朱雀家の損壊




 妖刀、邪苦熱丸。ある国立大学教授の研究論文曰わく、その起源は現存する剣、刀の中でも極めて古く、平安時代後期にまで遡る。当時の政で権威を奮っていた藤原氏を源流とする藤原朱雀なる人物に辿り着く。
 同論文曰わく、炭素年代測定法からも凡そ千年前の刀とされ、現在剣を所有管理する朱雀家に代々伝わる古文書にも、同様の記載があり、件の藤原朱雀が剣によって鬼を退治し、その功績から都の鬼門を守護する任を賜り、同時に朱雀の氏を彼の一族に賜ったことが現在の朱雀家の起こりであると記されている。
 そして、ある夏の夜更け、件の朱雀家で事件が起きた。

「何者だ!」

 何かが壊れる大きな物音に気づいた頭首の朱雀刃が木刀を片手に音のした蔵へと近づく。

「こ、これは!」

 蔵は厳重な施錠をなされ、戸は人の力では壊すことのできない頑丈な作りとなっていた。
 それがどうしたものか、戸は鍵ごと壊されていた。
 刃の脳裏に最近関西の寺社にある宝を狙う外国人窃盗団の話が浮かぶ。その窃盗団は大型重機を使い、歴史的建造物を破壊し、宝を盗んでいくという。
 朱雀家の蔵に眠る宝といえば、歴史的な価値も高い邪苦熱丸だ。
 妻に先立たれ、一人息子は関東の某大学に進学した為、現在朱雀家は刃ただ一人。
 木刀を握る手に力が籠もる。そして、片手で携帯電話を取り出して警察へ通報する。

『どうしましたか?』

 すぐに応答があった。

「我が家の蔵が破壊されていて、中には……」

 刃が通報していたその時、蔵の屋根が轟音と共に吹き飛んだ。
 咄嗟に刃は頭を守り、物陰に隠れる。
 刹那、この世のものとは思えない叫び声が轟き、何かが蔵の脇から走りさる。日本語や英語などの刃が聴き慣れている言語ではない言葉で賊が叫んでいるのが聞こえた。
 朱雀家の隣には大きな雑木林がある。
 賊は林へ猛スピードで疾走し、逃げ込んだらしい。
 刃が物陰から飛び出した時、賊の姿は既になく、叫び声と木々が揺れる音が雑木林から聞こえるのみであった。
 しばし呆然と奥が漆黒の闇に包まれた雑木林を見つめて立ち尽くした刃だったが、携帯電話からただ事ではない様子を察した警察のオペレーターの呼びかける声にハッと我に返り、混乱して支離滅裂となりつつも状況を伝え、まもなく警察が駆けつけた。






 

「これが東寺かぁ」
「広いし、塔は大きいわね」

 修学旅行生達が各々東寺の広大な敷地内に散っている。その中にいた迷探貞と石坂涼も例外ではなく、カメラを片手に塔を見上げていた。

「こういうものを大昔の人は作ったと思うとすごいよなぁ。……和也?」
「寺なんて何が面白いだ。うじゃうじゃいて疲れるだけだ。まだ新宿や渋谷駅前のスクランブル交差点のがいい」
「そんなにいるの?」
「あぁ」

 探貞の隣でうなだれるのは、霊視能力者の江戸川和也だ。
 彼らは昭文学園高等部三年の同級生で、幼なじみであり、今は京都修学旅行の自由行動時間中だ。

「……よし、これで大体アリバイは作れたわよ。資料も一通り観光ガイドとかを組み合わせて入手できたし、あとはどうとでもレポートを書けるわよ」

 涼が見学受付で資料をもらって戻ってきた。
 彼らは朝から主要となる京都市内の寺社を駆け足で巡り、資料を入手していたのだ。
 目的は涼の言葉通り、アリバイづくり。もしくは、時間をつくるためだ。

「集合時間まで、6時間近くあるね。ありがとう、涼」
「なに言ってるのよ。共犯なんだから当然よ。……さ、時間は限られているんだから、出発しましょう。タクシーを使えば、すぐのところだと思うわ」

