赤い竹

───第一日目。
2004年12月15日17時12分。
 フランス、マルセイユのホテルの───ブラボーが用意してくれた───部屋でグリーンは休んでいた。
 そんな所へ三神が血相をかいて訪ねてきた。
「どうした?血相をかいて…………」
 三神はグリーンの話の途中で、話し───叫んだ。
「ゴジラが現れた!」


2004年12月15日17時15分。
 フランスはゴジラ追跡、包囲を第一目的に作戦を開始した。
 報告によると、ゴジラは地中海のフランス沖───コルス島とサルデーニャ島の間の地点で発見された。
 しかし、作戦はなかなか開始されない。
「なぜ作戦が開始されないんだ?せっかく発見されたゴジラなのに………」
 三神がグリーンとブラボーに聞く。
 三人は今コルス島へ移動する為、飛行場へ移動している。
 三神はこのヨーロッパのややこしさをしらない。ブラボーは三神に説明した。
「コルス島はフランス領、サルデーニャ島はイタリア領。つまり、今ゴジラがいる場所はフランスとイタリアの国境だ。フランスが勝手に戦闘をしていいような場所ではない。更に、コルス島にはスカンドラ自然保護区もある。そして、報告によれば、ゴジラはフランス側からイタリア側へ移動している。ここまで言えば、フランスが作戦開始に踏み切れないかわかっただろう?」
 三神は納得したようで、押し黙った。


 まもなくして、飛行場に到着した。
「三神、パスポートは持っているか?」
 移動車から降りる三神にブラボーが聞いた。
 はい、と三神が頷くと、ブラボーはチケットを渡した。
「?」
 三神がきょとんとしていると、ブラボーが説明する。
「それはイタリア───ナポリ行きの便のチケットだ。お前はこの中で唯一の一般人だ。オレやグリーンは仮にも一国のスパイ、すぐさま堂々と外国へ待機できる立場ではない。特にオレはお前達を拉致したロシェの部下だ。直ぐには移動できない。だから、お前はイタリアへ行き、ゴジラをイタリア側から対処するようにしろ。向こうには既にお前に協力する人物達が行っている」
 言うだけ言うと、ブラボーはグリーンに、行くぞ、と言ってさっさと特別機へ行ってしまった!
…………勝手過ぎるぞ!
 三神は飛行場で一人怒った。


2004年12月15日18時。
 ゴジラはまもなくイタリア領に入ってしまう!
 コルス島に無理やりたどり着いたグリーンとブラボーは焦っていた。
 ヘリコプターに乗り移った二人は、ゴジラを追っていたが、案の定ゴジラはフランス領を出ようとしていた。
 夕闇の中、ゴジラの黒く巨大な影は地中海の中を移動していた。
「まもなくフランス領を出ます。許可が無いのでここまでです」
 ヘリコプターの操縦士が言った。
 ゴジラの影がイタリアへ向かって泳いでいく。


????年??月??日??時??分。
「ゴジラが現れたか………」
 男が言った。
 男は大柄で、腕には十字の………いや、『†』の入れ墨をしている。スキンヘッドで、顔には無数の傷。右目には海賊の様な黒い眼帯をしている。
「ゴジラ団の言った通り、フランスからイタリアへ移動しています」
 ガラの悪そうな小柄な若い男が大柄の男へ言う。
「ふん。奴らは何もしちゃいねぇ。ただ単に潮ななんかを読んでいただけだ。別にゴジラ団がすごい訳じゃねぇ」
 大柄の男は一度言葉を切って、一呼吸置いて、また言った。
「それに、すごいのは俺達………赤い竹だ!」


 ナポリに着いたのは、夜中になっていた。
 ブラボーの言うとおり、フランスは何も出来ずに、ゴジラをイタリア領へ入れてしまったそうだ。
 入国をしたら、空港の出口には知った顔が待っていた。
「クルーズさん!優!」
 そう。優とクルーズの二人だった。


