ニューヨーク
2004年10月27日10時45分。
「ん?あの戦艦はさっきの」
フィリップが海を見ながら言う。
それに促され俺たちも海を見ると、唯一無事だった戦艦が港、ゴジラに向かって進んでいた。
動きが悪い。動力などにダメージがきているのかもしれない。
ドン!
二つある砲台のうち一つが破損していた。それでも一つで放たれた砲弾がゴジラを狙う。
爆!
ゴジラの僅か数メートル横にて爆発した。
ゴォォォオンン!
ゴジラが威圧的な咆哮をした。その声はまるで弦楽器の様な深みのあるものだった。
ゴジラはその歩みを海へと向けた。
戦艦もミサイルを連射した。その間も戦艦は加速を続ける。
ドン!
再び砲撃がゴジラを襲った。
ゴジラは体を軽く揺らし砲弾を交わす!
ゴジラが港内に戻った。港は砲撃などでボロボロに崩れている。
更に、海中に複数の影が伸びる。魚雷だ!
既に、港と、ゴジラとの距離は一キロを切っている。
ドコン!
立ちのぼる水柱。崩れる港。ゴジラが足下をとられた!
ゴジラが倒れた!
「よし!」
フィリップが叫ぶ。
戦艦はゴジラに向けて進み総攻撃をしかける!
爆!ドコン!バーン!
ミサイル、砲撃、魚雷、全ての武器がゴジラを襲う!
ゴジラは瓦礫によって動きが封じられている。
戦艦は更に加速する。
「まさか………」三神が口を開く。
「特攻?」鬼瓦もその後に続ける。
戦艦は一心不乱にゴジラへ猛スピードで突っ込んでいく。
特攻を阻むかのように、港の浅い海底に船底がぶつかる。しかし、座礁しながらも戦艦はその加速のついた勢いに身を任せて滑っていく。以前としてかなりのスピードが残っている。海底にある瓦礫に当たったのだろう、船体が横へ倒れた。そしてそのままゴジラへ!
2004年10月27日10時47分。
一つの戦艦がゴジラへ特攻という最終手段の攻撃を仕掛けた。
戦艦はゴジラへ激突し、その刹那、爆発、炎上した。
元来、僕は涙もろい方ではなく、タイタニックやアルマゲドンでも泣くことはなかった。しかし、今回は全く気付かぬうちに涙が出ていた。それに気付いたのはそれが頬伝った時だった。
優も同様に自然と涙が止まらずに流れていた。
グリーンとクルーズさんは職業上涙こそ浮かべていなかったが、何らかの思いが込み上げていたのは間違いなさそうだ。
僕はとても深い深呼吸をし、涙を拭き取った。
僕は生物学者だ。ゴジラを観察する。
かつて、僕は生物学者をその一途さと情熱にカッコ良さと憧れを持っていた。科学は真実を映す鏡だ。そう思い、考え、憧れていた。それは今も同じだ。人間関係の難しい世界であり、名誉も重要な世界だ。しかし、僕はそれに幻滅しなかった。嫌いにもならなかった。その世界を追われ、今ここでゴジラを見た。しかし、生物学者であり、科学者である事を誇りに思っていた。
しかし、今、科学者というものが陰気な職業と感じている。嫌気を感じている。
その苦悩も一瞬で吹っ飛んだ。
生物が発したとは思えないおぞましい包哮。
ヤツだ!
ゴジラだ!