 探貞と和也は力強く頷いた。
 彼らにとって今回の修学旅行は、本来とは別の目的であった。
 東寺から大通りに出て、タクシーを呼び止める和也を追いかけながら、探貞は涼に話しかけた。

「巻き込んでしまってごめん」
「何を言ってんのよ。さっきも言ったけど、私達も共犯よ。こんなチャンスを逃すわけには行かないじゃない」
「七尾さんのことを信じてくれるの?」
「信じているのは探貞よ。探貞が信じたから私達も信じている。それだけよ」
「……ありがとう」

 涼は探貞に微笑んだ。
 そして、和也が呼び止めたタクシーに乗り込むと、探貞は手書きしたメモを運転手に渡して言った。

「この住所の朱雀家までお願いします!」



 


 

「ここか……。ここが七尾さんの言葉通りならば、数十年後に世界の命運を左右することになる朱雀炎斬という人が生まれる家」

 朱雀家は大きな屋敷であった。塀の外からは見えないが屋敷は日本家屋で、倉もある様子だが、工事中なのかブルーシートがかけられている。そして雑木林が塀の先に見える。恐らく雑木林も敷地内なのだろう。
 京都で千年近く続いている家という話は聞いていたが、探貞達の想像以上の規模であった。

「三波ちゃんちも大きいけど、これは……」
「涼、神社と比べるな。ここは正真正銘の名家だ」
「怖じ気づいていても仕方ない。打ち合わせの通り、やってみよう。……あれ?」

 探貞は門を調べるが、インターホンがない。
 和也と涼も加わり、門の周りも探るが、それらしいものはない。
 あるのは木製の門戸と表札、赤くペンキで塗装され、白ペンキで『〒』のマークがかかれたポストと、門灯だけだ。

「チャイムは家の玄関にありますよ」

 突然、背後から声をかけられ、驚いて三人は振り向く。
 そこには旅行鞄を持つ青年が立っていた。

「あ、ありがとうございます」
「今時門にチャイムの一つもないっておかしいよな? ……で、君達はうちに何の用?」

 その一言で彼らは気がついた。目の前にいる青年は朱雀家の人間だ。
 探貞達が慌てて挨拶をすると、彼は笑った。

「そんな緊張しなくてもいいさ。俺もたった今東京から戻ってきたところだしさ。朱雀剣輔だ。昭文学園って確か東京だよね? 俺は姉妹校の某大学に通っているんだ」
「そうなんですね。では先輩ですね」
「ははは、そんなかしこまらなくていいよ。わざわざ修学旅行で訪ねてきてくれたのは、家宝が目的かい?」

 朱雀剣輔は気さくに門を開けて、来訪者達を敷地内に招き入れた。大学生として考えると非常に落ち着きのある人物だった。恐らく家柄でしっかりと教育を受けているのと、元々探貞達のような突然の来訪者に慣れているのだろう。
 探貞は丁寧に頭を下げて答えた。

「はい。修学旅行の為に調べる中で邪苦熱丸のことと千年と続く朱雀家のことを知りまして、是非お話を伺いたいと思い、ご迷惑を承知で訪ねた次第です」
「そうか。感心なことだね。俺なんて修学旅行でゲーセンとか行ってたよ。……とはいえ、迷惑をかけるのはうちの方かもな」

 剣輔は苦笑まじりに彼らを敷地内に入れると、その意味はすぐに探貞達も理解した。
 広い庭にパトカー二台が止まっており、制服警官が倉と屋敷を行き来していた。

「一昨日の夜、泥棒が入ったんだってさ。それで俺も関東から呼び戻された訳さ」

 剣輔は探貞が聞く前に説明した。
 その時、玄関から中年の男が警官と一瞬に出てきた。

「しばらく我々が警備を含めて周辺の聞き込みなどをします。被害にあわれたばかりでご迷惑をおかけしますが、事件の早期解決の為ですので、ご協力お願いします」
「こちらこそ、宜しくお願いします」

