『名探偵』第二の男




 2年半の月日が流れた。
 夜のニューヨーク、犯罪都市、美しき夜景の街、色々と呼ばれるこの街の路地を一台の二人乗りをする大型バイクが走っていた。路地には、このバイク以外に人影はない。
 6月とは言え、ニューヨークの夜はまだまだ寒い。ライダー達は防寒をしている為、男である事以外は分からない。
 バイクは港へ入り、倉庫群の中を走る。
 そこへ突然バイクが路地の脇から現れた。
 二台のバイクは並走したまま、間もなく倉庫群から出て、埠頭の手前にあるコンテナ群に入る。
 途中から現れたバイクのライダーは、細長いナイフを取り出した。

「テリーさん! な、ナイフを取り出してますよ!」

 後部座席に乗っている男が怯えた声でライダー、トゥルースに言う。

「トムさん、しっかり掴まっていろ!」

 トゥルースは後部座席の依頼人、トム・ゲイツに言うと、アクセルを更にかけた。しかし、バイクはしっかり彼らの横につけてくる。
 ライダーはナイフをふるう。ナイフはバイクのタイヤを裂き、パンクさせた。

「うわあぁぁぁ!」
「くっ!」

 バイクはバランスを崩した。転倒ギリギリのところでなんとか、トゥルースがバイクのバランスをなおし、転倒を免れた。
 トゥルースはヘルメットを外すと、トムに言った。

「バイクではもう無理だ。走ろう」




 

 

 数時間前、メガネをかけた中肉中背の30代前半の男性、トム・ゲイツは一人、リュックを背負い、マンハッタンの街中を走っていた。
 彼は追っ手の張った網によって、捕まるのは時間の問題になっていた。しかし、彼は諦めず、ひたすら目的地へと向かっていた。目的地は、ニューヨークのある街角のアパートメントの一室である。
 彼はその入口を叩いた。

「テリー探偵はいますか? ゲーン一家に追われているのです!」

 彼は扉を開けたヘレンに懇願した。彼女は、どうぞ、と言うと奥へと促した。

「お座り下さい。この探偵事務所の所長、トゥルース・テリーと申します」

 トゥルースは部屋に入ったトムへ静かに言った。
 ゲーン一家との決別から2年半が経過し、トゥルースは紆余曲折を経て、ヘレンの協力もあり、ライセンスを取得し、私立探偵をしていた。
 ヘレンの手引きによって同じ日にギケーの手から逃れた義姉のミズキとの再会をトゥルースは望んだが、彼女はその後行方を眩ましてしまったという。ミズキの安否、足取りを掴む為にも、トゥルースは探偵業を志すことになった。

「お水をどうぞ」

 ヘレンはコップをトムに渡す。
 彼女はアパートメントの大家となり、その一番広い一室を事務所兼自宅としてトゥルースに貸し、自身も彼の家政婦兼助手として住み込んでいる。彼女のギケーの元秘書としての情報網、技能はどれも探偵助手としては申し分ないものである。

「落ち着いたようですね? では、聞かせていただきましょう。何故、貴方がゲーン一家に追われているのか。その理由を」

 トゥルースが言うと、トムは頷き口を開いた。

「僕は新しい瞬間接着剤の開発をしていました。偶然にも、超強力瞬間接着弾といえる接着剤を開発したのです。本当は実用化をしたかったのですが……」

 そういい、彼はリュックから手榴弾の様な形をしたものを取り出し、壁に投げた。爆発と同時に液が固まり、結晶になった。周囲の物も巻き込んでいる。

「このように、どんな力がかかっている物体でも完全に固める事が出来る爆発型の接着剤という……新しい発明品なんです」
「……力説している所、すまないが。これはどうするんだ?」

 部屋の端で固まっている迫力満点な結晶を示し、トゥルースは聞く。彼の背後で、ヘレンが睨んでいる。

「心配には及びません。圧倒的な強度に対し、持続力がなくすぐに砕けてしまうんです」
「とりあえず、接着剤としての利用価値はなさそうですね」
「はい。しかし、ゲーン一家には利用価値があったようです」
「そうだな。例えば、現金輸送車も固めてしまえば簡単に襲える。犯罪への利用価値はありそうだな」
「はい。そして、彼らは強引に私共々さらってしまおう。それで僕は家を脱出し、ゲーン一家とのトラブル対応で有名なこちらを訪ねたのです」

