『名探偵』混沌の現




 翌朝、若干の二日酔いで頭痛がするのを感じながら、厨房で冷たい水を飲もうと探貞がオーナー室からロビーに出る。ロビーにあるガラス製のテーブルと三人掛けと二人掛けの黒い革製ソファーがあるが、そのテーブルの上に紙が置かれていた。

「ん? 誰かの忘れ物かな?」

 探貞は紙を拾い上げた。紙はA4サイズの普通のコピー用紙だった。
 そこには、ボールペン字の直線の組み合わせで文が書かれてあった。筆圧や筆跡鑑定が難しく、大量生産されているボールペンを使えば、まず足はつかない。

『予告状
君達は我が手中にいる。一人、また一人を我が手にかかろう。』

 紙に書かれたその文を見て、探貞は張介からの依頼を思い出した。
 探貞はその紙を持ち、4号室の高田の部屋に行った。張介にストーカーのことを伝えたのは高田だった。
 彼はまだ寝起きであったが、二日酔いの様子はなく、探貞から受け取った紙を見て、部屋に入るように促した。

「いつ頃置かれたか、誰が置かれたかわかるか?」

 紙を読み終わり、探貞に紙を返しながら、高田は聞いた。
 探貞は首を振る。

「昨夜の間だということは間違いないですが、酔い潰れていましたから、全く」
「鍵は閉めていたんですよね?」
「流石に施錠はしました」
「つまり、我々の中の誰かというのが一番可能性が高いのか」
「今のところは。勿論、まだ解錠をしていないので、すべての扉の鍵が閉まったままなのかはわかりません」
「なるほど」

 高田は腕を組んで、ベッドに座った。

「張さんから聞いていることは、ストーカーの脅迫があったという話だけなのですが、誰のストーカーなんですか?」
「あぁ。栄子ちゃんだよ。彼女、あぁいう如何にもなグラビアアイドルだろ? 結構、熱狂的なファンがいるみたいなんだ。もっとも、その話自体は椎名さんから聞いた話なんだが」
「脅迫状というのは?」
「局に一通届いたんだよ。はっきりと文面は覚えていないが、ペンションでの撮影で人が死ぬ、それが嫌なら撮影をやめろといった内容だったはずだ。それが栄子ちゃんのところにも同じものが届いた椎名さんから聞いて、イタズラにしても無視できないと、警察に伝えたんだ。まぁまぁの対応だったらしいんだが、こうして同じように脅迫状が届いた以上、その効果はなかったんだろうなぁ」
「なるほど」
「それで、無策に撮影をして何かあると、今のご時世、局が叩かれるからさ。飯沼君がここのオーナーが元刑事だと下見の時に聞いたと言うから連絡したわけだよ。まぁ解答が入院で泊まれるかわからないというものだとは、全く予想していなかったけどな」

 高田は頭をかきながら言った。
 そして、探貞を見る。

「とりあえず、この件は伏せておいてほしい。椎名さんには伝えておいた方がいいから、俺の方から伝える。君も話さないように」
「わかりました」
「それと、一応オーナーから探偵するように依頼されているんだろ? この紙は誰が置いたものなのか、調べてくれ」
「はい。……それと、聞いても良いですか?」

 探貞は頷いた後、この際ならば、気になることを聞いてしまおうと、高田に問いかけた。

「なんだね?」
「椎名さんは、元アイドルでしたよね?」
「あぁ。随分前だね。椎名まなは、十代のアイドルとしては十分すぎる人気だったよ。数字もよく取れていた。まぁ、嵌められたんだろうな」
「嵌められた?」
「スキャンダルだよ。大手の局の人との密会をすっぱぬかれたんだ。つまり、枕営業だと週刊誌に載せられたんだ。事実はどうなのか知らないし、残念ながら、俺はプロデューサーをしていても一度としてアイドルと密会なんて、美味しい経験はないからわからないが」
「なるほど。それで芸能界から引退したんですか」
「まぁな。ただ、それのせいで借金もこしらえたらしくて、アダルトビデオにも出演したよ。まぁそれでトントンだったみたいで本数は少ないみたいだがね」
「そうだったんですか」
「それから本当に彼女の姿が見かけなくなったと思ったら、二人のマネージャーとして業界に帰ってきたんだよ。しかも、結構彼女達、椎名さんがそのスキャンダルになった相手の局で、番組によく出てるからね」
「えっ」

