ゴジラvsメガロ




 シートピアではメカゴジラの優勢が一転、モアイ像ロボの猛攻に苦戦していた。
 眼前に立つモアイ像ロボ単体との戦いであればメカゴジラの優勢は揺るがなかった。
 しかし、今彼らが戦っている相手はモアイ像ロボだけでない。四方八方からメカゴジラを襲う無数のケーブル。それらはシートピアの床から生え、次々にメカゴジラを襲う。まるで触手だ。
 メカゴジラはそれらを燃やし、千切り、投げ捨てる。

『ちっ! きりがない!』

 千切られたケーブルはバラバラになり、再び新たなケーブルを形成する。細かいケーブルの繊維一つ一つが独立した機械ユニットとなっているのだ。
 そして、そのケーブルが集まり、空中で巨大な拳を形成する。その付け根はモアイ像ロボの右腕に繋がる。
 右腕を左手で支え、足を広げたモアイ像ロボはその巨大な拳をメカゴジラへと突き出して構える。

『砕けろォォォォォッ! ロケットォォォォォォパァァァーンチッ!』
『『『!』』』

 巨大な拳が砲弾の如く放たれ、メカゴジラへと直撃する。
 シートピアからの転落寸前の所でギリギリ脚部の車輪を逆回転させたことで踏みとどまる。手前にはブレーキ痕として、2本の筋が数百メートルと延び、煙が立つ。
 メカゴジラの損傷は著しかった。胸部装甲は黒く変色し、大きく凹み、ヒビが伸び、左腕はケーブルが千切れ、火花とオイルが流れ出て、炎が上がっている。

『消火……完了。損傷率70%、もう限界です』
『まだいける。損傷率95%の左腕は捨てる。これで実質6割以下のダメージだ』

 銘斗の言葉に陣川は告げ、けたたましい警告音を無視してオイルが垂れる左腕を強制パージする。破裂音と共にメカゴジラの左腕が外れ、床に落下した。
 敵の体内で戦うのはこんな気分かとその時、佐々木は思った。まさに彼らはシートピアの中で、シートピアそのものを相手に戦っていた。
 モアイ像ロボとシートピアは2つで一つの敵であった。
 唯一の救いはシートピアの艦上戦闘と周囲への防衛を同時に展開することは難しいらしく、防壁は完全に消失している。これがゴジラによって制御機能の大部分を失った為なのか、元々の仕様かは彼らの知るところではない。
 しかし、これが唯一の弱点といえる。問題は、その弱点を突き、チャンスに変えられる戦力を既に彼らは失っていることだ。既にシートピアへの攻撃可能な戦力は破壊されてしまっている。

『まもなく弾道ミサイルが到達するわっ!』
『『『!』』』

 突然の通信はイブキの声だ。そして、彼らは察した。
 この好機を活かす攻撃手段は、既に周辺基地では破壊されて残されていない。が、有効射程が長距離となる弾道ミサイルならば攻撃可能。
 メカゴジラが上空を見上げると接近するミサイルがキラリと光った。一つ、二つではない。流星群が降り注ぐ夜空の流れ星の如く、無数のミサイルがそこを目掛けて放たれていた。

『笑止! バリアだけが防御と思うなぁぁぁぁあっ!』

 アントニオの叫び声と共に、シートピアから伸びたケーブルが、モアイ像ロボへと大樹の根が幹から生える様に繋がる。モアイ像ロボの目が発光し、口がガガガと開いた。
 刹那、モアイ像ロボは砲塔と化し、その口が閃光し、白く光り輝く細い光線が放たれた。
 シートピアから空へと張られた一本の光線の糸。それが一瞬の間に動き回る。
 次の瞬間、東京湾上空一面が紅の閃光に染まり、黒煙の雲に包まれる。ミサイル全てを迎撃したのだ。
 これには陣川達も絶句する。

『なっ…………』

 一方、モアイ像ロボは口を開けたまま口から湯気を上げている。動きが止まっている。胴体を太い木の根の様にケーブルで繋がっているのは膨大なエネルギーを送る為であれば、その発射台となったモアイ像ロボの負荷は相当のものとなる。オーバーヒート状態とすれば、ジェットジャガーや薙刀の投下時に迎撃をしなかったことも頷ける。
 確実に、今は彼らにとって最大のチャンスだ。