ゆっくり、その巨体を海から上げる。軽く体を揺らし、体にある瓦礫を落とした。
「まだ、立ち上がる力が残っているのか!」
クルーズさんが叫ぶ。やや恐怖も感じとれる声だった。
「ゴジラ………」
優がボソリと呟いた。
ゴジラは再び街へ向かって進んでいった。
今の僕たちは何も出来ない。
打つ手無しだ。
「………もう燃料が残り僅かなので、セントラルパーク前へ行きます。恐らくはスミス大佐らも其方で部隊を整えていると思います」
操縦士が僕たちに言った後、ヘリコプターは一路セントラルパークへと向かった。
2004年10月27日10時50分。
「いいか!ゴジラが力を盛り返す前に攻撃を仕掛けるんだ!」
セントラルパーク前に張られた第二本部でスミス大佐が一喝していた。
「15分でアパッチ四機が飛べます」
アパッチとは武装ヘリコプターの事だ。都市など障害物が多い時には非常に有効な兵器だ。
「10分で済ませろ!それから消防の方にも火災が各地で発生すると思うから準備をしておいてもらえ!後、全員放射能にはくれぐれも気を付けろ!健闘を祈る!」
一頻り指示をし、椅子に腰掛けた。
「CIAとあの生物学者を乗せたヘリが着陸しました」
部下が報告に来た。
「すぐここへ来るよう伝えろ」と命令した。
2004年10月27日10時51分。
仮設作戦本部のテントへ入ると昨日見た人々が待機していた。
「早速だが、あのキノコ雲や通信障害などはやはりゴジラが起こした核爆発なのかね?」
席に着くなり、スミス大佐が俺たちに質問してきた。
「あれは、N-バメーストです。バメーストはVOMIRSTで、吐き出し爆発からの造語です。つまり、その意味は核吐き出し爆発です……」
フィリップが説明した。俺が言わずに済んでよかったぜ。フィリップは更に三神が上げた吐き出し爆発の説明もした。
まぁ、スミス大佐が却下するだろうし。
「うむ。N-バメーストか。便宜上使う用語であるし、悪くない。よし、あれはそう呼ぶことにしよう」
通ってしまった!
もう二度とN-バメーストを使うんじゃないぞ、ゴジラよ!
「原子物理学についてはかじった程度の知識なので、あの説明でいいですか?」
三神がアシモフ博士に確認する。
「うむ。ゴジラがどのような機関で、どのような放射性物質を使っているかはわからないが、放射性物質を直接吐き出して連鎖的に爆発させたのならば可能ではある」
アシモフ博士が同意をした。
「大佐!EMPがもう直ぐ無くなりそうです」
部下が報告に来た。
「わかった。無くなり次第、アパッチを出撃させろ!戦車も全車出撃準備を完了させておけ」
スミス大佐が部下へ命令した。
2004年10月27日11時。
『……ザ……グリーンさん…ザ……聞こえますか……電気が付きました……返事を……』
突然通信機からテリー探偵の声が聞こえた。
「テリー探偵か?聞こえるか?」
俺が通信機に向かって話しかける。
『………聞こえ…ハァ…ます…ザ…まだ………さっきの…ハァ…核爆発の影響ですかぁ?……ザ……ハァ…』
ノイズ以外に荒い呼吸音が聞こえる。運動でもしているのだろうか?
「そうだ。放射能は沖へ流れて危険はない。そっちはどうした?」
『……ザ…ハァ……階段を登っているんで……ハァ……です』
ノイズは大分消えてきたが、息が途中で切れている。
「大丈夫か?」
『………あぁ。15分…前に……ハァ…ビルの一つへ行って……ゲーン一家と一戦交えた……そこには…ハァハァ…ギケーはいなかった。戦うのはリスクが大きい………ウッ……思ったんだが……ハァ……奴ら、手榴弾を投げて……危うく…死ぬところだった…クッ…』
息に混じって呻き声が聞こえた。
「おい!負傷したのか?……返事しろ!」
『………大丈夫だ……ただ、左腕にガラスが刺さってな……なに、既に応急処置は完了してる。……ウッ……ただ、打撲が多くて…ハァ……降りるだけで10分もかかった。……ハァハァ………イリスにその場を任せたから問題無い。……ヘレンは…ジュールと一緒に三つ目に行って、……ジュールが下で待っていた……ハァ……あいつ、オレの体の心配しやがって……クッ……こんな時ばかり年上ずらしやがって………もう直ぐ着く。……ここにヤツ、ギケーがいるはずだ!………ハァハァ…ハァ…』
「テリー探偵!トゥルース!」
通信が切れた。
……そうだ!
