同時に、G2の真下まで浮上し、魚雷とニードルを撃ち、ショックアンカー、回転式横切りの準備をせよ!」
「待たせました。大丈夫ですか?」
『大丈夫です。今両国駅から距離を取っているので、問題ありません。話を再開しましょう』
「では、さっきの質問は?」
『間違いなく、G2はG1を目指して、東京まで現れたのでしょう。接触しないと、その理由が縄張り争いか、求愛の為か、それ以外の何らかかはわからりません。しかし、G2はまっすぐ東京へ向かう筈です。兎に角、前方へ進ませない方法が効果的です。今現在ではこの位しかいえる事はありませんが、参考になったでしょうか?』
「十分だ!ありがとう、三神さん!………ようし!G2の注意をこっちにひきつけさせろ!魚雷をG2の前方で爆破、ニードルをG2の下っ腹に打ち込め!」
 その時、既におおとはG2の真下まで浮上していた。すぐさまおおとは魚雷とニードルを発射した。そして、先の指示通り、ショックアンカーと回転式横斬りが準備される。
爆!爆!爆!爆!爆!爆!
刺!刺!刺!刺!刺!刺!
グオォォォォーーーォン!
 嵐の海にG2のうめき声が響く。
「G2、進路を変えず、直進!」
「やはりか。G2が当艦の目の前に完全に入ったら、ショックアンカーを打ち込め。動きを封じたところを回転式横斬りで攻撃だ」
 G2はおおとの真上を通過し、目の前に現れた。
「ショックアンカー発射!」
「ショックアンカー発射!」
 おおと艦内に響いた声と共に、おおとからショックアンカーが放たれた。ショックアンカーはG2に刺さり、電撃がG2を襲う。
「回転式横斬り、回転刃始動確認!」
「回転式横斬り、回転刃始動確認!」
 おおとの両サイドにつけられている回転刃が水流を生みながら、回転をはじめる。そして、左側の回転刃で横斬りを使う。右側に比べ、強度に信頼が置けるからである。
「回転式横斬り!」
「回転式横斬り!」
斬!
グオォォォォーーーォン!
 白い波に、濁った東京湾の海中に、G2の鮮血の赤が広がる。
 しかも、ショックアンカーで完全に対象を捕捉した状態での回転式横斬りは、強大なダメージを与えたであろう。
 しかし、G2は進行を止めない。いや、寧ろ速度を上げ、東京湾を進む。既に、先ほど三神がいたお台場海浜公園が見えている。
「艦長。これ以上は潜水での攻撃は困難です」
「よし、完全に浮上。浮上を確認後、二連式大型ニードル砲を撃て!」
 そして、半潜水状態であったおおとは完全に浮上し、前方にある二門の主砲が開かれた。
「二連式大型ニードル砲、撃てぇぇぇぇ!」
「発射!」
「発射!」
 嵐の騒音に混じり、ニードル砲が放たれた轟音が轟く。
刺!
 しかし、荒れる波、風速20メートルを超える台風の風が、照準を狂わせ、二発のうち命中したのは、一発であった。しかも、その一発もG2の肩を刺したものの、ほとんどかすったも同然であった。
「くっ!………ショックアンカーを引き戻せ!そして再度、撃てぇぇぇ!」
「発射!」
「発射!」
 ショックアンカーが縮み、G2との距離が狭まる。そして、大型ニードル砲が再び放たれた。
刺刺!
グオォォォォーーーォン!
 G2は悲鳴を上げる。いや、果たしてそれが悲鳴であったかはわからない。なぜならば………
「G2、突如速度を落としました!このままでは、追突………ぐはっ!」
 ショックアンカーによって、距離を縮めていたおおとはG2に激突し、しかもG2はそれが作戦と誇示したいのか、鳴き声を轟かせながら、背びれを尾のほうからおおとに突き立て、背鰭斬りをしたのだ。
グオォォォォーーーォン!
斬!
