東京
2005年9月22日14時35分。
ゴジラは既に葛西臨海公園を破壊し、葛西、大島の町を破壊しながら突き進んでいた。
『よくも私の実家を!』
刺!
土方機はゴジラに向かって、ニードルを放った。どうやら彼女の実家がこの周辺らしい。
『東京ならではだな』
赤川は軽く笑った。
しかし、ここまで来ると、陸上自衛隊の部隊が登場する。
爆!爆!爆!爆!
荒川沿いに配備された陸上自衛隊の攻撃部隊は、ゴジラに向かって砲撃する。
しかし、ゴジラは背鰭を発光させ、放射能火炎を浴びせる。
爆!爆!爆!
戦車が炎上し、爆発する。辛うじて脱出した隊員だが、その炎は連鎖し、彼らの周りの町を燃やす。そして、ゴジラはその炎に包まれた町を踏み潰し、なぎ倒し、破壊の限りを尽くしながら突き進む。陸自隊員の生死は全く不明だ。
グオォォォォーーーォン!
嵐と炎の町にゴジラの咆哮が響き渡る。
そして、ゴジラは大島を通過、平井へさしかかろうとしていた。東京という都市は複雑に入り組んでいるが、それを無視して、突き進めばその距離は短い。時速三十キロ前後で移動しているとしても、このペースは余裕なものである。
そして、ゴジラは進路を総武線に沿って、亀戸、錦糸町方面へ移動しだした。
『何やっているんだ!このままじゃ、ゴジラに東京が破壊しつくされるぞ!』
そこへ聞こえてきた声は、蒼井の声であった。
『直ぐに冷凍光線のシステム最終チェックをせい!』
聞こえてきたのは、いるはずのない耕助の声であった。
『三神指導官!どうしたんですか?』
『おぉ、赤川か。わしだって、何もせずにいられんての、蒼井の後ろに乗せてもらっておる』
『そういうわけだ』
『………全く、知らないぞ』
赤川はため息を吐き、指示通り冷凍光線の準備を始めた。
2005年9月22日14時30分。
蒼井機が浦安から再始動した前後、荒れ狂う相模灘に残る艦隊の残骸の中を、一つの巨大な黒い影がゴジラの後を辿り、浦賀水道に向かい突き進んでいく。
その影を目撃した生存者は、我が目を疑い、そしてその事実に震え上がった。
そして、黒い影は悠然と荒れる海の先へと消えていった。
その生存者は、震える手で、全ての計器を漁った。
そして、引き当てたデータは東京湾から相模灘にかけての放射能濃度であった。N-バメーストの影響で非常に高い数値を記録している。
しかし、見る見る内に放射能濃度が、相模灘から順に低下していく。
「ひ、ひぇぇぇぇぇぇ!」
生存者は、その光景を見て、悲鳴を上げた。
2005年9月22日14時35分。
相模灘で確認された衝撃的な光景は、大戸島のゴジラ博物館面々にも確認されていた。
「こ、これって………」
大助は、顔面蒼白で所長や敷島達を見た。彼らも皆、驚きの表情になっている。
「し、至急総理大臣に連絡だ!武田さんにも!兎に角、みんなにこの事実を伝えるんだ!………史上三体目のゴジラが、G2が東京に………G1に向かっていると!」
所長は言った。
そして、その連絡は直ぐさま可能な限り多くの者に連絡された。
まもなく誰も知らないゴジラの戦いが始まろうとしている事は言うまでもない事であった。
2005年9月22日14時50分。
総武線沿いの住宅地を火の海にしたゴジラは、両国駅前にある大江戸博物館及びほぼ隣接している国技館の目前に差し掛かっていた。
最早、ペースが速いか遅いか以前にゴジラの残す炎がまるで51年前の襲撃の様に下町に広がっている。近隣の学校はゴジラに踏み潰されたか、下町を燃やす炎にやられたかのどちらかである。
一方で、今まさにガルーラの冷凍光線が放たれようとしていた。
「陸自は?」
「今戦えるのは隅田川の対岸だ!ここはもう俺達だけだ」
「俺達が止めるのみか………」
「やるしかないって訳よ!」
蒼井、赤川、結城、土方と四人のガルーラパイロットは、遂にゴジラという常識を超えた存在に常識の超えた兵器である冷凍兵器を使う時が来たのである。
そして、まるで通り道の邪魔であるかの如く、それは当然に、ゴジラは大江戸博物館の特徴的建物を根元から破壊し、轟音と儚くもあっけなく崩れ去る建物の土煙に塗れながら、崩落させた。その瓦礫を蹴散らしながら、背鰭を嵐の薄暗い空に妖しく発光させながら、国技館をその目の前に捉えた。
