東京



2005年9月21日昼。
 国立放射性生物研究センターは、現在も臨時で大戸島の小学校を使用していた。
「………所長!これって、ヤバいサインじゃないですか?」
 台風の影響の大雨で濡れた体を拭きながら、モニターを見た大助少年が所長を呼んだ。彼は2ヶ月の間、臨時研究センターの手伝いをしている。大助なりに雄一の責任を感じているのであろう。
「どれどれ………!………大助君、至急三神君に連絡してくれ。G1が現れた。みんなも、至急関係各省庁に連絡を!」
 所長は慌てて指示を出した。そして、自らも自衛隊に連絡を入れる。
「………あ、ミジンコさん!大助です。ゴジラが現れました!」
 電話に出た三神に大助少年は言った。


2005年9月21日13時。
 電話を置いた三神は、その場にいた優とグリーンを見た。
「いよいよか」
 グリーンは言った。
「あぁ。ゴジラはこっちに向かっているらしい。明日には東京に来る」
 三神は答えた。そして、オキシジェン・デストロイヤーの前に立った。
「DO-M式オキシジェン・デストロイヤー、水中酸素破壊爆弾は今朝で完成したといっていい。だけど、まだこれを使う事は………」
 三神はオキシジェン・デストロイヤーを確認する。いつでも使用する事が可能だ。
「グリーン、優。今から話す事は誰にも言わない約束にしてくれ」
 それから三神はある決意と頼み事を話した。


2005年9月21日14時。
「休暇明け早々にゴジラ出現か………」
 蒼井はガルーラの確認をしながら言った。
「そういうな。………これが最後。…………そうしようじゃないか」
 赤川は言った。蒼井が周りを見回すと、結城も土方も頷いている。
「そうだな。これで………今回の戦いで、終わらしてやる」
 蒼井は再びガルーラの確認を始めた。
 そんな光景を武田海将補、白井海将は考え深げに眺めていた。
「………白井さん、三神耕助氏に連絡を入れてもよろしいでしょうか?」
「おおとに乗せる事は出来ない。それでいいならな」
「ありがとうございます」
 武田海将補は白井に頭を下げた。
「頭を上げろ。これは海上幕僚長の言葉というより、あいつらの上司である白井という一人の人間としての言葉なんだからな」
「恩に着る」
「…………そう言えば、やつらは知っているのだろうか?」
「神宮寺と神谷か」
「あぁ。………神谷────八神ゴジラ団団長は、日本国内に秘密裏に作られた監獄島で、国際司法の場に出す時まで幽閉する事になったらしい」
「日本の法律も今回ばかりは特例中の特例………か」
 二人は見えるはずの無い空を見上げるかの様に、天井を仰いだ。


2005年9月21日夜。
「総理。ついに来ましたな」
 総理官邸には、代理の官房長官、防衛庁長官の姿があった。
 そして、双里総理は頷いた。そして、官房長官も戦艦おおとの出撃を許可した。
 防衛庁長官は、電話を取り、白井に戦艦おおととガルーラの出撃命令を出した。
「総理、まもなく最終確認が済みます。次第、おおとを含む艦隊が出撃します」
「うむ。避難も勧告を出さなければならなそうですね。台風の事もありますし………」
「はい、早速手配します」
「………後は、例の写真ですね」
「はい。ロシアの撮影したゴジラらしき影。間違えであればいいのですが………」
 官房長官は言った。写真の事については、日本ではここにいる三人と三神達しか知らない。
「その事とは直接関係は無いのですが。オキシジェン・デストロイヤー開発に関係して、国内にいるアメリカとフランスの諜報部員なのですが、怪しい動きがあるとの報告が入っています」
「怪しいとは?」
「大切な協力者を疑う事は日本の品位を疑われかねない事ですが、オキシジェン・デストロイヤーやガルーラ、おおと等の技術を狙っているのではないかという情報です」
「なるほど………確かに問題はあります。しかし、もし今回ゴジラを倒せなければ、恐らく東京は、日本は終わります。ゴジラを倒すための技術ならば私はそれを惜しみません。………唯一の心配は、54年のゴジラ襲撃の際に、芹沢博士が危惧したという戦争への兵器利用です。これだけは、何があっても防いでください」
「わかりました」
 そして、双里は避難勧告をする会見の準備を始めた。


2005年9月22日朝。
 大戸島では、ゴジラ博物館の面々が、モニターを眺めていた。そこには朝早くにも関わらず、大助もいた。
「いつの間にか、G1が伊豆諸島にまで………」
「所長、これじゃあ予定よりも早く東京に行きますよ!」
「昨晩中に避難勧告がされたが、間に合うかどうか………。こっちはもう通過したみたいだが、台風がまもなく関東を直撃する。恐らく、かつて無いほどに厳しい戦いを強いられるだろう。三神君達が、無事にここに戻ってこれればいいが………」
「所長、この数値って、おおとじゃないですか?」
 大助は覚えたての数値を見て言った。
「あぁ。そうだよ。………戦いが始まるのか」