『そうはさせん!』

 メカゴジラが動こうとした瞬間、アントニオはシートピアの床からケーブルを生やしてメカゴジラの動きを封じる。

『くっ! シートピアの方は動けるのかっ!』
『ククク、動けなくなるリスクは高いが、全くの無防備となると思ったか! そんな愚行をすると思ったか! その発想こそが愚かなり!』

 苦渋を飲む顔で言った陣川にアントニオは高らかに笑う。
 
 しかし、その笑顔は凍りついた。

 メカゴジラの背後。地上から、薙刀を構えたジェットジャガーが飛び上がり、メカゴジラを飛び越えながら薙刀を振り回し、シートピアへと着地した。
 刹那、メカゴジラを拘束していたケーブルは切り裂かれた。

『!』
『まだだ!』
 
 アントニオが息を呑む一瞬のうちに、ジェットジャガーは床を蹴り、薙刀の刃をカチッと向きを変えて構えながら、モアイ像ロボに迫る。
 
『グォォォォォォォッ! 一度ならず二度もぉぉぉぉぉおっ!』

 アントニオは叫び声を上げていた。その表情は屈辱に歪んでいた。
 それは再びアントニオが退避を選択する結果となることへの屈辱感からであった。
 この絶対絶命の窮地においても、決して逃れる手段がないといえるこの状況下においても、アントニオは窮地を脱する手段を隠し持っていた。持っていながら、その手段が逃げ恥を晒す後退であることに対しての屈辱をあらわにしていた。この期に及んでも尚、アントニオは地球人類を下等劣等と下に見ていたのだ。
 アントニオの叫び声を残し、モアイ像ロボはその全身と繋がっているケーブルの束によって押し上げられて後退した。モアイ像ロボは動かなくても、ケーブルは動くのだ。
 ケーブルは太く束となって伸び、先端のモアイ像ロボを移動させられた。

『っ!』

 ジェットジャガーの薙刀は宙を斬る。
 しかし、空振りに終わらない。そのままその切先は床を裂き、切り払うとモアイ像ロボを操る大樹の根の如き太いケーブルの生える床を斬り裂いた。
 ケーブルは斜めに両断。更に再生しようと互いに伸びる切断面が接合するよりも早く、横一文字に斬る。更に、斬る。斬る。斬る!
 ケーブルは遂に切り刻まれ、モアイ像ロボが投げ出される。

『まだまだまだまだまだまだっ! 立てェェェェっ!』

 アントニオはまだ叫ぶ。モアイ像ロボは口を閉じる。クールダウンされたのだ。
 同時にジェットジャガーの周囲からケーブルが生えて、今度はジェットジャガーを拘束しようとする。

『ならばぁぁぁぁぁぁぁぁっ! トウっ!』

 ジェットジャガーは薙刀を床に突き立て、棒高跳びの様に飛び上がる。
 空中で薙刀を無数のケーブルが拘束する。既にアントニオがシートピア最大の脅威と見做したのは、ジェットジャガーでなく、その手に握る薙刀だった。これを抑えれば勝機がある。否、勝利を確信した。
 薙刀を奪われたジェットジャガーの眼前には、両手を構えて待ち構えるモアイ像ロボが迫る。
 しかし、その時ジェットジャガーは逃げることも、薙刀をかえりみることもない。真っ直ぐにモアイ像ロボに向かって飛び込んだ。

『! ぬぁにぃぃぃぃぃいっ?』

 ジェットジャガーは待ち構えるモアイ像ロボを飛び越え、その頭部を踏み台にする。バランスを崩すモアイ像ロボの背後にジェットジャガーは着地し、素早い身のこなしでモアイ像ロボの両腕をホールドして羽交い締めにする。

『今です!』
『!』

キシャァァァァアアアアオォォォンッ!

『『『おぉおぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!』』』

 メカゴジラは咆哮を上げて、その場で床を蹴って飛び上がった。そして、両足を揃えて突き出した仰向け姿勢のまま空中を滑る様に飛行する。床に擦れる尾が土煙を巻き上げ、各部の推進装置が加速させる。
 
 メカゴジラの必殺ドロップキックがモアイ像ロボに炸裂した!

 刹那、蹴り飛ばされたモアイ像ロボはそのまま背後にある中心部のモアイ像ロボがあった制御塔跡に倒れ、跡地が爆発する。
 そして、モアイ像ロボと僅かに機能が残っていた制御装置、更にモアイ像ロボを抑えつける様に倒れ込んだメカゴジラ、双方共に機能を停止した。
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