ゴジラvsメガロ




 ガイガンの覚醒と時を同じくして、東京湾上空のシートピアの高度が上がり始めた。
 レイコさんがシートピアの制御を奪い、地球から離しているのだ。大気圏からこの円盤都市が脱するのも時間の問題だ。

「脱出ポットは全て無事です」

 メカゴジラの機内では三人が集合していた。場所はナーガの艦内。銘斗が壁面にはめ込まれたタッチパネルモニターを確認して2人に伝える。
 頷く2人。シートピアの制御を奪った時点でアントニオ達第三期のM宇宙ハンター星雲人の地球侵略に対して人類側の勝利は確定した。メカゴジラには3機それぞれに脱出ポットが積まれている。ナーガの脱出ポットは耐水圧を有する船になり、海中や海上への脱出に向いている。また、漂流に備えた物資も入っている。
 また、3人の着ているパイロットスーツはプロテクトスーツと同じく強い衝撃から体を守れる。高所からの落下衝撃にも耐えられる。

「現在シートピアは東京湾沖上空だ。この高度ならばこのままナーガのポットで三人一緒に脱出をしよう」
「待ってくれ」

 佐々木に陣川が声をかける。二人が陣川を見た。

「脱出は先に二人でしてくれ。俺はアイツを連れて脱出する」
『陣川様、私に構わず先に行って下さい。制御を奪取しましたが、遠隔ではアントニオに奪還されるリスクがあります。このままシートピアを太陽へ向かわせます』

 通信が復活していたのだ。レイコさんの声が艦内に響く。
 
「だが、それだとお前が……」
『私は機械です。それに、通信が復活していますので、バックアップを地上へ作成すれば蘇れます』
「…………」
「ここは彼女の言う通りだ。俺達はこのまま脱出しよう」

 佐々木に促され、陣川は脱出ポット内に入ろうとする。
 しかし、その足が止まった。

「どうした?」

 佐々木に話しかけられるが、陣川の視線は脱出ポットとも佐々木とも違う。ナーガ艦内壁面に設置された外部映像を映すモニターを注視していた。

「おいっ!」

 遂には佐々木を押し退けてモニターに齧り付く。
 陣川はモニターに穴をあけるのかという程に目を見開き、そして一点を見つけ、目を凝らす。

「! やはり二人で脱出しろ!」
「待てっ! どうした?」
「奴だ! アントニオだ! 奴がいた! 奴はジェットジャガーに近づいている!」

 陣川の腕を掴んだ佐々木だが、彼からそこまで聞いた時点でその手を話していた。
 レイコさん自身からも告げられていたことだ。アントニオからの奪還リスクはあると。佐々木が陣川を止める理由はなくなってしまった。むしろ、彼を行かせないとならない。彼の着ているパイロットスーツだけは大気圏外に対応したガルーダ用の宇宙服となっているからだ。
 彼の腕が佐々木の手から離れ、彼は背を向けて搭乗口の気密扉を開放する。

「………地上で待っているぞ」
「嗚呼!」

 口角を上げ、陣川は佐々木に対して珍しく拳を前に突き出して親指を上に立て、サムズアップした。
 気圧が変わり、強い風が吹く。陣川は天井に備え付けられたワイヤーを使って外へと降下していった。
 その姿を見送る佐々木は、いつの間にか強く握っていた拳を確かめるように見つめ、壁を叩いた。

「隊長………」
「誰にも言うなよ。奴にもな。……行こう」

 まもなく、銘斗と佐々木を乗せた脱出ポットはメカゴジラから射出され、シートピアの外へと飛び出して太平洋上に向けて降下した。





 シートピアが大気圏を脱して宇宙に達するまでに時間はかからなかった。
 ジェットジャガーの機内では機体の操作設備から延びるケーブルに直接自身の背中にある端子を接続したレイコさんが壁に寄りかかって腰を下ろしていた。機内の操作室は元々遠隔操作やAIによる自律操作を想定したジェットジャガーである為、ロボットの操縦室というよりも艦艇のブリッジに近く、損傷防止の為に机や椅子も有人操作とメンテナンス時の限定的な使用を想定して床に固定された操作パネル付の机と椅子のみがレイコさんのいる壁の横に一つだけある。他は全て壁と床、天井に集約され、固定されている為、操作室そのものは十畳程度の空間になっていた。
 レイコさんは現在ジェットジャガーを介して奪ったシートピアの制御を行なっている為、意識はない。
 その操作室の気密扉が開き、アントニオが入ってきた。

「…………」

 アントニオはモニターと非常灯が灯る薄暗い操作室内で、レイコさんに無言で近づく。
 動くことのできないレイコさんを見下ろしてアントニオが右手を伸ばそうとする。

「っ!」

 室内に銃声が響き、アントニオが黄色い血液を滴らせる右手を左手で押さえ、レイコさんから後退り、扉に振り返る。
 扉の前には煙を上げる拳銃を握るヘルメットを被った陣川の姿があった。
 陣川と対峙するアントニオは負傷した手を庇いながらも、不敵に笑う。

「………なんだ陣川か。そんな物をつけていないと宇宙で活動もできない時代遅れの種族がまだ邪魔をするか」
「そんな地球人にお前は負けた。このままシートピアは太陽へ落とす。負けを認めてここから、地球から立ち去れ」
「ククク……負けだと? 地球人の力では勝てないのだよ! 何故ならここで貴様達は敗れ、シートピアは再び地球に戻るからだ!」
「往生際の悪い奴だ。本物のアントニオはもっと潔い奴だった!」
「勘違いするな、畜生が! 第三期のM宇宙ハンター星雲人である我が、本気を見せるのだと言っている! こんな古代生物種の体でいたのはハンデを与えていたという意味を理解していなかったのか! それを勘違いする貴様は実に愚かだ!」

 アントニオは語気を強め、一言一言を発すると共にその人の皮が破れ、長い触覚や三対の脚、複眼、翅を露わにする。それは不快害虫として人類の多くから嫌われる昆虫の姿であった。

「もしやと思っていたが、やっぱりか! ゴキブリ野郎!」
「2億5千万年以上の歴史ある我が先祖伝来のこの姿と名を蔑称として呼ぶな、地球人っ! かつて先代星雲人類と共にM宇宙ハンター星へと渡った我が先祖は、文明のみでなく、種としても進化した。……刮目せよっ! これが、第三期のM宇宙ハンター星雲人の真の姿だっ!」

 昆虫の姿の殻が破れ、更なる変身をする。
 脱皮して現れたその姿は昆虫よりも人間に近い。触覚と複眼は大きいが、頭部は人の頭蓋骨の形状に近い。胴体も胸部が長く、腹部は人型の臀部に凝縮されており、立ち姿はまるで鎧やプロテクターを装備した人のそれだ。関節以外は黒茶色の硬質な外骨格に守られ、ヒンドゥー教の神の様に肩からは2対の腕が生える。背は翅がマントの様に生えている。

「ゴキブリ野郎が仮面ライダー気取りか。笑わせるな」
「その生意気な口も直ぐに動かなくしてやる」
「いいぜ、アントニオ! 害虫駆除の時間だっ!」
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