未来への約束




 梅雨入りが近づいていると天気予報で報じられる頃、遂に試験最終日を迎えた。
 未来人の痕跡が残っているかは分からないが、いよいよアールを持ち込み、校内を調査できる時が迫っていた。
 その日の放課後、探貞達は手持ちの情報網を確認し、現状まで昭文町で未来人によるものと思われる出来事がないこと、翌日は既に強化月間が終了していることを確認し、三波がアールを連れて早朝に学校へ集合することで一同の意見はまとまった。
 しかし、その時彼らは思い出すべきであった。
 宇宙人のアールと未来人の出現によって、中断し、そのまま七不思議の謎を調べることを忘れていることに、探貞は気付かなかった。
 すべては翌朝、彼らが学校に集合した時に、否応なしに思い出すこととなった。昭文学園の七不思議の真相究明を中断していた事実を。

「ん?」

 朝、集合場所の校門前に探貞が向かうと、そこには教員や近所の住民たちが集まり、人垣ができていた。
 一瞬、強化月間が延長されたのかと考えたが、様子がおかしい。探貞は人垣に近づいた。

「こいつは一体、どういうことだ?」
「まったくなんて手の込んだイタズラだ」
「いや、もうイタズラの域ではない」
「生徒か?」
「テレビでやってたけど、最近こうゆう事件が多いらしいよ。何を考えているのかわからないよ」
「そもそもイタズラなのか? これに似たものを以前テレビでやってたが、それは……」

 探貞が人垣の間をぬって、門を越えると警察官が校舎前に立っていた。
 校舎の先にある校庭に何かが散乱しており、警察官たちが写真を撮るなど、現場検証をしている様子が見えた。
 その時、警官達の会話が彼の耳にわずかながら届いた。

「……ミステリーサークル」

 確かに、ミステリーサークルと言っていた。
 探貞の脳裏に、忘れていた昭文学園の七不思議が蘇る。
 そして、彼の視線に警察から事情を聞かれている生徒達の姿が目に入った。
 和也と涼だった。

「突如として現れるミステリーサークルで踊る超能力者?」

 第七の不思議。探貞の推理が正しければ、正確には第六の不思議になるものであった。

「しかし、なぜ? 誰が?」

 探貞が感じた疑問は、次の瞬間、少なくとも一つが解消された。
 刹那、学校内のスピーカーから校内放送のチャイムの後、合成音声のメッセージが流れた。

『本当の七不思議が再び始まる。我が名は、怪盗φ。………本当の七不思議が再び始まる。我が名は、怪盗φ。………本当の』

 繰り返し流れる合成音声のメッセージは、正しく犯行声明であった。
 驚きと恐怖に包まれる一同。特に、その一部の人間、すなわち教員と警察、そして探貞はそのメッセージの意味を理解していた。

「怪盗φ、だと?」

 いつの間にか探貞の隣に立っていた担任の国見が青ざめた表情で呟いた。
 それは他の大人達も同様であった。
 怪盗φ。それは約十年前に突如と姿を消し、死亡説が長らく囁かれていた二十世紀最後の大怪盗の名前であった。

「八つ目の不思議が現れ、死者が……蘇る」
「そんな……霊……なのか……」

 探貞と国見は、警察によって強制的に止められるまで繰り返される犯行声明を聞きながら、人垣の中で呆然と立ち尽くし、うわごとのように呟いていた。






 

 結局、ミステリーサークルも怪盗φを名乗る犯行声明も謎のまま警察は現場検証を終えて撤収し、一、二時限目は緊急の全校朝礼と机の片付けとなった。
 校庭に置かれた机の中から自分の机を見つけ出して運ぶ作業は、事の重大さをはっきりと認識しきれない生徒にとっては文化祭の後片付けの様な心境らしい。あちらこちらでお喋りをしながら、この不思議な出来事を話題に上げながら机を移動させていた。

