ゴジラ対キングギドラ
【決着】
達郎はその着信音が自分の上着からだと気がつくのには、少し時間がかかった。
「あ、これか。もしもし?」
「って、それは私のですよ!」
すかさず百恵が言うが、達郎は電話相手の声しか聞こえなかった。
『……お父さん? もしもーし』
「あぁ、すまない。ちょっと驚いていたから」
『しっかりしてよ。私たち、これからこの隕石に穴をあけてくる』
「穴?」
『そう。手榴弾を使って、夢で見た傷口を開かせる。………でも、もし失敗したらもうお父さんに会えないかもしれない。だから電話した。ごめんね、折角目を覚ましたのにすぐにいなくなっちゃったら……』
「……ぅ、由実」
達郎は必死にあふれ出る涙をこらえるが、涙腺は達郎の意思に反抗する。
『お父さん』
「必ず………必ず生きて帰って来い。そしたら、一緒にゴジラの映画を見よう。あの映画、ビデオレンタルになってるから」
『………うん。じゃ、切るね』
「あぁ、頑張れ」
達郎の震える声に、電話は静かに切れた。
「鞍馬さん」
「け、携帯電話、借りていてすみませんでした」
達郎は声をかけた百恵に携帯電話を渡す。
「………丹下君も素直じゃないが、キミも素直じゃないね」
椿教授は優しく達郎に言った。
「よし! 行こう!」
「良いのか? 俺だけ下に降りても……」
光一はロープの緩みを確認しながら由実に言った。由実は首を横に振る。
「これは私と光ちゃんがやるって決めた作戦よ。それに、一人よりも二人の方が成功するかもしれないじゃない」
光一は、気丈に言う由実の目を見つめる。その目は心底不安と恐怖に怯えている。
光一は黙って、由実の体を抱きしめた。由実も何も言わずに光一の背中に手を寄せる。互いの恐怖で早まる心拍を感じあう。
不思議とその心拍は、次第に穏やかになっていく。雑音も聞こえなくなり、不安や恐怖が互いの心から消えてゆく。
「………行こっか」
「うん」
由実は頷くと、今度は身を固定する為に強く光一の体につかまる。
そして、二人は飛んだ。
光一と由実はロープの長さを調整しながら、その落下速度を調整しつつ、分離体の横を落ちていく。
「…………ココよ!」
「うぉりゃぁ!」
光一は全力でロープを押さえつけ、その高さで止める。
「………勝機、あるかもな」
「夢じゃなかったんだ」
そこにはとても薄くではあるが、夢で見たものと全く同じ傷痕が残されていた。
「いいか、俺があそこに手榴弾を引っ掛ける。由実は思いっきり壁を蹴って、ロープを放してくれ。成功すれば、俺達は爆風に巻き込まれない」
「うん」
光一からロープを受け取ると、少しずつ傷痕に近づく。
そして、傷痕に手榴弾を引っ掛けると、信管を引き抜いた。
「今だ!」
光一の掛け声と共に、由実は壁を思いっきり蹴り、ロープを放した。二人の体は壁から離れながら落下する。
数秒後、激しい閃光と共に、手榴弾は爆発した。
「分離体、停止」
部隊員が部隊長に報告する。
「突入!」
部隊長の命令後、しばらくした後、連絡が来た。
『救出成功! 繰り返します、救出成功! 子ども達は衰弱しているものの、命に別状はなし!』
途端に、歓声が沸いた。
「由実は? 由実は無事ですか?」
マイクを奪い、達郎は呼びかける。
一瞬の間を置き、声が返ってきた。
『お父さん? 無事よ! 光ちゃんも、私も、それに剛君達も無事よ!』
「良かった、ホントに、ホントに無事でよかった」
『お父さん、泣いてるの?』
「泣いてるわけないだろう! 早く戻ってきなさい」
『はい!』
達郎が泣いていたか、その真実はその場にいた人だけが知っている。
『隊長、目標は完全に沈黙。浮いていた目標も現在は、地面に落ちています。更に、突破口周辺では崩落も始まっています』
「わかった。人命救助を最優先事項に置きつつ、撤退を開始しろ」
『了解』
通信を終えると、部隊長は鉄也に連絡した。
「丹下総隊長、作戦成功です。目標は沈黙。全員無事です。後はそちらです。よろしくお願いします」
『わかった』
通信を終えると、鉄也は命令を下した。
「総員、目標をKに。全力でゴジラを援護しろ! ………それから、命は決して無駄にするな」
通信機から顔を上げると、鉄也は息を大きく吐くと、外へ出た。
いつの間にか周囲はすっかり暗くなっていた。
しかし、東京の街は赤く輝いている。それを見て、鉄也は呟いた。
「ああ。東京が、赤く燃えている」
そして、燃え盛る東京の街の中心で、二体の怪獣による激しい戦闘が繰り広げられていた。
ゴジラは威嚇をするかのように咆哮をあげる。