2005年9月22日9時20分。
「武田艦長!G1を確認しました!」
 水測士が武田海将補に報告する。
「わかった。………赤川、蒼井、結城、土方。準備はいいな?」
『えぇ。準備万端です』
『俺もいいですよ』
『腕がなりますよ』
『私も大丈夫です』
 四人の言葉を聞き、ゆっくりと武田海将補は目を開き、言った。
「ガルーラ、全機出撃!」
『『『『了解!』』』』
 そして、艦内にガルーラが出撃する音が響く。
「………よし、魚雷発射!進行を止めるぞ!」
「魚雷発射!」
「魚雷発射!」
………爆!爆!
 嵐の海で、G1とおおとの戦いの火蓋は切って落とされた。


2005年9月22日9時25分。
「なんだ?………機体が安定しない!」
 蒼井は操縦桿を操りながら叫んだ。
『無駄に叫ぶな!操縦に集中できない。………ただでさえ高度な操縦テクが必要な癖のあるガルーラに、この台風の風………普通に考えたら自殺行為だな』
 赤川は荒れる波と風、そして大粒の雨によって最悪に近い視界に苦戦しながら言う。
「おおとも安定していないな。それよりも他の防衛艦か」
 この出撃には、おおとの他に横須賀の第一護衛隊群より、可能な限りの艦隊が出撃されている。この光景は圧巻の一言だ。
 大戦時でも用意出来ないのではないだろうかという艦隊群を前に、ゴジラの影は悠然と突き進む。
『逆に出撃艦が多すぎて、攻撃がまとまらない』
『それ以上に、この数を前に潜水する事なく、東京湾を目指して突き進むG1が凄いな』
「これじゃあ、思うように攻撃出来ないぞ」


2005年9月22日10時10分。
爆!爆!爆!爆!爆!
爆!爆!爆!爆!爆!
グオォォォォーーーォン!
 ゴジラは荒れ狂う波を突き進み、その咆哮を響き渡らせる。その咆哮は、激しく打ち付ける雨音の中からも十分に響く。
 そして、艦隊は同時にミサイルをゴジラに浴びせる。
爆!爆!爆!爆!爆!爆!爆!爆!爆!爆!爆!爆!爆!爆!爆!爆!爆!爆!爆!爆!
グオォォォォーーーォン!
 ミサイルの雨によって、海はより激しさを増す。
 ゴジラは咆哮を再び上げ、海中に潜る。
 今度は魚雷がゴジラを襲う。
爆!爆!爆!爆!爆!爆!爆!爆!爆!爆!爆!爆!爆!爆!
 しかし、ゴジラはその攻撃をもろともせず、一つの艦を襲う。ゴジラの背鰭は発光をしている。
斬!
 見事に背鰭斬りが艦を襲う。その腕を上げたのか、『BARN SWALLOW』に空けられた傷に比べ、遥かに鋭く、確実にその傷は伸びていた。
グオォォォォーーーォン!
 ゴジラの咆哮が再び、相模灘に響き渡り、その咆哮のまま、放射能火炎が隣接していた艦を襲う。
爆爆爆爆爆!
 その熱は、対策のなされていない通常の艦にはあまりに強力であった。放射線は艦内の弾薬を、人を、計器を襲い、一瞬の内に炎と引火による爆発に包まれる。
 そして、転覆した最初の艦は、そのまま止まらずに別の艦に激突!沈没しだす。
 更に、放射能火炎を出そうと息を吸う。
爆!爆!爆!爆!爆!
 その隙を突き、ミサイルの雨がゴジラを襲う。しかし、ミサイルの束の第二波の前に、ゴジラは放射能火炎が混ざったパワーブレスを放つ!
爆爆爆爆!
 一撃で、ミサイル群は空中で爆発した。その爆風は雨粒を吹き飛ばし、球状の絵を残す。
 更にその爆炎に包まれた破片は、下にあった艦を襲い、また一つ艦が墜ちた。
グオォォォォーーーォン!
 その激しい戦場では、ガルーラもおおともなす術がなかった。


2005年9月22日11時過ぎ。
 都内の台場が入院する病院の病室に優がやってきた。
 髪も服もビショビショに濡れている。どうやら傘も差さずに走ってきたらしい。
「せ、先生。大丈夫ですか?」
 驚く台場を無視して、優は後から来る看護士に指示を出す。
「至急、転院よ。急がないと、台風でヘリが飛ばせなくなるの!」
「わ、わかりました」
「優!ヘリが着いたぞ!………ついでに、上陸まで時間がある内に陸自の車に都内の病院の可能な限り、搬送の手伝いをしてもらうように、手配してもらった!」
「………やるわね」
「はん!こういう時にこそ、最終兵器という錦の御旗を利用しなきゃね!」
 三神は笑って言った。
「搬送時に特別なものが必要ない方は、大戸島の時にも手伝ってくれた災害ボランティアの人たちが片道の避難のみで一緒に連れてってくれるらしい」
「これからゴジラが来るっていう以上、ボランティアセンター立ち上げたり、往復してもらう………って訳には行かないわね」
「贅沢はいえないよ。………さっ!台場さん、ヘリが待ってます!」
 三神は台場と優を促す。そして、三神は反対の方向へ向かう。
「あれ、三神さんは行かないのですか?」
「彼は、まだ回る所があるのよ。さぁ、行きましょう」