「先手を打たれたってことになるな」

 探貞も他の生徒と同様に自分の机を探していると、和也が話しかけてきた。
 その右腕には、風紀委員の腕章がついている。
 クラス毎に机を振り分けて各教室へ運び込む作業は、その手の統制に慣れた者が指揮を取るのが一番手っ取り早く、今後の対応に教員は会議室でずっと籠もってしまったこともあり、生徒会、風紀委員会、文化祭実行委員会が連携して片付けの指揮を取っている。
 どうやら前代未聞の事態に万年幽霊委員の和也も駆り出されたらしい。

「そうなるね。といっても、元々アールがいるとはいえ、砂浜から一粒の砂金を見つける様なものだから、結局は相手が動き出すのを待つしかなった。そう考えると、僕らは初手が後手に回っても、相手の先手必勝という状況とはいえないよ」
「ここからが本番ってことか?」
「そうなるね。相手の正体も謎だけど、何よりなぜこんなことをしたのか」
「動機か?」
「そう。動機がわからないと、次の出方がわからない。それに」

 探貞が何か言いかけて言葉を切る。自信のない様子だった。

「言えよ。まずは気になることを言えよ」
「わかった。ミステリーサークルも意味があると思う。七不思議に見立てたことも、今頃になって怪盗φの名を使ったのかも」
「なら、次の出方は決まったな。おい、十文字!」

 和也は文化祭実行委員の腕章を付けた三波を呼び寄せる。

「何?」
「残りの七不思議も調べるぞ」

 和也の言葉に三波はにかっと笑った。






 

 放課後、探貞達は特別棟の女子トイレ前に集まっていた。

「探貞、確かお前の推理じゃこの女子トイレの声は、本当の七不思議じゃないんだろ?」

 和也が問いかけると、探貞は頷いた。

「勿論。後片付けされた不思議だと思う。ただし、今回の犯人、怪盗φがどう考えているかはまだ動機がはっきりしない以上、わからない。ここは真っ先に低い可能性から排除して絞り込んだ方がいいからね」
「でも、学年の中でも、このトイレで声が聞こえたって話を聞いたわよ」

 涼が言うと、三波も頷いた。

「ここの声なら私も一年の時に聞いたわ。本当に女の人の声みたいなのが聞こえるのよ」
「わざわざ確認しにきたんだろ?」
「入学して1ヶ月くらい時間を変えてね。女子トイレを使う女子なら、当然でしょ?」

 三波の返答に九十九は嘆息する。

「世間一般の女子はそんな怪しげな場所を好き好んで通い詰めない」
「女の子ってのはスリルが好きなのよ! ね?」

 三波は涼と数に同意を求めるが、二人は曖昧に笑うだけだった。

「んで、迷先輩はその正体が分かっているんですか?」
「この話について考えた時に大凡の検討はついてるよ。そろそろいいかな?」

 探貞は時計を確認して、女子トイレの扉を開けた。
 それに対して、他の一同は顔を見合わせる。

「ん? どうかした?」
「探貞、入るの?」

 探貞以外は、女子トイレに男子生徒が入ることへ露骨な抵抗感を示していた。
 涼の問いに探貞は頷く。

「中に入らなきゃわからないだろ? 和也も入って確認してもらわないと、本当に霊がいないか確証が持てないし」
「お前、こういうことには本当に疎いな。きっと裸の女が遺体で発見されても抵抗なく調べるだろ?」
「抵抗はあるさ。遺体を見たり触った経験なんて、葬式以外ないからね」
「その返答で、お前の考え方はよくわかった」

 和也は頭をかき乱し、深呼吸をすると、頷いて女子トイレの中へと一歩踏み込んだ。
 涼達女子メンバーもそれに続く、最後に九十九も嘆息しつつ女子トイレに入った。

「個室しかないだけでただのトイレだな」
「いや、流しの横にテーブルなんて男子トイレにはありませんよ」
「荷物を置くための台だろ? 女子トーク用の」

 和也と九十九が女子トイレを見回しているのに対し、探貞は淡々とした様子で天井を見上げる。

「何故かしら、この場に来たことを後悔している自分がいるわ」

 涼が眉間に手を当てて嘆く。
 その時、探貞が口に手を当てて、口を噤むように合図した。
 一同は口を噤み、息を殺す。
 微かだが、静寂になるはずの女子トイレにどこからか声が聞こえる。女性と思しき高い声だが、声が籠もっており、なんと言っているのかわからない。
 探貞と和也以外は言い知れぬ不安が表情に露わとなっていた。
 その時、三波が突然悲鳴を上げた。