キングギドラも負けじと奇異な鳴き声を上げ、威嚇をする。
そして、ゴジラは青白く渦巻く熱線をキングギドラに放った。再び回避しようとするキングギドラだが、その反応が少し遅い。更に、バリアの力も弱まっているのか、貫通する熱線の威力が強い。
飛び上がったキングギドラの尻尾が一本熱線に直撃し、爆発四散する。
しかし、キングギドラはすぐに反撃に出て、翼から反重力光線をゴジラに当て、ゴジラの自由を奪う。更に、再びキングギドラはゴジラの体に引力光線を放つ。
ゴジラの全身は再び唸りを上げる。ゴジラ自身も呻き声を漏らす。
しかし、ゴジラの体が悲鳴を上げる前にキングギドラが悲鳴を上げた。陸上自衛隊による総攻撃がキングギドラに仕掛けられたからだ。
バリアによってある程度の軽減はされているものの、弱まったバリアはミサイルなどを貫通させ、キングギドラを攻撃する。
攻撃によって反重力光線から解放されたゴジラは、地面に降り立つと、両足を地面に踏ん張らせる。
そして、発光を始めたゴジラは、その光を全身にまとわせいく。
それに気がついたキングギドラは、急上昇をしながら引力光線と反重力光線を一つにまとめて、溜めていく。
地上と天空の二体の怪獣の異変に気づいた自衛隊は、攻撃の手を止め、様子を見る。
ゴジラは静かに大きく息を吸い込むと、目をより一層見開いた。
刹那、ゴジラの全身を包む青白い光が赤くなり、ゴジラの口から隕石を破壊した時と同様の紅蓮の渦巻く放射熱線を吐いた。
キングギドラも同時に、溜めた光線を放った。
東京の上空で、激しい閃光を迸らせながら、二体の渾身一撃は激しくぶつかり合う。
しかし、少しずつゴジラの熱線はキングギドラの光線を押していき、遂にキングギドラに押し返した!
刹那、大爆発と閃光が東京の空を包んだ。
「勝った……のでしょうか?」
「まだわからない」
鉄也は聞いてきた隊員に首を振った。
閃光が収まり、周囲が再び夜の闇に包まれた。皆が固唾を呑んで空を見つめていると、そこには中央の首を失い、羽もボロボロになり、全身を纏う黄金の体色も黒ずんだキングギドラの姿があった。
ゴジラは、再び背鰭を発光させようとするが、キングギドラは渾身の力で、全身を光らせ、ゴジラが熱線を放つ前にキングギドラは宇宙へと飛び去った。
達郎はその着信音が自分の上着からだと気がつくのには、少し時間がかかった。
「あ、これか。もしもし?」
「って、それは私のですよ!」
すかさず百恵が言うが、達郎は電話相手の声しか聞こえなかった。
『……お父さん? もしもーし』
「あぁ、すまない。ちょっと驚いていたから」
『しっかりしてよ。私たち、これからこの隕石に穴をあけてくる』
「穴?」
『そう。手榴弾を使って、夢で見た傷口を開かせる。………でも、もし失敗したらもうお父さんに会えないかもしれない。だから電話した。ごめんね、折角目を覚ましたのにすぐにいなくなっちゃったら……』
「……ぅ、由実」
達郎は必死にあふれ出る涙をこらえるが、涙腺は達郎の意思に反抗する。
『お父さん』
「必ず………必ず生きて帰って来い。そしたら、一緒にゴジラの映画を見よう。あの映画、ビデオレンタルになってるから」
『………うん。じゃ、切るね』
「あぁ、頑張れ」
達郎の震える声に、電話は静かに切れた。
「鞍馬さん」
「け、携帯電話、借りていてすみませんでした」
達郎は声をかけた百恵に携帯電話を渡す。
「………丹下君も素直じゃないが、キミも素直じゃないね」
椿教授は優しく達郎に言った。
「よし! 行こう!」
「良いのか? 俺だけ下に降りても……」
光一はロープの緩みを確認しながら由実に言った。由実は首を横に振る。
「これは私と光ちゃんがやるって決めた作戦よ。それに、一人よりも二人の方が成功するかもしれないじゃない」
光一は、気丈に言う由実の目を見つめる。その目は心底不安と恐怖に怯えている。
光一は黙って、由実の体を抱きしめた。由実も何も言わずに光一の背中に手を寄せる。互いの恐怖で早まる心拍を感じあう。
不思議とその心拍は、次第に穏やかになっていく。雑音も聞こえなくなり、不安や恐怖が互いの心から消えてゆく。
「………行こっか」
「うん」
由実は頷くと、今度は身を固定する為に強く光一の体につかまる。
そして、二人は飛んだ。
光一と由実はロープの長さを調整しながら、その落下速度を調整しつつ、分離体の横を落ちていく。
「…………ココよ!」
「うぉりゃぁ!」
光一は全力でロープを押さえつけ、その高さで止める。
「………勝機、あるかもな」
