ゴジラ対キングギドラ
【二大怪獣激突】
「米空軍の出動ですってよ」
「空自じゃないのか?」
到着するなり達郎は中村に聞いた。
「いえ、どうもすでに第一陣が出撃草々にあの龍の繰り出す奇想天烈な攻撃でほとんど全滅状態になったそうです」
「あの光線か」
達郎は、ニュースで見た光線を思い出す。
「ですね。そろそろ総理府も公式声明を出すみたいですよ。日本にしては早い方じゃないですか?」
「………確かに」
達郎は唸る。現在の日本はおそらく大戦を超える、それは愚か史上最大の危機に立たされているのではないか。そう、達郎は思った。
「……さて、鞍馬さん。着て早々申し訳ないのですが、一応身の回りのモノは整理しておいた方が良さそうですよ。……避難する必要が出てきそうですから」
中村は、窓からわずかに見える富士山を見て言った。
「………駄目だ。ラジオも混乱しているみたいだ。ロクな情報が流れてこない。一体被害はどれくらいに及んでいるんだ?」
東海道線の中で達郎は、駅の売店で買ったラジオを聴きながら文句を言った。どこから流れる情報もはっきりとしていない。政府が被害状況を把握するよりもキングギドラの被害の方が早いのかもしれない。
「なあ、由実。………由実?」
眠いのか、先ほどから様子がおかしい由実に光一は声をかける。目の焦点が合わず、どこか遠いところを見ているような、そんな目で窓の外を見ながら由実は車両の揺れに合わせて体を揺らしていた。
「………あと三日、あと三日でこの星は滅びる」
「え? おい、由実!」
突然ボソリと言いだした由実を心配して、光一は由実を揺する。しかし、由実は変わらず言葉を発する。
「キングギドラの引力光線には、万物が破壊されてしまう。……早く、分裂体が完全体になる前に」
「引力光線? なんだ? 分裂体って? おい、由実!」
「………あ。私、寝てた?ごめん」
由実の目の焦点が合ったかと思えば、光一を見て、目をこすりながら言った。
「今話してたぞ。引力光線だの、分裂体が完全体にとか」
「え? ………うそ、今の夢じゃなかったの? でも、寝言なら夢?」
額に手を当てながら、由実は自問自答する。光一はゆっくり話しかけた。
「精神を落ち着かせろ。今、どんな夢を見ていたんだ?」
光一に言われ、由実はゆっくりと深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。混乱していた思考が整理されていく。
「どこか、会議室みたいな場所で、誰かがキングギドラについて話していた。あの黄色い光線が引力光線だとか、その破壊でこの星が滅びる。あと三日が猶予だとか、分裂体は成長をしているから完全体になったら金星は終わりだって。なぜか言ってることがわかった。日本語じゃない気がするのに、日本語に聞こえた」
「……ちょっと待って。言語はともかく、金星?」
「え?」
由実はきょとんとする。どうやら自分が何と話したかわからないらしい。
「今、由実は金星が三日で滅びるって言ったよ」
「え? でも、星って金星じゃ………あれ、ここは地球よね? なんで?」
「………本当に、前世の記憶とごちゃまぜになってるのかもしれない。由実、地球を守ろう。どうしたらいいのかわからないけれど、とにかくこのまま行こう!」
「うん!」
由実と光一が頷いた時、まるでそれを阻むかの様に、列車はホームで止まるとアナウンスが流れた。
『この電車は、富士樹海よりあらわれた怪獣の影響により、当駅で運転を見合わせます。復旧の見込みは現在ありません。まことにご迷惑をお掛けいたしますが………』
「行こう」
「うん」
駅構内では人がわいわい叫んでいる。時間、料金、怪獣の事、人々は思い思いの事を駅員に叫んでいる。そんな光景を尻目に、由実と光一は改札口から出た。
ロータリーにも人が出ており、タクシー乗り場は人でいっぱいだ。
「どうするかな?」
光一が困って頭をかいていると、光一の胸ポケットで音が聞こえる。
「誰だ?」
光一は、最近購入した携帯電話を取り出した。
「携帯持ってたんだ」
「あぁ、先月な。病院じゃずっと電源切ってたから。………もしもし、丹下ですが?」
光一は電話の相手とその内容を聞いて驚いた。
「わかりました。この駅で待ってます」
「どうしたの?」
電話を切った光一に、由実は怪訝そうに聞いた。
「遠山先生だ。あの人、俺達が富士に向かったと思って、今近くまで来ていたんだって。大方、連れ戻しに来ているんだとは思うけど、こうなれば渡りに舟だ。連れてってもらおう!」