 クルーズの運転する車でローマへ移動する中、一通り二人と別れた後の話をした。
 その後、クルーズと優も三神に話をした。
 それによると、タトポロス博士はフランスで治療した後、2日前にアメリカへ帰国したそうだ。落ち着いたら、ミミズ研究を再開するそうだ。
「…………ゴジラはあなたが研究してください、だとさ。意外と身勝手な奴だな」
 そう言って、苦笑するクルーズ。
「いいえ、僕にはいい判断だと思います。彼は元々ロシェ氏に誘拐されてしていた研究ですし、彼は僕にゴジラ研究を任せて、手を引いたと思います」
 三神が言うと、キミがそう思うならそれでいいよ、とクルーズはまた苦笑しながら答えた。
 どうやらクルーズ自身は大切なサポーターが一人失った事が残念なようだ。
「………それで、昨日グリーン君からイタリアで待機しているよう頼まれたんだ」
 クルーズがバックミラー越しに三神を見ながら言った。
 待てよ!
 ということは、グリーンとブラボーは共謀していたのか!
 だったら一言くらい言えよ!と再び怒りを二人に抱く三神であった。
「………あ!そうだ。実はゴジラ団に関係している可能性のある情報が入った。これは鬼瓦先生にも言っていなかったな」
 なんですか?と聞く二人にクルーズは話し始めた。
「5日前、ローマ郊外であるテロリストが…………写真を見た方が早いな。………この写真だ。少し小さいが、その中央にいる……そう。そのスキンヘッドに眼帯の男だ。本名は不明。『†(ダガー)』と呼ばれている。写真には写っていないが、腕に†の入れ墨がされている。その†は、テロ組織『赤い竹』のヘッドをしている。………と言っても、わからないか。……………これが資料だ。二枚目。………そう。そこに書いてあるが、昔はインド洋沖辺りを拠点にした秘密結社で、一度壊滅したが生き残った構成部員やテロリストが集まって再結成したテロ組織だ。…………三枚目だ。そこに載っているとおり、赤い竹は生物兵器も所有している。ゴジラ団よりも危険な存在だ。…………そして、その赤い竹とゴジラ団が手を結んだ可能性が高い。そして、イタリアに赤い竹ヘッドの†が現れ、ゴジラはイタリア領内を移動中だ。これは何も起きない方がおかしい。…………つまりは、今回は以前以上に生命の危険にさらされやすい。君達も気をつけるんだぞ」
 そう言って、しばらくクルーズは黙って運転に集中した。
 そして、後部座席の三神と優は赤い竹の資料に目を走らせた。
 一通り資料を見たとき、クルーズが再び口を開いた。
「三神君は特に、気を付けてくれ」
 いきなりの言葉に驚く三神に続ける。
「赤い竹は生物兵器も所持、使用をする。それは同時に、最強の生物兵器に成りうるDO-Mを研究していた…………まぁこれは鬼瓦先生にも言えるが、その能力を研究し、コントロールしようとした第一人者で、更に細菌などをメインにする微生物学者である三神君を赤い竹が放って置くはずがない。………それだけではない。三神君とグリーン君はゴジラ団に狙われているようだ、我々以上にね」
 三神は何も言えず、座席に身を埋めた。