「被害の………確認を、大至急しろ!」
『エンジン出力50パーセントに低下。………いえ、45……40!尚も低下しています!』
『第四機関部浸水!封鎖します!』
『ショックアンカー発射口損傷!このままでは漏電します!』
『第一生活区に浸水確認』
『第一魚雷発射口に亀裂を確認。使用不能です』
『バルブに異常確認。安全浮上が保証できません』
『スクリュー損傷。停止します」
「ショックアンカーの電撃止め!エンジンは一時停止。原因を調査しろ!その他、武器に問題がないか確認!」
 武田海将補は、報告を記録させながら指示をする。時間との勝負だ。G2が上陸を果たす前に、状況を立て直さなければならない。
「G2、まもなく上陸します。上陸地点は、お台場海浜公園周辺になります!」
『魚雷、第二、第三発射口異常なし』
『ミサイル発射口異常なし。………システム異常なし』
『ショックアンカーが危険だ!このままでは、ここいら周辺区画が一気に浸水するぞ!』
「至急ショックアンカーを回収!」
「間に合いません!G2速度をあげ、一気に湾内を進みま……すっ!」
 おおと艦内がゆれる。ショックアンカーが引っ張り出されてるのだ。既に発射口内部は浸水し、巻き取りのモーターは故障している。
「いいから回収だ!」
「回収!」
「回収!」
 G2に刺さっていた片方のショックアンカーが外れ、それはムチやゴムの如く、水を裂き、海底を払い、おおとに戻ってきた。ショックアンカーはおおとの大型ニードル砲を叩き付け、更に装甲にもムチの痕のように傷を残し、海底に沈んだ。そして、もう一方のショックアンカーは外れずに、ワイヤーが片方のショックアンカーに傷つけられ、途中で引きちぎれた。そのワイヤーもまた、おおとのミサイル発射口をつぶし、海底へ向けて垂れ下がった。
 しかし、その一方のワイヤーはG2に跳ね返り、G2にもダメージを与えた。
「艦長、大型ニードル砲、ショックアンカー、ミサイル全て使用不能となりました。そして、その確認を行っていた船員にも死傷者が多数いるもようです」
「くっ!ニードルの状況は?」
『ニードル、異常ありません』
『エンジン異常の原因が判明しました。一部に海水が入って、ヒートを起こしていました。動かすことは出来ます。ただし、出力は30パーセントが限界。潜水も一度したらエンジン部に浸水するので、再始動は出来ません』
「わかった」
「G2、湾深部に侵入。立ち上がりました」
 かなり解像度の悪くなったレーダー、ソナーその他のモニターを見ても、G2は上陸するのは間違いない。
「艦の移動速度はどんな感じだ?」
「現在エンジンと噴水推進のみですので、自転車と大差ない速度しか出ないでしょう」
 武田海将補は少し考えた後、受話器を手にとった。
「三神博士か?武田だ」
『武田艦長ですか。G2はどうですか?もうG1は上野を通過して、文京区の………うわっ!高校がぁ……今母校が破壊されました。進路は水道橋、飯田橋方面に切り替わりそうです。東大も破壊されるかもしれません。それから、先ほど土方さんのガルーラが破壊されました』
「大丈夫なのか?」
『どうやらギリギリの所で脱出したようです。誘導と攻撃をしている陸自の戦力ももう限界が近いです』
「そうか。こっちはもう間に合いそうもない。G2は後数分で完全に上陸する」
『………わかりました』
 受話器を戻した武田海将補は少し考えた。現在文京区の東大周辺なのであれば、まだ接触するには時間がある。今おおとが出来ることは、可能な限りG2の体力を奪うことのみであろう。
「ニードルを準備しろ!」


2005年9月22日15時20分。
 一時は冷凍光線によって凍結したものの、今では、凍りついた周囲を破壊し、隅田川を横断している。
弾!弾!弾!
発!発!発!