「ダメだ! 危険すぎる!」
鉄也は断固として、否定した。向かいに座る幕僚長は鉄也に言った。
「しかし、先ほど相模湖周辺に米軍の最後の戦闘機が落ちた。全滅となると、あちらさんもおいそれとは戦力を出したがらない。……もちろん、時間が経てば、向こうは日本の防衛と自国軍の反撃という大義を掲げて戦術核の使用を強要してくるだろう」
「しかしそれは!」
「もちろん、それを許す筈がない。………しかし、状況はかなり切迫している。もちろん、我々が政治を語る必要はない。だが、時として政治は戦況をも大きく変えてしまう。キミもわかるだろ? それが、今の人間社会の現実だ」
「確かに、それは事実でしょう! しかし、それとこれとは違います! Gとあの龍を戦わせるなんと。………それは作戦でもなんでもありません! ただの無茶です! 何百人という部下の命を担う任に就いている以上、私はそれを認められません」
「まぁ、君ならそう言うと思っていたよ。しかし、現実として二体は近付いている。………それから先ほど、あの龍の呼称を決めた。防衛庁長官が決めて、K。キングギドラという名称となった。どうもどこからか聞きつけたものらしい」
「そうですか」
「現状において、どこの地域が怪獣の決戦の舞台になるかは、キミの方がわかっているだろう? 住民の避難、部隊の配備等はキミの意見を重視する」
「了解」
鉄也は敬礼をすると、幕僚長室を後にした。
「「…………」」
「どうしたの?」
唖然とする二人に百恵は聞いた。
「いえ、あまりにも私たちの予想を上回る事態だったもので」
「ん? あぁ、私の愛車? FDちゃんよ?」
百恵が笑顔で示す彼女の愛車は、真っ赤なスポーツカーのマツダRX-7であった。しかも、いたる所にチューニングされた形跡が見える。
「もしかして、走り屋」
「失礼ね! ただの車好きよ」
嘘だ、絶対に嘘だ。そう思う光一であったが、当人にはとても言い返せなかった。
「まぁ、この子の事は兎も角。どうするの?」
「連れてってください! 私達を、富士樹海の元に!」
由実は、一寸の迷いもなく百恵に言った。
「………たとえ、私が連れていかないと言ったら、歩いてでも行くつもりね?」
由実は頷いた。それを見て、百恵は大きく深呼吸をすると、運転席に乗り込んだ。
「乗りなさい。これでもし捕まったら、この子の維持費、あなた達に払ってもらうからね!」
百恵の言葉に、笑顔で答えた二人であったが、言い知れぬ不安がその奥にあった。まもなく、それは現実のモノとなった。
「やっぱりココのコースはドリフト命ね! エアロに交換してよかったわ!」
富士樹海へ向かう道を激しくドリフトをする車内で百恵は言った。そんな言葉と、自らが発している声にならない悲鳴、光のように見える景色が遠退く意識の中で二人が覚えていた事であった。
千葉県茂原市、九十九里浜を望むこの静かな町は、騒然としていた。
人気の無い住宅の窓を地響きが揺らす。そして、そこから見える空には、次々とミサイルが飛んでいる。そして周囲に響き渡る爆音。
町中を震撼させるかの如くゴジラの咆哮が、爆音をもかき消さんばかりに轟く。
「すでに上陸地点より10キロ近く進んでおります。進路は大網街道に沿って西へ進んでいます」
「十分に距離をとれ。ここで死んだら元も子もないぞ!」
鉄也は報告を聞きながら、今回の作戦本部で指示を出していた。
「………K、確認! 横浜周辺を破壊しながら、東京湾を進行、真っ直ぐこちらに来ています」
いよいよかと、鉄也は息を呑む。
すでにゴジラは、迫り来る敵を見据えているのか、まっすぐに西を目指して進行を続ける。
しばらく歩いて行った後、ゴジラは深く息を吸い込みながら背びれを発光させ、渦を巻く青白い熱線を西の空に吐いた。その熱線は、遥か千葉市緑区上空で激しく閃光をほとばしりながら留められた。先にいるのは、キングギドラ。それが放つ三本の引力光線が束となり、一筋の光線となっているのだ。
一時力比べとなった、二体の光線は、一歩も引かず消滅した。
そして、その先から高速で金色の龍がゴジラへ一心不乱に特攻してきた。先制攻撃に一気に後ろへと吹き飛ばされるゴジラ。辺りに大きな地響きが起こる。
「しばらくけん制をしつつ、部隊は撤退を始めろ」
鉄也は、その二大怪獣の戦いを見ながら、現地部隊に指示を出した。
鉄也の見つめる先には、空に浮かぶ金色の三つ首龍に青白い熱線がのびていた。
