最終兵器



2005年7月18日10時45分。
グオォォォォーーーォン!
 国立大戸ゴジラ博物館から、トラックで広場にとまっている二本の羽があり、某有名特撮怪獣映画でも登場した輸送用ヘリ、チヌークまで荷物を往復で運んでいた優や所長達の耳に、あの咆哮が届いた。
 それから、しばらくして地響きと足音が聞えてきた。
「ついに上陸したわね。所長さん、早く最後の荷物を!」
 優はトラックを国立大戸ゴジラ博物館の前に止めた所長に言い、トラックから降りた。
 そして、入り口に待っていた敷島、ムファサ、土井の三人にトラックの積み込みを任せ、二人は博物館内を走った。そして、国立放射性生物研究センターに入り、優は研究室の三神の荷物を見た。
「やっぱり…………!……バカ」
 優は、三神の引き出しからDO-Mの隠し資料の入ったケースを取り出した。そして、その中に優のもつ物と同じ結婚指輪が入っている事に気付き、呟いた。
 そして、カバンに確りとケースをしまうと、優は頬を伝う液体を拭うと、所長のところへ向かった。
「所、所長!何をしてんですか」
 優は驚いた。所長はあの巨大な電子顕微鏡を抱え出そうとしていたのだ。
「か、火事場の馬鹿力というだろ………それで!」
「無茶言ってないで下さいよ!学者なんですから非科学的な事を言わないで下さい!」
 優は所長を電子顕微鏡から引き離そうとする。
「いや!火事場の馬鹿力の理論は、以前人間科学的に証明された説がある!」
「じゃあ!医学的にこんなものを持ち上げたら、足腰に怪我をします!………誰かぁ!」
 優は叫んだ。
 そして、敷島達三人が駆けつけてきて、無理やり所長を引き離し、紐で縛り、運び出し、車に突っ込んだ!
「ふぁんふぇふぉふぉふぉふふんふぁ!」
 どうやら、なんて事をするんだ、と言っているらしい。しかし、皆そんな主張は完全に無視をしてトラックと軽自動車を出発させた。
 依然として、地響きと足音、そしてガルーラの轟音を聞きながら、一行は国立大戸ゴジラ博物館から離れていった。


2005年7月18日10時45分頃。
 広場には三機のチヌークが離陸準備を始めていた。
 そして、そこに国立大戸ゴジラ博物館に向かった人以外の役場の面々が来た。
「大丈夫です。まだ離陸しませんよ。さぁ、早く中へ!」
 血相をかいている役場の人達に隊員は促すが、役場の人達はその手を振り解いた。
「出発してはいけない!」
「島の子供達がまだどこかに残っているんです!」
「なんだって!わかりました!………その子達は?」
「俺の息子、大助に雄一君だ!」
 隊員に聞かれ、大助の父親は答えた。
 そして、その連絡はすぐに所長やおおとに乗る武田海将補達にも伝えられた。


2005年7月18日10時50分頃。
 ゴジラは大戸島の入り江から丘に向かって進んでいた。それは、50年前、ゴジラが人類に初めて目撃されたあの場所であった。
 六機のガルーラの残り弾数も燃料もほとんど底をついていた。
 ゴジラの足が農家の小屋を踏み潰す。そして、付近の家畜達が一斉に柵を破り逃げた。
 ゴジラの尻尾が畑を潰す。
 そして、赤川機、近藤機、土方機がミサイルを同時に放つ。
爆!爆!爆!
グオォォォォーーーォン!
 ミサイルを受けて、ゴジラが咆哮する。丘に生える木々が爆風に揺れる。そして、その木の葉にゴジラの赤黒い血飛沫がかかった。
『赤川特佐!ミサイルが尽きました』
『私も同様です』
 近藤と土方が報告する。赤川も残り一発となった。
 そして、ゴジラは丘を横に進み、呉爾羅神社付近の森を突き進む。ゴジラの足が木々をなぎ倒す。ゴジラの尾が丘の岩を砕く。
 ゴジラは近藤機を睨みつける。そして、背鰭が怪しく光りだし、放射能火炎が放たれる。
『うわぁっ!』
 近藤は声を上げ、放射能火炎を回避する。淡く青白い光の柱の様で煙の様な放射能火炎は近藤機をかすめ、丘の木々を燃やす。
弾!弾!
 ゴジラにカドミウム弾が当たり、放射能火炎は止む。そして、そのカドミウム弾を撃った相手を睨む。青い線の入ったガルーダであった。
『わしの最後のカドミウム弾じゃぞ!』
 耕助は笑って、ゴジラの周りを旋回する。ゴジラは尾を振るう!
 しかし、耕助機はゴジラをあざ笑うかの様に、ゴジラの尾をすれすれで交わす。
 耕助機がゴジラを翻弄しつつも、ゴジラは確実に島を荒らしていた。
既にゴジラは、島の対岸に近づいていた。そこは、つまり国立大戸ゴジラ博物館のある丘の反対側である。
 そして、ゴジラがゆっくりと国立大戸ゴジラ博物館に迫ってきた!


