古の秩序


【Episode Φ】

 二週間という時間は瞬く間に過ぎ去った。
 ミナモトこと、銀河は虚無僧の格好に身を包むと、凡そ1ヶ月間、拠点としていたホテルの広い部屋を丁寧に片付け、礼をした。
 日本の大手ホテルチェーンが経営する都内の駅前にあるホテルで、平成の大不況によって経営が危機に瀕したところをテリー財団が多額の融資をして今日に至る。実質的に、テリー財団が所有している。
 彼に今回の依頼をするにあたって用意されたのは、そこのスイートルームだった。
 銀河は、ホテルをチェックアウトすると、外まで恭しく挨拶を続ける腰の低い支配人に見送られて、戦いの舞台となる美術館へと向かった。






 

「探偵課のお二人の姿が見えないな? どうかされたのか?」

 予告時刻まで残り一時間と迫った美術館は、前回以上に重々しい雰囲気に包まれ、警備の人員も更に増員され、厳重なものとなっていた。
 しかし、銀河は迷圭二、伝節男の2名の姿が見えないことに気付き、吾郎に声をかけた。

「それが伝さん曰く『探偵には探偵の古の秩序があるんだ』と。ここには来ていません」
「……古の秩序ねぇ。だけど、現場に居合わせない探偵じゃそもそも物語が成立しないんじゃないか?」

 銀河が思った疑問をそのまま口にすると、吾郎も同じことを思っていたらしく、苦笑しながら軽く頷いた。

「まぁ事件後に現れて事件を解決するのが昔からの探偵小説のお決まりのパターンと言ってしまえばそれまでですけどね」
「そういうものか?」
「さぁ?」

 流石の吾郎も今回の探偵課の行動は理解ができないらしく、銀河と共に首をかしげる。

「何にしても現場にいない奴をあてにすること自体が愚考だ。まぁ、いる奴もあてにするつもりは全くないがな」

 声に銀河が顔を向けると、月見里卯月がズボンのポケットに両手を入れたまま、周囲の警官達を睨みながら歩いてきた。
 今朝、遂に警視庁が圧力に屈して保釈をしたことを吾郎が銀河に耳打ちした。

「あてにするどころか、φのお仲間までいるときた。……今回はφじゃないんだろうな?」

 ある程度顔を見て予想をしていたが、案の定、虚無僧姿の銀河に月見里は睨み付け、詰め寄ってきた。
 天蓋越しでは銀河の表情が月見里には見えないのはわかっていつつも、彼は月見里を睨み付けて答える。

「残念ながら、φではなく、本物ですよ。それに怪盗が二度も同じ手を使うなんて、芸がないと思いますが?」
「ふん。こそ泥にそんな理屈が通じるのかねぇ?」
「φは怪盗ですよ?」
「………」

 月見里は、じっと銀河の天蓋を覗き込んでしばらく睨むものの、なにも言わず舌打ちだけして彼から離れた。
 まもなく、予告時刻に迫っていた。
 銀河は、懐から護符を取り出し、それを眺めた。



 

「探偵課のお二人の姿が見えないな? どうかされたのか?」

 予告時刻まで残り一時間と迫った美術館は、前回以上に重々しい雰囲気に包まれ、警備の人員も更に増員され、厳重なものとなっていた。
 しかし、銀河は迷圭二、伝節男の2名の姿が見えないことに気付き、吾郎に声をかけた。

「それが伝さん曰く『探偵には探偵の古の秩序があるんだ』と。ここには来ていません」
「……古の秩序ねぇ。だけど、現場に居合わせない探偵じゃそもそも物語が成立しないんじゃないか?」

 銀河が思った疑問をそのまま口にすると、吾郎も同じことを思っていたらしく、苦笑しながら軽く頷いた。

「まぁ事件後に現れて事件を解決するのが昔からの探偵小説のお決まりのパターンと言ってしまえばそれまでですけどね」
「そういうものか?」
「さぁ?」

 流石の吾郎も今回の探偵課の行動は理解ができないらしく、銀河と共に首をかしげる。

「何にしても現場にいない奴をあてにすること自体が愚考だ。まぁ、いる奴もあてにするつもりは全くないがな」

 声に銀河が顔を向けると、月見里卯月がズボンのポケットに両手を入れたまま、周囲の警官達を睨みながら歩いてきた。
 今朝、遂に警視庁が圧力に屈して保釈をしたことを吾郎が銀河に耳打ちした。

「あてにするどころか、φのお仲間までいるときた。……今回はφじゃないんだろうな?」

 ある程度顔を見て予想をしていたが、案の定、虚無僧姿の銀河に月見里は睨み付け、詰め寄ってきた。
 天蓋越しでは銀河の表情が月見里には見えないのはわかっていつつも、彼は月見里を睨み付けて答える。

「残念ながら、φではなく、本物ですよ。それに怪盗が二度も同じ手を使うなんて、芸がないと思いますが?」
「ふん。こそ泥にそんな理屈が通じるのかねぇ?」
「φは怪盗ですよ?」
「………」

 月見里は、じっと銀河の天蓋を覗き込んでしばらく睨むものの、なにも言わず舌打ちだけして彼から離れた。
 まもなく、予告時刻に迫っていた。
 銀河は、懐から護符を取り出し、それを眺めた。






 

 一方、圭二と伝は高速道路を移動する車中にいた。
 ハンドルを握る伝は、助手席に座る圭二に話しかける。

「……こっちで大丈夫か?」
「正直、確率は二分の一だ。外している可能性は否定できない」

 珍しく圭二は自信なさげな言葉を吐く。
 懐から護符を取り出し、うーんと唸っている。

「例の虚無僧がこの前置いていった紙か?」
「あぁ。いざという時は、こいつが怪盗φから神々の黄昏を守るとさ」
「オカルトだな。魔力封じの護符なんざ」
「だが……」

 圭二が言いかけた瞬間、突然誰もいない筈の後部座席から探貞が現れた。

「試してみる価値はあるよ!」
「「!」」

 驚いて思わず伝は握るハンドルを動かし、車が蛇行する。
 慌てて、探貞と圭二が伝とハンドルを支える。

「ふぅー……あぶないだろ! なんでお前が!」

 伝は血相をかいて探貞を叱りつける。

「探貞、今日は学校のはずだろ?」
「ごめんなさい。サボった」
「全く。……なぜこの車に? というのは野暮な質問だな」
「わかったから。……わかったから、放っておけなかったんだ」
「……やれやれ。ここからじゃ降ろすわけにも引き返す訳にもいかない。まぁ、子ども連れの方が捜索をするのに周囲から怪しまれにくいか。……探貞、学校をサボったことは後でしっかりお説教だからな!」
「はい!」

 圭二の言葉に探貞は力強く頷いた。

「それで、何がわかったんだ?」
「そりゃ、φと九十九って赤ん坊のことだろ?」

 圭二の問いかけに伝が横から言った。
 探貞は、それに頷きつつも言葉を続けた。

「それもあるけど、九十九君達の行き先がわかったからだよ。それに、怪盗φがなんで神々の黄昏っていう宝物を盗もうとしているのかも」
「「!」」

 驚く二人を余所に、探貞はゆっくり自分の推理を話始めた。
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