「ひぎゃっ!」
「なんでぇ! いつまで隠れてりゃいいんでぇ!」

 三波の鞄の中に隠れていたアールだった。

「驚かせないでよ!」
「勝手に驚いただけだろうが」
「タイミングの問題よ! 心臓が止まるかと思ったわ!」

 完全に宇宙人の出現で緊張感がなくなった。
 探貞は和也に問いかける。

「幽霊はいないね?」
「あぁ」
「なら、この声は当然生きている人間の声だよ」
「んだ? この歌声がどうかしたのか?」

 アールの言葉に探貞以外の一同が驚く。

「歌なの? これ?」
「おうよ。オイラの聴覚は地球人よりも高性能だかんな。……そうでぇ、コイツを使いな」

 三波が問いかけると、アールはバケツ型の四次元帽子から耳栓を取り出した。

「これ何?」
「あべこべ耳セ~ンでぇ」
「いよいよ猫型ロボットみたいになってるわね」
「オイラの発明品は22世紀でも通じるものナリでぇ」
「違うのが混ざってるぞ」

 自信満々に言うアールに九十九がつっこみを入れる。

「そんなことより、使ってみろ」

 アールにあべこべ耳栓を渡された九十九は耳に入れてみる。
 そして、彼は目を見開く。

「歌だ! これは……ふるさと?」
「ふるさと? 童謡の?」
「あぁ。それに、この歌声は聞き覚えがあるぞ。……女子声楽部だ!」

 九十九は三波に言った。

「どういうことですか? 女子声楽部の部室は全く別の階ですよ?」

 数が探貞に聞くと、彼は頷いて、天井の排気口を指差した。

「ここから聞こえているのさ」
「確かに、この排気口から聞こえます」

 あべこべ耳栓をつけた九十九も探貞に同意する。

「つまり、この女子トイレと女子声楽部の部室の排気口が繋がっているんだよ。他のトイレや教室ではこの現象が起こっていないことを考えると、おそらく設計上か、構造上かのミスだろうね。学校側や生徒達も誰ひとりとして今まで気付かなかったとは思えないし、わざわざ問題視するほどのことでもないから、多分七不思議のままでもいいと思って指摘をしなかったんだと思うよ。僕もこういう事態が起こらなかったら、わざわざ確認しようとは思わなかったわけだし。別に今回の一件とは関係がないことが確認できたから、僕の口からはこの場以外で真相を口にするつもりはないよ」
「確かに、わかってみると、わざわざ言いふらすほどの真相でもないし、謎のままのが面白いですもんね!」

 三波は探貞の意見に賛成した。
 他の者も同意見らしく、特に異論はなかった。




 

 

「次からはいよいよ本当の七不思議か。どれから調べるんだ?」

 女子トイレを後にし、特別棟の階段を降りる探貞に和也が聞いた。
 探貞は階段を降りながら淡々と答える。

「開かずの扉は取り壊された旧特別棟である以上、確認はできない。残りは銅像と亡くなった理事長と女子中学生、そして消えた男子生徒だね」

 探貞は階段を降ると、廊下の窓から校庭を見た。
 校庭には教員達と制服を着た警官達の姿が見えた。どうやら捜査の続きをしているらしい。
 銅像はその校庭の片隅にある。