 トムは一通り言い終わらせると、水を飲む。
 テリー探偵事務所はゲーン一家の因縁から、ゲーン一家に関する依頼が圧倒的に多く、その噂が新たな依頼を呼んでいる。これは、ゲーン一家関連の依頼を受け続ければ、いつか直接ギケーを捕まえられるような事件を受ける可能性があるというトゥルース達の思惑によるものもある。

「貴方は確かについていないかもしれない。しかし、貴方は最善の選択をした。……必ず貴方を逃がします」






 

「トム、頑張れ! 埠頭まで行けば、ヘレンの用意した船に乗って逃亡できる!」

 トゥルースはトムを励まし、埠頭を目指す。

「だけど、さっきのがヘレンさんが言っていた新しい殺し屋ですよね!」

 ヘレンは巧みに情報網を構築し、裏世界の動向や情報を仕入れ、トゥルースのサポートをしている。
 今回、ヘレンの得た情報によると、ギケーが直接関与していない代わりに、彼が直々に育てたという殺し屋が初仕事をするという。トムが言っているのは、その殺し屋の事である。

「来たか!」

 後ろからバイクの音が聞こえ、トゥルースは身を翻すなり、トムに言う。

「トム! 埠頭に向かって先に行け! オレはあいつを食い止めてから後を追う」

 トムを埠頭に向かって走らせると、トゥルースはバイクに向って立ち止まった。
 バイクは彼に向って一切速度を落とさずに迫る。
 トゥルースはタイミングを合わせ、コートを翻し、例の二丁の拳銃を抜き、バイクに向かって撃った。銃弾はタイヤを打ち抜き、バイクはバランスを崩して転倒した。
 転倒したバイクは火花を散らしながら、トゥルースに向って滑る。彼は衝突ギリギリで回避する。バイクはコンテナに激突し、爆発する。

「いない!」

 バイクが無人であった事にトゥルースが気がついた瞬間、横からナイフが襲ってきた。彼はコートの襟を切られながらも、何とか攻撃を回避する。

「おっと! ……お前が新しいゲーン一家の殺し屋か!」

 しかし、ヘルメットを被り、素顔のわからぬ殺し屋は、彼の言葉を無視し、ナイフを振るう。トゥルースに匹敵するほどに、殺し屋も腕が立つ。
 トゥルースは、ナイフが不利な距離をとり、牽制をする隙に素早く埠頭へと走った。






 

 まもなくトゥルースは、コンテナ群を抜けようとしていた。

「ヤー!」

 突然、コンテナの脇から女の掛け声がするや否や、踵落としが彼を襲った。

「ウワッ!」

 驚いたトゥルースは、襲い掛かった殺し屋を見た。思わず彼は言った。

「おっ……女!」

 殺し屋は金髪のショートカットが月明かりに輝き、透き通るような白い肌に栄える紅色の目が印象的な、彼と大して差はない歳の美しい少女であった。

「……なるほど。美しき殺し屋と言うことか」

 トゥルースはニヤリと笑い、言った。対して、美しき殺し屋は彼に微笑む。そして、素早くナイフを振るった。
 トゥルースは攻撃を間一髪で回避するが、至近距離ニオイテ腕の立つ者同士では銃よりもナイフの方が有利になり、必然的に地面に押さえ付けられた。

「あの日の………」

 彼女はトゥルースと視線が合った瞬間、静かに呟いた。
 唐突な言葉に虚を突かれたトゥルースだが、それはお互いにとってであり、素早く彼はヘレンから教わった日本の柔術を使い、彼女を投げ飛ばす。
 そして、彼は一目散に走った。
 しかし、美しき殺し屋はトゥルースを追う事を諦めたのか、地面に倒れたまま起き上がろうとはしなかった。






 