───第二日目。
 ローマに着いたのは、明け方だった。ゴジラはイタリア領海───ティレニア海を迂回しつつも、ローマの目前に迫っていた。
 お陰で、避難の車の渋滞がひどい反対車線に対して、こちらの車線はガラガラであった。
 フランスの対ゴジラ作戦の目的はゴジラの上陸阻止特に、ローマへの上陸阻止と撃退の2点になった。
 ラジオ、テレビはゴジラ情報とローマ市民の願いとバチカン市国に集まり拝む沢山の人々の事ばかりだ。
 バチカンをゴジラ襲う事態は避けなければな、とテレビを見ながら三神は思った。
 三神は、自分はキリスト教信者でないどころか無神論者で、せいぜい命と祖先や自然を大切に!というくらいのモラルで、信仰は持ってはいないと思っている。
 しかし、このローマという都市は紛れも無く人類史を語る上で残さなければいけない遺産であると感じた。
 ローマの市民は避難をしようとはしない。いや、したくないのだろう。生まれ 育った故郷を捨てたくない。そんな感じだった。
 警察が避難を呼びかける。
 避難はしているが果たして、何人もの人がこのローマに残っているのだろう。
 兎に角、海軍は可能な戦力を総動員して、ゴジラ上陸を阻止しようとする。
 だが、七時四十五分。ゴジラは海底に足を付けて歩ける程の浅瀬にまで近づいていた。海面からは胸まで出ている。
グオォォォォーーーォン!
 突然の咆哮、それはローマに響き渡った。
「とうとう現れた」
 優が双眼鏡越しにゴジラを見ながらいう。
 ここはローマのとある教会の最上部。
「ゴジラは海を歩いて近づいている」
 クルーズも双眼鏡を覗きながらいう。
 三神はそんな言葉を聞きながら、鬼気迫るローマを眺めていた。
 そして、人通りの無い通りと沢山の人々が駆け込む聖教のギャップを見ていると、避難が完了している筈の住宅地に一瞬光がちらついた。
 直ぐに双眼鏡を構えその場所を見る。
…………人だ!
 しかも、明暗もあるだろうが、黒い服で身を包んでいるようだ。一つの予感が浮かんだ。
 慌てて三神は、クルーズの用意した超高倍率のデジタル双眼鏡を構えた。
 良く見える。人がどういう顔なのかまで良く見える。
 その人は、眼帯をしたスキンヘッドの大柄な男だった。
「赤い竹!」
 思わず三神は叫んだ。
「何!」
 クルーズは慌てて、どこだ、と聞きながら超双眼鏡を三神から奪い確認する。
「直ぐにイタリア政府に教えなければ!」
 そう言いながらクルーズは連絡をとる。
 三神は海のゴジラに目を向けた。
 もう腰まで海面から出ている。
 この距離ならば陸からの攻撃が可能だ。
 そして────


爆!
 爆発音がローマに響く。午前八時。陸からゴジラへの攻撃が開始された。
 港に一列に並ぶ戦車。それまでは追跡をしていた戦闘ヘリ。沖で留める事の出来なかった戦艦。ニューヨークの反省を踏まえた配置で戦いに望む。
 ゴジラが海底を踏み荒らしながら前進する。そこへ前後と上空からの攻撃が前進を邪魔する。
 突如、ゴジラの体を大きく翻す。長いゴジラの尾は海面を大きく波立たせる。
 予想外の攻撃に海の戦艦の攻撃は止む。
 そして、翻しながら背鰭が発光しだす。
 まもなく放つであろう放射能火炎を止める為、総攻撃をかける。
 そして、ゴジラはもう一周、勢いに任せて身を翻す!ゴジラの発光する背鰭の残像が、まるでゴジラを光が包んでいるようだ。
 ゴジラの口が陸を向くやいなや、放射能火炎を放つ!
 刹那、戦車を高熱の無数の放射線の束が襲う!瞬間的に戦車の装甲が融解する。
 放射線は波長や幅によって空気浮遊物に当たり発光発熱するもの、装甲に当たり発熱するもの、装甲を抜けて人体に当たり火傷を負わすもの、細胞も通過しDNAを破壊していくもの、色々ある。その全てが放射能火炎という形と成って、戦車を襲う。
 一列に並んだ戦車を放射能火炎が燃やす。
 中央に配置された戦車は、引火による爆発で、完全に破壊されてしまった!
 放射能火炎の光が終息する。
 港は荒波と炎に包まれた。
グオォォォォーーーォン!
 再びローマにゴジラの咆哮が響き渡った。


グオォォォォーーーォン!
 再びゴジラの鳴き声が聞こえた。
 †は再び外へ出た。
「ヤロー共!始めるぞ!」
 †は同志に宣言した。
 そして、ニヤリと笑いながら言った。
「………狩りの時間だ」


