ゴジラ団



2005年7月20日12時30分頃。
「神谷さん。………神谷さん、あなたがゴジラ団団長、八神宗次ですね?」
 迷は団長に言った。三神が驚く中、神谷は振り向かず、再び歩き出した。
「待て!」
 迷は強い口調で言った。しかし、神谷は止まらない。
「待つんだ!」
 迷はより強い口調で言った。そして、神谷を引きとめようとする。
「離せ!」
 神谷は迷を突き飛ばした。突き飛ばされた迷は三神にぶつかり、二人とも倒れた。
 それを確認すると、神谷は早歩きでその場を後にした。
「いたたたた………。迷さん、神谷が団長って………」
 三神は体を起こしながら、迷に聞いた。
「本当の事です。………詳しい事は後にして、早く彼を捕まえましょう!」
 迷は立ち上がると、足をさすりながら言った。どうやら倒れた時に足をぶつけたらしい。
「は、はい」
 三神は迷の推理が納得出来ないでいるが、迷を突き飛ばした事は事実として、一先ず神谷を捕まえる為に後を追った。
「あ、迷さん」
「私はいいです。………早く彼を」
 神谷を追おうとした三神は、足を引きずる迷を気にして振り返った。一瞬躊躇しつつも、それなりの速度で歩みを進める迷を確認して、三神は神谷の後を追う事にした。


2005年7月20日12時40分頃。
 三神は洞窟の入り口に出た。岩戸島の入り江にある船へ神谷は歩いていた。
「神谷さん!どういうことですか!」
 三神は岩場から入り江に降りながら、神谷に叫んだ。
「迷探貞の方が俺よりも名探偵だったって事だろ」
 神谷は、岩場をもたつきながら降りる三神に振り返って言った。
「えっ!……それは………」
 三神は神谷の自白とも取れる言葉に呆然としている時、入り江に一隻のモーターボートが近づいてきた。
ブロロロロロ…………
 そこに乗っているのは、紛れもなくムファサであった。様子を見にやって来たのかもしれない。
 ムファサが入り江にボートを止めようとしている間に、三神は岩場を下りた。
「ムファサ!」
 三神はボートから降りようとするムファサを呼んだ。
 事情の知らないムファサはノンキに手を振る。そこへ、神谷は近づいていく。
「ムファサ!神谷を捕まえろ!彼は団長だ!」
 三神は慌てて、叫びながら走りにくい入り江の砂浜を走る。
 その時、後方から叫び声が聞こえた。
「三神さん!行ってはダメだ!」
 迷だった。
「えっ?」
 三神がその声に反応し、立ち止まった時はもう遅かった。三神はボートと10メートルと離れておらず、そしてムファサのいるボートまで達した神谷は、信じられない事にムファサから拳銃を手渡され、三神に照準を向けたのだ。
「ソウダ。こいつは団長ダ。そんで、オラが副団長ダ」
 ムファサはそう言うと、自らも拳銃を迷に向けて構えたのだった。
「そんな………ムファサが……副団長………」
 三神はただ神谷の指示通り、両手を上げるしか出来なかった。
「着てもらうぜ。あんたらとは色々とお話がしたいんだ」
 神谷は拳銃を構えて、三神に向けたまま三神に囁くと、ヨーロッパの時同様、三神を殴り、気絶させた。
 2005年7月20日13時(推定)。三神小五郎と迷探貞、拉致。


2005年7月20日15時40分頃。
 大戸島の国立大戸ゴジラ博物館の前で、優が座って海を眺めていた。
 三神達三人から未だに連絡が来ず。更に何故かムファサまでも行方不明となっていた。
 そして、そこへ蒼井と白井と所長が車でやってきた。
 ゴジラ撃退後、蒼井は台場がゴジラの放射能火炎によって、放射能症になっている事が判明し、優に治療を求めて大戸島へ来た。幸い優の対処によって、命に別状はなかった。そこで、優から岩戸島へ向かった三人が未だ帰って来ない事を知り、海上保安庁等に捜索を要請したのだ。
 そして、優は立ち上がり、車から降りた三人のもとへと歩み寄る。
「どうでしたか?」
 優は三人に聞いた。
「………岩戸島を捜索した結果、争った形式と他の船が停まった形跡が確認されたそうです」
「それから、岩戸島近海の溶存酸素量がゼロ状態で、先日のN-バメーストによる残留放射能がなくなっており、更にバイオマスも無生物と言っていい状態になっていた。………オキシジェン・デストロイヤーが使用されたと考えて間違えないと結論付けられた」
 蒼井と所長は優に言った。そして、白井は優に自衛隊や海上保安庁が出した結論を伝えた。
「状況から見て、彼らは拉致されたと判断するのが妥当でしょう。恐らく、ゴジラ団に」
「そ、そんな………」
 優はその事実を聞き、衝撃で立ち尽くしていた。
 その時、四人のもとへ近づく足音があった。おもむろに、優はその足音を出していた人物を見た。
 そして、優はその人物を見て、ハッとした。
