ゴジラ対キングギドラ

【形勢逆転】


 分離体は木々の生命力を吸収しながら、東京を目指し進んでいた。周りにはヘリコプターも偵察している。

「どうするんだ?」
「私に聞かれても……夢で見たのは完全体になってないもの」

 由実は光一に言う。事実、完全体は夢とは違い表面が透けてはおらず、中の様子はわからない。

「………もしかしたら」
「ん?」

 由実が唐突に言った。半ば諦めかけた光一は気のない返事をする。

「穴を開ければ、どうにかなるかも知れないわよね?」
「そりゃね。でも、その穴をどうやって?」
「夢がただの夢か、本当に過去の出来事か。かけてみない?」

 由実は不敵に笑って言った。



 

「仮にこれでバリアを突破できて、中の人間が死亡したらその責はどうするおつもりなのですか?」
「そんな確証はないと言っているだろう!」

 椿教授に部隊長は言い返した。二人の言い争いは長い間続いていた。
 そこへ、一機のヘリコプターが着陸した。予想外のヘリコプターの登場に驚く中、男が二人降りてきた。

「あなたは?」
「自分は一介の公務員です。こちらは上司で、現在あの隕石の上にいる鞍馬由実さんのお父さんです」
「上にだと?」

 部隊長が聞き返す。

「ヘリコプターで偵察をしなかったのですね。バリアを恐れるのもいいですが、目視できるくらいには近づいても危険はないでしょうに? これだから税金泥棒は………」
「失礼だな! 大体、なんの権限があって君たちはこの空域を飛行している!」
「決まってるじゃないですか、防衛庁長官、あなた達の上司ですよ」

 中村は可能な限りに嫌味を込めて部隊長に言った。途端に部隊長の顔色が悪くなる。

「それから、あなたはただの駒に戻りましたよ。そろそろ電話が来る頃だ。東京のキングギドラとあの隕石、撃退任務の総合部隊長に丹下鉄也陸将補が再任されたそうだから、これからは彼の指示に動いて下さいね」

 怒りともとれる表情の部隊長に電話が、最悪のタイミングでかかった。半信半疑で受話器を取った部隊長の顔色が、怒りの赤から見る見るうちに青くなる。

「………お分かりですね?」
「い、一体貴様、何をしたんだ?」
「いえいえ、何をおっしゃる。自分は先述の通り、一介の公務員ですよ」

 部隊長以外の皆が恐れる中、中村は一人笑顔で答えた。



 

 陸上自衛隊の緊急対策本部に戻っていた鉄也の元に一本の電話がかかった。

「………了解しました」

 電話を切ると、周りに部下が集まった。内容は周りの人間にも伝わっていた。

「丹下さん」

 鉄也は静かに頷くと、本部を出ようとした。

「丹下君、どこへ行く?」
「今更、ここで指示を出しても何も変わりませんよ。……現場だ」

 鉄也を呼び止めようとする幹部は、事実を突き付けられて何も言い返せない。
 そんな彼らを残し、家庭ではドラマ好きである鉄也は部下と共に本部を立ち去った。



「はい。………隕石といいますか、キングギドラの分離体の上にご子息とこちらにおられる鞍馬さんの娘さんと共にいる事が確認されております」
「どうでした?」
「はい、それがわかったとだけおっしゃられて、しばらく攻撃するなとだけ」

 部隊長は椿教授に言った。椿教授は呆れつつも、言った。

「全く、相変わらずだな」


 
 

 分離体の上にいる由実と光一はロープを分離体上部に見つけた背鰭のような突起部分と自分達にくくりつけていた。

「本当にここの下なのか?」
「頭部からの位置も間違いない、ここよ」
「………しかし、仮にここがそうだとしても、これが夢の時のままとは限らないだろ?」
「だから、賭けだって言ったじゃない」

