地球最終防衛戦線 アルマゲドン
>作戦
翌日、地球防衛軍大会議室には世界中の支部から人が集まっていた。
『………モスラがいない為、確信を持ってお話をする事はできませんが、数週間以内にこの地球は存続の危機に瀕してしまいます。』
小美人は会議室の中心に立ち、説明をした。
「ありがとうございます。………彼女達がお話された事実は、昨晩の段階で確認が取れております。詳細はこれから担当から説明があります」
ゴルドンは宇宙物理学者を促す。彼は各テーブルの上に画像を映すと、説明を開始した。ゴルドンは中央の席に座り、話を聞く。
「……したがって、仮にこのテキサス州程もある超巨大隕石を"グローバル・キラー"と呼称しますが。グローバル・キラーが地球へ接近……いえ、衝突するまでの時間は20日です。小美人のお二方が話した事は紛れもない事実です」
宇宙物理学者の最後の言葉に、会場中がざわめく。緊急事態に慣れている筈の地球防衛軍上層部でもこのざわめき、果して民間人はこの未曾有の危機を受け入れられるだろうかと考えつつ、ゴルドンは彼に最も重要な質問をする。
「防ぐ方法は?」
「それは私よりも皆様の専門かと思いますが…、隕石をなくすか、地球を逃がすしか方法はないでしょうね」
宇宙物理学者の言葉にゴルドンは、椅子に深く沈んだ。
「核ミサイルを撃ち込んで破壊するのは?」
一人の男が聞いた。しかし、宇宙物理学者は首を横に振る。
「残念だが、あそこまで巨大な隕石となると、破壊したところで欠片となって無数の隕石が地上に降り注ぐのみで、人類滅亡という結末には変わりませんね」
「ならば、地球を逃がせば!」
別の男が言った。
「例え可能だとしても、時間がありません。せめて100日はないと、地球を移動することはできませんね」
「うーむ」
ゴルドンは資料を眺めながら唸る。
「………ならば、隕石をこの空間から消滅させてしまえばいいのではないですか?」
全員の視線が一人の男に集中した。杉山であった。
「杉山日本支部総司令官、そんなことが可能なのかね?」
「お忘れですか? 我々は20年前、東京を犠牲に怪獣ゴジラを消滅させたのですよ」
杉山の言葉に一同がどよめく。
「しかし、ディメンション・タイドを開発した澤本博士は、確かゴジラと共に死亡してしまったはずでは?」
ゴルドンが聞くと、杉山は頷いた。
「公には明かしておりませんが、彼の一人息子が今の尚、予備に残されたディメンション・タイドを管理しているのです」
「つまり、ディメンション・タイドによる消滅作戦、かつてのD作戦を再び行うという事かね?」
「その通りです。……DⅡ作戦とでも称しておきましょうか。ラ級宇宙戦艦ならばディメンション・タイドも搭載できると思います」
「しかし、ラ級などと旧式の大型宇宙戦艦で現役は、黒鮫号一隻ではないか?あの高起動万能宇宙戦艦を使用して万が一失敗してしまったら、それこそ核兵器を超える火力で破壊という最終手段も講じる事ができない」
「そうだ! 黒鮫号の火力と機動力ならば、核ミサイルくらいでは破壊できない巨大隕石を破壊する事も不可能ではない筈だ!」
周りからゴルドンの意見に合わせて、野次が飛ぶ。
「確かに、我が地球防衛軍の火力を黒鮫号に積めば、地球は無事で済むはずはないが、人類が生き残れる可能性は僅かでもあるかもしれません。何も、私は皆様の希望を摘む訳ではありません。………もう一隻、残っているではありませんか。ゴジラと最後まで戦い、辛くも離脱し、現存するラ級万能宇宙戦艦第一番艦、轟天号が」
杉山の言葉に、全員が笑った。
「君、確かに轟天号は現存し、定期的なメンテナンスにより、現役といえる。しかし、既に宇宙へ行く為に必要なユニットは、轟天号に対応するものは現存していない。あれが万能であるのは、地球上でしかない」
「その事でしたら、まだ残っていますよ。D作戦の予備であるZ計画のものですが」
「あれがまだ残っているのか?」
ゴルドンの疑問に、杉山は頷いた。
「超弩級巨大ロケット、マーカライトジャイロは轟天号と共に、日本に今も残されています。如何でしょう? 黒鮫号による巨大隕石破壊計画をDⅢ作戦として、DⅡ作戦は準備に時間がかかるのは目に見えている。DⅡ作戦が間に合わない、失敗した場合にはDⅢ計画を行うというのは?」
