《旧約》ゴジラ‐GODZILLA[2005]

2004年10月28日10時30分を少し過ぎた頃。
 ホワイトハウスで大統領の会見が開かれていた。それは全米生放送され、日本などでも僅かにずらし、訳付きの映像で流された。
『………以上がゴジラのニューヨークに置ける報告です。また、作戦を妨害したテロ組織、マフィアの捜査は既に進んでおり、国民に安全を保証できる段階になっていることをここに宣言しよう。私からは以上だ』
パチン。
 テレビの画面が消えた。消したのはグリーンだった。
 ここはニューヨークの国連本部の一室。
 今回のゴジラ出現と撃退の経緯を説明するために学者の僕らを込みで呼ばれた。ここはその待合室のような部屋だ。
「ゴジラ団を取り調べて何とか目的を聞き出したぞ」
「何者だったの?」
 僕より先に優が聞いた。優も興味津々らしい。
「ゴジラ団は大きく言えばテロリストだが、ただのテロ組織とは毛色が違う」
 一旦言葉を切り勿体ぶってから続ける。
「過激派の動物愛護団体と言った組織だ」
 この答えは意外だった。世界中には沢山の動物愛護主義者の団体がありそれぞれの主張で世論や政府などを動かしたり、反抗したりしているのは、僕のような世界の人間でなくてもよく知っている筈だ。
「勿論、ただの愛護団体ならばデモや座り込み、場合によっては目には見えない所で意見が通るようにするだろうが、このゴジラ団の場合はこれまた普通とは毛色が違うのだ」
「どう違うんだ?」僕が聞く。
「ゴジラを神格化している点だ!」
「それじゃ宗教じゃないの」優が言う。
「最もだ。それにテロを起こす理由はそれぞれにしても、決断や行動をさせるには何かを信じる力のようなものの有無は大きい。テロでなく、人を助けるのでも助けるべきと言う教えを信じるか信じないかじゃその動きに違いがでる。よくテロ組織に多いというイスラム教のジハードだって、神の道に進む修行に励むように努力するという意味が本来の意味らしい。知り合いのイスラム教徒に教えてもらった話だ」
「努力ってどんな?」僕が聞く。
「例えば、飲んだくれのオヤジにそんな事してないで、もっとジハードに励め!といった感じの用法が正しいそうだ」
「つまり、真面目に仕事や生活をしなさい!って言うことかな?」
 優が噛み砕いてわかりやすくした。
「まぁ。無神論者にはその理解の仕方が妥当だろうな。下手な事を言うと知り合いに後で怒られるからな。兎に角、ゴジラ団はゴジラを神格化していて、そのゴジラへの保護、さらに言えば愛護を目的として活動している組織だ。恐らくバックにはかなり大きな力がついている。ゴジラ団員はその事は知らず、それを知るのは団長だけらしい。しかし、その団長はニューヨーク入り前に指示を全て済まして、別れたそうだ。名前も最初からダンチョーと呼ばれていたそうだ。それに、英語を話ていたそうだが日本人に見えたと言っている。ゴジラ団と言う名前は、大統領会見以降の名前で元は動物愛護団体を名乗り活動していたそうだ。団員は皆色々な方面や理由でスカウトされたらしい。しかし、組織したのは僅か半年前だ」
「作為的だな。団長が日本人というのも気になるし」
 僕の意見にグリーンがのる。
「そうだ。そこで聞きたいのだが、ゴジラ研究家で団長になりそうな人物はいないか?」
「いないか?と言ってもな。僕みたいにゴジラ専門の研究家なら今回呼ばれているだろ?」
「確かにそうなんだが、その様な人物は上がらなかったんだ」
「ゴジラの場合は、それに関係した問題が多いからそっちの方が団長になりそうな人物は多いよ。それに僕は研究を続ける為にもそういう人とは関わらないから僕じゃ無理だよ。大体、研究歴はまだ2年だよ!人脈もそう多くはない」
「人脈が多いのは?」
 グリーンが縋るように聞いてくる。
「それは………館長。国立大戸ゴジラ博物館の国立大戸放射性生物研究センターの所長だよ」
「そうか!三神、聞いておいてくれ!」
「お、おう」
 グリーンの迫力に頷くしか出来なかった。