「米空軍の出動ですってよ」
「空自じゃないのか?」
到着するなり達郎は中村に聞いた。
「いえ、どうもすでに第一陣が出撃草々にあの龍の繰り出す奇想天烈な攻撃でほとんど全滅状態になったそうです」
「あの光線か」
達郎は、ニュースで見た光線を思い出す。
「ですね。そろそろ総理府も公式声明を出すみたいですよ。日本にしては早い方じゃないですか?」
「………確かに」
達郎は唸る。現在の日本はおそらく大戦を超える、それは愚か史上最大の危機に立たされているのではないか。そう、達郎は思った。
「……さて、鞍馬さん。着て早々申し訳ないのですが、一応身の回りのモノは整理しておいた方が良さそうですよ。……避難する必要が出てきそうですから」
中村は、窓からわずかに見える富士山を見て言った。
「………駄目だ。ラジオも混乱しているみたいだ。ロクな情報が流れてこない。一体被害はどれくらいに及んでいるんだ?」
東海道線の中で達郎は、駅の売店で買ったラジオを聴きながら文句を言った。どこから流れる情報もはっきりとしていない。政府が被害状況を把握するよりもキングギドラの被害の方が早いのかもしれない。
「なあ、由実。………由実?」
眠いのか、先ほどから様子がおかしい由実に光一は声をかける。目の焦点が合わず、どこか遠いところを見ているような、そんな目で窓の外を見ながら由実は車両の揺れに合わせて体を揺らしていた。
「………あと三日、あと三日でこの星は滅びる」
「え? おい、由実!」
突然ボソリと言いだした由実を心配して、光一は由実を揺する。しかし、由実は変わらず言葉を発する。
「キングギドラの引力光線には、万物が破壊されてしまう。……早く、分裂体が完全体になる前に」
「引力光線? なんだ? 分裂体って? おい、由実!」
「………あ。私、寝てた?ごめん」
由実の目の焦点が合ったかと思えば、光一を見て、目をこすりながら言った。
「今話してたぞ。引力光線だの、分裂体が完全体にとか」
「え? ………うそ、今の夢じゃなかったの? でも、寝言なら夢?」
額に手を当てながら、由実は自問自答する。光一はゆっくり話しかけた。
「精神を落ち着かせろ。今、どんな夢を見ていたんだ?」
光一に言われ、由実はゆっくりと深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。混乱していた思考が整理されていく。
「どこか、会議室みたいな場所で、誰かがキングギドラについて話していた。あの黄色い光線が引力光線だとか、その破壊でこの星が滅びる。あと三日が猶予だとか、分裂体は成長をしているから完全体になったら金星は終わりだって。なぜか言ってることがわかった。日本語じゃない気がするのに、日本語に聞こえた」
「……ちょっと待って。言語はともかく、金星?」
「え?」
由実はきょとんとする。どうやら自分が何と話したかわからないらしい。
「今、由実は金星が三日で滅びるって言ったよ」
「え? でも、星って金星じゃ………あれ、ここは地球よね? なんで?」
「………本当に、前世の記憶とごちゃまぜになってるのかもしれない。由実、地球を守ろう。どうしたらいいのかわからないけれど、とにかくこのまま行こう!」
「うん!」
由実と光一が頷いた時、まるでそれを阻むかの様に、列車はホームで止まるとアナウンスが流れた。
『この電車は、富士樹海よりあらわれた怪獣の影響により、当駅で運転を見合わせます。復旧の見込みは現在ありません。まことにご迷惑をお掛けいたしますが………』
「行こう」
「うん」
駅構内では人がわいわい叫んでいる。時間、料金、怪獣の事、人々は思い思いの事を駅員に叫んでいる。そんな光景を尻目に、由実と光一は改札口から出た。
ロータリーにも人が出ており、タクシー乗り場は人でいっぱいだ。
「どうするかな?」
光一が困って頭をかいていると、光一の胸ポケットで音が聞こえる。
「誰だ?」
光一は、最近購入した携帯電話を取り出した。
「携帯持ってたんだ」
「あぁ、先月な。病院じゃずっと電源切ってたから。………もしもし、丹下ですが?」
光一は電話の相手とその内容を聞いて驚いた。
「わかりました。この駅で待ってます」
「どうしたの?」
電話を切った光一に、由実は怪訝そうに聞いた。
「遠山先生だ。あの人、俺達が富士に向かったと思って、今近くまで来ていたんだって。大方、連れ戻しに来ているんだとは思うけど、こうなれば渡りに舟だ。連れてってもらおう!」