 高田のその言葉の意味は、探貞に社会のどす黒いものを感じさせるには十分なものであった。

「ま、何が出るかわからない恐ろしさが椎名さんにはある訳さ。そして、マネージャーとしても結構優秀となっては、こちらも一目置かざる得ない」
「確かに、そうですね」
「あぁ、この話は業界で周知のことだが、暗黙の元に、と前置きがつくから、くれぐれも他所で話すなよ」
「わかりました」

 そして、探貞は紙を高田に預け、ペンションの施錠を確認しに行った。
 その結果、勝手口のドアの鍵にこじ開けられた痕が残っており、その鍵が空いていたことがわかった。
 つまり、ペンション外部の人間が侵入して紙を置いた可能性が高まったのだった。




 

 

 朝食を済ませ、美衣の買い出しが戻るとすぐに高田達は撮影に繰り出した。
 今朝の予告状なる怪文書については、高田との約束通り他の者に伝えず、今朝勝手口の鍵がこじ開けられていたことを朝食の席で、皆に伝えて窃盗がなかったかの確認を行ったが被害はなかった。
 そして、撮影に彼らが出発した後、警察が訪れて簡単な現場検証が行われた。
 鍵がこじ開けられた事実がある以上、康介が警察に通報する必要があると言い、受付の電話からの連絡で警察が来ることになった。
 そして、探貞は通報に際して、高田に再度怪文書について話してよいかと確認した。
 しかし、彼から怪文書については警察にも伏せておいてほしいと頼まれた。しかしながら、探貞と椎名と高田だけが知っているのは、探貞の立場上も都合が悪いため、康介にだけは怪文書の事実を警察が来る前に高田と共に彼へ伝えていた。
 怪文書の事実を伏せ、窃盗もなかった為、警察はすぐに帰った。
 その後、片付けなどを済ませると、時間がまだ空いていた。昼食は高田が怪文書の口止め料がわりに探貞達の分も一緒に買ってくれた弁当がある為、夕食の準備までやることがない。

「撮影、見に行きますか? 今朝の話だと、下の空き家や民家を回って祠に行くと言っていたので、祠あたりで合流できると思いますよ」
「そうですか。折角だから、行きましょうか」

 探貞も康介の提案に同意し、彼の運転するハイエースで祠まで向かった。




 

 

 山の木々に包まれた一本道の途中の谷に、祠はあった。祠の周囲には雪掻きで積まれた残雪が残る。ペンションの周辺ほど雪はないが、谷の日影にあるため、残雪は長く残っているのだろう。固く凍っている。
 路肩の草むらにハイエースを寄せて停めると、康介も降りてきた。
 まだ撮影陣は来ていなかった。

「岩噛巳……ですね?」
「そう読めますね。俺もここの土地には詳しくないから。それこそ、彼らの方が詳しいでしょうね」

 祠の石に彫られた文字を見て、康介は答えた。そして、視線を道の先から来るキャラバンとエルグランドに向けた。
 彼らの車両も、道に横付けし、各々が降りてくる。麻倉と栄子は撮影用のメイクを施しているらしく、今朝までとは別人のように何倍にも美貌が増している。

「あれれー、ここって電波ないの?」

 撮影準備をするスタッフ達を尻目に、エルグランドから降りて、携帯電話を空に向けて振る栄子の姿が探貞達の目に入った。
 続いてエルグランドから降りる椎名も同じように携帯電話を空にかざす。
 撮影の邪魔にならないように、ハイエースの側で様子を見ていた探貞も気になったので、自分の携帯電話を確認すると、圏外となっていた。
 康介もそれにつられて携帯電話を開き、声を上げる。

「あ、本当だ。ここ、地下ではないんですけどね」
「基地局から離れているんですかね? 谷なので、山の中腹にあるペンションと違って通信が届きにくいとか」
「いや、電波障害だな」

