ゴジラ対キングギドラ

【大人達の会話】


 ヘリコプターから降りた後、達郎は由実と光一と共に、避難所へと向かった。
 ヘリコプターの前でタバコを吸っている中村の下に鉄也がやってきた。

「キミが、中村真彦さんかい?」
「これはこれは、総合部隊長殿。こんなところで油を売っていてもいいのですか?」
「一応、これからは長い戦いだ。ちゃんと休憩をする時間も作れる。それにキミとは是非とも話したかった」
「何故自分の事を……というのは野暮ですね。富士の部隊長や椿教授、他にもこっちでももしかしたらあなたと連絡が取れる人間と接触しているかもしれませんね。で、なんでしょうか?」
「一体何故、キミは私を推薦した?少なくとも私とあなたは今まで面識はなかったはずだが?」
「あぁ、それですか? 簡単です。すでにあの時あそこには、あなたの息子さんがいた。……まぁ、まさか隕石の上にいるとまでは考えていませんでしたがね。その状況で、隕石を攻撃させず、もっともいい方法で今回の事を収められる人間となれば、あなたを総合部隊長にするのがいい。そう、情報から判断したまでです」
「そのいい方法という基準は、国家に最もダメージの少ない方法……という事だな?」

 中村は煙を吐くと、頷いた。

「当然です。最近のメディアは厄介ですよ。インターネットも革命的普及を見せ、情報は渦のように世界を巡る。これで、生存している子ども達の命を攻撃で奪ったら、確実に世界中から日本は叩かれる。宇宙怪獣から地球を救った事よりも、その信用損失の方が確実に大きく世界に伝わる。残念ながら、自分が上り詰めようと考えている国家がそんな信用のないものになっては、興味も薄れてしまうので」
「本気で上を目指しているのか?」
「えぇ。当然です。今はまだ一介の公務員ですが、近い将来この国を操る人間の一人になりますよ。いや、今回の事で自分にはそれが可能であると確信しました。いい機会でしたよ。あぁ、それからあなたは今回の事で責任は一切取らされません。全て現職の防衛庁長官がお取りになるはずです」
「一体何を?」

 中村は鉄也を一瞥する。

「まぁいいでしょう。あなたは信用に足りる。それに、この情報を提供すれば、後々利益がありそうだ。……汚職です。正確に言えば、賄賂を受けていたんです。防衛庁の仕事も官僚仕事には変わりありません。その用件を有利に運んで貰えるように色んな会社が賄賂を渡していたんです。接待ゴルフに旅行代。談合は、不透明であり、結構国民は嫌っています。しかし悪いシステムではない。ただ、味を占めて多額の現金を受け取っていたのは不味かった」
「脅したのか?」
「正確には、アドバイスをしたんですよ。今回の責任を取り、辞職してしまい全てを闇に葬ってしまえば、あなたは悪役から一躍ヒーローだとね。まぁ、騒ぎそうなのは金を渡した企業だが、これほど首都圏が被災すれば仕事も多いし、元々弱い企業は経済的なダメージで自滅して発言権も失うでしょう」
「しかし、なぜ今」
「そのカードを使ったか、ですか? ……これでも結構切り札だったんですよ? ゴジラやキングギドラがなければ、出世を5年は早められた。しかし、現実はこうです。元々数年で使い物にならない情報でしたし、思い切って使いました。数年で汚職を見抜けないような国に自分は興味ありませんからね」
「一体どうやって?」
「残念ながらお答えは出来ません。まぁ、結構色々な所に志を共にする友人がいる、とだけ言っておきましょう。コレだけ高い情報であなたの身を守ったんだ。例え結果論であろうと、事実は事実。この5年分は投資ですから、出世払いで返してくださいね。期待してますから」
「鞍馬さんは、その事は?」
「詳しい事は知りません。………しかし、彼の下につく価値は出世を遅らせてもある人間だとはわかりました。何せ、一切の理由も聞かず、話さずにただ自分に、隕石を攻撃させないようにしてくれ、とだけ頼むんですから。今まであの人の人間性を知っていなければ、承諾はしませんでしたが、あの人は本物です。あの人を尊敬します、それだけは本物ですよ」

 中村は笑うと、タバコを潰した。

「そろそろ休憩が終わりじゃないですか?」
「………どうやら、その様だ」
「また会える事を楽しみにしてますよ」
「会えない事を祈っておくよ」

 そして、二人は逆方向へと歩いていった。




『終』
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