「な、………なんで?」
 優はただ驚くばかりであった。


2005年7月20日17時。
 拉致された三神は目が覚めた。そこはどこかの倉庫であった。
 そして、自分の状況を確認する。手がイスと共に縛られている。そして、目の前の机に三神の腕時計が置かれており、現在の時刻が判明した。
 隣には、三神と同様にイスに縛られた迷がいた。
「迷さん!迷さん!」
「………う、ここは?」
 意識を取り戻した迷は状況を確認しながら、三神に聞いた。
「わかりません」
「ゴジラ団のアジトダ」
「気がついたか?」
 そこへムファサと神谷がやって来た。
「お前ら…………よくも騙したな!」
 三神は叫んだ。
「ふん。もう少し推理力と行動力があれば、我々の正体に気がつけただろうに。………残念だったな!………まぁ、そこの名探偵さんは既に気付けていた様だがな」
 神谷………いや、ゴジラ団団長・八神宗次は、神谷の時の雰囲気とは違い、知的で挑戦的かつ威厳に満ちたトップに立つ男のそれとなっていた。更に、無精髭も剃ったらしく、より印象から違うものとなっていた。
「た、確かに………」
 三神は大戸島や岩戸島での迷の言動を思い出して言った。
「………すみません。岩戸島でオキシジェン・デストロイヤーを確保して、神谷の尻尾を掴み次第、二人で彼を捕まえるつもりでしたが………全てが遅れた上に、彼らに一手二手先を打たれてしまいしました。私の完敗です」
 迷は頭を下げた。
「名探偵もゴジラ団の前では雑魚だナ」
「迷さん、頭を上げて下さい。………ムファサ、てめぇ日本語上手じゃねぇか」
 三神はムファサを睨んで言った。ムファサもまた、いつものひょうきんなキャラではなく、ゴジラ団ナンバー2の持つであろう雰囲気と口調になっていた。
「これが本当のムファサ・ムーランダ。………アッ、大学時代は本当にアアだっただけダ」
「………キャラを誇張しすぎだよ」
 三神はムファサに言った。ムファサは鼻で笑った。
「さて、迷名探偵!時間はたっぷりある。今後の我々の反省をさせてくれ、どうやって俺達の正体を掴んだ?」
 八神は迷に詰め寄り、話し掛けた。迷はゆっくりと推理を語り始めた。
「まずは、神谷さん。団長が八神宗次というかつて第二四昂丸事故という謎の海難事故の生存者であり、その犯人である二匹目のゴジラを、日本を始めとする世界中の政府が隠したと考えた青年であると推理し、そこからあなたへ辿り着きました。細かい過程としては、当時の事故調査の指導に神宮寺官房長の名があった事や、その神宮寺氏の汚職容疑事件の際にあなたが現れ、神宮寺氏の容疑を晴らした。そして、最近三神さんに接触した人物を調たり、八神宗次という戸籍が一度も動かされていない事から他の名を使っている可能性から、突然現れた神谷想治という人物を調べて、あなたが限りなく八神宗次であると確信した訳です。そして、切り札は昨年ヨーロッパにゴジラが出現した際に副々団長に飯田橋駅で電話をした事実と、あなたがその日御茶ノ水駅でひったくり犯を捕らえている。どうやらあなたは身分を明かさない為に、すぐにその場を去っていますが、届け出た方に話を聞いてみたところ、あなたの特徴と一致し、更に飯田橋駅からあなたが乗った事を証言して頂きました。状況証拠では以上です。最後は最強の状況証拠である、現場逮捕を狙い、今日に至った訳です」
「なるほどな。確かに、俺は八神宗次、ゴジラ団の団長だ。全く、日本一の名探偵は恐ろしいな。………という事は、ムファサが副団長であるという事は、1月にムファサが日本を旅している時に俺と接触した為だな?」
 八神は迷に聞く。迷は頷いて、再び話し始めた。
「そうです。私はあなたの行動を過去へ遡って調査する中で、ムファサさんとあなたが接触していた事実に行き着きました。後は、大学時代のムファサさんの事や、帰国後から現在までの事を色々調べてみた所、なんとなくですが、ゴジラ団の形成の過程が見えてきまして、ムファサさんは当初の予想を超えて、ナンバー2の副団長ではないかと考えるようになりました。そうなれば、ムファサさんとあなたには決定的な共通点がある筈です。三神さん、ゴジラ団の原点は?」
「…………え?あ、あの第二四昂丸事故ですよね?」
 三神は突然の迷のフリに動揺しつつも答えた。
「えぇ。そして、その船にはここにいる団長の八神宗次が乗り、他には外国人の乗組員が二人いたそうです。では、三神さん。この情報からムファサさんや副々団長をどうこの八神と繋げますか?」
「え?………難しい。けど、それって、もしかしてその外国人がそれぞれムファサや副々団長と関係がある人物という事ではないですか?」
「ご名答!この位の確認ならば、身元のわからない副々団長は兎も角、ムファサさんに関しては、簡単に成功しました。それから、一寸三神さんの名前を借りました」