 探貞達が話していると、イヤホンを耳につけた関口が近づいてきた。イヤホンはポケットラジオに繋がっており、それを色々な方向に向けている。

「電波障害?」
「あぁ。ほら、迷君も聞いてみな。どこにチューニングしてもノイズばっかりで、聴こえやしない」

 関口から受け取ったラジオを聴いてみると、確かにAMもFMもノイズしか聴こえない。
 ラジオを関口に返しながら探貞は聞く。

「どういうことでしょう?」
「電波障害は妨害になる電波が発せられる違法無線が飛んでいたり、電波を遮断されるようなところで起こるものだ。谷だから後者が妥当だが、あまりにも聴こえない。周辺の地質だろうな」
「地質ですか?」
「あぁ。鉱石の中には電波を発したり、磁力を乱したりするものがあるんだ。もしかしたら、この周辺はそれらを多く含む地質なのかもしれない。それならば、携帯電話やラジオが全く機能しないのも納得だ」
「なるほど」

 探貞は感心して頷く。
 しかし、関口はそんな彼を見ながら、ニヤリと笑って付け加える。

「または、岩噛巳様によるものかもしれない」
「どういうことですか?」
「なんだ、知らないのか。ここの土地には、土着の信仰があるんだ。所謂、土地神や民間伝承の類だな。そこの祠は岩噛巳を眠らせているものだ。つまり要石ってやつだよ。この地域には、大昔から岩を奉る風習があって、岩の神と呼んだりもしている。そして、その源流がこの土地にある岩噛巳様のようだ。名前の通り、岩を食べる亀や蛇の姿をした神様だ。それが百年周期で目覚めて、天変地異を起こすらしい」

 そう言いながら、関口はポケットからコンパクトサイズのデジタルカメラを取り出し、探貞に写真を見せる。

「これが、さっき向こうの民家で見せてもらった前回、明治時代後期に岩噛巳様が起きた時の資料だ。古い家には倉だとかにこう言うものがあるんだが、中々個人の取材じゃ見せてくれないからな。テレビの力は大きいぜ。……で、これなんかは当時の新聞だ」

 写真はここの地方新聞の記事だった。
 どの辺りかは具体的にわからないが、この地域の山が崩れ、民家が十軒も潰れ、地区が壊滅したらしい。
 明治政府も帝国陸軍を派遣したことが記されているが、あまり大きく取り立たされている訳ではなく、写真も載っていない。それよりも同じ紙面で陸軍の戦況を大々的に報じている。

「当時の日本は、日露戦争の最中で恐らく敵国に対して自国が不利になる情報を統制していたのだろうな。陸軍が政府が派遣しただけでも、良かったといえる。まぁ、確か当時大陸の要塞を日本が降伏させた大きいだろうな。他の資料に、陸軍の様子が書かれていた。この写真だ。他の民家に残されていた手記というか、日記の類だな」

 別の写真を表示させて、関口はデジタルカメラを探貞に渡す。
 巨大な亀やツチノコのような胴が太い怪獣に、大砲が放たれている水墨で描かれた絵と文がそこに書かれていた。水墨画は決して上手いものではないので、その家の人間が書き残した素人のものだろう。

「そこには、『岩噛巳様は、山の様に大きく、大日本帝国陸軍をもっても動じず。其の怒りに退路を断たれ、潰された。其の怒り、二日で鎮まる。山も静まる』と書かれている。この他にも、門外不出の書として民家にはそれぞれ岩噛巳関係の資料があったが、どれも巨大な岩噛巳が現れて、山を崩し、民家を襲っている。そして、事態に駆けつけた帝国陸軍は大砲を設置して応戦したものの全く歯が立たずに敗北。その後、岩石を食べて、目覚めから二日後に眠りについたことを遺している。帝国陸軍が壊滅した事実を政府もひた隠しにしたかったんだろうな。情報統制をした。しかし、住民達は後世の為にこう言った資料をそれぞれの家に遺したんだろう」
「じゃあ、岩噛巳は今もこの地に?」
「眠っているんだろうな。これらは前回起きた時の話で、その更に前は江戸時代なんだが、こっちの方が残されている情報は多い。この写真だ。住民から空き家になってる家の一つが、かつてはここの地主だったらしくて、江戸時代の記録もあるかもしれないと教えてくれてな。慌てて役所に撮影許可を取って、撮してきたんだ。お陰でスケジュールが大きく遅れた」