「ありがとうございました」

 船の前で、トムは言った。
 トゥルースは、埠頭へトムを送り届け、手配した船にトムは乗ろうとしていた。

「………あっ! これはお礼の印です。あなたならば、これを最良の方法で使ってくれると思って託します」

 トムはそう言うと、背負っていたリュックをトゥルースに渡した。

「これは………まさか!」
「はい。超強力瞬間接着弾です」
「オレが貰っても良いのですか?」
「あなたは絶対に私の期待通りの………いや、私の想像以上に良い方法で使ってくれると信じます。だから、お願いします」
「わかりました」

 重いリュックを持ったトゥルースが見送る中、トムを乗せた船は沖へとゆっくりと夜の海を進んでいった。






 

「では、報酬は確かに頂きました。……ヘレン、お客さんをお送りして下さい」

 トム・ゲイツの依頼から1週間が経過した。事務所を訪れたサングラスをかけた背広姿の男性は、昨日まで行っていた依頼の報酬を届けに来た代理人であった。彼が差し出した分厚い封筒を受け取ると、トゥルースはヘレンを呼んだ。
 ヘレンは洗い物の途中だったらしく、慎ましい態度で代理人の彼を玄関まで送って行くが、腰に巻くエプロンに石鹸の泡がついている。

「下まで送ってきました」

 しばらくするとヘレンが部屋に戻ってきた。トゥルースは記録をノートに書き込んでいた。

「やはりもう一人、人を雇った方がいいかもしれないな」

 トゥルースはノートをしまうと、空のコーヒーカップを片付けるヘレンに言った。

「そうですね。私は大家と家政婦の仕事で結構大変ですからね。事務所の助手が一人いてもいいかもしれませんね。……でも、こんな危険な事務所で働いて頂ける方なんていないと思いますがね」
「確かに。最近は大人しいが、一時期はゲーン一家の嫌がらせも酷い時期があったからな。ヘレンと俺だから大丈夫だったと考えるべきか………」

 トゥルースは机に肘を突くと、その上に顎を乗せてぼやいた。

「ないものねだりをしても仕方ありません。トゥルースさん、依頼がない時は貴方が私の手伝いをして下さい。ここに書かれている物を買ってきてください」

 ヘレンはエプロンのポケットから紙を取り出し、トゥルースの目の前に置く。紙には買い物品名がびっしりと書かれていた。

「こ、こんなに?」
「この所、依頼続きで全く家の事ができていなかったのです」
「えーっと、今仕事が一つ終わったところなのですが………」
「先日の依頼と違って殺し屋も現れない。今回は楽な仕事だ。そうつまらなそうに仰っていたのはトゥルースさんですよ?」
「うっ」
「そんな退屈な仕事をされていた間に、私はちゃんとお仕事をしましたよ」
「え? もう調べたのか? 例の殺し屋の情報」
「当然です。主の頼み事は即日に応える。それが家政婦の務めです。……とはいえ、情報が少なすぎますね。名前もわかりませんでした」
「それで?」

 トゥルースがヘレンに聞くと、ヘレンは黙って視線を買い物メモに向ける。

「わかったよ。買い物してきますよ」
「よろしいでしょう。彼女はギケー様に拾われ、ギケー様によって殺し屋に育てられたそうです。しかし、初仕事がトム・ゲイツの一件だった為、まだ人を殺した事はありません。言い方として、殺し屋というよりは、殺し屋見習いというべきでしょうね」
「なるほど………え? それだけ?」
「それだけです。さぁ、交換条件です。お買い物へ行って下さい」
「それって、詐欺とは言えないかな?」
「言えません。正当な取引です」

 笑顔でヘレンに送られながら、トゥルースはしぶしぶコートを片手に事務所を後にした。






 

