ゴジラ対キングギドラ
【キングギドラ】
「隕石、ゴジラ、集団失踪! これは当分マスコミに暇はありませんね」
「中村君、結構こういうのを楽しむのは好きだろう?」
「えぇ、結構好きです。それに隕石と集団失踪の関連性を考えている人も多いみたいですが、いまだに全くわからない。自分たち公務員も税金を払っているんですからね、これは呑気な防衛庁と警察への皮肉ですよ」
あれから一週間が経った。どの問題も何も進展を見せず、こう着状態が続いている。
正しくは、それぞれに少しずつの進展はある。隕石の場合、大きい方は調査の結果、わずかに磁力を発しながら、少しずつ鉄を集めて大きくなっている事、小さい方は調査隊がたどり着いた時、原因不明ながらかなりの大きさに膨れ上がっていたらしい。ゴジラは、ある程度海流などから、進路を予測し、日々出現の可能性のある場所を警戒しているらしい。行方不明になった子どもは、受験や学校、家庭、多かれ少なかれ、ある程度以上のなんらかの悩みを抱えていたらしい。それしかわかっていないのが、裏を返せば実情だ。一体、子ども達がどこへ行ったのか、全くわからないのだ。
そして、達郎に関しては由実について変化があった。
由実が本日退院出来る事になったのだ。
本当のところ、これは達郎も光一も驚いた。なぜなら、本当に由実は歩く事はおろか、走る事も可能にしたのだ。
今のところ復学の予定はたっていないが、1~2週間以内には復学が可能ではないかと達郎は考えている。
「今日は早退するから、すまないけれどこの資料を取りにきた者に渡しておいてくれ」
「あぁ、今日でしたね。娘さんの退院」
「そういうわけだから、頼んだよ」
達郎は荷物をまとめるとそそくさと帰っていった。
鉄也は靴をはくと、婦人の顔を見てうなずいた。
「いってくる。………すまない。剛が大変な時にも関わらず」
婦人は首を横に振った。
「いいんです。あの子の事は警察の方も必死に探していますし、私も無事を信じてます。あなたは、私や子ども達を信じて。私達を守る為にゴジラと戦うのでしょう?」
鉄也は静かに頷いて、家を後にした。
同時刻、富士樹海隕石墜落地では陸上自衛隊による調査が行われていた。
「……やはり鉄を吸収して大きくなっているという事ですか?」
「正確には、主に鉄を吸収している。他にも、カルシウム、ナトリウム………つまり金属などを吸収しているという事ですな。全く、正直私もお手上げだ。こんな未知の隕石は世界中類を見ない」
「そうですか………。わざわざご足労して頂いたにも関わらず」
「いいや、私もこのような世界的発見を調査する任につけてよかった。この道も長くやっているといいものですな」
調査責任者を任された初老の地質学者が笑っていった。
彼らが調査しているのは、大きな隕石であり、現在も少しずつ大きくなっていた。
「どうした?」
「あ、先生。それが少し変なんです。先ほどの測定よりも今度は小さくなっているんです」
「なに? ………あ、すみません」
地質学者は、自衛隊員に一言告げると、調査員の元へと向かった。
「どうなっている?」
「それがあまりに急速で………」
「1分前の測定値から直径が5m近く小さくなっているんです」
「なんだと!」
地質学者は、測定器のレンズを覗き込む。確かに先ほど見たときよりも小さくなっていた。
そして、彼が見ている時、突如として隕石に閃光がほとばしった!
驚きおののく調査団と陸上自衛隊をよそに、隕石は激しく閃光を続け、そして最後に一際強い閃光を発すると、隕石は砕け散った。
その刹那、隕石から発せられていた閃光は光のすじとなり、空へと伸び、一つの光の塊となった。
皆がただそれを見守るしかない中、光の塊は瞬く間に姿を変え、やがて三本の首、大きな羽、足、そして二本の尾が生えた龍の姿へと変貌し、それは光から金色に輝く怪獣の姿となり、富士山麓の空へと降臨した。
「な、なんなんだ………」
「怪獣だ」
「は! そ、総員、警戒態勢!」
途端に、自衛隊は慌てて装甲車に乗り込み、武装を準備する。調査団も右往左往しつつ車に乗り込む。
龍は、奇異な甲高い鳴き声を発すると、三つの口から金色の光線を放った。
光線が当たった戦車達は、重力から解放されたかのように空へと舞い上がり、空中で押し潰されて破壊された。破壊された戦車は、爆発しながら地面に次々に落下する。
黒煙が立ち込める中、龍は東へと飛び立った。
由実は百恵に礼を告げていた。
「本当にありがとうございました」
「いいえ、すべてはあなたが起こした奇跡よ。………知ってる? 医者は奇跡とは簡単に口にしないものなのよ」
百恵は微笑むと、達郎に頭を下げた。
「本当に、今までよくがんばりましたね。お父さんの献身的な看病が、今回の奇跡を引き寄せたのだと私は思っていますよ」
「ありがとうございます。………すみません」
達郎は、ポケベルの音に気が付き、彼女達から少し離れる。ポケベルを見た達郎は、目を見張った。
「すみません、公衆電話は?」
「あぁ、それならこの電話をお使いください。院内では切っているのですが、やはり仕事柄必要なので」
そう言うと百恵は携帯電話を達郎に渡した。
「あぁ、これはどうも」
達郎は携帯電話を受け取ると、電話をかけた。
「あ、私だ。ポケベルを見たが、これは? ………三つ首龍! ……わかったら連絡を頼む」
「どうかしたの?」
由実が心配した面持ちで達郎を見る。気になる単語があった為でもあるだろう。