 彼らの祠への到着が遅れたのは、その為だったらしい。
 その空き家で見つけた資料の写真も関口は探貞に見せた。

「江戸時代はもっと農家が沢山あって、住民も多くて村になっていたらしい。しかし、ここの祠の先にある谷から岩噛巳は現れ、村の田畑、家屋を壊滅させ、死者は百人を超えたらしい。というか、その資料を遺した人間以外は全滅で、藩が復興の為に別の村から人を移り住まわせたらしい。そして、この資料でも岩噛巳は二日で再び谷に戻り、眠りについたと記されていた。そして、その年号は調べたら、200年前のことだった」
「なるほど。つまり、百年周期で二日間だけ目覚めて岩を食べる巨大な生物がいるということですね」

 探貞は関口が恐らく言いたいのだろうことを要約した。
 関口は大きく頷く。

「正しく、そう言うことだ。いや、しかし君は凄いな」
「何がですか?」
「なんというか、これほどの資料に富んだものはそうそうない。少なくとも、何らかの天変地異が百年周期の二日間発生している訳だが、それをそう言い切れるところがね」
「そういう関口さんも、岩噛巳の存在を信じている様子ですよ」
「まぁ、俺はね。ただ、他の奴らは違ったものでね。高田さんも、これではオカルトのエセ番組になると頭を抱えている始末だ。俺は早々に台本を岩噛巳、巨大不明生物説で書き換えたんだがね」
「確かに、そうですよね」

 探貞は頷くものの、高校時代に宇宙人や未来人、更には異世界人や地底人、そして魔王なる巨大な怪物にも遭遇している為、今更映画のような怪獣の伝説を聞いたところで、別にいてもおかしくはないと思う程度だ。それどころか、今も故郷の昭文町には、そうした怪奇をchaoticと呼んで調査している宇宙人の友人がいる。電波が回復したら、彼に岩噛巳についてのメールを送ろうかとも考えていた。

「でも、それは関口さんにも言えたことですよ?」
「まぁな。俺の場合は、信じてしまうんだよ。何年か前に福岡タワーが爆発した事件、覚えてるか?」
「! えぇ。……覚えています」

 覚えているもない。その事件は、探貞達が異世界の魔王を同じく異世界の勇者と共に倒した際の出来事だ。もっとも、魔法の力によるものなのか、彼以外にそれを確り覚えているのは宇宙人の友人一人だけだが。

「あの時、俺は福岡タワーの側にいてな。爆発を見ていたんだ。……まぁ、報道された通りの原因不明の爆発だったんだけどさ。変な夢を見ているんだよ。事件の前なのか、後なのかもわからないんだが、福岡タワーは爆発でなく、巨大なクリオネみたいな怪獣と巨大な甲冑が戦って壊れたんだ。それを俺は地上から見ていたんだよ。まぁ、夢なんだけどな。……妙にリアルで、今でも思い出すんだ」
「………」

 探貞はぞわりと毛が逆立つのを感じた。関口は三人目の本当の記憶を持つ人物だ。
 探貞はそのことについて、話そうかと考えたが、それよりも早く、関口は高田達に呼ばれ、撮影に戻ってしまった。

「今の、本当だと思いますか?」
「聞いていたんですね」

 探貞にいつの間にかエルグランドの側で栄子や椎名と携帯電話の電波状況を話していたはずの康介が戻っており、話しかけてきた。
 どうやらちょくちょく栄子の近くに来る為、椎名に警戒されたようだ。彼女がエルグランドの前から康介を睨んでいる。

「どこから聞いていました?」
「福岡タワーの爆発事件についてです」
「なるほど。はっきりしているのは、関口さんも僕も岩噛巳がただの迷信ではないと思っていることですよ」

 探貞がそう答えると同時に、ディレクターの飯沼が撮影開始の合図を出した。
 栄子と麻倉の二人が一本道を歩いて、祠へ近く。それを出井のカメラと榊原のマイク、そして美衣が配線が絡まらない様に誘導させながら、片手に持つ照明で薄暗さを目立たせないように照らす。

「こちらが皆さんから教えて頂いた岩噛巳様の祠です。駐車場は祠にないので、手前で停めて歩いて下さいね」
「歩くには少し距離がありますが、丁度いいウォーキングになりますね」