2005年7月18日11時頃。
「うわぁぁぁ!やめろぉぉぉ!」
 所長はみんなにおさえつけられながら、涙を流して叫んでいた。
「所長!そんな場合ですか!早く、大助君達を見つけなきゃ!」
 優達は所長を道路に押さえつけながら言った。そして、その前方では、ゴジラの巨大な足によって、今まさに国立放射性生物研究センターのあるエリアが破壊されていた。
 当然であるが、所長の大切な電子顕微鏡は、センター諸共完全に破壊された。
グオォォォォーーーォン!
 まるで所長をあざ笑うかの様に、ゴジラの咆哮が島を包んだ。
 そこへ空を裂く一筋の線………
刺!
 台場機から放たれたニードルであった。
 ゴジラの血が優達の所まで飛んできた。
 更に、変形したニードルの残骸が、国立大戸ゴジラ博物館の正面玄関付近に落下した。
 国立大戸ゴジラ博物館は半壊、そしてセンターは全壊。それが、結果であった。
 そして、ゴジラは被害の結果を増やしていた。家々や木々、道、あらゆる物を踏み潰し、飛び散る血液が辺りを赤黒く染め上げる。
 一方、先の放射能火炎から広がった炎は、丘を走り、住宅地へと近づいて来ていた。
「ここも、危ないな。早く見つけなければ!ほら、所長!いつまでしょげているんだ!」
 敷島は真っ白な灰となった所長を起こし、車に乗せた。
「ドコにインダ?ガキ達?」
「…………そ、そうね」
 珍しく心配をしている感を醸し出すムファサに驚きつつも、優は頷いて、車に乗り込んだ。


2005年7月18日11時過ぎ。
 島の子どもの大将である大助は友達の雄一の提案で、国立大戸ゴジラ博物館とチヌークのとまっている広場の真ん中に位置する公園に隠れていた。
「見たか?」
「ああ!あれがゴジラかよ!すげーな!足だけでセンターを壊しちまったよ!」
 大助が聞くと、雄一は興奮した様子で答える。
「だけど、本当にヘリが来たな!」
「当たり前だろ!俺はこの耳で、確りと大人達が博物館の人はヘリで最後に島を出るってさ!」
 雄一は笑って言った。三神が役場で感じた視線は雄一であったのだ。
「!」
 大助は青ざめた顔で口をパクパクとしていた。
「………どうした?…………うわぁぁぁぁ!」
 雄一は大助の視線を追った。そして、彼は気がついた。ゴジラが自分達のすぐ目の前に迫っていた事に!


2005年7月18日11時10分。
 優達は、雄一の悲鳴を耳にした。
「いたわ!こっちね!」
 優は完全に停止していない車から飛び降りると、声のした方、公園へ駆けつけた。
 公園を目前に、優の足が止まった。
グオォォォォーーーォン!
 ゴジラの咆哮が真上から、地響きと足音がほぼ真下からくる。
 ゴジラは公園を踏み荒らしていた。
爆!
刺!
 優の頭上を結城機から放たれたミサイルとニードルが通り過ぎ、ゴジラに命中し、爆風が優を襲う。
「きゃぁ!」
 優はその場に倒れこんだ。
 ニードルやミサイル片が、優の付近にある桜の木々へ血液と共に落下した。
「大丈夫か?」
 所長達が駆け寄ってくる。しかし、ゴジラの地響きから、思うように近づけない。
 しかし、ゴジラが公園から再び海の方へ向かって離れた事もあり、優の所まで駆けつける事が出来た。
「大丈夫カ?」
 ムファサが聞いた。
「えぇ。何とか、それよりも」
 言うが早いか、優は起き上がり、地響きと地割れした地面に足を取られつつも、公園へと向かった。
 そして、優は砂埃の舞う公園の中、大助と雄一を探した。
「………いた!」
 優は、ジャングルジムの中に倒れている大助と雄一を見つけ、走りよった。
「大丈夫?」
「いてぇ~」
 優が呼びかけると、大助がうめき声を上げた。これだけの声を上げられれば一安心である。
「雄一君?………雄一君!」
 一方、依然として意識を回復しない雄一の異変を察知した優は、大声で雄一を呼ぶ。しかし、雄一は目を覚まさない。
「おい!雄一!どこも血なんて出てないぞ!ほら、早く目を覚ませよ!」
「揺らさないで!」
 怯えた顔で雄一に呼びかける大助に、優は叫んだ。ビクンとする大助。しかし、優にはこの事の深刻さが理解出来ていた。
「見つかったかね?」
「大至急、ヘリから借りた担架と救護セットを!」
 駆けつけてきた所長に向かって、優は指示をした。