 男性は警官に深々と頭を下げ、顔を上げると剣輔達に気がついた。

「おお剣輔、戻ったか。……あぁ、君達は電話をくれた東京の生徒さん達だね。朱雀家頭首の朱雀刃です。すまないね、ご覧の通り少しバタバタとしていてね」
「いいえ、こちらこそ申し訳ありません。お電話をした迷探貞です」
「江戸川和也です」
「石坂涼です」
「泥棒が入ったと伺いましたが被害は?」

 探貞はすかさず挨拶の流れで朱雀刃に問いかけた。

「幸い何も盗まれなかったんだけど、倉の屋根を壊されたんだ」
「爆発とかですか?」
「そうだと思うんだけど、お巡りさんの話だと火薬の成分が一切見つからないらしい」
「最近京都を中心に歴史的にも資産的にも価値のある品を盗む窃盗団がいるんだが、今回も奴らの犯行だと思います。……それで、君達は?」

 警官は答えると、探貞達に問いかけた。受け答えをした後に警戒感を抱いたらしい。
 探貞達に変わって刃が答える。

「彼らは東京から修学旅行で来た高校生です。邪苦熱丸や我が家の歴史に興味があるそうです」
「あの刀に? ……君達、どこの学校?」

 警官の目つきが変わった。タイミングと目的から疑念を持ったのか、それとも職業病とでも呼ぶべき猜疑心の為か、明らかに探貞達を怪しんでいる。

「昭文学園高等部三年の迷探貞です」
「昭文学園? というと、去年怪盗φの現れたあの学校か?」

 探貞はこのまま問答を続けても警官の疑念は消えることがないと判断した。
 彼にとってあまり使いたくないカードであったが、限られた時間を無駄にしたくない為、嘆息まじりに頷いて答えた。

「えぇ。怪盗φが現れ、僕の父が被害を防いだあの昭文学園です」
「ん? ……迷? というと、まさか君は警視庁特殊捜査課の迷警視の御子息ですか?」
「はい。迷圭二は僕の父です」

 探貞は突如として態度の変わる警官を見て、父の知名度の高さに感謝しつつ、後の面倒を覚悟した。主に父の相棒からの嫌みに。

「大変失礼を致しました」

 敬礼をして更に二言程お世辞を言い、彼は探貞達の前から立ち去った。
 それを見送りつつ、ぼそりと和也が呟く。

「この前見た二時間サスペンスで似たような光景があったな」
「和也、僕の父さんはあそこまで偉くないよ」






 

 話の流れで警視庁探偵課の名探偵の息子という肩書きを手に入れ、剣輔が現場を確認したいと言ったこともあり、刃の案内で目的の邪苦熱丸を見せてもらうことになった。

「まだ足元に破片などが落ちているので気をつけて下さい」

 先程の警官がビニールシートを開けて言った。彼の名前は、麻生留音という。珍しい名前だが、電話の伝言の様な名前だと和也がぼそりと言ったのに、探貞と涼は思わず吹き出した。

「?」
「何でもありません。失礼します」

 笑いを堪えながら、探貞達三人は刃と剣輔に続いて倉の中に入った。
 麻生は出入りの警備を他の警官に引き継いで後に付いてきた。階級は巡査部長で、この現場の担当をしているらしい。

「これが邪苦熱丸です」

 倉の一階の一番奥に、土の匂いが漂う歴史を感じさせる倉には不釣り合いな大きな金属製の金庫が置かれていた。金庫の高さは70センチ程度で、奥行も40センチ程度だが、横幅は2メートル程度あり、下は太いボルトで床のコンクリートに固定されている。
 更に刃は手慣れた様子で、鍵の前で手で隠しながら暗証番号を入力、親指をテンキーの隣にあるセンサーにかざすと機械音が鳴り、鍵が空いた。

