ゴジラ団
2005年7月20日18時20分。
「い、一体。一体どうして、ここに辿り着いた?」
八神はグリーンに聞いた。
「団長、映画じゃ人質の持ち物をぶっ壊すのは基本ダゼ?」
「ま、まさか!」
グリーンに言われ、八神は机に置かれた三神の荷物を見た。
「俺が三神にあげた腕時計には、発信機が入っていてネ。実は最初からココの場所はわかっていたんダ」
「うっそだろ!」
一番驚いたのは三神であった。
「マァ、この三神ってやつはしょっちゅうあちこちに行くから、岩戸島からこんな所まで移動していても拉致の情報が入るまで不思議じゃなかったんダ。それから優と会った後、三神と同時に行方不明になったムファサ、迷と神谷という名探偵がゴジラ団ではないかを調べた。優から団長が八神宗次という男で、第二四昂丸事故の被害者であると聞いた。それで、所長から借りた事故の関係者リストから調べた結果、ムファサの父親が被害者と判明して、一先ず一人確定。そして、神谷という男は10月末にニューヨークへ渡った事はこっちの出入国調査ですぐにわかった。更に、先日クルーズが復興中のニューヨークでゴジラ出現前後のゴジラ団の動向の調査を依頼していたトゥルース・テリー探偵からの報告を聞いた時に、団長が事前にゴジラ団の元を持っており、その拠点が日本であり、団長の他にアフリカ系の副団長という男がいる事がわかった。それで、ムファサが副団長、神谷が八神宗次団長であると判明。迷はゴジラ団とは関係ないと結論付けた。後、あんたらの裏にいる神宮寺薫官房長官だが、この倉庫を使ったのがまずかったナ。この倉庫の管理を辿ったら、神宮寺に辿り着いた。しかも、第二四昂丸事故の関係者で、汚職容疑事件で神谷と接点がはっきりしているどころか、三神耕助の捜索依頼を堂々と神谷にしている。ココに来るのが遅れたのは、そっちを片付けていたからダ」
グリーンは一気に話す。
「じゃあ、神宮寺は?」
八神は汗を滲ませながら、グリーンに聞いた。
「今頃護送されているナ。ちなみに、俺がココへ突入した時に、マスコミに神宮寺逮捕の情報は流されたから、今緊急生放送されているんじゃないカ?」
「ら、乱暴ナ」
ムファサはグリーンに抗議する。
「ふん!お前らが言う台詞か!そんでもって、神宮寺の証言と八神、ムファサ、副々団長の動向からゴジラ団のアジトの位置を確定させて、一斉検挙している所だ。日本の警察や自衛隊は優秀だな。こうしている今も続々と国内のアジトは検挙されている。更に、国外のアジトも赤い竹残党が暴れてくれて簡単に場所がわれ、一気に検挙されているらしい。こりゃ明日までもたないナ。………あ、耳に入れたイヤホンから情報が入っているんダ」
グリーンは補足とでも言うのか、解説する。
「くそぉ!」
八神が動き、拳銃を抜く!
弾!
刹那、八神の拳銃を銃弾が弾く。撃ったのは、グリーンだ。
「早っ!」
三神はとっさにつっこむ。
「無駄に7ヶ月も厳しい訓練をしてはいないサ」
グリーンは笑った。
その時、ムファサが走った。
「あ!待て!」
グリーンが叫ぶが、八神から銃口を移す訳には行かない。
ムファサは走りながら、拳銃を引き抜き、笑いながら、グリーン達へ狙いを定める。
「死ネェェ!」
弾!
