『名探偵』混沌の現
探貞達は地面に伏せたままの高田を見つけ、血を出して倒れた出井を確認した。既に息を引き取り、冷たくなっていた。
高田の話からも康介と名乗っていた人物が犯人だと判明し、森の中に逃走したという話を聞き、探貞は木々を見て枝に結びつけられた糸を発見した。
「その糸は?」
「恐らく逃走経路をわかるようにしたものですね。青……はまっすぐみたいですね。次も青ですね」
高田の問いに探貞は、糸を探しながら答えた。そして、慎重に歩きながら糸を調べて、先に進む。
探貞の後に他の一同も続く。
「次は赤ですね。多分、右か左です。……足跡が右にありますね。赤は右ですね」
更に先に進むと、まっすぐの青、そして再び赤の糸が見えた。
探貞は先に進むと、慌てて後ろの面々を止めた。
突然地面がなくなり、崖となっていた。そして、その下には康介と名乗っていた“彼”の死体が転がっていた。
麻倉が枝についた糸を見つめて言う。
「糸を付け間違えたのね」
「……一応、確認に行きましょう」
探貞は出井遺体から回収したリュックからロープを外し、近くの幹に結びつけ、ゆっくりとロープで崖を降りる。
崖を降りると、探貞は崖の特徴に気づいた。土砂災害や地割れでなく、まるでくり貫いたかのような崖の断面であり、側面も内へと抉れている。反っている崖でも、地面の直ぐ下から固い岩石による地層、岩盤が形成されているのがわかる。
「この崖はかつて岩噛巳が食べた跡なのか」
探貞はポツリと言った。この辺りの山は至るところが岩噛巳が食べたことで出来た崖があるのだろう。椎名の落ちた所もそのひとつなのだろう。
感慨に浸りかけた探貞は深呼吸をし、“彼”の元に近づいた。
間違いなく死んでいる。頭部に陥没骨折が見られ、ほぼ即死だったと思われる。
不慮の事故によって、連続殺人犯は死んだ。
探貞は静かに遺体に黙祷し、立ち上がった。
探貞達は一度ペンションに戻ることにした。昼が近いこともあるが、仮に“彼”の糸を辿れば麓に降りられるとしても、誤りが存在している為、それなりの装備を整えて全員で脱出する必要がある。
そして、彼らがペンションの前に着くと、血がポツリ、ポツリと落ちていることに気づいた。扉も半開きになっている。
「これって……」
麻倉が驚いて探貞を見る。
探貞は平然とした様子で扉を開けた。
「無事で何よりです。椎名さん」
探貞はペンションに入るなり、ロビーのソファーに座り込む椎名に言った。出発前に広げた救急セットのあまりやタオルで、彼女は自らの頭部を応急措置的に巻いていた。白くタオルに血が滲んでいる。
麻倉が椎名に駆け寄る。
「椎名さん! 良かった、生きていて」
「ごめんね、優子。つい取り乱したみたい。自分でも何であの時走り出したかわからないわ」
抱きつく麻倉の頭を撫でながら、椎名は謝った。
飯沼が椎名に近づく。
「でも生きていて良かった。それにもう安心だ。殺人鬼は死んだよ」
「え?」
驚く椎名に高田が説明する。
「あのオーナー代理をしていた康介君が犯人だったんだよ。しかも、迷君の推理では、康介君のフリをした偽者だったらしいんだ。その“彼”もまた、逃走用に付けていた印の色を間違えて、不慮の事故で崖から落ちてそのまま死んでいたんだよ」
「そうだったんですか。……あの、出井さんは?」
驚きのあまり表情が上手く変えられないらしく、当惑した顔で椎名は一同を見て問いかけた。高田がそのまま答えた。
「それが、“彼”に胸を一突きにされて死んでしまったよ」
「そうでしたか……」
椎名は麻倉の頭を撫でながら、うつむく。
落胆する椎名に高田は努めて明るく声をかけた。
「しかし、犯人はもういないんだ。これから荷物を纏めて、残った全員で脱出をしようと考えていたんだ。“彼”の残した印を辿れば、ここを出られる可能性があるんだ。ただ当の本人が誤って死んでしまうくらいだから、十分な備えが必要だろうからね」