 ニューヨークの傷はかなりのものであった。
 かつての東京とは違い、火災や倒壊、放射能といった大きな破壊は少なかったが、道路や壁、ガラスの破壊は非常に多く、高層ビルの場合建て直さなければ成らない程のダメージが多く、修復だけでも莫大な時間と資金、労力が必要である。
 また、場所が経済都市であるニューヨークであった為、市場を一時封鎖や移動をして対処をしたようだが、経済的損失は過去の不況にも類を見ない程の大損害で、デフレ状態で、国連や国家共同体などはそれが原因で戦争や紛争が起きないか冷や汗ものだ。
 しかし、不幸中の幸いで今回は事前の予想がほぼ100%可能な事態であった為、経済の混乱は最小限で済んでおり、デフレ状態もこの先復興による反動でインフレが来て、以前よりも好況──バブル状態になるかもしれないという証券界の期待があったりもする。
 あまり僕は経済に詳しくないのではっきりとどうしたとは言えないが、予め何らかの操作をしておいたらしいので、バブル……なるかも?

 また、忘れてはいけない事がある。
 今回の死者は二千五百人に達し、その内の7割が海軍で、残りは殆ど陸軍。それ以外は、七人が瓦礫から発見されたゲーン一家のメンバー。十八人がゴジラ団員。そして、五人が避難をしなかった市民だった。
 負傷者は約五千人。警察と消防、救助隊が殆どだった。つまり、軍は負傷者よりも死者の方が多くなっていたと言うことを示している。
 12時と共に全世界で死者をともらう黙祷が行われた。


2004年10月28日18時頃。
僕はグリーンがうるさいので、報告も兼ねて所長に急遽購入した日本でも有名な会社の国際電話対応の携帯電話で電話をした。
 向こうだと、時差14時間だから、明日朝8時頃だな。
 いるかな?
 おっさんだしいるだろうな。
『………もしもし、こちら国立大戸ゴジラ博物館の国立放射性生物研究センターです』
 この自己の説明の細かい口調が聞こえた。
「所長ですか?おはようございます。僕です。三神です」
『三神君か!今ニュースでそっちのことが流れているぞ』
「そうですか」
『大変だったらしいな。マフィアが現れたり、テロリストが米軍の邪魔したりして………』
「えぇ。実は所長にはそのテロリストについて聞きたいんです」
『ワタシにテロリストのことを!』
 声が上擦っている。いきなりテロリストはショックがデカかったかな?
 しかし、僕は順を追って所長にゴジラ団の事を話て、所長に聞いた理由を説明した。
『……なる程、それで私に。すまない、確かに私はゴジラや放射能の生物を研究したり、反対している人物の事を知ってはいるが、団長のような人物はすぐには出てこないな。現実に団長なる日本人がいる以上、恐らく、私の知る人物の中にいる可能性は高い。思い当たる人物がいたら連絡をするよ。この番号でいいのか?』
「はい」
『ところで、ニュースでやっているのだが、ゴジラの技でN-バメーストという言葉を付けたのはキミだろ?』
カチン!
「違います!」
 ゴジラの技の名前は混乱を避ける為、公開して名前を統一した。核吐き出し爆発はあえなくN-バメーストと統一された。しかし、勘違いもいいとこだ!
『そうか。キミのセンスだと思ったのだがな』
 所長の中で僕のセンスは優のセンスと同じらしい事が判明した。
「違います!あれはゆぅ……!」
 つい口を滑らせた。
 鬼瓦優が僕の元妻と言うことを所長は知っているのだ。
『優?キミの別れた奥さんかね?ん?』
 明らかにこのオヤジ楽しんでいる。
「そうですよ。こっちで偶然会いましてね。彼女があの名前を付けたんです」
 偶然を強調した。
『ふむふむ。教授が言っていた通り似た者夫婦だったのだね。キミももうすぐ30歳だ。これを期に再婚でも考えてみたらどうだい?』
 これ以上話しても無駄なので、さよならを言ってさっさと切った。
 やれやれ。


