地球最終防衛戦線 アルマゲドン
>ディメンション・タイド
バトラが壮絶な最期を繰り広げてから、3日が経った。
『今の大きさならば、間違いなく我々の戦力で破壊できます!』
ゴルドンは通信しているブラックの意見を聞いていた。
「確かに。破壊は出来るだろう。しかし、先日の隕石群の影響で、宇宙の施設はボロボロだ。更に、いくつかのシェルターも耐久力に疑問視が上がっている。DⅢ作戦を強行し、甚大な被害を出す訳にもいかない」
『しかし! ………どうやら、地球は時間が出来て、気が緩んでいるようですな。目の前に20kmの巨大隕石を眺めている我々とは危機感が違いすぎる!』
ブラックは憤った。
「だから、DⅡ作戦を行うのですよ」
「え?」
そこへやってきたのは、杉山であった。
「彼は、了承したのかね?」
ゴルドンは聞いた。
「とりあえずは。彼自身、バトラの姿を見て、何かしようと考えたのでしょう。まだ納得はしていないようですが」
「そうか。………轟天号は?」
「出れます。小美人をインファント島に降ろし、現在日本で宇宙へ合わせて調整中ですので、5日は待ってください」
「わかった。………そういう事だ。ブラック艦長、もうしばらく隕石の様子を見ていてくれ」
『了解』
ブラックは通信を切った。
「ほらほら! 20年モノの超弩級大型ロケットなんだから、気をつけて移動しなさい!」
歩美の声が周囲に響く。彼女の目の前には、山の様な巨大な金属の絶壁がある。
「……しっかし、デカいわね。バトラといい、コレも大きさがkm単位だわ」
歩美は1kmの巨大な金属の塊を見上げて呟いた。上の方が霞んで見える。
「歩美、お弁当よ!」
澄子が轟天号の甲板から身を乗り出して叫んだ。
「ありがとう! ………コラァ!もっと静かにセッティングしろぉ!」
轟音が響き、歩美は作業員に怒った。知識と技術の関係で、彼女が超弩級大型ロケット、マーカライトジャイロの設置作業責任者になっている。
「………へぇー。彰人の設置作業も上手じゃない」
歩美は轟天号の先端部を見て呟いた。先端部のドリル中央に、ディメンション・タイドをセッティングしている。当然、監督者は彰人である。
「彰人ぉ! そっちはどう?」
歩美の声に気がついて、彰人は答えた。
「もうすぐ完了する! 今の技術を組み合わせれば、空間転移する座標と大きさを組み合わせれば、空間転移砲として射出する事も可能かもしれない!」
「テストするんでしょぉ?」
「明日やる!」
「わかったー!」
そして、歩美は肩をならすと、マーカライトジャイロを眺めた。
翌日、富士山麓にある地球防衛軍日本支部演習場に轟天号は待機していた。
「エネルギーレベル、異常なし」
「ディメンション・タイド、異常なし」
「その他、環境的影響も異常なし。いつでも出来るわ」
澄子達からの報告を聞くと、綾瀬は頷いて、号令をかけた。
「ディメンション・タイド、起動試験開始!」
ディメンション・タイドが起動し、エネルギーを充填し始める。
「………充填完了」
「よし! 空間転移砲、発射試験に移行する。……撃てぇ!」
綾瀬の叫び声と共に、轟天号の先端部にあるドリルが輝き、中心に形容しがたい不可思議な光の玉が形成される。そして、それは解き放たれた。
その光の玉は、標的がある場所で眩い光が迸った。そして、失った空気を補う為、風を吸い込むと、そこには巨大な穴が開いていた。
「実験、成功です」
「ご苦労!」
綾瀬は満足気に言った。
4日後、全ての準備が完了し、轟天号を搭載したマーカライトジャイロは発進準備に入っていた。
「今日も今日で、見送りはなしか」
綾瀬がモニターで周囲の映像を確認して呟いた。
「我慢しなさい。帰還した時は沢山の迎えがいるのだからね」
澄子に窘められ、苦笑すると綾瀬は発進の合図を出した。
まもなく、マーカライトジャイロは轟音を立て、地上を飛び上がった。そして、爆発に近い各段のロケット離脱の衝撃に揺れながらも、轟天号は大気圏を飛び出した。
「想像以上の衝撃だな。皆、無事か?」
「なんとか………」
荒れ放題になった船内であったが、乗組員は全員無事であった。
「おい、あれだな」
綾瀬はモニターを見て、指差した。一同、それを見た。
「大きいな」
「あれでも、バトラが大半を消し飛ばしたんだ。………身震いするぜ!」
「アレを、消すんだな」
「燃えるな」
乗組員達は口々に感想をもらす。士気は下がるどころか、上昇していた。ただ一人を除いて。
「あんな、巨大なものを消せるのか? ………父さん」
彰人は失敗の恐怖に打ち震えていた。
「いいか! この地球と月の間が俺達の作戦宙域だ。ここが最終防衛戦線だ! ………守るぞ」
綾瀬は言った。乗組員達が野太い声を張り上げる。
「後は時間まで待機だ。数時間というところだが、各々ゆっくり休め。以上!」
綾瀬の号令と共に、彼らは思い思いの時間を過ごし始めた。
「………休憩だってのに、やっぱりここにいた」
「歩美か。いいだろ、どこにいて、何をしていたって」
彰人はディメンション・タイドの点検をしていた。整備室には歩美と二人だけだ。
「……やっぱりだ! 宇宙へ行く衝撃で、一部の調子が悪くなっている。歩美、手伝ってくれ!」
「あ、うん。わかった」
二人はディメンション・タイドの中を調整し始めた。
「彰人?」
「ん? なんだ?」
「彰人にとって、守りたいものってないの?」
歩美の問いに彰人の手が止まる。
「わからない。少なくとも、僕には家族がいない」
「私は?」
「え………」
「私は彰人にとって、守りたいものじゃないの?」
「それは……わからない。確かに、歩美は僕にとって妹も同然だ。でも、本当の兄妹じゃない」
「………本当の兄妹ってなに?血の繋がり?私達、一緒に育ってきたのよ?それでも赤の他人なの?」
「………」
「少なくとも、私は彰人を本当の兄だと思っているわよ。何があっても守りたい。大切な存在よ!」
「………出ろ。調整は完了だ。これ以上は動かしてみないとわからない」
「ちょっと! まだ話は終わってないわよ!」
歩美の言葉を背に、彰人はその場を後にした。