「警部!マーフィー警部返事してくれ!テリー探偵が大変だ!」
通信機のダイヤルをマーフィー警部に合わせ、必死に叫んだ。
『………通信が戻ったのか!何?トゥルースが大変!……あいつ、止めたのに無理しやがって!わかった。オレは応援を呼んだら、直ぐに行く!あんたはゴジラを何とかしてくれ!』
……大丈夫、だろうな?だよな。
2004年10月27日11時2分。
「ゴジラを探せ!」
スミス大佐が部下へ罵声を浴びせる。
「どうした?」
グリーンさんが聞いてきた。そう言えば、どこへ行っていたのだろう?
「機械や通信が回復したのは良いんだけど、ゴジラを見失ったんだ」
三神くんが説明する。
心なしか、この数時間で私の感覚というか性格が昔に戻ってきた様な気がする。……そう言えば、三神くんって呼んだ後は名前を略してミジンコくんって呼んでいたのよね。
………あれ?いつの間にか脱線している!
「ミジンコくん!私達、このままただ突っ立っていていいのかしら?」
「今までが動き過ぎてたんだよ。冷静に観察することも必要だ」
ミジンコくんは落ち着いた調子で答える。
「グリーンくん。ミッションだ」
クルーズさんがグリーンさんへ話しかけた。
「40分程前、リンカーントンネルを強行突破した三台の黒いバンがあったそうだ。それを調べてほしい」
「手がかりは?」
「これだ」
グリーンさんの問いに答えながら紙を出した。
『ゴジラ団参上!』と日本語で書かれていた。
「我ら東京ゴジラ団………」
ミジンコくんがボソリと言った。
「なんだ?それは?」
「50年前のゴジラ出現の時に東京の会社やらに、我ら東京ゴジラ団参上!と言うような手紙が送りつけてゴジラを利用して金を揺すり取ろうとした事件があったんだ。結局犯人は一人で、詐欺や恐喝の常習犯だったらしいけどね」
グリーンさんにミジンコくんが説明する。一体どこでそんな事聞いたのかしら。
「……となると、今回は間違いなく複数。偶然か模倣犯かはまだわからない段階だな」
そう言って、グリーンさんはしばらく目を瞑って考えた。
「よし、クルーズさん!例のアレを借りるぞ!ここにあるんだろ?」
グリーンさんがクルーズさんに何か言う。アレって何?
ミジンコくんもわからないようだ。
「アレか?気に入っているからな。きっと今回も使うと思ってアップグレードしておいたぞ。そこのうちから持ってきたトラックの中だ。壊すんじゃないぞ」
「わかってる」
そう言ってテントから出て行ってしまった。
「僕らも行こ」
好奇心が旺盛なミジンコくんが私を連れて後を追う。
一台のトラックの前にグリーンさんがいた。
「これが例のアレ?」
「そうだ」
「バイク?」
そう、それは白に赤と緑のラインが特徴的な大型バイクだった。
「特別な改造や装備を数々されている。その名もTATUMAKIだ」
「竜巻ね。……トルネード…サイクロンか?」
グリーンさんの話にミジンコくんが言った。
………バイク、サイクロン。どこかで……なんだ仮面ライダーか。くだらない……。
「あれ?これ一人乗りだぜ?」
ミジンコくんがサイクロン号………違う!TATUMAKIを見ながら言う。
「お前らはここで作戦を成功させる為に、知識を提供しろ!」
そう言うとグリーンさんはバイクを走らせて、行ってしまった。
2004年10月27日11時7分。
「お待たせしました。ニューヨークから映像が届きました」
キャスターが言う。
「これは通信が消えた瞬間の映像です」
映像が流れる。ニュージャージー州の海岸で撮ったものだった。海が盛り上がって、海の中で大爆発を起こした所までだった。
『この後キノコ雲を確認しました!』
「それは核爆発と言うことですか?」
『はい。ゴジラはその後上陸して、こちらからはわかりません。またわかりしだい中継します』