憎たらしいのか、憎いのか、邪魔なのか、全くの無意味なのかはゴジラのみぞ知る真実であるが、ゴジラは放射能火炎を国技館へ向けて放った。
嵐の薄暗い空に一滴の閃光が広がった。しかし、それが国技館に放射能火炎が襲った証拠である事は、彼岸に控える陸自も承知の事だ。
「撃てぇぇぇぇぇ!」
耕助の声と共に、四機のガルーラに搭載されている冷凍光線の発射口が光った。
2005年9月22日15時。
東京都の市街地での戦闘とは対照的に、台風による荒れた海で、戦艦おおととまさかの出現である三匹目のゴジラ、G2の戦いが始まろうとしていた。
「総理………つまり今我々が見ているこのソナーに写っている巨大な影は、N-バメーストの影響によるエラーでも、船舶の残骸でもなく、都内で暴れているG1とは違う、第三のゴジラという事ですか?」
武田海将補は、復旧をある程度完了した戦艦おおとに通信をしてきた双里総理と連絡していた。
大戸島から連絡を受けた総理は、至急おおとに連絡を入れたのだ。余談ではあるが、今回のゴジラ戦のほとんどを神宮寺事件以来就任して日の浅い官房長官ではなく、内閣総理大臣の双里が担っている。
『なぜもう一体のゴジラが現れたかは不明です。しかし、東京湾に今まさに進入している巨大な生物は紛れもなく、ゴジラなのです。そして、先刻第三のゴジラを『G2』と呼称する事に決定されました。武田艦長、新しい指令です。G2の上陸、及びG1の接触を防いでください。もし二体のゴジラが戦闘となれば、東京は壊滅的な被害を受けるでしょう』
「了解。攻撃可能範囲に入り次第、G2と戦闘を開始します。………総理、その為に一つ頼みごとがございます。生物学者の三神博士との連絡がしたいのです。戦闘時、現状を把握しなければ、ゴジラには勝てません」
『わかりました。至急手配させます』
そして、電話の向こう側から双里が指示している声が聞こえる。そして、すぐに電話に戻った。
『只今、手配しました。提供した都内の研究施設が火災を起こし、彼の所在が掴めずにいるようですが………失礼』
再び受話器を離し、向こうで会話している様だ。そして、今度受話器に出た声は、双里ではなかった。
『総理の代わりに自分が説明する』
「その声は、長官!」
ある意味武田海将補にとって、双里以上に緊張する人物。防衛庁長官の声であった。
『三神博士だが、陸上自衛隊の報告から、現在所属不明のヘリコプターにてお台場海浜公園より移動し、現在ゴジラ、ガルーラと距離を取りつつ、都内上空を移動中だ。近くの携帯電話基地局が戦闘で破壊されたらしく、三神博士の電話がつながらない。搭載されている無線をキャッチがまもなく完了する。なにぶん、このような緊急事態だ、思いの他手間取ってしまい、こちらとしても早く三神博士と連絡を取りたいのだが』
「それは一体………」
「G2!攻撃射程圏内に入りました!」
武田海将補が言おうとした時、G2出現の報告が来た。遂に戦闘開始だ。
「長官」
『わかっている。武田海将補は、おおと艦長としてG2上陸阻止に努めてくれ。三神博士の事は我々に任せてくれ』
「了解」
武田海将補は受話器を戻し、艦長の任に再び就いた。
「現在の当艦の情報を見せろ!他の部隊はG1に戦力が割かれている。G2は当艦のみで食い止めるぞ!」
「これです!」
直ちに船員が先ほど確認したおおとのデータを見せる。
「ショックアンカーの損傷があるな。強度は以前のものに比べてほぼ同じくらいといった所か。二連式大型ニードル砲も残り少ない。回転式横斬りは修理こそ完了しているが、不安は残るな」
武田海将補が思案をするのだが、すでにG2は至近距離に迫っていた。G2は荒れる海上を進む。
「時間はないか。よし!前方四発ニードルをG2に打った後、弾幕を張れ!その後、潜水せよ!」
「了解!ニードル発射!」
「ニードル発射!」
おおとは、まっすぐ東京を目指すG2に向かって、ニードルを放った。
2005年9月22日15時過ぎ。
「すごい!」
冷凍光線の威力は驚きの一言であった。遠くのヘリから見ている三神達でも、その凄さがわかった。