「銅像を調べるのは別の日にした方が良さそうだね」
「その様だな」

 探貞の隣で和也も納得していた。
 そして、彼の視線が不意に校庭の隅にある例の木に移った。

「そうだね。次に調べるのは、彼女が誰なのかということだね。僕の推理が的外れでなければ、彼女が今回の一件においても、25年前に起きた事件においても、重要な鍵となっていると思うんだ。……明日は休みだし、明日図書館に行こう」
「図書館?」
「女子中学生が自殺したんだ。新聞記事に載ってるはずだよ」






 

 その夜、探貞の夕食の席に伝も同席していた。
 父圭二が彼を誘ったらしい。

「探貞。お前の学校でおかしな事件が起きたらしいな?」

 ソースのかかったチキンカツに箸を伸ばしながら伝が、チキンカツにケチャップを付ける探貞に話しかけた。

「もう警視庁にも伝わっているんですね?」
「何を言ってるんだ。昭文町で妙な事件があったら教えて欲しいって言っていたのは、お前だろう?」
「確かに」
「しかし、面白い事件らしいな。机で校庭にミステリーサークルを作ったんだって?」
「そう」
「それに犯行声明まであったらしいじゃないか。しかも、怪盗φを名乗ったとか。……名探偵、かつてのライバルの名前が使われたとなると、気になるんじゃないか?」

 伝がニヤニヤと笑いながら圭二に言った。
 彼はなにも言わずにチキンカツに塩をふりかけて口に運ぶ。

「ライバル? どういうこと?」
「ん? 探貞、覚えていないのか? 前に怪盗φが日本に現れた時に対峙したのがこの名探偵で、お前もくっついて来てたじゃないか」
「僕が? ……あっ! あの時の人!」
「思い出したか。お前、確か途中でどこかに消えて、戻ってきたら怪盗φと会ってたとか言うから二人で驚いたんだぞ」
「ん? そんなことあったか?」

 圭二が寝ぼけたような表情で聞いた。
 それに対して伝は嘆息する。

「やれやれ、この親子ときたら。……ほら、空港で奴を捕まえようとしてた時に、親子連れのが怪しまれないって理由で探貞もついてきてたら、いつの間にか姿が消えてて」
「あぁーあの時のことか。伝、よくそんな昔のことを覚えているな」
「自分の息子の一大事をよく忘れられるな。……結局、奴は現れずにそれ以降、今日に至るまで奴はその姿を現さなかった。もっとも、その名を騙って犯行に及んだ輩は何人もいたし、今回もその一つだろうがな」
「じゃあ、あの時の後、怪盗φは死んだの?」

 驚く探貞に伝は頷いた。

「もしくは足を洗ったかだが、死亡説が有力だな。お前のあの時の言葉が本当なら、お前は怪盗φの最後の姿を見た人物になるな。そういえば、怪盗φの一件が探偵課最初の事件だったよな」
「そうだったか?」
「そうだぞ! 全く、これで上司ってんだから……」
「9年? 10年近くも前のことをそこまで細かくおぼえている方がおかしい」
「記念すべき最初の事件を忘れる方がおかしいと思うぞ」
「……そうだった」

 圭二と伝がしょうもない議論をする傍らで、探貞は幼少の記憶を呼び覚まし、重大な事実を思い出していた。
 その時、彼の携帯電話にメールが届いた。






 

 夜の昭文商店街は、不気味なほどに人気がなかった。
 ほとんどの店舗はシャッターが降り、開いているのは駅近くの居酒屋とスナックが数店だけだ。人がいても、路肩で寝ている酔っ払いくらいだ。
 繁華街は駅の北側に広がっており、商店街のある駅の南側は夜が早いのだ。
 商店街から道を一本外れた住宅地の一角に小さな公園がある。探貞が小学生の頃に遊んだ場所の一つだ。

「どうしたんだい? こんな時間に呼び出して」

 公園内には電灯が一つだけあり、その下に携帯電話を操作しながら待つ九十九がいた。
 彼からメールで呼び出された探貞は、彼の元に近づくと声をかけた。
 九十九はそれに気づき、携帯電話をズボンのポケットに仕舞うと、探貞に丁寧に挨拶をした。

