ニューヨーク



2004年10月27日11時15分。
「パワーブレスとでもいうのかしら。イグアナもたまに大きなため息みたいのをするの。水生の爬虫類には違いないゴジラの巨体の持つ肺よ。恐らくは並の爆風よりも強力なものだと思うわ」
 スミス大佐に聞かれクイーン夫人が息吹の正体の仮説を立てる。
 前から気になっていたけど、クイーン夫人って誰の夫人なんだ?
 若いし、Mrsと言わなければ十分独身で通じると思う。
「三神博士。ゴジラにそんな武器があるなんて知らなかったぞ!」
 スミス大佐が僕に怒る。怒っても仕方ないだろうに。
「僕も今初めて知りました。50年前にはゴジラはあのようなことをしなかったので」
 少し反論する。
 ………これで今回初めてゴジラが見せた技はN-バメーストとパワー・ブレスの二つになった。
 そんな事を考えているとスミス大佐に電話がかかってきた。なんとペンタゴンからだ!
 ………大佐ならペンタゴンから電話でも不思議って程じゃないか。
 電話を切るとスミス大佐は神妙な顔つきで話し出した。
「たった今、アメリカは本作戦の目的をゴジラ撃滅からゴジラ撃退へ変更した!」
撃退ということはアメリカから出せば、生きようと死のうと関係ないと言う事だ!
「アドバイザーからも強く主張されたらしい。このままだとアメリカ軍は負けると」
 スミス大佐はとても悔しそうだ。一度ヒルトン港でゴジラ上陸を全滅で許し、アパッチ隊を全滅させて、撃退に変更だ。悔しいに決まっている。


2004年10月27日11時15分。
「ギケー!今日こそけりをつけようぜ!」
「トゥルース!無理をするな!後はおれが捕まえる!」
 ジュールが叫ぶ。
 確かにまだ傷が痛む。オレは少し顔を歪めた。
「わしを殺せるかな?トゥルース」
 ギケーが不敵に笑う。
「オレはお前とは違う!お前の思い通りにはさせない!」
 トゥルースはそう言うなり銃を撃ち窓ガラスを割る。ゲーン一家のメンバーが隙を見せるなり、トゥルースが二丁拳銃を巧みに使い武器を撃ち落とす!
「ジュール!武器を窓から落とせ!」
「証拠だぞ!」
「いいから!」
「わかったよ」
 ジュールが武器を窓から捨てる。
 間もなく地面に当たり壊れる音がした。
「形勢は変わったな」
 トゥルースが銃をギケーに構え言った。
「わしの事は止められても奴はどうかな?」
 ギケーが言うと、そう遠くはない所でゴジラらしき鳴き声がした。
「まさか……グリーンさん!三神博士!」
 通信機でグリーンや三神を呼ぶ。
『……テリー探偵か?三神だ。どうした』
「三神さん!ゴジラは今どこですか!」
「ブロードウェイ手前、タイムズ・スクエアを曲がって……42番通りに入った所だ」
 ここは42番通りの外れのビル!
『テリー探偵達はどこにいるんだい?ゲーン一家のビルがある場所を聞き忘れた』
「42番通りだ」
『なんだって!』
 ………万事休すだ!
 ギケーは未だ不敵に笑っていた。


2004年10月27日11時17分。
俺はリンカーントンネルを調べて、ゴジラ団なる黒い車は西へ向かったとわかった。
「クルーズさん。ゴジラ団は西へ向かった。運悪く俺が通らなかった道を使ったらしい」
『了解した。任務を続けてくれ』
「わかった」
 俺はTATUMAKIを走らせ、博物館を横目にゴジラ団を探した。
グォォォンン!
 ゴジラ!
 TATUMAKIを止め、耳を澄ませると、どうやらブロードウェイ付近からのようだ。
 ふと、気づくと通信があったらしい。
 俺は既に誰かが通信しているらしいので、通信を聞くことにした。
『……42番通りだ』
『なんだって!』
 声は前者がテリー探偵、後者が三神のようだ。
 42番通りと言えばこの裏辺りに位置する通りだ。
「三神!どうした?」
 三神を呼ぶ。
『グリーンか?大変だ。テリー探偵が行ったゲーン一家のビルにゴジラが近づいているんだ!』
「本当か!わかった」
 ゴジラ団を探すついでにゲーン一家のいるビルを探しに行こう。
 頼むぜ、TATUMAKI!
 一気に加速して、42番通りへと向かった。


2004年10月27日11時17分。
テレビでは、そのころ大統領の会見が行われていた。
『アメリカは先ほど、アドバイザーを交えて相談した結果、ゴジラの撃滅を諦め、ゴジラの撃退を正式に決定した』
会場がざわめく。
大統領は、手を制してその場を再び静める。
『ニューヨークでは、それに合わせて作戦が練り直されている。また新しい動きなどがあれば、追って会見をする。以上だ』