「なるほど。わかりました。私もお手伝いします」
椎名が顔を上げて言うと、探貞も笑顔で頷いた。
「ありがとうございます。助かりますよ。何せ、暗くなると厄介なものですからね?」
「そうですよね。暗くなると糸が見えなくなるかもしれませんね」
椎名が言うと、探貞は笑顔で頷いた。
「そうですね。……でも、僕達は印が糸であることは話していなんですよね。何故、知っているんでしょうか? 椎名さん」
「! ……優子っ?」
咄嗟に動こうとする椎名だが、麻倉ががっちりと腰を絞めている為、動けない。
麻倉は顔を椎名に埋めたまま、言った。
「まさか、本当に椎名さんがこんな恐ろしい殺人計画を立てた真犯人だったなんて! ……逃がさないっ!」
「っ!」
椎名はすべてを察した。すでに自分が真犯人だとわかった上で、このペンションに皆は戻ってきていた事実を、そしてそれを解き明かした人物が迷探貞だということも気づいた。
彼女は無駄な抵抗を止めた。そのまま椎名は、妙に縛り方の上手い飯沼によってロープで拘束された。
「もう逃げも隠れもしないわ。……というか、飯沼さんにこういう趣味があったなんて、ある意味一番の衝撃だわ」
「ただの嗜みだよ。一昔前の番組作りで覚えたんだ。勘違いしないでくれ」
飯沼は言い訳をするが、全員ロープで椎名を縛る時の彼の目が本気だったことを知っている。
「それより、名探偵さん。もう私は抵抗もしないわ。目的も果たせたしね。……話して下さいよ。これでも完璧だったはずの私の計画が何故、あなたは見抜くことができたの?」
「そうだな。俺も聞かせてほしい。名探偵の推理とやらを」
関口も探貞に言った。探貞は他の面々を見る。全員が頷いた。
「わかりました。お話させてもらいます」
探貞は頷き、深呼吸をした。
すでに覚悟もしている。彼は自らの推理を話し始めた。
「まず、犬山康介君を騙った“彼”についてからお話します。何故、“彼”が偽物だと気づいたかと言えば、実はついさっきのことです。麻倉さんの言葉で、僕達は康介君が本物か偽物かなんて考えもしなかったし、知るよしもなかったことに気づき、“彼”が偽物だと結論を出しました。というのも、僕は“彼”が犯人である可能性は随分前から考えていましたが、張さんの入院で偶然呼ばれた康介君が今回の犯行を計画するとするには無理があるし、動機も想像しずらい。僕と同じ、部外者でしたからね? しかし、偽物であれば話は変わってくる」
「なるほど、しかし何故“彼”が犯人である可能性を疑っていたんだ? アリバイがないのは皆同じだろう?」
「関口さん、アリバイがあったからそもそも僕達は外部の犯人を疑ったことを思い出してください。そもそも犯人は栄子さんのストーカーによるものだと考えています。ここに僕達が到着してから犯人が行ったことは、電話線の大元を切断し、勝手口の鍵を抉じ開け、ペンションに侵入したこと。そして、予告状を残し、警察が帰ったあとに、ペンションの壁の電話線を切断して紙片を残したことです」
「ん? 電話線は元々切れていたのか?」
飯沼の問いかけに探貞は頷く。
「そうです。そうでないと、やはり時間的に“彼”も電話線を切断しに行くことは困難ですからね。お忘れのようですが、警察への通報をしたのは、僕ではなく、“彼”です。僕が勝手口を抉じ開けられたことを伝えると、“彼”が警察に通報をするからと言い、警察に受付の電話から通報を行った。これは“彼”の演技です。実際は、あの時点はまだ携帯電話が使用できたので、携帯電話から警察に通報をしたんですよ」
「そう言うことか!」
飯沼は納得できた様子で手を打った。
探貞は続ける。