2005年9月22日11時30分。
 避難に渋滞する下りに対し、上りを進む三神の運転する車はガラガラの道を進む。
 そして、日本家屋の前でその車を停車した。
「あなたは?」
「三神小五郎です。海外に行きました迷さんに頼まれて、来ました。山根恵美子さんですね?」
 日本家屋から出てきた恵美子氏に三神は言った。
 海外へと旅立った後、三神に届いた迷の手紙には、恵美子氏の避難の手伝いを頼みたいという内容であった。
「あなたが………。ありがとうございます。もう荷物は風呂敷にまとめております」
「では、行きましょう!」
 三神は、恵美子氏から受け取った風呂敷を持ち、暴風雨の中、トランクにしまった。トランクには、風呂敷のほかには、アタッシュケースが入っていた。
 想像絶する暴風雨で、これだけの作業を終え、シートベルトを締める時には既に全身がビショビショになっていた。
「もう直ぐ、東京はその首都機能を失いますね」
 車を運転し、指定された場所に車を走らせる中、恵美子氏は三神に言った。
「そうですね。………ただし、自分はその様な事はさせません」
「お願いしますね。かつて、芹沢博士は究極の選択を強いられました。迷さんから聞いておられると思いますが、あの元々の原因は私。あなたは、芹沢博士とは違います。決して、あの選択はしないで下さい。………必ず、悲しむ人が、苦しむ人がいるのですから」
「………わかりました」
 既に、渋滞どころか、人気がなくなりつつある都内を、三神は進む。迷によると、事務所のある町の刑事が親友らしく、そこ以降は彼の手で、恵美子氏の甥達のいるところへ連れて行く手筈になっているそうだ。
 避難勧告が出されて、まだ半日経ったかどうかという時間だ。この程度の時間で、たとえ予め決めていたとはいえ、遥か遠い海外の地からこれほど完全な手配が出来る迷探貞という人物の凄さに、運転をしながら、三神はただ関心するばかりであった。


2005年9月22日12時30分。
 既にゴジラは、艦隊の7割以上を戦闘不能にし、更に浦賀水道を進んでいた。
 語弊があるかもしれないが、数が減った為、おおとやガルーラは本来の戦力を出せるようになった。
「G1を何が何でも上陸させるな!二連式大型ニードル砲発射!」
 武田海将補は、遂に大型ニードル砲の発射命令を出した。
………刺刺!
 大型ニードル砲は、見事にゴジラの体を突き刺した。白く荒れる海が赤に染まる。
 しかし、先の戦いで受け方を覚えたのか、ダメージをあまり受けていない。しかも、その移動速度は、浦賀水道に入ってから、台風の波の影響からか速くなっている。
「き、効いていない………」
 武田海将補はショックを受ける。しかし、ゴジラはこのままでは14時には上陸を果たしてしまうだろう。避難が完了していない現状では、少しでもゴジラを足止めしなければならない。しかも、進路を横須賀、横浜、木更津に変えてしまえば、ものの10分で上陸を果たしてしまうであろう。
「…………機能整備は完全だな。ショックアンカー発射!及び、再度大型ニードル砲を発射!………ガルーラはニードルで攻撃しろ!」
『冷凍光線はまだですか?』
「蒼井、冷凍兵器は上陸をしてしまった最悪の事態のみだ。海上での使用は危険だ」
『了解』
「ショックアンカー発射!」
「ショックアンカー発射!」
 おおとはショックアンカーを放った。そして、海中を突き進むゴジラを捉えた!刹那、電撃が襲う!
「大型ニードル砲発射!」
「大型ニードル砲発射!」
刺刺!
グオォォォォーーーォン!
 ゴジラの悲鳴が嵐の浦賀水道………東京湾沖に響き渡る。更に、ガルーラのニードルと艦隊の残り少ないミサイルと魚雷が追い討ちをかける。
刺!刺!刺!刺!
爆!爆!爆!爆!爆!爆!爆!爆!爆!爆!
 あまりの水しぶきで、ゴジラの姿が消える。
「G1の体力ももう限界に近い。一気に叩き込むぞ!」
 武田海将補が言った。
「大変です!」
 水測士が血相をかいて声を上げる。
「どうした?」
「…………G1の体温急上昇。放射性物質を溜めています。こ、これは………N-バメーストです」
「まさか。………まさか、このタイミングで!」
 武田海将補、いやその場にいる全ての者が、嵐と水しぶきで姿を隠したゴジラに恐怖していた。
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