「指紋認証機能付きの電子ロックだよ。金庫自体も工場用のドリルやカッターでも抉じ開けることは困難な超合金製だ」

 驚く探貞達に剣輔が淡々と説明する。SF映画でしか見たことのないような厳重なセキュリティーに一同の誰も声がでない。
 そんな彼らの反応を見て、剣輔は口許に笑みを浮かべた。
 一方で、刃は金庫のセキュリティーを解除し、蓋を開く。金庫の中に空気が入る音がして、ゆっくりまるで宝箱が開くように、蓋は上がるのを確認すると、刃は金庫の中身に二礼二拍一礼する。

「今の空気の音は?」
「あぁ、劣化防止の為に一応蓋をロックすると空気でなく窒素で満たされるようになっているんだよ。もっとも、千年もの間錆びることも朽ちることもなかった不思議な刀だ。その必要性は疑問だ」

 やっと声を出せた探貞が問いかけると、剣輔は指で金庫の脇に固定されたボンベを指して答えた。
 そして、刃は金庫の中から刀を取り出した。両手で確りと持つ姿で、その重さを感じ取れる。
 そんな時、探貞の脇を和也がつついてきた。

「ん?」
「あの刀は鬼退治で得た奴だったよな?」
「確か、そうだったはず。……いるのか?」

 小声で話す和也が金庫の後ろの壁、その一点を見つめる様子を見て、探貞は察した。和也は静かに頷く。
 鬼の霊が和也には見えている。それは、本当に鬼退治をした刀であることを意味するだけでなく、かつて鬼が実在していたことを意味する。

「人間に似てるが、二メートルくらいの長身で、額に角が2本ある。衣を着ているが、ボロボロで所々焦げている」

 和也は小声で探貞と涼に自身が見ている霊の姿を伝える。

「これが、我が朱雀家の宝、邪苦熱丸です」

 探貞達の前に持ってきた刃は、ゆっくりと鞘から刀を抜いて言った。
 邪苦熱丸の刃は、探貞達の知る日本刀とは異なり、赤黒い輝きを放っている。表面が綺麗に研磨され、光を受けて、赤黒く妖しい色合いを出していた。形は日本刀と同じく緩やかなカーブをしているが、鍔は西洋の剣の様に直方体の形をしており、柄と一体化している。柄に巻き付けられた紐は劣化しており、ボロボロになっているが、柄の先端には留め金の代わりにゴルフボール大の球体に磨がれた淡い紫色の水晶が付いている。

「不思議な刀だろ? それだけじゃないんだ。父さん」

 剣輔が刃に合図すると、刃は頷いて、和紙を一枚取り出して、邪苦熱丸の刃に沿えて、ゆっくりと引く。しかし、和紙は切れずにそのままだ。

「この邪苦熱丸は切れないのだよ。その手袋をして触れてみ」

 刃は倉の箱の上に置かれた白い布製の手袋を示した。
 探貞達は言われるがままに、手袋をして、邪苦熱丸の刃に触れた。先端から丸くなっており、切れない。

「以前、大学が調べたことがあったのだが、すべてが謎という結論だった。削って調べたいなんと抜かしたので、研究の協力はそれきりだけどな」
「一応、刃はチタン合金に近い金属らしいが、平安時代にそんな技術はないし、その鍔や柄も鉄でなく火山岩に近いものらしく、先端の宝玉はアメジストだと思われていたんだが、どうやら別の鉱石で該当するものは不明で結局何なのか分からず仕舞い。ちなみに、硬度測定の結果、ダイヤモンドに匹敵する硬度だったらしくて、削るのにもダイヤモンドをまぶした工業用ドリルを使うって言い出したから、反対した訳だよ。ちなみに、人体に有害な放射線は出てない代わりに、遠赤外線と微弱な電磁波が出ているらしい」
「それって、つまりオーパーツということですか?」

 涼が聞くと、刃と剣輔はそれぞれ頷いた。



 


 