「この可能性が僕の脳裏にあった為、“彼”が犯人である可能性を疑っていたわけです。そして、岩噛巳が目覚め、僕達はここに閉じ込められます。かなり偶然に感じますが、ここ数日、地震は続いていました。もしかしたら、椎名さんは岩噛巳が目覚めることを予見していたのではありませんか?」
「まさか。私じゃないわ。ただ、私がその可能性を考慮していたのは事実よ。もしも岩噛巳が目覚めなくても、土砂崩れは山の中に隠してきた爆弾で起こす計画だったし、携帯電話は理由を何とでもでっち上げて壊すことはできたわ。でも、私が計画した者だと気付かれるリスクは避けたかったし、“彼”も犯行を重ねる為に避けたかった」
「もっとも、“彼”もあなたが計画した人物だと鈴木さん殺害後に気づいたみたいですけどね?」
「え?」
「鈴木さん殺害後、僕は発見当時の皆の動きを確認しました。この時、椎名さんは“彼”が階段を昇ってきたと証言した。この証言で、僕は一度“彼”を疑いから外した。何故なら、時間的に“彼”は榊原君の部屋からこっそり出てきて合流しないと間に合わないですからね」
「ちょっといいか? あの栄子の殺害の状況が俺には理解できないんだ。“彼”が犯人なら、どうやって証拠品を処分したんだ? ずっと俺達と行動を共にしていたんだから、シーツなんかを焼却機に運ぶ時間はなかった筈だ」
「関口さん、栄子さんは榊原さんが発見するよりもずっと前に殺されていたんですよ。それこそ夕飯後、各々が部屋に入り、僕達が食堂で話をしていた間に。それなら一時間以上も犯行を行う時間がある。“彼”は納戸からシーツと手袋を身につけ、鈴木さんを殺害した。恐らく抵抗した痕がほとんどないので、夕飯のメニューに睡眠薬を入れていたのでしょう。犯行を終えた後、“彼”はまず焼却機にシーツなどを入れて、何らかの簡易的な時限発火装置を施し、事件発覚前に煙で焼却機のことをバレないように細工した。恐らく蝋燭や線香などで一時間程度でシーツに燃え広がるようにセットしたのでしょう。そして、自身に血痕が残っていないかを確認し、氷解と釣糸などを用意して鈴木さんの部屋に戻った。あとは、仕掛けを施して榊原さんの部屋に紙片を落とし、発見させる。“彼”は納戸でその様子を確認しながら、隙をみて榊原さんの部屋にロープを繋ぎ、窓から垂らし、なに食わぬ顔で皆と合流した。ロープは使われなかったのは、ベッドの足に繋がれていたロープを引っ張るとベッドが動いたからです。もしもロープを使用していたら、ベッドは窓に向かってずれていたはずですからね」
「なるほど」
関口は納得できた様子で腕を組んで頷く。
探貞は推理を続ける。
「次の須藤さん殺害は、確かに深夜なのでアリバイは誰もありません。しかし、状況から“彼”が最も犯行を行いやすい立場でした。それに、僕は“彼”の淹れた珈琲に混入されていた睡眠薬で眠らされていました。その可能性が高いと考えると、再び“彼”の疑いが強まりました。恐らく、“彼”は睡眠薬で僕が眠ったことを確認し、深夜須藤さんの部屋に行った。恐らく、順番に女性達がシャワーを浴びているからなどの嘘をついて、風呂へ誘導した。浴槽には湯か水をはっていた。湯気で違和感を感じさせない為なら、湯をはったのでしょう。浴槽に湯を溜める工作が施せるのも、“彼”だからできることです。なぜなら、深夜は入浴できないはずの時間なので、一度浴槽は湯を抜いてあるはずなのです。湯を溜める音を一階で寝ていた僕達、と言っても睡眠薬で寝かされた僕は聞いていないですが、“彼”も聞いていないとは考えにくい。だから、“彼”ならば犯行を起こしやすい状況でした。そして、シャワーを浴びている彼女を襲って、溺死させた。後は発見させやすいように、扉を上げておけばいい。“彼”は悠々と睡眠薬の入ったコップを洗い、寝袋で寝た訳です」