 由実はしれっと言った。光一は初めて由実と交際した事を後悔した。
 後悔をしていると、光一の携帯電話が着信を知らせる。

「もしもし?」
『私だ。電話に出れるだけの余裕はあるな』
「親父………。現状だろ?」
『あぁ。頼むぞ』
「わかっているとは思うけど、今俺達は隕石の上にいる。由実の夢もあるけれど、状況から見てもこの隕石はキングギドラの一部だと思う。由実の話ではコイツの中には剛達がいる可能性が高いらしい。ただ、コイツの表面からは中の様子は見えない。それから、コイツはキングギドラと同じで重力を操れる。移動も浮いているからで、さっき攻撃をした時も重力の壁で弾かれたみたいです。それから、俺達はコイツを止めないと多分脱出は出来ない。今言ったバリアはどうも内側には反重力として働いているみたいです。ここに俺達がいるのも、隕石の覚醒時にバリアの内側にいたからですので」
『………わかった。それから光一、何か策でも思いついているんだろう? 声に自信を感じる。話してくれ』
「流石だな、親父。作戦って程の考えじゃないけど、一つ挑戦しようと思うんだ。実は、この分離体は大昔に傷を負わされている可能性があるんです。もしもその傷が完全に治っていなければ……。一寸の可能性ですが、由実が自衛隊から借りてきた手榴弾を使用してみます」
『なるほど。………一つ教えてくれ。その手投げ弾の型番号は?』
「型番号?」

 光一は由実から爆雷を受け取ると、書かれている番号を探す。

「ありました。色々書かれていますが、MK3A……とか書いてありますが」
『MK3A2衝撃攻撃手榴弾だな。いくつある?』
「1つです」
『………いいか、簡単に話す。その手投げ弾はTNT爆薬を使用した爆風と衝撃波で攻撃するもので、殺傷半径は2mと言われている。簡単な事を言えば、通常の破砕性手榴弾よりも遥かに強力だ。しかし、建築物の破壊よりも敵への衝撃による殺傷を目的に使用されるものだ』
「つまり、失敗したら中の人間に危険があるって事?」
『そうだ。………それでもやるか?』
「………やります。だから、父さんは失敗した時の為の作戦を考えてください」
『生きろ』
「はい!」

 電話を切った光一は、深呼吸をすると、由実に電話を渡した。

「お父さんは多分まだ遠山先生の携帯を持ったままだよ」

 由実は光一を見る。光一は笑顔で、携帯を差し出す。由実は、頷くと携帯を受け取り、発信した。





 電話を切った鉄也は、前線指令テントに立った。

「富士の部隊に、戦闘及び突入の準備を進めておくように伝えろ。緊急状況下、民間人による攻撃を許可した。責任は全て私が取る」
「その民間人って」
「息子達だ」

 鉄也の返答に、テントの中が静まり返る。

「どうした? 早く連絡しろ」

 鉄也は静かに、テーブルの上に広げられたキングギドラとゴジラの戦況図を眺めた。


 


 キングギドラは、体を回転させ、ゴジラにタックルを仕掛ける。かわしきれず、ゴジラは血を流しながらその場に倒れた。
 しかし、空中から踏みつけてきたキングギドラの足を噛み付くと、背鰭を光らせ、放射熱線をゼロ距離で放った。
 黒く煙を上げながら、キングギドラは潰された片足を庇いながら、ゴジラから距離を取ると引力光線を三本束にして発射する。
 あまりに早い切り替えしに付いていけず、ゴジラは避けるものの、長い尾に直撃してしまった。尻尾の関節が鈍い音を立て、砕ける。その砕けた骨はゴジラの厚い皮膚をも砕き、ゴジラの尻尾の4分の1を吹き飛ばした。
 ゴジラの悲鳴にも似た咆哮が響きわたる中、千切れ飛んだ尾の先端は無機質に地面に落ちる。そして、傷口から出血をしつつも、ゴジラは熱線を吐き、キングギドラを牽制する。
 しかし、その熱線も渦を巻かない威力の弱いものなのか、キングギドラのバリアに防がれてしまった。
 怪獣の形勢はまだキングギドラに優位である。
 
11/15ページ
スキ