 対岸の戦車がG1に砲撃する。しかし、その攻撃は寧ろ凍った体を溶かす熱としてG1にプラスに働いてるように見える。砲撃する戦車の後ろからは、強力な閃光と爆発音を発する照明弾を打ち、ゴジラを撹乱する。ゴジラ団の戦略の模倣だ。
 しかし、G1の背鰭は再び発光した。そして、放射能火炎を戦車隊に浴びせようとする。吐き出すギリギリの所で、結城機が攻撃し、防ぐ。
「ローマ戦の再現だな。小さな地域にさまざまな建物が密集している。もっともゴジラと人間の有利不利がはっきりわかれる土地だ」
 グリーンは浅草周辺でヘリを飛ばしながら言った。
「そうだね。ただ、以前に比べて照明弾の効果が低い気がする。もしかしたら、ゴジラ団の度重なる照明弾の影響で、慣れが出てきたのかもしれない………」
 三神はG1の様子を見て、グリーンに言った。
 事実、G1は戦車に攻撃と誘導の影響を受けつつも、それを諸共せず蔵前まで上流へ進み、蔵前橋通を悠然と移動を開始していた。


2005年9月22日15時30分。
「このままじゃ、すぐにアキバや上野に到達するぞ」
 赤川は昭和通手前で旋回した後、言った。
『このゴジラ、実はアキバに行きたかっただけってないよな?』
『もしそうならそんな人騒がせな話は他にないな』
 蒼井と結城はそう言うが、戦力の配置上、道の大きい観光地や行楽地周辺がどうしてもゴジラとの戦闘になりやすい。
『バカばっかり言ってないで、G1が蔵前通りに配置されてる戦車を全滅させる勢いよ!』
 土方が冷静にツッコミを入れる。しかし、冗談ではなく本当に陸自戦力はかなりの被害を出している。そして、昭和通、その上を走る首都高上野線まで無事な戦力は一時撤退し始める。
『もう少し堪えい!恐らくそろそろ、陸自が手配した対G兵器がくるころじゃ』
 蒼井の副操縦士になっている耕助が言った。その答えは、赤川が再び旋回し、昭和通とJR線の先にあるライン、秋葉原電気街から延びる中央通上空を通過した時にわかった。
「新型戦車?」
『いいや。90式の改造じゃ。確か、90式対G改戦車と呼称するそうじゃ。ゴジラ団を参考に照明弾の誘導用戦車以外に有効なゴジラ防衛戦力として用意したそうじゃ。砲台にニードルを装備させた型とカドミウム弾を装備させた射撃性能を高めている型と二種類ある。………ほう。まだ数が揃っていなかった超大型重装備の大型ニードル砲搭載型まで一台機来ておる。時間と戦力の都合か、計十台じゃな』
 耕助は解説した。すると、蒼井が疑問を口にする。
『しかし、皆上野方面に向けて配備しているな』
「恐らく、G2とG1を接触させないように、海から遠ざけようとしているのだろう」
グオォォォォーーーォン!
 そして、まもなくしてG1は昭和通に差し掛かった。既に、負傷した陸上部隊は蔵前橋通を外れ、昭和通を回り、上野公園の部隊との合流へ向かっている。
発!発!発!発!発!
 中央通の戦車が連続して、照明弾を放った。その度重なる大音量の爆音と鮮烈な光によって、照明弾に慣れたG1も誘導され、真っ直ぐに進む。
 G1は東京を支える第一のライン、首都高速をその質量で蹴り崩す。阪神淡路大震災より進められた耐震強化も、G1の前では全く役に立たなかった。そして、首都高上野線は、蔵前橋通をなぞる様に切断された。
 更にG1は第二のライン、JR山手線の高架を崩す。高架は首都高同様崩れ、跡には雨水滴る線路や送電線が空しく垂れ、その下には瓦礫が広がっていた。
 そして、G1は中央通目前となった。既に、90式対G改の部隊は攻撃体勢に入っていた。
刺!
刺!刺!刺!刺!刺!
弾!弾!弾!弾!
 大型ニードルを合図に、一斉射撃が始まった。
『ガルーラは戦車を援護せよ』
「了解」
 赤川機は戦車を睨むG1に、後方からニードルを放った。
刺!
 更に、結城機がG1の正面からミサイルで攻撃。その後すぐに、戦車がニードルを一斉照射。
爆!刺!刺!刺!刺!刺!
 戦車の援護は上手くいった。そして、G1は上野方面へ歩みを進める。


2005年9月22日15時50分。
爆!
 ニードル装備戦車が破壊された。
「また破壊された!援護が少しなくなった隙に攻撃したぞ」
 G1はすばやく出せるパワーブレスを多用することで、戦車を破壊していく。
「もう残り大型ニードル砲の戦車一台とニードル装備が一台、カドミウム装備が二台の計四台か」
 グリーンは三神に言った。
「もう六台もやられたのか。しかも、放射能火炎なしで!」
「そのお陰で、死者は最小限で済んでるみたいだけど、まったくゼロってわけには行かないみたい」
 優は言った。壊れた戦車から脱出する隊員の数は、戦車によってまちまちだ。少ない人数は、戦車内で絶命してしまった人間がいる事を示す。
「ガルーラの戦力もかなり減っているだろう。恐らくかなり消費しているはずだ」
グオォォォォーーーォン!
 G1の背鰭が発光する。
 それを食い止めようと、土方機のガルーラがニードルを放つ。
刺!刺!刺!刺!
 更に旋回して、口を開こうとするG1にカドミウム弾を撃つ。
弾!弾!弾!
「特に、あのガルーラは一度に撃つ量が多いから、きっとかなり消費しているな」
 グリーンは土方機を見て言った。
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