探貞は一呼吸置き、一同に声をかけた。
「ここからは“彼”の犯行というよりも、椎名さんの計画です。お腹も空きましたし、一度食堂に場所を移して、食事を食べながらお話しましょう。それから、椎名さんの頭も手当しておきましょう。いくら自分でおでこを切った浅い傷とは言っても、適当にタオルを結びつけているだけでは化膿してしまうかもしれませんから。……麻倉さん、お願いしていいですか?」
麻倉は頷き、椎名の手当を始めた。
食堂で食事を食べながら、探貞は続きを話す。
声が聞こえやすい様に、探貞はお誕生日席に座った。ちなみに、椎名は縛られたままだが、飯沼のたっての希望から彼が食事介助している。真犯人の椎名にすらも、完全に引かれているが飯沼本人は幸せそうなので、全員諦めている。
「食事中で話す内容ではありませんが、食べた後で悠長にお茶を飲みながら話の続きができるかもわからない状況ですので、ご了承下さい」
「構わないわよ。迷さん、続きをお願いします」
麻倉に促され、探貞はレトルトカレーを飲み込んで、話の続きを始めた。
「第三の事件は、“彼”の仕掛けたものではなく、椎名さんの仕掛けた狂言です。岩噛巳が丁度よいタイミングで現れた為、椎名さんは森に向かって走った。すでに“彼”も椎名さんが計画者だと疑っていた。椎名さんにとっても、油断をしたら“彼”に殺されてしまうかもしれないので、良いタイミングだったと思います。……椎名さんは犯行の計画者ですから、“彼”が昨夜須藤さんを殺害していることを知っています。つまり、犯行時間帯は僕が寝ており、“彼”も殺人のために風呂場に居るため一階は最も手薄な状況だったはずです。椎名さんは、昨夜の間にネットとシーツ、そして予備の着替えと血糊を持って、ペンションを抜け出して崖の底に細工を施した。具体的には、崖の上からは見えない位置にネットを張る。ここの崖は、岩噛巳がかつて岩を食べてできたものの様で、どこも反り返っています。この細工は心得さえあればできることだと思います」
「えぇ。昔、山登りの企画番組で学びました」
「補足、ありがとうございます。そして、崖の底に自分と同じ服装を丸太か、もしかしたら石に施し、地面に血糊を撒いた。その上からシーツを被せれば、雪に隠れてカモフラージュできる」
「近くに手頃な石があったので、それを組み合わせて、服を被せました。力作ですよ」
「なるほど。……それから、椎名さんはもう一つ細工をしています。糸の付け替えです。これで椎名さんが“彼”に対して仕掛けた罠は完成です。後は、今朝、森に走ってそのまま“彼”は椎名さんを追ってきたことを確認し、“彼”から見えるところで滑落してみせた。ネットに飛び込んだだけでしょうけどね?」
「えぇ。そうです。そして、シーツには釣糸を結んでいました。ネットの端に繋いでいた釣糸を引っ張るとシーツが引き剥がされ、仕掛けた変わり身を“彼”が崖を見下ろすまでの短時間で出現させることができる。この仕掛けは迷さんも気づかなかったみたいですね?」
「なるほど。確かに、その方が効率的なシーツの回収方法ですね」
探貞は椎名を素直に感心する。
彼女は微笑み、探貞に話を譲る。
「椎名さんはそれから証拠となるネットや変わり身、シーツをどこかに隠し、このペンション近くに戻ってきた。そして、おでこを切って血を吹き出させると、素早く押さえて、ペンションの中へ入った。後は、タオルで頭を処置すれば僕達に発見されるまで、ソファーで休んで待っていた。すでに、あなたのターゲットである出井までの人物が“彼”によって殺害されていれば、目的は果たせていた。……それから、本物の犬山康介君を殺害したのは椎名さんですね?」
