ゴジラ対キングギドラ

【囚われる人々】


 夜が明け、日本中が騒ぎ始めた。それは達郎のいる部署も同様だった。

「とりあえず、これは良かったと考えるべきなのでしょうね」
「そうなのかもな」
「隕石による被害は、殆ど最小限ですし。その内の一つはゴジラが破壊してくれました。これ以上なラッキーな話はないですよ」
「ただし、隕石までも破壊できるゴジラに我々はおびえなければならないのだぞ」
「確かにそうですが……」

 達郎の冷静な言葉に中村は消沈する。



 

 光一は朝食を食べていると、剛が眠そうに出てきた。

「剛、遅刻だぞ」
「ずる休みした兄貴に言われたくない」
「こら。その話、母さんには」
「言ってないよ」
「よかった。じゃ、先に行ってるぞ。いってきまーす!」

 光一は、昨日の事もあり、元気良く家を後にした。
 そして、しばらくして剛も家を出てきた。しかし、彼の向かった先は、光一とは違う方角であった。
「とりあえず、これからは大変だぞ。怪獣に、隕石、二つの事を対応しなければならないんだからな」



 

「それじゃあ、今日は剛君が無断欠席したの?」
「行っておくが、俺は無断欠席じゃない」

 光一は、由実に行った。
 光一が剛の無断欠席を知ったのは、昼休みの時間に剛の担任に声をかけられた時だ。

「あいつは俺と違って、結構思い悩んだりする事が多いんだ。しかし、まさか無断欠席するほどとは」
「朝はそんなそぶりなかったんでしょ?」
「そうだな。少し反応が悪かったが、昨日の今日だったから、欠席の事だろうと思って気にしていなかったんだ」
「なるほどね」
「それより、由実は大丈夫なのか?車椅子も使わないで」

 光一は行った。病院に行くと、由実は車椅子を使わずに手すりを掴みながらあるいていたのだ。

「リハビリよ。百恵先生も勧めてたし。どうも、半年で筋肉が結構落ちたらしいから、こうして歩いて鍛えるのよ」

 由実は受験勉強を開始するまでは陸上部に所属していたほどに、体ができていた。その時の筋肉が保険になって、筋肉の衰えをおさえる事に繋がったのだろう。

「明日には、手すりなしで歩くわよ!」
「一週間後に走り出しそうな勢いだな」

 光一は由実の根性に脱帽した。

 

 

 達郎が来た時には、光一の姿はなく、彼同様に由実の回復の速度に驚きつつも、剛の話を聞いた。

「それは心配だな。何事も無ければいいが」
「そうね。……ところで、そっちはどう? ゴジラだの隕石だので大変なんでしょ?」
「あぁ、結構大変だった。とはいっても、殆ど資料と向き合って、情報の整理に追われた感じかな」
「そうなんだ」

 由実はそういいながら、外を見ていた。

「ねぇ、ちょっと思ったんだけど、今日って何かあった日だっけ?」
「いいや。どうした?」
「さっきから、昨日以上に子どもが外にいる気がして。いつもそうなの?」
「いいや。………そういえば、今日は結構、子どもが外を歩いていたな」

 達郎は病院へ来る途中の事を思い出していた。なんとなく、いやな予感はするものの、それがなんなのかは、まだ誰もわからなかった。
 それが判明するのは、一向に帰らないわが子を心配に思い、親が警察に連絡を始めた深夜から翌朝にかけての間であった。
 翌日には、テレビでも報道される程の規模となり、関東一円だけでも、二千人近くの子どもがたったの一日で行方をくらました事が判明したのだ。
 そして、そんな事を知らないJR東海の駅員は、その晩、大量に下車した子ども達を見て、集団宿泊のイベントがどこかで催されているのだろうとしか思わなかったそうだ。しかし、この他にも多く集められた目撃情報から、子ども達は隕石が落ちた富士山樹海へと向かっていたことが判明したのだった。
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