「夢じゃなかったんだ」
そこにはとても薄くではあるが、夢で見たものと全く同じ傷痕が残されていた。
「いいか、俺があそこに手榴弾を引っ掛ける。由実は思いっきり壁を蹴って、ロープを放してくれ。成功すれば、俺達は爆風に巻き込まれない」
「うん」
光一からロープを受け取ると、少しずつ傷痕に近づく。
そして、傷痕に手榴弾を引っ掛けると、信管を引き抜いた。
「今だ!」
光一の掛け声と共に、由実は壁を思いっきり蹴り、ロープを放した。二人の体は壁から離れながら落下する。
数秒後、激しい閃光と共に、手榴弾は爆発した。
「分離体、停止」
部隊員が部隊長に報告する。
「突入!」
部隊長の命令後、しばらくした後、連絡が来た。
『救出成功! 繰り返します、救出成功! 子ども達は衰弱しているものの、命に別状はなし!』
途端に、歓声が沸いた。
「由実は? 由実は無事ですか?」
マイクを奪い、達郎は呼びかける。
一瞬の間を置き、声が返ってきた。
『お父さん? 無事よ! 光ちゃんも、私も、それに剛君達も無事よ!』
「良かった、ホントに、ホントに無事でよかった」
『お父さん、泣いてるの?』
「泣いてるわけないだろう! 早く戻ってきなさい」
『はい!』
達郎が泣いていたか、その真実はその場にいた人だけが知っている。
『隊長、目標は完全に沈黙。浮いていた目標も現在は、地面に落ちています。更に、突破口周辺では崩落も始まっています』
「わかった。人命救助を最優先事項に置きつつ、撤退を開始しろ」
『了解』
通信を終えると、部隊長は鉄也に連絡した。
「丹下総隊長、作戦成功です。目標は沈黙。全員無事です。後はそちらです。よろしくお願いします」
『わかった』
通信を終えると、鉄也は命令を下した。
「総員、目標をKに。全力でゴジラを援護しろ! ………それから、命は決して無駄にするな」
通信機から顔を上げると、鉄也は息を大きく吐くと、外へ出た。
いつの間にか周囲はすっかり暗くなっていた。
しかし、東京の街は赤く輝いている。それを見て、鉄也は呟いた。
「ああ。東京が、赤く燃えている」
そして、燃え盛る東京の街の中心で、二体の怪獣による激しい戦闘が繰り広げられていた。
ゴジラは威嚇をするかのように咆哮をあげる。
キングギドラも負けじと奇異な鳴き声を上げ、威嚇をする。
そして、ゴジラは青白く渦巻く熱線をキングギドラに放った。再び回避しようとするキングギドラだが、その反応が少し遅い。更に、バリアの力も弱まっているのか、貫通する熱線の威力が強い。
飛び上がったキングギドラの尻尾が一本熱線に直撃し、爆発四散する。
しかし、キングギドラはすぐに反撃に出て、翼から反重力光線をゴジラに当て、ゴジラの自由を奪う。更に、再びキングギドラはゴジラの体に引力光線を放つ。
ゴジラの全身は再び唸りを上げる。ゴジラ自身も呻き声を漏らす。
しかし、ゴジラの体が悲鳴を上げる前にキングギドラが悲鳴を上げた。陸上自衛隊による総攻撃がキングギドラに仕掛けられたからだ。
バリアによってある程度の軽減はされているものの、弱まったバリアはミサイルなどを貫通させ、キングギドラを攻撃する。
攻撃によって反重力光線から解放されたゴジラは、地面に降り立つと、両足を地面に踏ん張らせる。
そして、発光を始めたゴジラは、その光を全身にまとわせいく。
それに気がついたキングギドラは、急上昇をしながら引力光線と反重力光線を一つにまとめて、溜めていく。
地上と天空の二体の怪獣の異変に気づいた自衛隊は、攻撃の手を止め、様子を見る。
ゴジラは静かに大きく息を吸い込むと、目をより一層見開いた。
刹那、ゴジラの全身を包む青白い光が赤くなり、ゴジラの口から隕石を破壊した時と同様の紅蓮の渦巻く放射熱線を吐いた。
キングギドラも同時に、溜めた光線を放った。
東京の上空で、激しい閃光を迸らせながら、二体の渾身一撃は激しくぶつかり合う。
しかし、少しずつゴジラの熱線はキングギドラの光線を押していき、遂にキングギドラに押し返した!
刹那、大爆発と閃光が東京の空を包んだ。
「勝った……のでしょうか?」
「まだわからない」
鉄也は聞いてきた隊員に首を振った。
閃光が収まり、周囲が再び夜の闇に包まれた。皆が固唾を呑んで空を見つめていると、そこには中央の首を失い、羽もボロボロになり、全身を纏う黄金の体色も黒ずんだキングギドラの姿があった。
ゴジラは、再び背鰭を発光させようとするが、キングギドラは渾身の力で、全身を光らせ、ゴジラが熱線を放つ前にキングギドラは宇宙へと飛び去った。