「ダメだ! 危険すぎる!」
鉄也は断固として、否定した。向かいに座る幕僚長は鉄也に言った。
「しかし、先ほど相模湖周辺に米軍の最後の戦闘機が落ちた。全滅となると、あちらさんもおいそれとは戦力を出したがらない。……もちろん、時間が経てば、向こうは日本の防衛と自国軍の反撃という大義を掲げて戦術核の使用を強要してくるだろう」
「しかしそれは!」
「もちろん、それを許す筈がない。………しかし、状況はかなり切迫している。もちろん、我々が政治を語る必要はない。だが、時として政治は戦況をも大きく変えてしまう。キミもわかるだろ? それが、今の人間社会の現実だ」
「確かに、それは事実でしょう! しかし、それとこれとは違います! Gとあの龍を戦わせるなんと。………それは作戦でもなんでもありません! ただの無茶です! 何百人という部下の命を担う任に就いている以上、私はそれを認められません」
「まぁ、君ならそう言うと思っていたよ。しかし、現実として二体は近付いている。………それから先ほど、あの龍の呼称を決めた。防衛庁長官が決めて、K。キングギドラという名称となった。どうもどこからか聞きつけたものらしい」
「そうですか」
「現状において、どこの地域が怪獣の決戦の舞台になるかは、キミの方がわかっているだろう? 住民の避難、部隊の配備等はキミの意見を重視する」
「了解」
鉄也は敬礼をすると、幕僚長室を後にした。
「「…………」」
「どうしたの?」
唖然とする二人に百恵は聞いた。
「いえ、あまりにも私たちの予想を上回る事態だったもので」
「ん? あぁ、私の愛車? FDちゃんよ?」
百恵が笑顔で示す彼女の愛車は、真っ赤なスポーツカーのマツダRX-7であった。しかも、いたる所にチューニングされた形跡が見える。
「もしかして、走り屋」
「失礼ね! ただの車好きよ」
嘘だ、絶対に嘘だ。そう思う光一であったが、当人にはとても言い返せなかった。
「まぁ、この子の事は兎も角。どうするの?」
「連れてってください! 私達を、富士樹海の元に!」
由実は、一寸の迷いもなく百恵に言った。
「………たとえ、私が連れていかないと言ったら、歩いてでも行くつもりね?」
由実は頷いた。それを見て、百恵は大きく深呼吸をすると、運転席に乗り込んだ。
「乗りなさい。これでもし捕まったら、この子の維持費、あなた達に払ってもらうからね!」
百恵の言葉に、笑顔で答えた二人であったが、言い知れぬ不安がその奥にあった。まもなく、それは現実のモノとなった。
「やっぱりココのコースはドリフト命ね! エアロに交換してよかったわ!」
富士樹海へ向かう道を激しくドリフトをする車内で百恵は言った。そんな言葉と、自らが発している声にならない悲鳴、光のように見える景色が遠退く意識の中で二人が覚えていた事であった。
千葉県茂原市、九十九里浜を望むこの静かな町は、騒然としていた。
人気の無い住宅の窓を地響きが揺らす。そして、そこから見える空には、次々とミサイルが飛んでいる。そして周囲に響き渡る爆音。
町中を震撼させるかの如くゴジラの咆哮が、爆音をもかき消さんばかりに轟く。
「すでに上陸地点より10キロ近く進んでおります。進路は大網街道に沿って西へ進んでいます」
「十分に距離をとれ。ここで死んだら元も子もないぞ!」
鉄也は報告を聞きながら、今回の作戦本部で指示を出していた。
「………K、確認! 横浜周辺を破壊しながら、東京湾を進行、真っ直ぐこちらに来ています」
いよいよかと、鉄也は息を呑む。
すでにゴジラは、迫り来る敵を見据えているのか、まっすぐに西を目指して進行を続ける。
しばらく歩いて行った後、ゴジラは深く息を吸い込みながら背びれを発光させ、渦を巻く青白い熱線を西の空に吐いた。その熱線は、遥か千葉市緑区上空で激しく閃光をほとばしりながら留められた。先にいるのは、キングギドラ。それが放つ三本の引力光線が束となり、一筋の光線となっているのだ。
一時力比べとなった、二体の光線は、一歩も引かず消滅した。
そして、その先から高速で金色の龍がゴジラへ一心不乱に特攻してきた。先制攻撃に一気に後ろへと吹き飛ばされるゴジラ。辺りに大きな地響きが起こる。
「しばらくけん制をしつつ、部隊は撤退を始めろ」
鉄也は、その二大怪獣の戦いを見ながら、現地部隊に指示を出した。
鉄也の見つめる先には、空に浮かぶ金色の三つ首龍に青白い熱線がのびていた。