地球最終防衛戦線 アルマゲドン
>20年前
燃え盛る東京では、地響きと爆音が轟き続けていた。
戦火の中心にいるのは、ゆうに50mは超える巨大な怪獣、ゴジラの姿があった。
司令室には、大人達が緊迫した表情で戦況を見る。
「第一部隊、壊滅的です」
「もう少しだ! もう少しで作戦地域に入る。……東京を犠牲にするんだ。失敗は許されないぞ」
司令官は汗を滲ませていう。
『モスラも最後の力を振り絞って戦います。』
彼の前にある机から声がする。一尺にも満たないかもしれない小さな美女が二人立っている。人々は彼女達を"小美人"と呼び、自らをモスラの従者だと言う。
「しかし、モスラは既にゴジラとの戦いで幼虫を失っている。………絶滅してしまいますぞ」
司令官は小美人に言う。彼女達は静かに首をふった。
『モスラも、私達も、地球に住む皆様を守る為に戦っています。ゴジラを倒す為ならば、命も惜しみは致しません』
そして、小美人は歌を歌い始めた。司令室に安らかな歌声が流れる。
「杉村艦長、轟天号は動かないのか?」
司令官は言った。空中に男の顔が映し出される。
『何とか再起動にこぎつけましたが、絶対零度砲を始めとする全ての武器がもう使い物になりません。作戦区域からの離脱が限界です。………状況は?』
「第一部隊が壊滅的だ。今、モスラが向かっている。辛いであろうが、君達は時代を担う大切な存在だ。……離脱してくれ!」
『……了解』
杉村艦長は、その瞳に涙を浮かべて敬礼をした。
壊滅した超高層ビル群の上空を巨大な蛾のシルエットが現れる。小美人は、この怪獣をモスラと呼び、地球を守護する聖獣という。
既に長い戦いにより大きな翅は焼けただれ、破れている。月明かりを反射し青く輝く大きな複眼も、その輝きにくすみが見える。
モスラが向う先には、空に伸びるメーサー殺獣光線が標的とするゴジラがいる。
モスラの接近に気がついたゴジラは、放射熱線を放つ。放射熱線の青白い光線は、隊列を組んだメーサー殺獣光線車隊を瞬く間に跡形もなく破壊する。そして、その勢いを殺さず、放射熱線をモスラに向けて放った。
モスラも麟粉を纏い、全身を輝かせてゴジラに体当たりを仕掛ける。
刹那、ゴジラとモスラがいた場所で大爆発が起こった。モスラは爆発四散し、肢や翅の残骸が周囲に飛び散る。
『モスラは燃え尽きました』
小美人は静かに言った。司令室に感情を押し殺した重苦しい空気が広がる。
「………ゴジラは?」
司令官は聞いた。空中にゴジラの姿を映した映像が浮かぶ。
「……まだ生きています」
「なんて奴だ!」
司令官は報告を聞き、机を殴った。
そんな司令室に、一人だけ少年がいた。
「大丈夫よ、お父さんは必ず成功させるわ」
少年の隣に立つ女性隊員は笑顔で言った。
「………」
少年は無言で空中映像のゴジラを眺める。
突如、空中映像に30歳前後の男の映像が浮かんだ。緊急回線を使ったのだ。
『澤本です! ………厄介な事になりました』
「澤本博士、どうしました?」
『ディメンション・タイドの遠隔操作装置が今の爆発で故障しました』
「修復は?」
『ここでは不可能です。………手動で操作をします。これなら、ゴジラにディメンション・タイド自体を運ぶことも可能です』
「しかし、それでは澤本博士が………」
『彰人を、息子をお願いします』
「わかった」
司令官は頷いた。そして、呆然と司令室に現れた父親の映像を眺めていた彰人をカメラの前に促す。
『彰人…』
「お父さん!」
『いいか、よく聞くんだ。お前のところへ戻るという約束は果たせそうも無い。……ゴジラを消す為に、お父さんも一緒に消滅する。』
「お父さん! 嫌だよ…戻ってきて」
『それはできない。…いいか、いつかお前にもわかる時がくる。その日までお前の成長を見てやれなくて残念だ』
「お父さん……」
『生きろ』
その一言を残し、通信は切れた。まもなくして、まばゆい光と共にゴジラは、東京と少年の父親を道ずれに消滅した。
ディメンション・タイド。それがオキシジェン・デストロイヤーに継いで、二度目にゴジラを消滅させた兵器の名前であった。