†が宣言した後、イタリア軍と警察が†のいた家へ着いた。
警察が家の周りを固める。
軍の歩兵部隊が家へ近づく。
一足違いで赤い竹は逃げたのか気配がない。…………いや、ある!
どうやらまだ家に赤い竹メンバーが残っていたようだ。
赤い竹はあまり実態が掴めていない組織だ。これはチャンスだ。突入することを決定した。
「俺達も───」
「手伝うぜ!」
 配置につく歩兵に2人の私服刑事が近づいてきた。
 この2人は軍でも有名な刑事だ。シチリア島から流れてきた殺し屋を捕まえる為等に軍の兵器を借りる型破り刑事。名は、『タカー・ヴィスコンティ』と『ユージ・ピサーノ』という。
 隊長は少し考え頷いた。
 そして────
突入!
 催涙弾を投げ入れる。
 ガスマスクをして、歩兵とタカーとユージ。
 廊下で隊長が手で制す。床に簡単な爆弾のトラップがあった。
 トラップを突破する。
 一階はトラップだらけで誰もいない。
 二階へ上がる。階段は水浸しだ。
 二階には部屋が一つ。
 タカーとユージが隊長と共に部屋へ入る。しかし、そこには誰もいなかった。ただ、スプリンクラーが作動して部屋を水浸しにしている。
 一階に残った者から地下道へ抜ける秘密の通路があったと知らされた。
「なんてこった」
「ついてない」
 タカーとユージが呟く。
 雨が降っているような水浸しの部屋を見回す。まだ部屋には荷物が残されている。調べれば手がかりになるかもしれない。
「ヤッコさんはお留守ですか」
 タカーがいう。
「そのようだな」
 ユージが相打ちする。
 びしょびしょになりながら二人は窓際へ行く。
「なんでスプリンクラーを作動させたんだ?」
 ユージが言う。
 部屋の中央に隊長が床や天井を調べている。中央にはテーブルがあり、球体の機械やフラスコ、化学の本。実験室のような調度品だ。
 そして、タカーとユージの位置からは見えた。隊長には死角になるようにセットされた糸を………
「やべぇぞタカー!」
「おぅユージ!」
 隊長もそれに気が付いた。しかし、それは遅かった。球体の機械が緑色の光を放ち作動、スチームのような気体が音をたてて球体から放たれる。そして、火花が球体を駆け巡る。
爆!
 タカーとユージは窓から飛び降りた。
 刹那、爆風が二人を吹き飛ばした。
 警官隊が二人に駆け寄る。
「「勘弁してよ~」」
二人は無事であった。


 爆発を知り、ゴジラは三神に任せて、クルーズと医者である優は現場へ行った。 赤い竹は秘密の通路を使って地下道へ逃げてしまったらしい。警察は地下と陸の両方を捜索している。
「お姉さん。痛い……イテッ!」
「しみる。やさしく………かわいい顔なんだから」
 優の治療に悲鳴?を上げるタカーとユージ。
 おもしろい、サイコー、かっこいい、黄金比だ!とは言われたことはあるが、かわいいとは言われたことがない優は無視。それ以前に「かわいい」の定義が優には理解出来ないので、その表現があまり好きではない。
「………で、爆弾はどんなのだ?」
 クルーズが二人に聞く。ちなみに、歩兵部隊長は死亡したが、負傷者はこの二人のみだ。
 二人は、爆発までを説明した。
「………てわけだ。後、一点付け加えていいか?」
「なんだ?」
 クルーズはユージの話を促す。
「爆発はしたし、爆風で俺達は吹き飛ばされたが、その後が不思議なんだ」
「と言うと?」
「爆風が部屋の中へ向かって戻ったんだ」
「は?」
 クルーズは目を点にして聞き返した。
「そのまんまだよ。一度部屋から吹き出た爆風が部屋の中へ戻った」
「そんな激しい爆発ではなかったぞ」
 クルーズがそう言うところに、数人の警官が来て、我々も目撃しました、と言った。
 クルーズは唸る。
グオォォォォーーーォン!
 !
 ゴジラ!
 ズンッと揺れる。
 振り返ると、ゴジラの頭が見えた。
 また揺れる。
『ゴジラが陸へ上がった!』
 三神の通信が入る。


2004年12月16日8時30分。
「まだ着かないのか!」
「ゴジラがローマに入ったぞ!」
「なんだと!あいつらは一体何をやっているんだ!」
 グリーンとブラボーは飛行機の中にいた。
 コルス島へ戻って、被害状況を調べたり、イタリアとの情報交換…云々をしてやっとイタリアへ行く事となり、マルセイユへ戻って、イタリアへ向かう飛行機に乗っている。
「ゴジラ!三神!みんな!ローマ!待っていろ!」
 グリーンは気合いを入れた。
 ブラボーは少しグリーンと距離を置いた。
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