「実は、例の隕石から三つ首龍が現れたらしい。まだはっきりしていないらしいが、そろそろテレビでも報じられるらしい」
百恵は直に院内へと駆け戻る。二人も後を追う。
待合ロビーには、大型テレビが置かれており、何人かの人が見ていた。
「すみません」
そう告げると、百恵はテレビのチャンネルを回し始めた。見ていた人が少し不満を漏らしたものの、すぐに目的のニュース画面が映ると、彼らもそれに釘づけになった。
映像は、ひどく乱れていたが、金色の三つ首龍が光線を発し、爆音と黒煙を上げさせて、カメラの上空を飛び去っていくものであった。
『……この映像は、ドラマでも映画でもありません。間違いなく、今から30分前の富士樹海で起きた出来事です。現在、自衛隊及び政府はこの怪獣についての発言はありませんが、取材班は隕石から現れたとの見解を示しています。また、この怪獣は東へと移動したとの事です。付近住民並びに、該当地域の皆様、是非ご用心下さい………』
「キングギドラ………」
由実は茫然としながらつぶやいた。
その時、待合ロビーに光一が入ってきた。
「あ、よかった。まだいた。由実、退院おめでとう! ………どうした?」
「丁度いいところに来た。光一君、すまないが由実と一緒にいてくれ。私はすぐに戻らなければならない」
「え? あ、はい」
理解ができていない光一を残し、達郎は病院から立ち去った。
そして、光一もテレビのニュースを見て、すべてを理解した。
「………まさか、あれがキングギドラなのか? 夢……じゃないのか?」
「正夢ってやつか、本当に前世の記憶なんじゃない?」
由実が頬をひきつらせている光一に言った。
「……光ちゃん、一緒に来て」
「え?」
光一は、由実に引っ張られながら、外へと連れ出されていった。
「先生! 荷物、少しの間預かっておいて下さーい!」
「あ、はーい………って、私の携帯電話! ……は、お父さんが持って行っちゃったわよね」
百恵は荷物と共に、一人病院に残されてしまった。
「隕石、ゴジラ、集団失踪! これは当分マスコミに暇はありませんね」
「中村君、結構こういうのを楽しむのは好きだろう?」
「えぇ、結構好きです。それに隕石と集団失踪の関連性を考えている人も多いみたいですが、いまだに全くわからない。自分たち公務員も税金を払っているんですからね、これは呑気な防衛庁と警察への皮肉ですよ」
あれから一週間が経った。どの問題も何も進展を見せず、こう着状態が続いている。
正しくは、それぞれに少しずつの進展はある。隕石の場合、大きい方は調査の結果、わずかに磁力を発しながら、少しずつ鉄を集めて大きくなっている事、小さい方は調査隊がたどり着いた時、原因不明ながらかなりの大きさに膨れ上がっていたらしい。ゴジラは、ある程度海流などから、進路を予測し、日々出現の可能性のある場所を警戒しているらしい。行方不明になった子どもは、受験や学校、家庭、多かれ少なかれ、ある程度以上のなんらかの悩みを抱えていたらしい。それしかわかっていないのが、裏を返せば実情だ。一体、子ども達がどこへ行ったのか、全くわからないのだ。
そして、達郎に関しては由実について変化があった。
由実が本日退院出来る事になったのだ。
本当のところ、これは達郎も光一も驚いた。なぜなら、本当に由実は歩く事はおろか、走る事も可能にしたのだ。
今のところ復学の予定はたっていないが、1~2週間以内には復学が可能ではないかと達郎は考えている。
「今日は早退するから、すまないけれどこの資料を取りにきた者に渡しておいてくれ」
「あぁ、今日でしたね。娘さんの退院」
「そういうわけだから、頼んだよ」
達郎は荷物をまとめるとそそくさと帰っていった。
鉄也は靴をはくと、婦人の顔を見てうなずいた。
「いってくる。………すまない。剛が大変な時にも関わらず」
婦人は首を横に振った。
「いいんです。あの子の事は警察の方も必死に探していますし、私も無事を信じてます。あなたは、私や子ども達を信じて。私達を守る為にゴジラと戦うのでしょう?」
鉄也は静かに頷いて、家を後にした。
同時刻、富士樹海隕石墜落地では陸上自衛隊による調査が行われていた。
「……やはり鉄を吸収して大きくなっているという事ですか?」
「正確には、主に鉄を吸収している。他にも、カルシウム、ナトリウム………つまり金属などを吸収しているという事ですな。全く、正直私もお手上げだ。こんな未知の隕石は世界中類を見ない」
「そうですか………。わざわざご足労して頂いたにも関わらず」
「いいや、私もこのような世界的発見を調査する任につけてよかった。この道も長くやっているといいものですな」
調査責任者を任された初老の地質学者が笑っていった。
彼らが調査しているのは、大きな隕石であり、現在も少しずつ大きくなっていた。
「どうした?」
「あ、先生。それが少し変なんです。先ほどの測定よりも今度は小さくなっているんです」
「なに? ………あ、すみません」
地質学者は、自衛隊員に一言告げると、調査員の元へと向かった。
「どうなっている?」
「それがあまりに急速で………」
「1分前の測定値から直径が5m近く小さくなっているんです」
「なんだと!」
地質学者は、測定器のレンズを覗き込む。確かに先ほど見たときよりも小さくなっていた。
そして、彼が見ている時、突如として隕石に閃光がほとばしった!