中継は切れた。
2004年10月27日11時8分。
アパッチは編隊を組んでゴジラを探していた。
『ダメだ。ヤツめ高層ビルの死角に隠れていやがる!三号機、四号機、そっちはどうだ?』
一号機と編隊を組んでいる二号機が聞く。
『わからない。次の角でそちらと合流する』
三号機が返事をする。
『了解』
しばらくして四機が合流した。
アパッチは14番通りを移動していた。この後ニューヨーク大学を迂回して、ブロードウェイへ周り更にもう一周コースを変えて回る予定だ。
『おい!あれは……ビルが!』
1号機に促され、三機のパイロットが道なりに建つビルを見る。
『ビルに穴があいているぞ!』二号機が叫ぶ。
『ホバリングして様子を伺え!』四号機が指示をする。
ビルは下から十七階までがきれいに崩れて穴になっていた。
四機は本部へ連絡したのち、付近を捜索した。
三号機はビル内を調べていた。日の光が当たらない所もライトをつけて慎重に探していた。
『おい。奥が空洞になっているぞ!』と三号機が言う。
『よし。ゴジラが死角に隠れているかもしれないから………』
『グォォォンン!ザー……』
本部から連絡の途中で、咆哮が聞えた後、通信が切れてしまった。
『ゴジラです!ビルに隠れていたゴジラがビルを崩しました!三号機はビルもろとも崩れてしまいました!』二号機からだった。
ゴジラは隣接するビル内部を破壊して、地下階層が崩れた為に深いゴジラをも隠す程の穴が出来たのだった。
しかし、ビルは直ぐに耐えられなくなり、あえなく三号機もろとも崩れてしまった。
間もなく崩れた瓦礫からゴジラが姿を現した。
『攻撃開始!』
本部のスミス大佐が戦いの火蓋を落とした。
三機はミサイルを発射する。
しかし、ゴジラは動じない。
『尻尾に気をつけろ!低く飛ぶな!』
一号機が二機に注意をした。
だが、その刹那!警戒していたはずの尻尾が襲いかかってきた!
『一号機が破壊されました!』4号機が叫ぶ。
『あの野郎!体を倒して尻尾を上げやがった!』二号機が言った。
『距離を取れ!尻尾が届かない高さで戦え!』
スミス大佐が大声で指示を出す。
ゴジラが暴れる。そしてその先にはブロードウェイへ繋がっていた。
二機は編隊を組み、必死の攻防をしていた!
しかし、ゴジラの足を止めるまでには至らない。一歩一歩、ゴジラはブロードウェイへと近づいていく。
ブロードウェイはいつものまま、人がいなくなった状態だった。EMPによる停電が回復し、電源スイッチが作動していたのだった。
『次の角でミサイルを撃ったら、二手へ別れて、ゴジラを攪乱しよう』
『そのままブロードウェイへ向かったら?』
四号機の作戦に二号機が聞く。
『後ろから一斉射撃をする』
『いい作戦だ!』
二機は次の角で作戦を実行した!
素早く向きをゴジラへ向けミサイルを発射!
そして、次には二手に別れた。
『成功したか?』
二号機が聞く。
『おい。ゴジラがいないぞ!』
四号機が慌てる。作戦失敗だ!
『焦るな!』二号機が叫ぶ。
四号機が角へ戻った。
すると、ゴジラは角に立っていた。
『このデクノボー!』
四号機が罵声を浴びせ、ミサイルを一気に撃ち放つ!
グォォォ!
先とは違う鳴き声だ!
『効いているぜ!』
四号機が笑った。
………グァッン!
四号機が突然、煙の中から現したゴジラの口から放たれた息吹に吹き飛ばされた!
四号機は襲撃で爆発し、そのままビルへ突っ込んだ!
そして、今度は後片もなく爆発した!
『ゴジラの息吹で四号機は吹き飛ばされ爆発しました!』
聞こえたのは二号機の声だけだった。
『もう戻れ!戦略を立て直す!』
『間に合いません!』
二号機はゴジラの渾身の飛びかかりによる噛みつきによって、無惨にもゴジラの口によって破壊はれ、その後地面に吐き捨てられた。