2004年10月27日11時17分。
セントラルパーク前に戦車が並んでいた。
スミス大佐がその前で、作戦目的の変更に合わせて新しい配置及び作戦を立てていた。
 その道の遙か向こうの角から黒い車が三台列になって近づいてきた。
 そして、その先にグリーンの乗るTATUMAKIが42番通りへ向かおうと角を曲がろうとしていた。
 グリーンは慌ててTATUMAKIを止め、方向を変えゆっくりと走り出した。
 黒い車ら───ゴジラ団は陸軍から陰になる所に一台が止まり、残り二台もそれぞれ違う位置に、陸軍に気づかれぬよう止まった。
 グリーンもゴジラ団に気づかれぬ位置にTATUMAKIを止めた。
「クルーズさん。ゴジラ団を見つけた」
 フィリップに通信をいれる。
『どこだ?』
 返事はすぐ来た。
「本部の先。あなたの後ろの方」
 小型双眼鏡でフィリップを確認し、位置を知らせる。
『あの駐車場の陰か?それとも路地へ通じる角の所か?』
「両方だ。残り一台は少し周って、セントラルパークの横だ」
『ここからは確認出来ないな』
 ゴジラ団の様子を伺う。ゴジラ団は何か準備の様な事をしているらしい。あれは………鉄の筒状のもの。バズーカ!
「クルーズ!ゴジラ団はバズーカ砲の類の武器を持っている!三台全部でそれぞれに!」
『ちょっと待ってろ!お前は今動くな!』
 フィリップはCIAの車へ行き、よく言うところのスパイツールを取り出した。
 ゴジラ団は既に動きだしている。位置や動きから推測して、陸軍に何らかのアクションをしようとしている。そして、それは決して良い意味では無くで、だ。
 すると、グリーンから連絡が来た。
『ゴジラ団が動いたぞ!』
 慌ててフィリップが車から出ると、爆発音と光、そして振動が起きた。


2004年10月27日11時20分。
ゴジラ団は戦車に攻撃をしたのだ!
俺はTATUMAKIを全開で走らせた。
そして、ゴジラ団の一人がこちらへ気付いて、銃を撃つ!
TATUMAKIをなめるな!
俺はグリップの脇にあるボタンを押す。
 ライトの下の穴から弾が放たれる!
 小型機関銃が仕込まれているのだ!
 ゴジラ団に見事命中。しかも、致命傷は負わさない。
 更に俺はターボをかけ、ゴジラ団に突っ込む!
当然ゴジラ団は発砲!中にはバズーカまで使っている者までいる!
俺は素早く交わし、ある距離になったら、スイッチを押した。
途端に、ライトから眩い閃光が起きる。超強力フラッシュだ!
不意をつき、俺はテリー探偵に言って貰った例の手榴弾を投げる。
固まるゴジラ団!
一丁上がりだ。
残り二台は、本部に突っ込んで陸軍と激しい戦闘をしていた。


2004年10月27日11時22分。
止める者が居なくなったゴジラはやりたい放題だった。
ただ一つ反抗する者がいた。42番通りの奥のビル三つだ。
そして、トゥルースは気付かなかったが、さらにわしが仕掛けたものがある。
ニューヨークはわしのものだ。わしの獲物、縄張り、家だ!
ゴジラ!
お前なんぞに壊させはせん!
クククッ。
「ギケー。何がおかしいんだ」
トゥルースが言う。
ゴジラは予定の場所を通過した。
今だ!
路上駐車していた車が急発進して、ゴジラへ突っ込んだ!
バーンッ!
「自爆!キサマ!」
トゥルースが激情してわしに銃を突きつける。
「案ずるな。無人だ!ただ、ダイナマイトが詰めるだけ入っているがな。ガハハハハ!」
 ここからだと対したようには見えないが、下では地面は大きく窪み、ビルは三階まで車の破片が弾丸の様に襲いかかっていた。それはゴジラにとっても同じこと!
グォォォンン!
 ゴジラは叫び、ビルへ突っ込んだ。
 ここも振動で立つのも辛いほど揺れる。最も、わしは車椅子に乗っているがな。
「第二作戦開始!」
バリーン!
 窓の外にガラスが降る。上の階の子分が行った事だ。
「借りてるオフィスだけに武器を入れると誰が言った?」
 この部屋の武器はトゥルースがバカをした為、大型の大砲のみだ。だが、大した事ではない。大砲があればこの部屋はいいのだ。
 道路の先にあるビルにいる子分が大型ライトを使いゴジラを挑発する。たとえ 今が昼でも効果は十分だ。
 立ち上がったゴジラはこっちへ近づく。
 攻撃位置。つまり眼下にゴジラが来た。
「攻撃!」
 わしの声で、一斉に小型ミサイル、大砲がゴジラを襲う。しかし、ゲーン一家はそこらの軍みたいにバカではない。
 狙うは頭、それ一点が攻撃目標だ!