 渋滞した大通りの中を一人の少女が走りぬけた。歳は二十歳前。金のショートヘアが動きに合わせて靡く。細身で小柄な彼女は、歩道に溢れる人々の隙間をぬって、走る。
 時折、後ろを気にする。黒いスーツにサングラスをかけた男達が、渋滞している車の間を抜けながら、彼女を追い掛けている。
 彼女は人垣を抜けて、素早く路地に入り込んだ。男達は一瞬、彼女を見失う。しかし、直ぐに路地に入ったことに気がつき、彼らも後を追う。
 少女は路地を走った。走って、走って、走り続けていた。
 路地に入った事で、人目を気にしなくなったのか、男達は懐から拳銃を取り出した。しかし、拳銃が発砲される前に、彼女は角を曲がった。
 彼らは舌打ちをすると、その後を追う。
 勢いよく路地の角を曲がった彼女は何かにぶつかり、倒れた。
 路地に大量の缶詰や玉葱、ジャガイモが地面に落ちた紙袋からこぼれて、転がる。
 そして、気付くと彼女は、紙袋を持って歩いていたトゥルースの上に重なって倒れていた。二人は角を曲がったところでぶつかったのだ。
 下に仰向けになって倒れたトゥルースは、危うく後頭部を強打するところであった。

「おい! 危ないじゃないか! 気を付けろ!」

 体を起こすと、少女にトゥルースは声を上げる。しかし、体を小刻みに震えながら、息を荒げて彼の胸にしがみ付いている彼女の異常さに、直ぐに気がついた。

「どうした?」

 トゥルースは声をかけて、彼女の顔を見た。その顔に彼は見覚えがあった。

「あ、お前は!」
「あ、あなたは………た、助けて!」

 彼女はトゥルースにすがった。彼女はトム・ゲイツの時に戦った美しき殺し屋であった。

「待てー! イリス!」

 角の先から聞こえる男の声で、トゥルースは悟った。

「イリスってのは、お前の名前か?」
「うん」

 トゥルースは彼女の肩を両手で掴むと、聞いた。彼女はか細い声で頷いた。先日の様な荒々しさは姿を隠している。

「イリス、行くぞ!」

 トゥルースはイリスの肩を支えながら経ち上がると、その手を握って言った。

「え?」
「追われてるんだろ?」

 突然の言葉に当惑する彼女に、トゥルースは問う。イリスは頷き、二人は走り出した。

「待て!」

 後ろから男の声がするや否や、発砲した。しかも、威嚇ではなく、明らかに当てようとしている。
 トゥルース達は近くにあったダストボックスの影に隠れる。直ぐ様、トゥルースはマグナム式の拳銃で応戦する。
 男達も角に隠れ、牽制し合う。

「しかし、どうでも良い話だけど。このダストボックスは、弾避けの為に置かれているのではないかと思うほど、何度もダストボックスで命拾いをしているな」

 トゥルースは残弾数を確認しながら呟いた。イリスが思わずクスクスと笑う。

「笑えるんだな。安心した。………このまま撃ち合いになれば、確実にこちらが不利だ。……いいか、同時に走るぞ」

 トゥルースは彼女が黙って頷くのを確認すると、空いた片手でコートの内側を探らせる。取り出したのは、手榴弾に似た形のもの、トム・ゲイツから貰った超強力瞬間接着弾だった。
 トゥルースは威嚇射撃をし、男達の銃撃にの隙を作ると、イリスの手を引いて走った。
 当然、男達は追い掛ける。
 トゥルースはニヤリと笑い、超強力瞬間接着弾を彼らの足元へ落とした。
 超強力瞬間接着弾は彼らの足元で爆発し、次の瞬間、爆発で飛び散っているしぶきの形で固まった。
 もちろん、男達の足や銃を持つ腕もろとも、固まった。

「くそ! なんだ!」
「ビクともしない!」
「おら! 待て!」

 男達は口々に文句を言う。

「こいつは一時的なモノだ。早く逃げよう」

 トゥルースはイリスに告げると、男達を置いて走り去った。






 