 邪苦熱丸を片付けた刃が皆にお茶を出すと言って母屋へと促すのに対して、探貞は遠慮をしつつ、二階を見たいと伝えた。お茶の持て成しに対しての遠慮をする建前でありつつも、実際に現場を見たいという本音も含まれたお願いであった。
 刃は「別にわしは構わんが…」と麻生に視線を向けた。警察はいいかという意味だ。麻生も、現場検証は終わっているから構わないと答えた。
 倉の二階への階段は破壊されており、二階の床板も巻き込んで床に散乱していた。
 今は梯子をかけて二階に上がれるようにしていた。その為、一人ずつ昇る必要があり、然り気無く涼は一番後ろに立つ。

「どうした?」
「それを聞く?」

 和也が後退りした涼に話しかける。涼は眉間に皺を寄せて、スカートを指差した。それに対して、少し間を置いて「あぁ」と間抜けな声で返したので、余計に彼女を怒らせた。
 本当は和也に霊視をして貰いたかったものの、探貞は二人を放っておくことにした。二階へ上がると真っ先に風に靡く青いビニールシートが目に入った。
 今はまだ応急措置なのだろう。失われた屋根と壁を覆うようにビニールシートが被せられているだけらしく、隙間から光が漏れている。
 屋根はおおよそ四分の一が失わそれている。壁の方は屋根が吹き飛んだ時に崩れたものだろう。土壁が多く残っており、外側にベロリと剥がれて残っているところもある。
 二階の中をざっと見回す。嵐や地震にでもあったのかというほどにぐちゃぐちゃになっている。棚や荷物は崩れ、箱は中身が散乱している。しかし、光景違和感があった。
 探貞が降りると、和也と涼は本格的な口論に発展していた。内容は今朝の新幹線で和也がポテチを広げて食べたことに対して、食べかすが落ちるからデリカシーがないという涼と皆で食べれたんだから良いだろうという和也の論争であった。
 とりあえず、二人のことは放置することにした探貞は、刃と麻生に質問をする。

「吹き飛んだ屋根というのは見つかっていますか?」
「えぇ。どれもずいぶん大きい破片だったので、概ね回収済みです。火薬は検出されませんでしたが、今、鑑識で他の爆発する物質が検出できるか調べています」

 麻生が淡々と答えた。しかし、相変わらず発言時は高校生相手に直立不動だ。
 どうも父の威光が彼には強すぎたらしい。とはいえ、今更気にしても仕方がない。

「爆発だと?」
「鑑識は何らかの機械などで外から引き剥がしたか、中から押し破ったものだと考えているみたいです。状況が爆発とは考えられないらしいです」

 やはり。というのが、探貞の感想だった。二階の様子を見た時の違和感は、証言通りの爆発なら室内が爆発地点を起点に散乱するはずだが、実際には荒らされているものの屋根が吹き飛んだから荒れたと直接関連付けられるようなものではなかった。恐らく、中を荒らした後、屋根を破壊し、その衝撃で壁が崩壊したのだろう。
 瞬間的に大きな力をかけて屋根が破壊されたとしたら、刃が爆発と証言したのも理解できる。
 状況を整理すると、犯人は入口を何らかの方法で壊し、倉に侵入。その後、階段を破壊して二階へ上がり、屋根を吹き飛ばして逃走したということになる。
 それを可能にする道具とは、機械に詳しくない探貞には想像もできなかった。

「窃盗団は重機を使用するんでしたっけ?」
「そうです。仏閣の壁を破壊して仏像などを盗む大胆不敵な手口で、これまでの盗難防止や警備では太刀打ちできない状況です。しかも、重機は盗品などの違法な方法で入手したものである可能性が高いらしく、販売ルートなどからの犯人グループの特定はできない状況です」
「それはかなり厄介ですね」

 聴けば聴くほど力業の集団らしい。しかし、それ故に疑問も生まれる。

「しかし、重機もですが、盗むのが仏像などだと輸送ルートで犯人グループに近付けそうですが?」
「それが一向に網にかからないのです。……それ故に上はスパイがいると考えているみたいなんですよ」

 麻生が声を潜めて言った。
 探貞もそれに合わせて眉を潜め、頷いた。
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