「へ?」
「三神さんの名前で大学へ連絡し、彼の父親の事を聞かせてもらったんです。案の定、彼の父親は死亡しており、調査の結果、第二四昂丸事故の被害者でした」
「………大した能力だ」
 八神は脱帽した様に言った。
「更に、この際ですから全部話しますね。あなた方は、1999年にムファサさんが日本へ留学している時に何らかの形で出会った。当時はまさに名探偵神谷想治の全盛期。この時から、あなた方はゴジラ団となった。………もちろん、この名はニューヨークにゴジラが出現するまでは伏せられていましたがね。そして、当時既に表立った繋がりを例の事件で作った神宮寺薫がスポンサー………いや、この巧妙なゴジラ団の黒幕となって、時が来るまでの準備をしていた。あなたと神宮寺、この二人がいるとなれば、今まで存在してきた様々な秘密結社や宗教団体、更には国家やテロ組織の歴史を研究し、完璧に警察やスパイの目から隠れて拡大していく事が出来たでしょうね」
「くっ、まさか神宮寺まで辿り着いていたか。そうだ。その通り、ムファサと俺は1999年に神宮寺が建てた事故の慰霊碑に行った時、出会った。そして、あんたの言うとおり、前々から連絡を取り、更に汚職容疑事件で表だって交流をもった神宮寺と俺が基盤となり、副々団長を探し出し、それからはどこの組織とも同じだ。唯一違う事はゴジラ出現までは水面下で活動し、ムファサと神宮寺の情報から2004年の冬にゴジラがニューヨークに出現すると確信し、俺はアメリカへ渡り、ゴジラ団は本格的に活動を開始した」
「………9月の海難事故。グリーンが僕と出会うきっかけになった事故か」
 三神は言った。八神は頷いた。
「あぁ。我々はゴジラの出現を待ち続けた。そんな我々がスパイより先に動けるのは当然だ」
「なるほど」
 迷は頷いた。
「…………さて、今度はあんたの秘密だ」
 八神は三神を睨みながら言った。
「………何をだ!」
 三神は動揺しながらもシラをきる。
「迷、あんたならば、なぜ我々がお前達を生かしているかわかるはずだ」
 八神は迷を見て言った。
「私達を自らの正体を明かすリスクを犯してまで、生かして拉致したという事は、恐らく事実関係を見る限り、三神さんがあなた方の何らかの重要な鍵を握っている。そして、その為に私は人質として拉致をした。そうですね?」
「あぁ。更に言うと、こいつの握る鍵は恐らく平成………いや、21世紀最大の秘密だ。そんな秘密を明かす為の頭脳としても、名探偵のあなたは生かすことにした。しかも、今さっきの動揺、もうこいつは謎解きの場に上げられた犯人と同じだ」
 八神は三神を睨む。迷も黙って、三神を見た。
「僕が鍵を握っている、21世紀最大の秘密………だと?」
「あぁ。………20世紀の秘密が、最後のオキシジェン・デストロイヤーを隠した芹沢博士と山根博士の行為ならば、お前も同じだ。いや、同じ事をしたと言うべきか?」
 生唾を飲み込む三神をよそに、八神は続ける。
「お前は2年半前、自らが発見、研究していた微生物───DO-Mの真実に気が付いた。しかし、その恐ろしい事実を知ったのは、赤い竹が仕組んだ惨事の後であった。だから、お前はその真実を隠した」
「………なるほど。そういう事ですか」
 迷は八神の言いたい事がわかったのか頷いた。
「ほう。流石は日本一の名探偵だな?わかったか?」
「えぇ。三神さんはオキシジェン・デストロイヤーを山根博士が芹沢博士に頼まれて隠した事をほとんど確信していた。まるで、自分が隠したかの様に」
 迷は言った。八神も納得した様で、三神に自らの推理を語り始めた。
「どうやら、年貢の納め時の様だぜ?………まぁ、黙っているならいい。俺の推理を聞いてもらう。2002年、三神は鬼瓦優と結婚した。その頃、赤い竹がDO-Mの持つ特性、水分から水素を発生させる事、さしずめ裏の正体と言ったところか。その裏の正体に目をつけた赤い竹はDO-M1を盗み出し、事故を仕掛けた。そして、もう一つの出来事が三神に起きていた。DO-Mの研究の中で、もう一つの個体………この場合DO-M2とするが、それを発見した。このDO-M2は、完全な個体であった。そして、事故後、残り少ない研究時間で三神はDO-M2の真の正体に辿り着いた。………まだ黙っているか?」
「…………」
 三神は無言だ。八神はそれが答えとして、先を言った。
「DO-M、DO現象を起こす水中放射能浄化細菌の真の正体は………『オキシジェン・デストロイヤー生成細菌』だ!」
 それから八神が話した推理は、三神が2年半秘密にしていた真実であった。
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