2004年10月28日19時。
 俺は三神から電話の結果を聞いた。
「そうか残念だ」
 俺は少し落胆した。
「そうそう、俺は今晩から三神達とは別に行動する。ゴジラ団の追跡調査を任された」
「そうか。………ところで、グリーンってCIAでもそんなにスパイ活動をしない部署じゃなかった?」
 三神が痛い所を突く。
「TATUMAKIで大立ち回りをしたのが原因かもしれない。調査員でありながら任務が工作員や諜報部員顔負けの仕事内容に変わってきた気がする」
「頑張れ」と三神に肩を叩かれた。


2004年10月28日20時。
 私達、学者班は今後どうするか?
 それをニューヨークの某所でクルーズさんらと話し合っていた。
「という事はゴジラの動きが掴めるまでは僕らは足止め状態なのか?」
 ミジンコくんが意見をする。
「そうではない。ゴジラが既に、ニューヨーク近海にはいない事は明らかになっている。ただ、ゴジラが出現した時すぐに対応できるように近くにいてほしいという事だ。逆に言えば、日が経つにつれてゴジラの出現しそうなエリアは広くなる。そうすればキミ達の行ける場所も広くなる」
「つまり、あちこちに行っていれば、ゴジラが現れたら時に近くにいる人がアドバイスしろって事ですか?」
 ミジンコくんが前に乗り出して言う。
「おれ達が来るまで、のな」
 クルーズさんの答えにミジンコくんが納得して座った。
「今、ゴジラが出現する可能性があるのはこの資料の通りだ」
 クルーズさんが資料を回す。
 資料に書かれているエリアはアメリカの東海岸沿いとイギリスなどの大西洋沿いのヨーロッパ諸国だった。
「フランスね………」
 私がボソッと言うとミジンコくんが体を小さくする。
「なるべく均一に散らばってほしいが一応キミたちの要望に答えよう」
 この後みんな言いたい放題に行きたい所を言った結果、クルーズさんが大岡越前の様にみんなの移動場所を割り振った。
 その結果、十人いるメンバーで、国境を渡る場合は多少でも時間がかかると言う理由から一国で最低一人は置きたいと言うことで、私はフランス!ミジンコくんもフランスとなった。
「フランスか。前は行けなかったからな」
 呑気な事を言っているミジンコくんを睨む!
 それは私も同じよ!
 そんなこんなで私達はフランスへ行くこととなった。
 はぁ、日本まで移動できるのはいつになることやら………


2004年10月28日21時30分。
「頑張れよ!博士!」
「優さん、ケガには気をつけて」
「私も安全を祈っております」
「ゴジラを倒してくれよ!」
 今日の内にヘリで空港へ行く事となり、ヘリのあるセントラルパーク前にテリー探偵達が怪我人にも関わらず、見送りに来てくれた。
 グリーンは既にニューヨークを出てニュージャージーへ渡っていた。
「みんな、ありがとう。機会があったら日本にも来てください」
「みんな、さよなら」
 別れを言って、ヘリは飛んでいった。
 瓦礫だらけになったニューヨークが小さくなっていく。
 気のせいだろうか。ニューヨークから少し先へ行った所にある洋館の前で老人がこちらを見て、見送っていたような気がした。
 ギケー………
 僕はその老人がギケー氏の様な気がした。
 ニューヨーク、短かったが色々あった街だった。テリー探偵、ギケー、ゲーン一家、ゴジラ団、そしてゴジラ。
 僕はニューヨークへ別れを言った。
「さらば、ニューヨーク──マンハッタン!」


2004年10月28日夜。
 深い闇、深い大西洋の深海の闇の中、巨大な影はゆっくり泳いでいた。
 巨大な影はやがて巨大な穴を見つけた。
 その影は穴へと入っていった。
 その遥か先の海上には、ヨーロッパがあった。
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