「ここは?」

 イリスはアパートメントを見上げて聞いた。

「オレの自宅兼事務所のあるアパートメントだ。協力者というか、助手兼家政婦の所有物なんだ。ここなら、安全だ」

 トゥルースは安心させようと笑顔でイリスに言った。そして、階段を上がり、部屋に入ると、ヘレンが現れた。

「トゥルースさん、お使いありがとう。………そちらの美しい女性は? それから、お使いは?」

 ヘレンはイリスを見て聞いた。その表情の裏からどす黒いオーラがにじみ出ている。

「イリス・サトラーです。はじめまして。………ヘレン様ですね。ギケー様から噂は聞いております」

 顔を引きつらせているトゥルースの横から、イリスは丁寧に挨拶をする。最後の一言にヘレンは目を見開いて驚く。

「あなたは………?」
「例の殺し屋さん」

 トゥルースは事務所に上がると、ヘレンに今日の事情を説明した。

「そう。そんな事が………」

 ヘレンが状況を理解したのを確認すると、トゥルースはイリスに話しかける。

「で、イリスは誰に追われていたんだ?」
「彼らはゲーン一家の下端です」

 トゥルースとヘレンに対して、ソファーの向かいに座るイリスは答えた。

「やはりか。何で追われてたんだ?」
「理由は私が殺し屋を辞めて、ゲーン一家を出たいと言ったから。………と言っても、まだ一人も殺した事がないんだから、殺し屋と言うのも変だけど」
「なぜ? いや、理由ならばいくらでもあるか。2年半、オレとヘレンもゲーン一家から抜けたんだからな。………じゃあ、ギケーに育てられたというのは?」
「本当よ。私は唯一の家族である両親を交通事故で生まれて間もなく失い、ストリートチルドレンとして育った。ただ、事故の影響か私にはその前後よりも以前の記憶がない。唯一わかるのは、名字がサトラーであることだけ。私は本当の名前がわからず、ただのサトラーとして生きてきた。そして、ギケー様はそんなどぶねずみのような、いいえコウモリのような暮らしをしていた私を拾った。そして、ギケー様は私にイリスの名前を与え、世話をする代わりに殺し屋に育てる事にした」
「なるほど」

 トゥルースはイリスの話を聞き、ソファーに背をもたれかけさせると一人頷いた。しかし、まだ納得しきれていないことがある。

「………一つ聞いていいか?」
「何?」
「オレとイリスは以前会った事がある様な気がするんだ。それに、トム・ゲイツの時に君は確か、あの日の、と言った。あれは?」

 トゥルースの疑問に、イリスはすんなりと答えを言う。

「あぁ、あの日に私とあなたは会っているからよ」
「あの日? …………あぁ!」

 トゥルースも気がついた、イリスとどこで会っていたのかを。ゲーン一家と決別をした夜、トゥルースは西門でギケーと、車に乗っていた少女に会っていた。その少女こそ、イリスだった。

「……そうか。あの日からイリスは、ギケーに直接殺し屋の教育をされていたのか」
「そうよ。あの日、私はイリスという名前を与えられた」

 トゥルースはあの夜の記憶をまざまざと思い出していた。『イリス』というメモ、一瞬合わさった少女の目、決別の決意、自由を手に入れた瞬間、全てを。
 彼はソファーから立ち上がった。そして、机からテンプレートを印刷した依頼状を取り出し、ペンとそれをイリスの目の前のテーブルに置いた。

「イリス! 依頼をしてくれ! ギケーから、守って欲しいという依頼を! そうすれば、オレは私立探偵のライセンスに誓って、イリスを守る! そして、ギケーとゲーン一家と直接対決をする!」
「トゥルースさん、それはこちらにも危険が迫るって事を意味しますよ。今までの依頼とは、危険の度合いがまるで違います。いいんですか?」
「ヘレン。ゲーン一家から出たあの日から今日までオレ達はギケーと戦い続けている。イリスはオレと同じ境遇に置かれ、命が狙われているんだ。先輩として、イリスをゲーン一家からの脱退に協力するのは、当然の行為だろ? それに、ゲーン一家を壊滅させるのが、少なくとも目的の一つだ。イリスを守る事は、多少なりその目的に繋がる。受けない道理のが、ない!」
「トゥルースさんがそこまで言うなら、私は助手として従います」
「家政婦としては?」
「断固反対です」
「わかった。…………どうする?」

 トゥルースは肩をすくませると、改めてイリスに聞いた。イリスは真っ直ぐ彼の青い眼を見つめる。そして、固い意思を持って言った。

「お願いします! 私を守って下さい!」
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