「そうです。“彼”を試す意味もあったので、私が予め殺し、“彼”に死体の処分を指示しました。指示はメールで行いました。……あぁ、何故私が“彼”の存在に気づいたかですが、簡単なことです。宅配物に手紙が何度か紛れ込まされていたんですよ。それで、宅配業者の青年を誘惑して聞き出したんですよ。そうしたら、友人に宅配の仕事を交代して貰っていたとわかって、“彼”のメールアドレスを手に入れたんですよ」
「なるほど。では、脅迫状が届いたことで計画された事件だったのですね?」
「えぇ。実際には一月とかかっていない計画でしたが、上手くいきました」
椎名は清々しい顔で答えた。
「椎名さん、僕の推理は以上です。教えて下さい。この恐ろしい連続殺人計画を練った、彼らを殺させた動機を、教えて下さい」
「えぇ、もう隠す理由もありませんから。動機は、復讐ですよ。とても単純な女の怨みです。私にとって、一番死んでもらいたかったのは出井でした。でも、“彼”と違って、私は楽しみを一番最後に取っておきたい人なんですよ。出井が狼狽して、遂に岩噛巳を見て腰を抜かした時は、思わず笑ってしまうところだったわ。……出井はかつて私を嵌めた男なのよ。皆さん知っているでしょ? アイドルだった私がスキャンダルで堕ちるところまで墜ちたことを。あれを仕組んだのは、出井だったのよ。相手方のプロデューサーも仕掛人だった。私は潔白だったわ。用事で呼び出されたところを、出井に撮影されたの。プロデューサーも金を手に入れ、出井も多額のお金を手にした。出井は私の借金を抱えさせ、それによって甘い密を吸える亡者共を仲間に率いれ、私をおとしいれた。すぐにその事実は気づいたけど、もう私には借金以外なかった。須藤は、その時に私に借金をさせた金貸屋の娘よ。高田さん、彼……あのプロデューサーから須藤さんを頼まれたんじゃない?」
「あぁ、そうだ。しかし、まさかそんなことが……」
「驚いているけど、それが事実よ。栄子は、“彼”に犯行をさせる為の餌だった。でも、あの子も私にとって、殺しても構わない子だったわ。……本当にあの子は、あのプロデューサーに枕営業をしたのよ。栄子が自分でやったのか、誰かが唆したのか、プロデューサー側が持ちかけたのか知らないけど、栄子は私がでっち上げられたことを本当にやって仕事を手に入れてきたのよ。……だから、私は計画を立てて、“彼”に実行させた。だから、もう私の目的は達成されたわ。後悔もしていない。喜んで死刑台に行くわ!」
椎名の狂気に皆が言葉を失った。
彼女は声を上げて狂ったように笑った。
そして、その笑いが落ち着くとニヤリと笑みを浮かべ、飯沼と関口を見た。
「でも、私に犯行計画を立てさせたのは、この二人よ」
「なっ!」
「何を言うんだ?」
「私、聞いちゃったんでよ。飯沼さんと関口さん、あと須藤が事前の調査の段階で、岩噛巳が目覚める可能性が高いことを前回と前々回、もしかしてその前の資料も見つけたのかしら? 岩噛巳の活動する周期性に気づいて、撮影期間をその目覚めるタイミングに合わせて設定した。それから通信機器に不良が起きる可能性にも気づいていた。どうなの? 私や“彼”よりも、欲に眩んだコイツらも中々の悪人だと思わない?」
椎名の言葉に、二人は苦い顔をする。どうやら、事実らしい。
「まさか、デジタルカメラを壊すほどのものだとは想定していなかったし、固定電話は使える算段だったんだ」
飯沼は吐露した。
関口は苦い顔をしているものの、その目は冷静だ。覚悟していたのかもしれない。
「どうやら事件の謎は解明されたみたいですね。……椎名さん、それから飯沼君、関口さん、あなたたちのことはまずここを脱出した後に裁かれるものです。食事も終わりましたし、迷君、いいですね?」
高田が立ち上がり、仲裁をすると、一同は頷いた。
まずはこの山からの脱出だ。