地球最終防衛戦線 アルマゲドン
>最終防衛戦線
「DⅡ作戦、開始!」
数時間後、轟天号は作戦を開始した。目の前には中心が空洞になった巨大な隕石、グローバル・キラーが迫っていた。
「あの中心に空間転移砲を放てば、作戦は成功だ」
『安心しろ、轟天号! 失敗したら、黒鮫号が破壊する』
黒鮫号からブラックの通信が入る。綾瀬は苦笑して、言った。
「その気遣いにはおよばねぇよ!」
『期待しているぜ!』
そして、黒鮫号は作戦の邪魔にならないよう、轟天号の後ろへ回った。
轟天号とグローバル・キラーは退治した。
「ギリギリまで待て。座標通りに空間転移砲が放たれなければ意味が無い」
綾瀬は汗を拭って言った。
「グローバル・キラー、作戦座標へ………到達!」
「よし、空間転移砲! 撃てぇ!」
綾瀬が叫んだ。
しかし、空間転移砲は放たれない。
「どうした?」
「………遠隔装置に故障を確認」
「ま、またか!」
綾瀬は机を殴った。
「落ち着いて、元々20年前にD作戦で使われた物と一緒に作られたものよ。同じ場所に欠陥があっても仕方ないわ」
澄子がなだめる。
『ママ! ……じゃなくて、副官! 私が、行きます!』
「歩美、お願い」
『了解!』
歩美は通信を切った。
「………あった! この回路ね。……嘘」
歩美は声を詰まらせた。そして、少し思案し、決意を決めて、ディメンション・タイドから飛び出した。
「ドリルミサイル発射準備に入っています!」
「なんだって!」
綾瀬は叫んだ。彰人が聞く。
「なんですか? ドリルミサイルって」
「ディメンション・タイドが搭載されているあの先端部のドリルだ。アレは最終的に、ドリルミサイルとして発射できる様に改造をしてあるんだ」
「まさか! それをやっているのは!」
彰人はすぐに通信を入れた。空中に歩美の顔が浮かぶ。
「どういうつもりだ!」
『彰人、ごめん。……ディメンション・タイド、遠隔装置が壊れると同時に、空間転移砲も機能しないみたいなの。だから、私がこのまま一緒にディメンション・タイドを起動させて、隕石を消滅させる』
「「歩美!」」
『パパ、ママ。ごめんね。二人より先に行って、でも私が皆を守る』
「歩美ぃ!」
二人は涙を浮かべる。そして、綾瀬は机を叩く。
「させるかぁあぁあああ!」
突然、彰人が大声を叫ぶと、武器コントロール装置をスパナで破壊した。
「彰人!」
「………いくらドリルミサイルのコントロールを奪っても、全体の制御はこっちが中枢だ。中枢を壊したら、全ての武器は強制終了する。……勝手に、死なせはしない!」
乗組員達に取り押さえられた彰人は言った。
「歩美、戻って来い。………DⅡ作戦は、失敗だ」
綾瀬は涙を拭って言った。
『……了解』
歩美は頷いた。それを確認すると、綾瀬は黒鮫号に通信をいれた。
「DⅡ作戦は失敗した。なんとしても、破壊をしてくれ」
『了解だ。そっちの武器は?』
「現在全ての武器が使えない」
『そう言う事か。了解した。後は任せておけ』
ブラックは敬礼した。そして、黒鮫号を轟天号の前に出し、グローバル・キラーに向わせた。
「パパー!」
歩美がブリッジに戻ってきた。その瞳一杯に涙をためていた。
「「歩美!」」
綾瀬と澄子は歩美を抱きしめる。
「ごめんなさい」
「もういいんだ」
「………ねぇ、彰人は?」
「え?」
ブリッジには、先程までいた彰人の姿がなかった。
「ありったけの火力をぶち込め!」
ブラックは叫んだ。乗組員達も野太い声を上げて、次々にミサイルを放つ。
「ケチるんじぇねぇぞ! 地上に残っていた核ミサイルを全て積み込んだんだ! 核撲滅に貢献するつもりで、全て注ぎ込め!」
黒鮫号の前方に鮮やかな光が次々に迸る。核兵器がグローバル・キラーで爆発しているのだ。
「かなり硬いな。………N2も使用しろ!」
最強の火力兵器といわれるN2爆雷を黒鮫号は放った。戦術核兵器を超える局地的な破壊力を持つ爆雷の爆発がグローバル・キラーを破壊する。
「効いているな! まだまだ、黒鮫号は続くぞぉ!」
ブラックは鬼気迫った表情で叫んだ。
しかし、強固なグローバル・キラーは尚も、欠片を撒き散らしつつも、巨大な姿を維持していた。
「彰人!」
歩美は叫んだ。そして、彰人の下へ走る。しかし、その手前で、廊下に防御扉が閉まった。
「彰人! どうして?」
歩美は扉を叩いた。彰人がいるのは、先程自分がいたドリルミサイル内である。
「ごめん。………だけど、やっとわかった。僕は歩美を守りたい。その為なら何だってできる。轟天号を破壊する事も、ドリルミサイルを奪取する事も、命を捨ててでもあの隕石を破壊する事も」
