ゴジラ対キングギドラ

【隕石】


 光一の父、丹下鉄也陸将補は、慎重な面持ちで、幕僚本部へと足を運んでいた。

「丹下陸将補、正式に怪獣緊急対策本部属部隊長の任についてもらう事が正式に決まった」
「了解です」

 鉄也は礼をし、対策本部を後にする。部屋を出る時に、囁き声を耳にした。

「怪獣対策の部隊長か。こりゃ大変だな」
「映画じゃないが、これで白星をつけるのは難しいな」
「出世コースも一緒に黒星だな」
「あの陸将が部隊長選任を任されたんだろ?あの陸将、丹下さんを嫌ってるからな」
「おぉ、エリートの争いは怖いぜ」

 鉄也は部屋を出ると、そんな囁き声を振るうと、すぐさま駐屯地に行くために、歩みを早めた。





 総理府では、昼食を食べながら、総理大臣、官房長官を始めとする各大臣が頭を悩ませていた。

「………警戒宣言、出すか」
「モグ……警戒宣言で?」
「あぁ、場所は現在可能性が最も高い地域。必要最小限の範囲を警戒宣言とする。後は………メディアと国民のとらえ方次第だ。それに、ゴジラの方も合わせると、恐らく戦時中等を除けば、過去最大規模の警戒宣言だろう」
「了解しました。早速……準備させます」

 一瞬、官房長官、そして各大臣の視線が自身の弁当に注がれた。

「官房長、食事を取ってからでいいよ」
「すみません」

 腹が減って戦はできぬ、日本人は今も昔も変わりはない。



 

 百恵は、由実と光一を連れて、精神科へと連れて行った。

「なるほど、巨大な龍。キングギドラと言ったね。それと金星人」
「はい。恐らく眠っていた間、ずっと。もう数える事もできないほどに何度も何度も繰り返し、全く同じ夢も見続けていました」

 精神科の医師は、うなった。

「確かに、心理学的に解析する事は出来る内容です。しかし、とても理に合わない。深層心理などを考えても、はっきりとしない。………これは、私が医師ではなく申し上げる事です。以前、精神科医をしている友人から聞いた話なのですが、前世の夢を見る患者の話なんです。それが、とてもこの話と似ていた」
「前世ですか?」
「いや、一概に結論はだせない。彼自身も結局それを判断する事は出来なかった。それに、他に世界中で報告されている前世の夢を見たというものは、どれも一様ではない。つまり、どれが本物の前世の記憶なのかもわからない。だから、証明する手段もない。すまないが、もう少し時間をくれないかな?前世などではなく、もっと心理学的な考え方で答えを見つけてみる」
「よろしくお願いします」

 精神科を後にしながら、由実は百恵に聞いた。

「私、前世が金星人なのでしょうか?」
「さぁ、わからないわ。でも、それはそれで素敵かもしれないわね。今と、前では全く違う環境で、全く違う人生を歩めたって事でしょ?」
「そういう考え方もありますね」

 光一は、百恵に同調した。由実は夢での自分の姿を見た為か、どうも頷けない。金星人から見たら、自分も結局同じなのかも知れないが。



 

「警戒宣言! 出たぞ!」
「いよいよですね」

 中村は言った。室内が緊張する。

「ここからが大変だ。隕石、ゴジラ、二つの被害が想定される以上、過去類を見ない大規模な避難とパニックが考えられるぞ」

 達郎の不安は、現実のものとなった。警戒宣言の対象となった、ゴジラの出現予想地域の岩手県、宮城県一帯の主要都市、隕石の落下予測地域の静岡県、山梨県の富士山周辺では、あらゆる交通手段が飽和状態となり、大パニックとなった。
 そして、避難する人々とは逆に、陸上自衛隊は、ゴジラを迎え撃つ為に、岩手県、宮城県へと向かっていた。



 そして混乱の中、日は落ちて夜を迎えた。
 灯りのなくなった仙台の港に、陸上自衛隊の部隊が並んでいた。

「丹下部隊長。Gが近づいてきている模様です。現在、海自が戦闘しています」

 鉄也は、時折光る海の先を見つめながら、報告を聞いていた。
 やがて、ゴジラは海上自衛隊の部隊を壊滅させ、仙台を目指す。

「来たな」

 鉄也は、双眼鏡でゴジラの姿を確認する。正しく、それは怪獣であった。
 一瞬、空を鉄也は見上げた。月と星が出ている夜空である。しかし、月の隣にもう一つ強い光を放つ星がある。

「隕石か。そっちはそっちで大変だな」

 富士山の警戒をしている仲間に向けて呟くと、鉄也は作戦室に入った。
 ゴジラは、戦車の砲撃も諸共せずに、上陸を果たし、仙台の街を破壊し始めた。

「第一防衛ライン突破しました。死傷者多数。担当した第三小隊、第四小隊撤退します」

 ゴジラの歩いた後は、踏み潰された戦車と建物で瓦礫の山を形成していた。
 市街中央に構えていた部隊が一斉にゴジラへ攻撃を始める。

「第二防衛ライン突破しました。第七小隊、壊滅。第六小隊、生存者を連れて撤退します」

 鉄也は愕然とした。確かに、怪獣という未知の敵を相手に戦っている為、苦戦は予想していた。しかし、ここまであっさりと惨敗するとは、全く予想していなかった。
 このままでは、全部隊撤退も考える必要が出てきた。
 その時、一本の緊急電話がかかってきた。

「丹下です。………!」

 鉄也は、慌てて電話をその場に置き、作戦室を出た。そして、夜空を見上げた。
 電話は、隕石が大気圏内で大小の三つに分裂し、その内の一つが仙台に向かって落ちているというのだ。
 そして、鉄也は見つけた。夜空に落ちる三本のすじ。その内の一つが、真っ直ぐこっちに近づいているのだ。

「ぜ、全部隊、撤退! 隕石が落ちてくる! 直ちに避難しろ!」

 鉄也のできる事はそれだけだった。しかし、最善の命令である事は間違いなかった。
 隕石は、真っ直ぐゴジラの方へと墜ちていく。
 それに気がついたのか、ゴジラは隕石を見上げた。
 背鰭が、発光し始める。それにあわせてゴジラは大きく息を吸い込む。背鰭の発光はやがて、全身を包み込む。
 刹那、ゴジラは真っ赤に光り、渦を巻きながら隕石を貫く熱線を吐き出した。
 熱線は、激しく閃光しながら、隕石を貫き続け、そして砕け、吹き飛ばした。
 絶句し、呆然とする自衛隊を尻目に、黒煙と隕石の欠片が落ちる中、ゴジラは勝ち誇ったかの様に、咆哮を上げ、進路を翻し、海へと戻っていった。

「わ、我々はあんな怪物を相手に戦っていたのですか」
「その様だな」

 部下に言われ、鉄也は自身も呆然としながら応えた。
 仙台には、自衛隊と、隕石の欠片が残された。しかし、彼らは気がついていなかった。その隕石の欠片の中に、金色をした半透明な欠片が無数に混ざっていた事に。



 仙台で隕石が破壊された頃、富士山周辺でも同様のパニックが起きていた。
 隕石が、大小の二つに分かれて落ちてきたのだ。この二つは殆ど同じ方向で、真っ直ぐ富士の樹海へと落ちた。
 しかし、この時奇妙な事が起きた。落下の瞬間に速度が落ち、自分でクレーターを最小限にしたかの様に落ちたのだ。そのため、被害は樹海という事もあり殆ど皆無であった。
 こうして、大小二つの隕石が地球に降り立った。
 
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