「うむ。私はそれがいいと思う。DⅢ作戦の場合、地上への被害は無視をできない。ゴジラを超える怪獣が現れた際のガイドラインで、確か地下巨大シェルターへの避難計画と宇宙への移住計画があったな。これを参考に、民間人には避難を誘導してくれ。それならば、無意味なパニックを生まずにすむ。異議はないかね?」
ゴルドンは見回す。異議を申し立てる者はいなかった。
「では、ブラック艦長に黒鮫号は至急作戦準備を始めるように伝えてくれ。……轟天号艦長の選任は、杉山司令官に一任する」
「了解」
「DⅡ作戦は、どれくらいで準備ができる?」
「出撃自体の準備は、1週間あれば出来ます。月の衛星軌道を回って迂回したとしても、轟天号ならば2日あれば十分です。10日で作戦決行可能だと考えられますが、一つだけ問題があります」
「問題?」
ゴルドンが聞くと、杉山は苦笑まじりに言った。
「肝心のディメンション・タイドを使用させてもらえるかどうかわかりません」
筑波山の麓にある一軒家の前に、杉山は立っていた。表札には『澤本ゴキブリ研究所』と書かれていた。
呼び鈴を鳴らし、玄関で待つと一人の男が現れた。
「お待たせして申し訳ありません。餌の時間でして……」
「澤本彰人さんですね? 地球防衛軍日本支部総司令官の杉山です」
「……奥へどうぞ」
彰人は居間へ案内する。廊下にはゴキブリが入ったケージが所狭く並んでいる。
「どうぞ、粗茶ですが」
「すまない……」
お茶を受け取るが、杉山は飲もうとしない。
「あ、ちゃんと手は洗っていますから」
彰人が言うと、杉山はお茶に口をつけた。
「それで、ご用件はなんでしょうか?」
「唐突な話で恐縮なのだが、後18日で全長1200kmにも及ぶ超高速巨大隕石が地球に衝突することが判明致しました。………隕石を消滅させる為にディメンション・タイドを使いたい」
しばらく沈黙が続いた。
やがて、彰人は立ち上がると杉山に言った。
「こちらへ、見せたいものがあります」
彰人に連れられ、杉山は筑波山を車で登った。
「見て下さい」
関東が展望できるのではないかという景色が開けた場所へ連れて行くと、彰人は杉山へ言った。
「あっちに何があるかわかりますか?」
「東京。いや、かつて東京があった所だ。今は海上都市だ」
遥か遠くであるが、夕日に染められた都市が巨大な円形の湾の中に見える。
「えぇ。あそこには深さ数kmにわたる球体状の空間があります。ディメンション・タイドによって消滅した東京です」
「………空間を消滅させる兵器、ディメンション・タイド。その脅威は十分に承知している。しかし、この地球を救うためなんだ、我々に使わせてくれ」
杉山は頭を下げ、彰人へ言った。
しかし、彰人は首を横に振った。その瞳に涙を浮かべて彼は言った。
「僕は、父ではありません。ディメンション・タイドを作る技術もなく、その原理も理解を出来ていません。この20年、父から託されたディメンション・タイドを兵器ではなく、平和の為に利用しようと勉強を続けました。……しかし、僕に出来たのはゴキブリの生態研究だけでした。僕には、ディメンション・タイドを扱う資格がありません。ましては以前数kmの空間転移を行ったのに対し、今度はその千倍に近い。父の理論の上では可能ですが、僕にはそれを信頼するだけの頭脳がない」
「別に君が使う必要はない。宇宙には地球防衛軍の精鋭達が向う」
「確かに。道具は誰でも使えます。でも、それは第二の核を生み出す事と変わりません。戦争がなくなった今だって、人は人です。ゴジラがいたから、人々は兵器としての核を捨てる事ができた。でも、もし芹沢博士が、オキシジェン・デストロイヤーが残存していたら、果たして地球防衛軍はあったのでしょうか? ……そんな責任を僕は耐えられない」
「君は、ディメンション・タイドを残した澤本博士を恨んでいるのかね?」
「恨んでいるわけではありません。しかし、僕は父がゴジラと共に消滅する道を選んだのは、ディメンション・タイドと自分の存在が世界の平和を乱す事を恐れたのだと思っています」
「それは………」
「違うと言い切れますか?」
「いや」
「そういう事です。僕はディメンション・タイドを管理します。しかし、それは同時に誰にも使わせはしないという意味です」
その後、杉山は筑波を後にした。その後、DⅡ作戦は見送られ、DⅢ作戦が実行される事になった。