驚きおののく調査団と陸上自衛隊をよそに、隕石は激しく閃光を続け、そして最後に一際強い閃光を発すると、隕石は砕け散った。
その刹那、隕石から発せられていた閃光は光のすじとなり、空へと伸び、一つの光の塊となった。
皆がただそれを見守るしかない中、光の塊は瞬く間に姿を変え、やがて三本の首、大きな羽、足、そして二本の尾が生えた龍の姿へと変貌し、それは光から金色に輝く怪獣の姿となり、富士山麓の空へと降臨した。
「な、なんなんだ………」
「怪獣だ」
「は! そ、総員、警戒態勢!」
途端に、自衛隊は慌てて装甲車に乗り込み、武装を準備する。調査団も右往左往しつつ車に乗り込む。
龍は、奇異な甲高い鳴き声を発すると、三つの口から金色の光線を放った。
光線が当たった戦車達は、重力から解放されたかのように空へと舞い上がり、空中で押し潰されて破壊された。破壊された戦車は、爆発しながら地面に次々に落下する。
黒煙が立ち込める中、龍は東へと飛び立った。
由実は百恵に礼を告げていた。
「本当にありがとうございました」
「いいえ、すべてはあなたが起こした奇跡よ。………知ってる? 医者は奇跡とは簡単に口にしないものなのよ」
百恵は微笑むと、達郎に頭を下げた。
「本当に、今までよくがんばりましたね。お父さんの献身的な看病が、今回の奇跡を引き寄せたのだと私は思っていますよ」
「ありがとうございます。………すみません」
達郎は、ポケベルの音に気が付き、彼女達から少し離れる。ポケベルを見た達郎は、目を見張った。
「すみません、公衆電話は?」
「あぁ、それならこの電話をお使いください。院内では切っているのですが、やはり仕事柄必要なので」
そう言うと百恵は携帯電話を達郎に渡した。
「あぁ、これはどうも」
達郎は携帯電話を受け取ると、電話をかけた。
「あ、私だ。ポケベルを見たが、これは? ………三つ首龍! ……わかったら連絡を頼む」
「どうかしたの?」
由実が心配した面持ちで達郎を見る。気になる単語があった為でもあるだろう。
「実は、例の隕石から三つ首龍が現れたらしい。まだはっきりしていないらしいが、そろそろテレビでも報じられるらしい」
百恵は直に院内へと駆け戻る。二人も後を追う。
待合ロビーには、大型テレビが置かれており、何人かの人が見ていた。
「すみません」
そう告げると、百恵はテレビのチャンネルを回し始めた。見ていた人が少し不満を漏らしたものの、すぐに目的のニュース画面が映ると、彼らもそれに釘づけになった。
映像は、ひどく乱れていたが、金色の三つ首龍が光線を発し、爆音と黒煙を上げさせて、カメラの上空を飛び去っていくものであった。
『……この映像は、ドラマでも映画でもありません。間違いなく、今から30分前の富士樹海で起きた出来事です。現在、自衛隊及び政府はこの怪獣についての発言はありませんが、取材班は隕石から現れたとの見解を示しています。また、この怪獣は東へと移動したとの事です。付近住民並びに、該当地域の皆様、是非ご用心下さい………』
「キングギドラ………」
由実は茫然としながらつぶやいた。
その時、待合ロビーに光一が入ってきた。
「あ、よかった。まだいた。由実、退院おめでとう! ………どうした?」
「丁度いいところに来た。光一君、すまないが由実と一緒にいてくれ。私はすぐに戻らなければならない」
「え? あ、はい」
理解ができていない光一を残し、達郎は病院から立ち去った。
そして、光一もテレビのニュースを見て、すべてを理解した。
「………まさか、あれがキングギドラなのか? 夢……じゃないのか?」
「正夢ってやつか、本当に前世の記憶なんじゃない?」
由実が頬をひきつらせている光一に言った。
「……光ちゃん、一緒に来て」
「え?」
光一は、由実に引っ張られながら、外へと連れ出されていった。
「先生! 荷物、少しの間預かっておいて下さーい!」
「あ、はーい………って、私の携帯電話! ……は、お父さんが持って行っちゃったわよね」
百恵は荷物と共に、一人病院に残されてしまった。