 麻倉、栄子と続き、紹介用の台詞を言っていく。
 祠に駐車場がないので、民家の近くにあった空き地を使うように紹介しているのだろう。恐らく、編集でテロップを表示させるつもりなのだ。近年、テレビで紹介された場所がパワースポットとして取り上げられたものの、駐車場のない場所で住民達とトラブルになる事例が各地で起きていると、探貞も聞いたことがあった。

「この地域には、これまで教えて頂いたように岩の神様など、岩や石を奉る文化が太古からありました。苔のむす自然の中にあるこちらの祠も、長い歳月をここに暮らす人々が、時に自然の恩恵を、そして時に驚異を受けながらも共に生きてきた。その脈絡と受け継がれてきた歴史を感じさせます」

 麻倉はとても流暢に長い紹介の台詞を言った。身ぶりも、傍目から視ている探貞が見ても完璧だとわかる。
 きっと台本を熟読し、完璧に仕上げてきたのだろう。

「イースター島のモアイ像やストーンヘンジでも見られますが、太古から人々は石や岩に神聖な力を感じ、パワースポットにしていたのでしょう」

 栄子が続けて台詞を言うと、麻倉がムッとする表情をした。
 出井のカメラはすっと祠に向きを変え、そんな麻倉の表情を撮さないようにし、カメラを一度止めた。
 飯沼と高田も耳打ちし合い、関口に台本を見せながら確認している。

「ちょっと栄子ちゃん。台詞が混ざってるし、それはもう少し祠と岩噛巳様の話を伝えた後よ」

 カメラが止まったのを確認して、麻倉が栄子を批難する。
 慌てて美衣と椎名が間に入る。

「まぁまぁ。間違えることは誰にでもあるわよ。そんな目くじらを立てなくても」
「だって、椎名さん。私は自然と人々の調和しながら生きてきて、岩を偶像して信仰してきたことまでを紹介したんですよ。それなら文脈で、岩噛巳様を奉っているこの祠の紹介に入るものでしょう? 多少の台詞間違えをしても私は気にしないけど、せめて話の筋道があってないと」
「そうカッカしないのよ。撮り直せばいいんだから」
「そうですけど、さっきから栄子ちゃんで躓くんですよ? 今だって、パワースポットにしているのは今の時代の私達で、当時の人々は信仰の対象としていたんですよ? ここを間違えてしまうと、折角撮影に協力して頂いた地域の方から反発されて、結局私まで一緒にネットとかで叩かれるんですよ!」

 大変筋の通った意見を麻倉は言っていると探貞は感じた。
 しかし、同時にグラビアアイドルのイメージと話している内容のギャップを感じる。麻倉はプロ意識が高いのだ。
 そして、椎名もそこを危惧している様子が感じられる。

「熱いね、優子ちゃん。でもまぁ、確かに岩噛巳様の紹介を飛ばすわけにはいかないから今のところは撮り直しってことになったよ。栄子ちゃん、多少のいい間違えはOK出すから、緊張しないでいいよ」
「はい」

 飯沼は笑顔で二人の間に入り、麻倉をなだめつつ、栄子をフォローし、撮影再開の声を上げた。
 再び麻倉の台詞から撮り直しになった。

「この地域には、これまで教えて頂いたように岩の神様など、岩や石を奉る文化が太古からありました。苔のむす自然の中にあるこちらの祠もっ……きゃぁっ!」
「きゃぁぁぁーっ!」
「地震だ!」
「皆、車の方に!」
「機材を壊すなよー!」

 麻倉も栄子も突然の大きな地震に悲鳴を上げ、巳を屈める。
 地震の多い静岡で暮らしていた探貞は冷静に身の安全と周囲の状況を確認しながら、体感で震度4よりも強い5弱くらいだと判断する。
 祠が揺れに崩れる。既に麻倉達も祠から離れていた為、被害を受けなかったが、目の前の出来事に恐怖を感じている様子だ。
 そして、祠が崩れ終わると、揺れも収まった。

「皆、怪我はないか?」

 高田の言葉に一同が頷く。
 そして、崩れた祠を一瞥し、彼は飯沼に視線を投げた。それに飯沼も頷くと、声を張り上げた。

「撮影は一旦中止だ! ペンションに撤収!」
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