2005年7月18日11時25分。
 既に耕助機の残り弾数もわずかとなっていた。
 そして、結城機、台場機と共にニードルの一斉射撃をした。
刺刺刺刺!
グオォォォォーーーォン!
 ゴジラはうめき声のような咆哮を上げた。
『これで、我々三機のニードルは無くなりました。もうカドミウム弾も一発、ミサイルも一発です』
 台場は報告した。
『こちら結城、残りはカドミウム弾一発のみ』
「わしももう残りミサイル一発じゃ」
 更に赤川達からも連絡が入る。
『こちら赤川、ニードル、カドミウム弾、ミサイル、全て残り一発!』
『こちら土方、残りニードル一発です』
『こちら近藤、残りはニードル二発に、カドミウム弾が一発』
「よし!こうなれば、最後の悪あがきでG1を海へと連れて行くぞ!」
 そして、編成を一つに集約し、赤川機と台場機と耕助機がミサイルを撃った。
爆!爆!爆!
 ゴジラを引き付けることに成功した。それと同時に、耕助機はもう武器が無くなった。
 ゴジラの歩みが、三機の後を追う、順調に海へ誘導している。
 しかし、ゴジラの背鰭が妖しく光った。
「!………しまった!」
 耕助機に放射能火炎が命中し、コントロールを奪われる。耕助機は、大きく迂回しながら、大戸島の海岸に突っ込んだ。
「………燃料も切れたか。おーまいがっ!」
 耕助は電気の消えたコックピットで地団駄した。


2005年7月18日11時40分。
 優達の車は広場に到着した。
 しかし、その時既に雄一の心肺は停止し、優が心肺蘇生をしながら運んできていた。
「さぁ!もう着いたわよ!」
 優は心臓マッサージをしながら、雄一に言った。
「なぁ………。雄一、助かるよな?」
 大助は泣きながら聞いた。
 しかし、優には既に現実が見えてきていた。
 車が止まると、すぐに自衛隊員が走りよってきた。その片手には、ガイガーカウンターが握られていた。
 しかし、優はその時既に、グリーンから貰ったあのガイガーカウンター付き腕時計に寄って、雄一の結果を知っていた。
 自衛隊員がガイガーカウンターの数値を見て驚く中、優は隊員の手にあったトリアージタグを奪い取った。
 そして、優はトリアージタグを黒の部分で切り取り、雄一の腕に通した。
 トリアージ、それは災害、事故、事件等の現場で、負傷者を重症度や緊急度に応じて振り分け、治療に優先順位を付ける方法である。そのレベルに応じ、赤、黄、緑と優先順位が付けられているが、黒が示す意味は救命出来る可能性が低く優先する事が出来ない程の重症であるという意味である。つまり、救命救急において切り捨てる他ないという意味だ。
「ごめんなさい………」
 優はその瞳に涙を浮かべながら、隊員の用意した放射線遮断シートを雄一にかけて、呟いた。
「なんで………なんでだよ!………あんたは、放射能の治療の専門家なんじゃないのかよ!」
 大助は優に掴みかかって、言いすがった。
 優は何も言えず、ただ大助に言われるしかなかった。
 そう、既に雄一を救出した時には、優のガイガーカウンターはその高数値を叩き出し、僅かな希望を信じて心マを続けていたのだ。しかし、間に合わなかった。
 特に、今回は怪我人が大量に現れる事故や地震などでなく、怪我人も雄一一人ではあるが、放射能症もあるいは放射能が原因の一因と考えられる以上、助かる見込みが無い場合、非難を優先し、放射能汚染の被害を拡大することを防ぐ為に、切り捨てるというこの特例中の特例の展開を優は予想していたのである。
 そして、皆が悲しみにくれる中、隊員の誘導で、全員放射能の洗浄をされて、チヌークに乗り込んだ。
 そして、雄一を残し、チヌークは大戸島を飛び立った。
 そして、ゴジラが三機のチヌークに気を取られないように、ガルーラはニードルを用意した。