隅田川のJR両国駅周辺は、まるで氷河期がきたかのように、光線の当たったビルの瓦礫が凍結していた。更に、雹の状態になった雨が雨水に紛れて、辺りに流れていた。
そして、G1も直撃し、皮膚が凍結し、霜が降りた状態で倒れている。
「ゴジラは凍死したのかしら?」
優は双眼鏡から視線を三神に向けて聞いた。
「わからない。恐らくゴジラは恒温動物に近い。それに体の持つ特徴は、寒地の動物に多い。硬い表皮が一時的に凍っても、それだけでゴジラの命を奪う事は難しいと思う。ただし、ゴジラの放射能を封じ込める力はありそうだよ」
「つまり、冷凍光線は必殺というよりはキーカードに近い存在なんだな?」
グリーンは暴風に奪われる操縦を保ちながら、三神に聞いた。
「まさにそんな感じだ。ゴジラを火器兵器で倒すことは、事実上不可能といっていい以上、冷凍兵器やニードルのような物理的攻撃、放射能を抑える効果が期待されるカドミウム弾、それらを装備するガルーラが、こいつを使わないでゴジラの息の根を止める手段だろう」
三神はアタッシュケースを見て言った。
その時、ヘリの無線に連絡が入った。すぐさまグリーンが出た。
「はい。…………防衛庁長官?」
突然、グリーンが大声で聞き返した。三神と優、台場が見る。
「………ジェームス・グリーンです。今回の件は、私の一存、祖国は一切関係ありません。そして、ここにいる三神、鬼瓦、台場の三名は私が勝手に拉致したもの。彼らの意思ではない事と先に言っておきます」
わざと三神達に聞こえるように言った後、グリーンは三神に副操縦席のインカムを渡した。三神は副操縦席に座ると、無線に出た。
「もしもし、防衛庁長官でしょうか?」
『いや、今は代わって、内閣総理大臣をしている双里元です。三神博士ですか?あの時は、神宮寺がご迷惑をお掛けしました』
突然の総理登場と謝罪にどう答えればいいのかわからず、口をパクパクと三神がしていると、双里はそのまま本題に入った。
『現在のあなた方がしている事は、大変なる違反行為です。しかし、それ以上に今、私達はあなたの力を必要としています。どうか、このまま連絡を繋いでおいて下さい。現在、東京湾内にて、新たに出現した第三匹目のゴジラ、G2と戦艦おおとが戦闘しています』
「え!」
三神は、顔をG1とは違う、東京湾へ視線を移した。台風によって視界が悪く、東京湾の様子は見えないが、弾幕のような閃光が次々に薄暗いを明るくさせていた。
そんな三神につられ、他の三人も東京湾の方を見た。
「戦闘?」
優が呟いた。グリーンはインカムから会話を聞いていたので、G2とおおとが戦闘している事実を知ってはいるが、その現実を知る衝撃は大きかった。
「総理!G2というのは?」
『まだ詳細は不明です。しかし、紛れもなくゴジラです。あくまでも可能性ですが、ゴジラ団団長の八神が見たというゴジラではないかと考えています』
三神はグリーンを見た。グリーンは頷いた。以前見せてもらったロシアが撮影した影、そして八神が逮捕時に三神に言った自分の遭遇したゴジラと主張した生物、全てがこのG2を示している。
「そう考えて間違えないと思います。状況からの推測ですが、G2は50年前にG0がいなくなった後に太平洋を縄張り、そこまでの具体的なものでなくとも、拠点として生息していたと考えられます。そのG2は核を?」
『持っているようです。詳細は大戸島の方から送られたものですが、どうやらアメリカが50年代水爆実験に多く使われていたものと近いようです』
「つまり、G0、G1、G2の三体のゴジラはほとんど同時期にそれぞれの場所で、水爆実験の影響を受け、その力を得てしまったと考えるのが自然ですね」
『なるほど。では、やはりG2はG1の影響で?』
「恐らく。G2の生活圏を侵したのはG1です。G2はG1を敵として排除しようとしていると思います。または、子孫を残す為に接触しようとしているのか」
『………オスとメスであったら、ですよね?』
「一応は。しかし、ゴジラの性については私も把握しておりません。油断は出来ません」
『わかりました。私どもはこれでひとまず質問は終えました。この回線を現在戦闘中のおおとにつなぎます。彼らのサポートをお願いします』
「わかりました」
無線はそのままおおとに繋がれた。