2004年10月27日11時25分。
俺は陸軍数人に手榴瞬間接着弾で固められたゴジラ団を任せた。そろそろ接着剤が壊れ始める。放っておくと窒息死してしまうかもしれないが、陸軍がどうにかしてくれるだろう。
 陸軍の戦車隊は既に五台も破壊されていた。いずれも無人の間にされたものだが、かなりの痛手だった。
 しかし、ゴジラ団もスミス大佐の巧みな指示で大分弱ってきていた。
 フィリップには三神らを保護してもらうように頼んだ。
 俺はスミス大佐を見つけて、近づいた。
「スミス大佐!」
「ん。君はCIAのグリーンくんだったか?」
「はい」
「あれが例のゴジラ団なのか?」
「間違いありません」
「しかし、対戦車砲を持っているとはな。奴らのバックには大きな組織があるかもしれん!」
 スピーカーを借りると、スミス大佐は「降伏しなければ、殺害をする!」と言った。
 言うまでもなく、ゴジラ団は降伏せず、返事の代わりにバズーカを戦車に撃った。有人のだ!
「ゴジラ団を倒せ!奴らはテロリストだ!」スミス大佐は叫ぶ。
 戦車は主砲を撃ち、ゴジラ団を攻撃した!
 ゴジラ団は死を覚悟したのか、有りったけの武器で抵抗した。
 遠くで、別の爆発音とゴジラの鳴き声がした。


2004年10月27日11時27分。
ゴジラは苦しみながら、倒れた。
頭を狙うとは、確かに怪獣でもゴジラは人間と同じく生き物。頭には脳があるはずだ。脳が死ねばゴジラは動かなくなる。死んだ状態になる。
 実にギケーらしい、結果重視の作戦だ!
 オレはギケーの邪魔をせず、ゴジラを見ていた。ゴジラは頭に絶えず、砲撃を喰らった。やがて、頭から、あの堅そうな皮膚がはじけ飛んだ!
ゴジラの動きが鈍い、脳へダメージがきているのだろう。
世界最強の軍隊も倒せなかったゴジラを、オレが長年復讐しようとしていたゲーン一家が、ゴジラを倒そうとしていた。
グォォォンン!
 ゴジラがあの咆哮をして、こちらへ近づいてきた。
 そして、少し高い位置にいるオレ達へ攻撃しようとした!
 ゴジラは何かをしようと息を大きく吸い込んだ!ギケーが奇声を発し、ゴジラの目をめがけて大砲を放った!
 砲弾はゴジラの左目を潰した!
左目からは赤い血が流れた。恐らく、誰も見たことのなかった、ゴジラの血が、流れた。
そして、ゴジラは苦しみながら体を仰け反らせ、一気に息吹きを吐いた!
ゴジラの息吹きはオレ達のいる階の上を衝撃で破壊する。
ゴジラの尻尾がイリスのいるビルを襲う!
ビルの下の階が崩れ、その衝撃で次々に上の階も崩れる。
「イリスゥーー!」オレは叫んだ。
ゴジラの体はヘレンのいるビルへ倒れ込み、崩していく。
「ヘレェーーン!」オレはまた叫んだ!
ジュールに連れられ、部屋から出て、階段へ逃げる!
ギケーの姿は既に無くなっていた。
逃げたな!
このビルはゲーン一家がかってに自分達の物にしていた。大方、オレ達に気づかれぬような抜け穴でも作っていたのだろうな。
オレ達は自力で逃げるしかなさそうだ。
ゴジラが倒れた大きな音が聞こえた。


2004年10月27日11時30分。
「ゴジラ団は全滅しました。一台にいたゴジラ団は捕虜として捕まえました」
陸軍兵がスミス大佐に報告する。
「陸軍の被害は?」
「死者十人、負傷者は三十人、戦車は計十台戦闘不能状態です」
「くそ!」
 スミス大佐は憤りを隠せない。俺はただそれを眺めるばかりだったが、仕事は仕事だ。
「スミス大佐。ゴジラ団の身柄は我々CIAが引き取ります」
「わかった」
 スミス大佐は仕方なしに頷いた。
『ゲーン一家がゴジラを倒したぞ!』
 突然、テリー探偵から連絡が来た。
「本当か!」
『そうだ。今ニューヨーク市警に救助されたところだ』
 救助されたというのがよくわからないが、ゴジラを倒したとは。
『待て、ゴジラが!そんな!』
 遠くでゴジラの鳴き声がした。
「作戦再開!」
 スミス大佐が指示を出した。