2005年7月18日11時55分。
弾!弾!
 台場機と結城機のカドミウム弾がゴジラに命中した。
 苦しむゴジラは既にその足を海へと入れていた。
 しかし、先ほどニードルの一斉照射を行った為、現在土方機、そして台場機と結城機は武器なしでゴジラを誘導している。
 しかし、残る赤川機、近藤機も残りカドミウム弾一発ずつとなっている。
「ラストチャンスです!一気に畳み掛けましょう!」
 近藤はそう言い、その機体を一気にゴジラへ接近させる。
『早まるな!』
 赤川が言うが、近藤は無視をして、ゴジラに真っ直ぐ迫る。
 ゴジラの背鰭が光り始めた。そして………
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」
グオォォォォーーーォン!
弾!
 そのカドミウム弾は、咆哮と共に出された放射能火炎を貫き、ゴジラの口に命中した!
 しかし、その瞬間!
「く、うっ!………こ、コントロールがぁぁぁ!」
 コックピットでは放射能火炎をもろに食らった機を立て直そうと近藤がもがいていた。
 しかし、無情にもガルーラは燃料が切れ、完全に沈黙し、そのまま近藤機は大戸島の丘に向かって、突っ込んだ!
「うわぁぁぁぁ…………」
爆!
 近藤機は丘の岩場に突っ込み、爆発した。
『近藤さぁん!』
『近藤!』
 土方と赤川が叫んだ。
 しかし、近藤機はもうスピードで突っ込んだ事もあり、原型を留めていなかった。とても生存しているとは考えられるものではなかった。
 そして、赤川は叫び、最後のカドミウム弾を撃った。
「よくも、沖田のみならず近藤までも!」
弾!
 そして、近藤の捨て身の一発を食らった上に、更なるカドミウム弾により、ゴジラはふらついた足取りで、海へとその身を投じた。
 そして、ゴジラはまるで水死体が沈んでいくかの様に、大戸島から離れながら海中に沈んでいった。


2005年7月19日朝。
 三神、そして、チヌークで非難した面々は、翌朝には大戸島に戻っていた。
 島の被害は、あの血みどろの死闘とは裏腹に、ゴジラの移動したエリアと火事によって燃えた丘の林のみが深刻な被害と留まり、放射能汚染もゴジラの血液が付着した所が主であり、半日もかからずに帰島許可が下りたのだ。
「なんで、博物館は立入禁止なんですか!」
 三神は島まで送り届けてくれた蒼井の話した立入禁止場所について抗議する。
「あなたならわかるでしょう?ゴジラに踏み潰された建物なんですよ!普通、残留放射能が安全な数値になるまで立入禁止です!」
 蒼井も言い返す。というよりも、既に言い争いだ。
「二人とも、落ち着きなさい!」
 優が半ば怒り気味に制する。
 優達がここ、国立大戸ゴジラ博物館の立入禁止地区前にやって来た時には、既にこの二人は言い争いをしていた。始めは皆何事かと思ったが、蒼井の制服姿と二人の会話の内容から事情を飲み込んだ。
「だけど、おかしいだろ!ゴジラの専門機関がゴジラに踏み潰されたから立入禁止なんて!これじゃあ、消防署が火事になったり、警察に強盗されるのと同じじゃないか!」
 以外に三神も納得しそうな事を言う。
「本末転倒だろうと、ゴジラが破壊行為した時点で、研究機関じゃなくて、自衛隊の管轄になるのが普通だろ!」
「あっ!この若者!どさくさに敬語止めてるし!」
「たったの一歳差ですよ!その上、一応これでも一佐!四本線なんですから!」
「それ言うなら、僕だって院生の時にネイチャーに載っているんだぞ!」
「だあぁぁぁ!ネイチャーなら私も一緒に載っているでしょ!いい加減にしなさい!」
 優の堪忍袋の緒が切れた。二人はその迫力に圧倒され、やっと争いは沈黙した。
「………とりあえず、致し方ない。一応無事な小学校と公民館が島内避難所になっているから、我々はそのどちらかにベースを張ろう。三神君は、一度お祖父さんの見舞いに行っておきなさい」
 所長の鶴の一声によって、一行は行動に移した。
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