地球最終防衛戦線 アルマゲドン


>大団円

 数時間、轟天号は付近を捜索した。
 しかし、彰人の生存を示すものは一切、見つからなかった。残されているのは、ディメンション・タイドで歪んだ空間が漆黒の闇の中に存在するだけであった。
「はい、ココアよ」
「ありがとう」
 澄子は歩美にココアの入ったマグカップを渡した。歩美はそれをゆっくりと飲んだ。熱かった。
「もう涙は枯れた?」
「わからない。………でも、もう泣く事に疲れた」
 歩美は隕石が消滅してから、泣き続けていた。目頭が赤く腫れている。
「いつから、彰人君の事を好きだったの?」
「わからない。もしかしたら、初めて会った時からかもしれない」
「私達がいけなかったのかもね。養子として育てたから、二人は兄妹として育ってしまった。頭や気持ちでは、結婚もできる血の繋がらない関係だとわかっていても、兄妹という囲いを二人の関係にはめてしまった。ごめんなさい」
「いいの。私も、彰人を兄だと思うようにしていた所があったから。だって、そうすれば、いつでも甘えられるし、決して嫌われないで、彰人から愛情を与えられるから」
「きっと、彰人君も同じだったんじゃないかしら」
「そう………かな?」
「きっと、ね」
 それを確認する事はもうできない。そう考えると、二人に悲しみがこみあがる。


「救難信号です!」
「本当か!」
 綾瀬は駆け寄る。モニターに座標が表示される。
「月か。信号は?」
「黒鮫号のものです」
 一瞬、落胆の表情が浮かぶが、すぐに気を取り直して綾瀬は指示を出した。
「とりあえず、救助に向うぞ」
「了解」
 轟天号は月に向って進んだ。その横で、空間の歪みから黒い影が出ようとしている事にまだ彼らは気がついていなかった。


「救難信号、発信地点です」
 月表面の上空を移動しながら、轟天号は救難信号の元を探した。
「ありました! P-1号です」
 月に不時着しているP-1号が映し出された。
「通信が繋がりました」
『お! やっと繋がったか!』
 ブラックの顔が映し出された。
「無事でしたか」
 綾瀬が苦笑交じりに言った。
『辛気臭いな。何、本当は死ぬ気だったんだが、助けを求められてな! 脱出のできるような小型宇宙艇の一つも乗っていないか、って言われたからな、P-1号を思い出して、全乗組員を押し込んで脱出したんだ。早く助けてくれ! 空気がもうないんだ!』
「わかった。今から救出する。………ところで、誰に言われたんだ?」
『コイツに決まっているだろ!』
 そう言って、ブラックに突き出されたのは、彰人であった。
「彰人!」


 詳しい話は、救出後にされた。
「ココア、ありがとうございます」
 澄子からココアを受け取り呑み終えると、彰人はゆっくりと話し始めた。
「元々、遠隔装置と座標と範囲を指定する装置は別々だったんです。それは父さんの時も同じです。あの時、父は手動ならばゴジラの目の前でも使用できると言っていた。あれは、装置を動かして手動で起動させるという意味ではなく、装置を動かしてもすぐに座標の修正ができるという意味で言っていたのです」
「そんな話は………」
「僕もさっきやっとわかったんです。元々、ディメンション・タイドの詳細は父しか知りません。だから、僕も故障した遠隔装置を確認していた時に初めて知ったのです」
「じゃあ、最初は死ぬつもりで?」
 澄子に聞かれ、彰人は苦笑した。
「すみません。………でも、それがわかれば、後はドリルミサイルを設定するだけです。ミサイルの達する座標をディメンション・タイドに設定した座標に合わせれば、後は自動的に発射されますから。とはいえ、武器のコントロールは僕が破壊してしまいましたから、中から発射させるしかない」
「だから、俺達に脱出する方法を教え、発射されたドリルミサイルから自分を助けるように頼んだって訳だ」
 ブラックが横から告げる。
「成功する可能性が低い為、過度に希望を持たせる訳にもいかなかったので、黙っていました。ごめんなさい」
 彰人は頭を下げた。
「謝る相手が違うぞ」
 綾瀬は歩美を目で示した。彰人も立ち上がり、歩美の前に立った。
「心配かけて、ごめん」
「………」
「許して………」
「許さない!」
「え!」
「絶対に許さない! 散々心配かけて! 責任取りなさい! 結婚しなさい!」
「……え?」
「もう、もう二度といなくなったりなんて、させないんだから!」
 そして、歩美は彰人に抱きついた。皆、温かい視線で彼らを見守った。


「さて、地球に帰るぞ!」
 綾瀬が言った。皆、一斉に応えた。
『オォー!』
 そして、轟天号は月から離れる。
 その時、警報が鳴り響いた。
「どうした?」
「怪獣の反応です! しかも、これは………ゴジラ!」
 一瞬にして、艦内に緊張が走る。彰人が前に出る。
「映像を!」
 映像が表示される。そこには、宇宙の歪みの中から出てきた黒色の怪獣、ゴジラの姿であった。
「ゴジラ。だが、姿に少し違いがある。両肩に生えているのはなんだ?」
「見たところ、結晶の様です」
 綾瀬の疑問に澄子が答えた。
「あのゴジラだ」
 彰人は言った。綾瀬が、彰人を見る。
「父さんが命を賭けて空間の狭間に消した、あのゴジラだ。ディメンション・タイドの空間転移で、ゴジラが這い出てきただ。恐らく、想像もできないような異空間を経て、あの姿に変えたんだ」
「空間転移をも超越したのか、ゴジラは………いや、もはやスペースゴジラと称する方が適切かもしれない」
 綾瀬はスペースゴジラを見て言った。
「あれが、もしかしたら本当の天空からの驚異かもしれない」
「そんな………」
 彰人の言葉に歩美は恐怖する。
「いや! 様子が変だ!」
 綾瀬はスペースゴジラを指差す。スペースゴジラは咆哮をあげているかの様な仕草をすると、背鰭を自身の体を覆うほどの巨大な水晶状に変形させた。
 そして、地球とは反対の方向へと移動を開始した。
「既に地球に未練はないのか。いや、強敵を求めて旅立ったのかも。………いつか、スペースゴジラは戻ってくるかもしれない」
 彰人は言った。それに対し、綾瀬は笑って言い放った。それは、まるでスペースゴジラに言うかの如く。
「何、帰ってくるなら帰って来い! その時は、我が地球防衛軍が返り討ちにするぞ!」
 轟天号はスペースゴジラの背中を見送った。
 そして、綾瀬は艦長席に座ると言った。
「さて、帰るぞ。俺達が守った、地球に!」



【終】
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