「迷先輩、夜分遅くに呼び出して申し訳ありません」
「いや、それはいいけど。どうしたんだい? 理由がなく呼び出したりはしないだろう?」
「はい」

 顔を上げた九十九は頷いた。いつになく真剣な表情だった。
 その後二人は、自動販売機で缶コーヒーを買うと、それを飲みながらブランコに腰をかけた。
 キコキコと金具の揺れる音が静かな公園内に響いていた。

「先輩、小学生の時のこと、覚えていますか?」
「そんなには。でも、断片的には覚えているよ。この公園も当時は毎日のように和也と遊びに来てた」
「俺のこともですか?」
「うん。三波ちゃんに連れ回されていたね。僕が遺失物係で一度も見つけられないものがないって話を聞きつけて挑戦状を叩きつけに来たこともあったけ。その時にも一緒にいたよね」
「あれは、三波が先輩をよくわからない誇大評価してて、食われるかもしれないからと用心棒に連れて行かれただけです」
「三波ちゃんらしい」

 探貞は笑った。
 しかし、その笑みは静かに止み、真剣な表情で探貞から九十九に質問をした。

「九十九君は、9年前のこと、覚えているの?」
「幼稚園の頃ですよ。ほとんど覚えていないです。……でも、親父のことを全く覚えていないわけじゃない」
「そうか」
「先輩、覚えているんですね? あの時のこと」
「うん。思い出したのはついさっきだけどね。僕は過去に二度、怪盗Φに会ってる。一度目はこの公園で。そして、二度目は空港で。あの時、僕は君と君の両親に会ってたんだ。怪盗φの家族に」
「えぇ。怪盗φは俺の親父です」

 九十九ははっきりと答えた。
 探貞はしばらく沈黙し、思案した後に口を開いた。

「知っていたの?」
「母に確認したわけじゃありません。今更だし、母は死んだ親父の話を俺にあまり話しませんから。……ただ、漠然と覚えています。たった一度だけ、親父が俺を連れて出かけた思い出。それがあの空港です。俺もはっきりとは覚えていないですが、あの時、親父は自分が怪盗φだと言ったんです」
「そうか。怪盗φ……お父さんはいつなくなったの?」
「9年前です。多分、空港で別れた直後に」
「事故?」
「それこそ何もわかりません。怪盗ですからね。殺されたっておかしくもない。一つ確かなのは、俺がよくわからないまま親父の葬儀の席に座ってて、それから遺骨の前で母が泣き崩れているのをじっと見ていた記憶が残っているだけです」
「そうか」

 探貞はそれ以上何も問いかけなかった。
 九十九はコーヒーを飲みながら、ブランコを僅かに揺らしていた。
 沈黙と静寂の中、金具が立てるキコキコという音を聞きながら、二人は無言で過ごしていたが、やがて九十九は口を開いた。

「俺の親父の記憶はほとんどありません。そして、その親父は怪盗φで、とっくに死んでいます。別に恨みだとか、悲しみだとか、怒りだとかいう感情も湧きませんが、ミステリーサークルを作った奴が怪盗φの名前を使った理由は知りたい。なぜ今更墓場に眠っている奴の名前を騙ってあんな事件を起こしたのか、それが知りたいんです。親父にも親父なりの理由があって、怪盗なんて時代遅れの化石みたいなことをやっていたんだろうとは思いますが、犯罪は犯罪です。自分の身内の罪を周囲に話す訳にもいきませんから、怪盗φの正体を知っている迷先輩にお願いしたいわけです」
「お願い?」
「はい。今回の犯人を見つけてください。そして、怪盗φの名を使った理由を聞いて欲しいんです」
「もし理由がただ単に有名な犯罪者の名前を使って世間の注目を集めたいという理由だったら?」
「訂正をしてもらいます。自分は怪盗φではないと」
「……わかった。勿論、九十九君も協力してくれるんだよね?」
「えぇ。当然ですよ。これまで通り、これからも」
「なら、引き受けるよ」

 そして、ブランコから降りた二人は堅い握手を交わした。
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