ゴジラ対キングギドラ

【ゴジラ敗北】


 富士山麓、御殿場市の国道は陸上自衛隊により封鎖されていた。道路にはバリケードを立てられていた。

「ん?」

 道の両脇に控えていた警備の人間が、道を猛スピードで進む赤いスポーツカーに気がついた。

「まさか………こ、こらー! ………ひぃ!」

 車を止めようと道路に出たが、車はブレーキをかけるどこらか加速をさらにかけ、バリケードに突っ込んできた。間一髪でよける事ができたが、バリケードは時速180kmあろうかという猛スピードのRX-7に吹っ飛ばされた。
 その後、車は隕石のある樹海へと進んでいった。



 

 二大怪獣の激しい戦いは、舞台を市原市の住宅地に移し、より激しく展開されていた。

 キングギドラへゴジラは、青白い放射熱線を吐く。
 しかし熱線はキングギドラを守るバリアに守られ、貫通せずに四散する。

 対するキングギドラは、引力光線をゴジラに浴びせる。体を浮かされ、地面に転がりながら館山自動車道に倒れる。ゴジラの体からは、うっすらと湯気が沸いている。

 館山自動車道に身を埋めるゴジラを、キングギドラは空から踏みつける。

 ゴジラが悲鳴にも似た鳴き声を上げる中、キングギドラは尚も踏みつける。背びれを発光させ、熱線を吐こうとするが、上手く狙いが定まらず、熱線を呑みこんだ。
 刹那、ゴジラの全身が発光し、激しい閃光と波動がゴジラの全身から放射され、キングギドラを吹き飛ばす。

 大きくクレーター状に歪んだ地面に立ちあがったゴジラは、身を起こそうとするキングギドラの二本の尻尾を掴み、何度も地面にたたきつける。

 形成が逆転したかに見えたキングギドラだが、羽から紫色の光線をあたりに放射した。光線に当たった岩や建物は、重力から断ち切られたかのように浮き上がり、ゴジラに向かって飛んでいく。
 一瞬怯んだところをキングギドラは素早くゴジラから離れ、両翼から紫色の光線を今度はゴジラへ放つ。
 光線を受けたゴジラは、重力から断ち切られ空へと浮き上がらされる。ゴジラは一切抵抗できず、光線の、キングギドラの思うがままに動かされる。

 さらに、キングギドラは三つの口から引力光線を放ち、ゴジラを攻撃する。
 引力光線に耐え切れなくなった、ゴジラの左腕が鈍い音をたて、折れる。他にも、背びれや尾が引力光線に潰され始める。
 少しずつ抵抗が弱まり、無力となるゴジラに対し、キングギドラは引力光線をやめ、紫色の反重力光線によって宙吊りにされたゴジラの手足、首に噛みつく。
 ゴジラから少しずつ力を吸収しているのか、弱まるゴジラに対し、キングギドラの力はより一層強くなる。

 動きが完全に止まったゴジラをキングギドラは、ボロきれを捨てるかの様に千葉港から東京湾へと投げられた。
 そして、ゴジラは東京湾の奥深くへと沈んでいった。



 

「……はい。わかりました」

 達郎は電話を切って、立ち上がった。

「私達も避難するぞ。キングギドラがゴジラを倒し、千葉から東京へ破壊しながら近づいているらしい」

 それを聞いて、部屋に残っていた中村を始めとする数人が、荷物を持って退出し始める。

「鞍馬さん? 行かないのですか?」

 中村が、電話をダイヤルする鞍馬に聞いた。

「………あ、もしもし鞍馬だ。実は私も避難しなければならない。可能ならば、そっちと合流したいのだが………。なんだって! わかった。すぐにそっちに行く!」

 電話を切ると、達郎は机を殴った。

「どうしたんですか?」
「………中村君、キミの力を借りたい」

 達郎のその時の顔は、中村が今まで見たことのない恐ろしく真剣なものであった。


 
 

 百恵は富士樹海の途中に車を停車させた。

「………どうかしましたか?」

 先ほど意識を取り戻した光一は、百恵に聞いた。

「どうやらチェックメイトみたいね」

 百恵に言われ、前方を見た光一は、理解した。道路の前方には、自衛隊の装甲車が行く手を阻んでいた。
 百恵は大人しく車を降りる。光一も、由実を起こし、外へと出た。

「全く、一体君たちは何の真似だ?バリケードを高速で突破して」

 隊長らしき男が聞いた。

「いえ、それは………」

 光一は口どもる。百恵も誤魔化そうにも何も言えず、由実と共に黙っている。

「あれ? キミは丹下君の長男じゃないか?」

 突然、一台のジープから初老の男が降りてきた。

「えー……と、あ! ご無沙汰しております」

 光一は慌てて初老の男に頭を下げた。

「相変わらず、しつけがしっかりしておるな。まさに丹下君の息子だ」
「教授、この少年をご存じで?」

 隊員は、教授と呼ばれた初老の男に聞いた。

「本来は、わしよりもあなた達の方が知っていてもおかしくはない青年だよ。彼は丹下陸将補の息子だ」

 教授の言葉で、光一を取り囲んでいた隊員が離れる。

「どなた? 光ちゃんを知ってるみたいだけど」
「椿裕次郎さん、東京大学の生物学教授で、親父の恩師だ」
「両手に花とはうらやましいな。わしの院推薦を断って、自衛隊に進んだ問題児の息子にはもったいない」

 大笑いをしながら、椿教授は光一の背中を叩く。

「ところで、どうした? まさか、あの男が息子をこんな場所に来させる訳がないだろう?」
「………実は」

 光一が言おうとしたところを、由実は割って言った。

「私のせいなんです! ………キングギドラが剛君をさらって、隕石の中に捕まえているんです! だから、私達で助けようと。……早く助けないと、あと三日で地球も滅びてしまうんです!」
「三日? …………。皆さん、すみませんが、彼らはわしの顔を立てて、ここは穏便に済ましてはくれませんか? 彼らはわしの知らない何かを掴んでいるようだ」

 椿教授の申し入れに少し隊員たちは困ったようだが、やがて仕方なく首を縦に振った。
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