「ダメ!ダメよ! そんなの、勝手だわ! 自分勝手! 自己中心!」
「何だって言えばいい。………それでも、僕は歩美を守る為なら、世界を破壊しても構わない。道理を無視しても、自分の考えを否定しても、僕は歩美を守る!」
そして、彰人はディメンション・タイドの制御装置を点検し始めた。
「………やっぱり、遠隔装置は起動に関するものだ。これでは、空間転移砲も起動しない。でも、僕の仮説が正しければ、僕は歩美を守れる」
「待って! 絶対に死なないで!」
「わかっているさ。守って、勝手に死なれる人間の気持ちは僕がよくわかっている。………生き残れるかもしれない。でも、その保障はわずかしかない。生きるつもりでは決してこの手段は選べない。………でも、僕は歩美を守る為に、命を賭けてこの手段を選ぶ」
「必ず、生きて。生きて戻ってきて……」
「わかった。僕の運を信じてくれ。………歩美、この先の未来、僕らは兄妹なのかな?」
「え?」
「いや。愛しているよ、妹よ!」
そして、彰人はドリルミサイルの制御システムを再起動させた。
「……費えたか」
ブラックは苦笑した。グローバル・キラーは大きな亀裂を走らせ、崩壊手前という状態にして、全ての武器を使い果たした。
「あれでも崩壊させるには、かなりの火力が必要だ。この艦にはもう………いや、あったな」
ブラックは不敵な笑いを浮かべた。
『ブラック艦長!』
「おう! 綾瀬艦長か!」
『DⅡ作戦だが、若者一人が暴走して、特攻でディメンション・タイドを使用しようとしている』
「……ふっ。それはとても面白いな。流石、日本人だ」
『え?』
「それには及ばん。我々も同じ事を考えていた」
『何?』
「この黒鮫号に使用しているエネルギーは、核だ。神風アタックが日本人の専売特許だったのは、昔の話だ。………お前達は精々、元気で暮らせよ。地球を頼んだ!」
そして、ブラックは強制的に通信を切った。再び表示される通信をブラックは決して応じようとはしなかった。
「黒鮫号、グローバル・キラーの外側に最大全速で特攻します!」
そして、黒鮫号はグローバル・キラーに特攻した。刹那、大爆発が起こり、一気に亀裂の生じていたグローバル・キラーは崩壊した。
「バカ!」
綾瀬は机を殴った。いつの間にか、机がへこんでいた。
『まだ、終わりじゃありませんよ』
「彰人……」
その場に浮かんだモニターに写っていたのは、彰人であった。
「一体、どうやって………」
『元々、同じ戦艦です。通信を奪う事くらい、知識があれば簡単にできますよ。……それよりも、グローバル・キラーは崩壊しましたが、無数の隕石が地球を襲います。僕は、それを防ぎます』
「ディメンション・タイドを使うのか?」
綾瀬の問いに、彰人は静かに頷いた。
『正直、生還できる可能性は殆どゼロです。僕も叶うならば、地球に生きて帰りたい。しかし、この状況です。だから一言、言いたかった。綾瀬さん、貴方は僕にとって、もう一人の父親です。叱ってくれて、ありがとうございます』
「馬鹿者……」
『澄子おばさん、僕にとっての母親は、貴女です。今まで育てていただいて、ありがとうございます』
「彰人君………」
『轟天号の皆さんも、ありがとうございます。皆さんのお陰で、僕はこうして戦う意味を理解できた。本当に、ありがとうございます』
轟天号の全員が涙を流していた。そして、彰人の声はまだ響く。
『そして、歩美。ありがとう。君のお陰で、僕は守るべきものを見つける事ができた。僕は、君を守る為に、戦う』
「………彰人!」
ブリッジに歩美が駆け込んできて、叫んだ。
『………歩美』
「こんな勝手な事して……。もう二度と兄なんて思わないんだから! ………帰ってきたら、私と結婚しなさい!」
「あ、歩美?」
思わず澄子が顔を上げる。
「兄妹じゃないなら、簡単じゃない。妹の為に行ったら、如何にも死にそうじゃない! 好きな女の為に戦いに行って、死ぬなんて、今の時代、かっこ悪いわよ!」
『………そりゃ、面白い。いいよ!どうせ、この先の未来、僕はゴキブリの世話を続けるくらいしかする事がないんだ。ちょっとくらい、ドラマチックな未来もいいかもしれない』
「約束よ!」
『あぁ。……生きて帰ったら、結婚式を挙げるぞ!』
そして、彰人は通信を切った。
まもなく、轟天号のドリルミサイルは発射され、グローバル・キラー残骸に向かって突き進んだ。
やがて、中心に達した時、眩い光が残骸を包み込み、次の瞬間には、全てが消滅していた。
こうして、地球は救われた。