2004年10月27日11時32分。
ゴジラは立ち上がった。片目は潰れているままだが、ゴジラは未だにダメージは大したことなかったのか?再び咆哮し、今度はブロードウェイへ歩いていった。
ゲーン一家の武器は既に瓦礫の下。もうゲーン一家はゴジラと戦うことは出来ないだろう。


2004年10月27日11時35分。
ゴジラはブロードウェイを歩いていた。傷のせいか?ゴジラはより一層どう猛になっていた。
 ゴジラの尻尾がブロードウェイに面する数々歴史あるミュージカルを破壊する。
 そこへゴジラ団に戦力を削られた陸軍が待っていた。
『いいか。目的はゴジラを一刻も早く海へ追い返す事だ!健闘を祈る』
 通信からスミス大佐がした。


2004年10月27日11時38分。
僕達はクルーズさんが用意したヘリに乗り込んでゴジラを眺めていた。
「ゴジラを誘導しているな」
 クルーズさんがゴジラを見ながら言う。
 ゴジラは戦車の攻撃に誘導されブロードウェイを破壊しつつも、大した火災も起こさず、セントラルパーク前、つまり先程のゴジラ団との戦闘があった本部前を通過したした。
 ここからはゆっくりだが確実に作戦を進めた。
 ミッドタウンで少々激しい戦闘をしたが、ゴジラを再び、ブロードウェイへ戻し、フラットアイアン・ビルをパワー・ブレスで破壊したが、チャイナタウンまで誘導に成功した!
 この近くは、既にゴジラが破壊した形跡があることから、見失った時にはここを移動していたらしい。
 海を隔てて、ブルックリンには海軍基地がある。そこから、ウィリアムスバーグ橋したへ来た原潜と陸軍は選手交代。海軍がゴジラを大西洋へ誘導する。
 チャイナタウンを移動中にゴジラが一声咆哮すると、体を捻り、戦車を攻撃した!
「しまった!」
 クルーズさんが乗り出した。
 だが、陸軍も本気だ!
 砲撃で、仲間の死を悲しむ暇もなくゴジラを誘導する。
 ウィリアムスバーグ橋へ達した時、海中から現れた原潜がゴジラを攻撃する。
「付け焼き刃の装備にしては健闘だな。使い捨ての武器かな?」
 クルーズさんが言う。何でも、あの原潜にあの様な陸にいる敵に攻撃するタイプの武器は基本的に装備されていないらしく海軍がとっさに装備したらしい。
 事実、二発目は無く、その後は魚雷でゴジラの足元を壊す。
 既に、ウィリアムスバーグ橋から戦車はブルックリンへ渡りきっていた。魚雷は橋脚を壊し、その後はゴジラの自重であえなく橋は崩壊した。
 ゴジラは海へ落ちる!
『ゴジラはどうだ?』
 グリーンから通信が入った。
 ゴジラは原潜の攻撃と原子力に釣られ、マンハッタン橋へ達していた。
「ちゃんと成功しているよ」
 僕の言葉に安堵したらしい。とは言え、まだ油断は出来ない。
 ブルックリン橋を越え、激しい戦闘をしたフルトン市場の横を過ぎ、やがてゴジラがN-バメーストを放ったニューヨーク沖──自由の女神があるリバティ島の先を、通り過ぎた!


2004年10月27日12時20分。
「ニューヨークで動きがあった様です!中継へ回します!」
『ゴジラが陸軍と海軍の連携でマンハッタンから出ました!』
 映像に魚雷による水柱が映り、ゴジラの背鰭が映る。
『先ほど、核爆発のあったリバティ島沖を通過しました!このままゴジラは大西洋へ向かうようです!以上中継でした』


2004年10月27日13時。
 セントラルパーク内に仮設した第三の作戦本部に連絡がきた。
 俺は三神達と合流した。三神達はかすり傷程度で済んでいた。
 俺は少々打撲や切り傷があり、少し動くと痛かったが、テリー探偵達に比べれば大したことはなかった。
 テリー探偵達は皆救助されたが、怪我は相当のもので、重軽傷と言ったところだった。しかし、テリー探偵達に言わせると軽い怪我に入るそうだ。ゲーン一家との戦いはまだまだ続くらしい。恐ろしいものだ。
 それはそれで、ゴジラは大西洋沖まで誘導に成功した。
 しかし、残念な事にその勇姿を見せた原潜はゴジラの予想外の素早い攻撃に遭い、撃沈されてしまった!
 ゴジラは原潜の放射能を得て、体力を回復して満足したのか、大西洋の海深くに去っていった。

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