ゴジラ対キングギドラ

【救出作戦】


「つまり、夢で見た高度に発達した文明をもつ金星を滅ぼしたキングギドラが、あの怪獣という事かな?」
「理解が早くて助かります。はい、私はその夢で見た岩が、今も樹海にある隕石だと思ってここまできたんです」
「………ふむ。しかし、あの隕石はなぜキングギドラから分離したんだろうか?」
「これは俺の考えなのですが、よろしいですか?」

 光一が口を挟むと、椿教授は頷いた。

「もしかしたら、キングギドラはあの隕石を使って栄養を得ているのではないでしょうか? そうして、キングギドラに栄養を送って、金星をたったの三日で滅ぼした」
「………三つ君たちに言おう。一つは、あの隕石が子ども達をとらえているのか。二つは、キングギドラは本当に金星を滅ぼした怪獣なのか。三つは、金星にそのような高度な文明が存在していたのか」
「それは………」

 光一も由実も何も言えない。

「しかし、それが前世の記憶ではなく、何らかの潜在的な能力という可能性もあります。予知夢というと非科学的な表現ですが、夢の中での思考は非常にすぐれたひらめきや、発想、推測を生む場だという説を唱える人もおられます。仮にそれが、彼女の元に起きた事だとすれば、証拠はありませんが、聞く価値のある考えだと私は思います」

 百恵が椿教授に言った。彼女の真剣な眼差しを見て頷くと、椿教授は口を開いた。

「いや。………この事は世界中でも、宇宙開発に携わっている者と、世界でも有数といわれる選ばれた生物学者にのみ知っている可能性なのだが、数年前に金星地表面の極秘探査を行った結果、わずかながら人工的に作られた可能性のある物質の痕跡が確認されたんだ。あまり知られていないかとは思うが、金星の大気は非常に重く、風化が激しいんだ。そんな中、発見された痕跡。進化の過程すら全く推察不能であり、要らぬ論争を生む前にじっくり可能性を吟味しようと一部の研究者の間でのみ検討されている事なんだ。その中の一人に名誉にもわしも入れていただき、この事を知っているのだが、生命の痕跡すら発見できていない金星には、おそらく40億年以上前、地球に生命が誕生するよりも以前に現在の地球よりも高度な文明が存在した可能性がある」
「まさか………」

 息を飲む三人をよそに、椿教授は話を続ける。

「そして、仮にその文明が事実となると、それを滅ぼしたキングギドラの可能性も真実味を帯びてくるわけだ。キングギドラは、現実問題として今日本を襲っている。しかも、丹下君が言ったように、この地球のある見方では、生態系の第一位に立つ人類の子どもを捕獲している。おそらく、栄養体の保護の為の人質、そして栄養分そのものとして」
「それでは………」
「うむ、早く助けなくては彼らの命が危ない!」

 その時、外が騒がしくなっている事に気がついた。

「どうした?」
「教授、大変です!隕石に異変が」

 椿教授の後についてきた三人も、それを見て息を飲んだ。

「まさか………」
「完全体………」

 光一と由実は、つぶやいた。そこに見える隕石は、夢で見たものと同じように龍の顔を形成し始めていた。

「いや、まだ変化が始まったばかりだろう。今ならばまだ間に合う!」

 椿教授はジープに乗りながら言った。



 

 破壊の限りを尽くしながら東京を目指すキングギドラは、千葉県浦安市にまで迫っていた。
 地元で有名なテーマパークもすでに避難が完了していた。東京湾を望むそのシンボルというべき洋城をキングギドラの引力光線が、襲う。無残にも空中に浮き上がりながら砕け散り、周囲に建ち並ぶアトラクションに洋城の残骸が降り注ぐ。
 あえなくキングギドラに破壊され、炎に包まれるアトラクション達を、避難の際に放置されたシンボルキャラクターの着ぐるみは寂しそうにそれを見つめていた。



 

「しかし、彼らが中で生存している可能性があるのですよ!」
「だが、明らかにあの隕石はキングギドラの一部だ。周囲の植物が急速に枯れていると報告も出ている。ゴジラですら敗北した今、キングギドラになすすべが完全になくなる可能性があるのです!」

 椿教授は、自衛隊員と言い争いをしていた。
 自衛隊は、隕石への攻撃を強行しようとしているのだ。

「どうしよう……このままじゃ、剛君も他の子達も」

 由実が不安にかられた表情で言った。
 その時、着信に気がついた光一が由実から離れる。由実に気づかれないように声をひそめて電話に出た。

「もしもし…………実は、今自衛隊の人達と富士の樹海にいまして、このままだと自衛隊に剛が中で生きているかもしれない隕石を攻撃されてしまうんです。ここまでの経緯については、後ほどご説明も、謝罪もしたいと思うのですが、今は剛の命が危ないんです。………わかりました」

 達郎からの電話を終え、彼らの元へと戻る。達郎が来れば、とりあえず由実の身の安全は確保できる。そう思っていた。

「……あれ? 由実は?」

 由実の姿がそこにはなかった。

「え?てっきり光一君と一緒に行ったんだと思ったんだけど……」

 百恵の言葉に、光一の脳裏に一抹の不安が生まれた。

「隊長、そこに置いておいた武器を入れた袋が一部ないのですが、知りませんか?」
「何? しっかり管理していたのか? まさかこんな所で泥棒はいないとは思うが、自衛隊の管理能力が問われるからな、もう一度しっかり確認したまえ」

 自衛隊員の会話を聞いた光一の不安は確信へと変わった。


 
 

 樹海を歩きながら、由実は袋から武器を確認する。

「全く、なんでこんなに重いのよ! ………結局、使えそうなのはこれだけじゃない」

 由実は、拳銃と爆雷、ロープやナイフといった装備品を袋に戻し、再び隕石に向かって歩き出した。
 隕石は、既に夢で見たものと同じ形に変形していた。

「夢と………全く同じ」

 由実は自分を夢の中の自分と重ねて、呟いた。
 そして、隕石に近づこうとした時。

「由実!」

 声がした方を見ると、そこには光一が走っていた。

「光ちゃん」
「バカ野郎! 無茶をしようとするんじゃない! すぐに自衛隊の人達が来るから、俺が絶対に救出じゃなく、破壊をさせない!」

 光一は、由実を抱きしめると言った。
 しかし、事態は自衛隊が間に合う前に変ってしまった。突然、隕石が震えだし、周りを覆う岩が砕け散った。とっさに光一は由実を庇う。
 同時に二人の体が浮き上がる。

「こ、これは?」
「隕石の上?」

 次の瞬間、二人は岩が取れ、キングギドラ同様の金色の全体が露わになった分離体の上にいた。

「完全体になったのか……」
「これ、飛んでるの?」

 由実が言うとおり、完全体となった分離体はわずかに地面から浮いて、樹海の中を東に向かって進んでいた。

「東京に向かっている」
「いよいよ、キングギドラの侵略が本格的に始まったのよ」

 由実は先にあるであろう東京の方角を見て言った。
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