ムファサの胸から血が噴き出す。そして、グリーンの破った窓から照明が灯る。
そして、逆光の中からブラボーが現れた。煙を上げる片手にはライフルがある。
「………ォ、オ前ケェ…………」
振り向いて、ブラボーを見て言いながら、ムファサは倒れ、絶命した。
「ム、ムファサ!………チェックメイトか」
八神はその場にしゃがみ、投降した。2005年7月20日18時30分、ゴジラ団団長・八神宗次(神谷想治)確保。
2005年7月20日19時。
三神と迷は倉庫から出た。ムファサの死体が運ばれた。
「大丈夫だった?」
その声に三神が振り返ると、そこには優と蒼井がいた。
「優!蒼井一佐!」
「この場所に呼ばれたんだが、どうやら彼ら二人で十分だったみたいだな」
蒼井は笑って、グリーンとブラボーを見て言った。
「いや、先日のガルーラの操縦テクニックを知っているゼ。あなたも十分スゴい」
グリーンは蒼井に言った。
「流石はスパイだな。情報は筒抜けだ」
蒼井は笑った。三神もそうであるが、どうやら蒼井とはうまが合うらしい。
「グリーン、これでゴジラ団は?」
三神はグリーンに聞いた。グリーンは頷いて言った。
「あぁ。長かったが、これでゴジラ団は終わりだ」
その時、厳重に拘束された八神が護送の為に、車に向かって歩いていく。そして、三神達の方を振り向いて、捨て台詞を吐いた。
「だが、俺があの事故で見たのは間違いなくゴジラだ!我々は敗れたが、本当の脅威は向こうの方からやってくる!覚悟しておくがいい!」
2005年7月27日昼。
大戸島にも落ち着きが戻り始めた。そしてこの日、雄一の葬式が執り行われていた。
「俺達はこの命の重さを忘れてはいけない」
グリーンは、焼香を終えて入り江で一人座っていた三神に話し掛けた。
「グリーン。………焼香してやったか?」
「アァ。初めてだったから、正しかったかはわからないが」
「大切なのは心だよ。グリーンなら、わかるだろ?」
「人の命を奪う権利を与えられた人間でも、俺には中々それが捨てられず苦悩するが」
「それでいいんだよ。グリーンらしいから」
三神は軽く微笑みを浮かべて言った。そこへ蒼井がやって来た。
「戦艦おおとの修理と強化、ガルーラの完成が決定した。三神指導官も今回の事で本当に決心がついたのか、冷凍兵器の開発に着手した」
蒼井は二人に伝えた。
「そうか。………五人になったんだよな?パイロット」
三神は確認した。しかし、蒼井は首を横に振った。
「いや、四人だ。台場は昨日退役する事になって、自衛隊を去った。放射能症が残って、自衛隊の任をする事が出来なくなった。この辺は俺よりも鬼瓦先生の方が詳しいだろう。ガルーラやおおとの更なる改良も、パイロットを放射能火炎から守れなかった事が関係しているんだろう」
蒼井は言う。その顔は酷くやつれている。
「蒼井一佐、少しは休んだ方がいい。ゴジラもしばらくは現れないと思います。それに、もうあなた方だけに苦悩はさせません!」
三神は言った。
「え?」
「オイ、それってまさか!」
蒼井とグリーンは三神を見た。三神は頷いて、言った。
「DO-Mでオキシジェン・デストロイヤーを造り、ゴジラを倒す」
そう言う三神の目は、揺るぎない決意を宿していた。
2005年7月29日昼。
三神、グリーン、優、迷の四人は、都内にある信用金庫を訪ねていた。
「意外に現代的な所に隠していたのね?」
優は少し関心した様に言った。
「始めはどこか山奥や無人島の神社にでも隠そうと思ってたんだけど、時間が無くてね。それに、この金庫は頼めば冷凍保管もしてくれるから、DO-M2も安心して預けられたんだ」
三神は笑って答えた。
そして、案内され、冷凍保管されていた貸し金庫から、DO-M2のスターターであるシャーレを取り出した。
「本当に、いいんだナ?」
グリーンは三神に確認する。
「あぁ。もう悲劇は繰り返さない。ただし、造るのは一つのみだ。もう人類がこれ以上のゴジラを生ませる気は僕にはない。………そういう意味ではやはり団長と僕は似ているのかもしれないな」
三神はシャーレをしまいながら、言った。皆、何も言えなかった。
2005年7月30日朝。
迷探貞は、山根恵美子の家にいた。
「………以上が私の調査の結果です」
迷は全ての結果を報告していた。机の上には、例のガラス瓶と手紙、そして南京錠と鍵があった。
「ありがとうございました。………確かに、芹沢博士とお父様が残されたオキシジェン・デストロイヤーはゴジラを倒す為に使われませんでした。しかし、ゴジラのN-バメーストの被害を浄化したならば、私は決して無駄になったとは思いません。それに、三神博士という方ならば、芹沢博士と同じように、オキシジェン・デストロイヤーを正しく使ってくれるでしょう。本当に、ありがとうございました」
恵美子氏は深々と頭を下げた。
「お顔を上げてください。私は依頼を果たしたまでです。それに、これからは彼らの事です」
「では、あなたは?」
恵美子氏は迷に聞く。迷は答える。
「私は、次の依頼に向かいます。海外で長期の依頼なもので、この結末を日本で見る事は出来ませんが、彼らに私は日本を託す所存です」
「そうですか。お気をつけて」
そして、迷は恵美子氏の家を後にした。こうしてオキシジェン・デストロイヤー発見、ゴジラ団壊滅という偉業を成し遂げた日本一の名探偵は、やがて日本を後にした。