ゴジラvsメガロ




『レイコさん、後10秒で着地するわ』
『了解です。イブキ様』

 モアイ像ロボとメカゴジラが対峙。戦いをするシートピアの下、空港の西側にある最も都市部側のB滑走路に移動したゴジラはメガロとガイガンを相手に激闘を繰り広げていた。
 既に損傷は機体の50%に達し、中破の状態になった機兵は瓦礫と炎が広がる第三ターミナル跡を移動していた。レイコさんの操る機兵だ。
 隻眼となったカメラアイで上空から接近するジェットジャガーを認識する。しかし、その距離は離れていた。

キェェェェェェェェェーッ!

 ハッ! っと機兵が顔を向けるとゴジラと距離を取ったガイガンが接近するジェットジャガーに気づいた。ゴジラはメガロと激しい肉弾戦を繰り広げている。ジェットジャガーの推進力はロケット推進のみ。既に調整のできるタイミングは過ぎた。ジェットジャガーを認識しているかはガイガンにとって関係ない。ガイガンは飛んでくる火の粉を払うのみだ。ガイガンは両手の鎌を交差させ、構える。遠距離攻撃技の光刃を放つつもりである。時間がない。

『うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉーっ!』

 レイコさんは膝下が破損した右脚を地面に突き刺す。瓦礫が粉砕され、脚は深く突き刺さる。左脚は地面を蹴り上げる。同時に稼働する片手を機兵自らの胸に突き刺す。
 地面に刺さる右脚を軸足に体を捻り、左脚を高らかに掲げる。
 野球投手の如く、機兵は胸から引き抜いたレイコさんを投げる。投げる瞬間にレイコさんに繋がるケーブルが引き千切れ、そのまま機兵は慣性に身を任せて軸足を中心に回転しながら地面に倒れた。
 一方、レイコさんは豪速ストレート投射によって落下中のジェットジャガーに接触した。
 刹那、ガイガンもジェットジャガーに光刃を放った。




『展開っ!』

 ガイガンの光刃が落下するジェットジャガーに命中する瞬間、背中のロケットミサイルが吹き飛び、光刃はその破片に阻害される。
 同時に白と黒のパラシュートが展開される。更に、ロケット推進と比較すれば圧倒的に小型であるが、小型の推進装置が付いている。その小型推進装置をスラスターに、パラグライダーのようにジェットジャガーは旋回しながら姿勢を整える。

『REIKO-Ⅲ、ジェットジャガー制御完了』

 ジェットジャガーは両眼を青く光らせた。
 一方、ガイガンはバイザー状の目を光らせ、赤い光線を放つ。

『高度、姿勢ともに落下時衝撃に問題なし。耐熱線コーティング強度、光線の推定強度をクリア。解放!』

 ジェットジャガーのパラシュートは、そのワイヤーを外し、白黒の2枚の大布になる。当然、機体は急降下する。しかし、ジェットジャガーの眼は迫る地面よりも眼前に迫るガイガンの光線を捉えていた。
 パラシュートであったそれを自身の体に纏う。光線が着弾するが、それはゴジラの強力な放射熱線に耐えられるように作られた物である。ジェットジャガーには届かない。
 そして、着地。衝撃で地面が揺れ、土煙が周囲を包む。

『損傷、なし。……流石、対怪獣兵器として開発された超大型ジェットジャガー。耐久性が桁違いです』

 そう土煙の中で言うレイコさんのジェットジャガーは、黒の布の上に白の布が重なるように巻き付けた。そのシルエットはレイコさんの、メイド服を着たまさにそれであった。

『レイコさん、受け取って!』
『イブキ様? ……! 了解です』

 ジェットジャガーの座標へと射出されたもう一つのロケットミサイルを確認する。
 当然、ガイガンはその存在に気づき、先と同様に攻撃を仕掛けようする。

『させませんよ!』

 ジェットジャガーは地面を蹴ると同時に背中のジェットスラスターが火を噴き、高速のダッシュで一気に距離を縮め、光刃を放とうと鎌を構えるガイガンに飛び膝蹴りを炸裂させる。
 ガイガンは蹴り飛ばされるが、すぐに顔をジェットジャガーに向けて目からビームを放つ。
 その光線をジェットジャガーは着地と同時にバク宙をすることで回避し、そのまま後退。もう一度大きく後ろに宙返りをすると同時に、着地点に空からロケットミサイルが落下して突き刺さる。そして、ミサイルは外装を噴き飛ばして中身を露出させる。
 ジェットジャガーは着地と同時にその中身を掴み、構えた。
 「一人当千の兵者」と平家物語で評された女性の武将、巴御前が、その勇士を伝える絵姿で握る得物は長柄の先端に槍とは異なる日本刀同様の刀身が付いた薙刀であった。
 数多いる武勇に優れた歴史上の女性の多くが用いた武具こそ、薙刀である。
 そして、ジェットジャガーの構えた武装の形状は正しく薙刀であった。

キェェェェェェェェェーッ!

 ガイガンは背鰭の様に広がる翼を震わせて体を起こすと、空中を蹴って鎌を振り翳した姿勢でジェットジャガーに飛びかかる。光線、光刃以上にガイガン最強の武器がある。それが、両手の鎌、そして腹部から胸部に並ぶ回転カッターだ。この3つの刃の前に第一期のM宇宙ハンター星雲人は滅亡した。
 その刃が、ジェットジャガーを襲う。

ッ!

 大きな金属音が周囲に響き渡り、衝撃が空気を震わせる。

『この対怪獣用大艦装甲を斬る刃を削るとは、侮れませんね』
 
 対怪獣兵器は近代兵器開発に逆行した巨砲大艦主義的な火力と守備力を有したワンオフ機が台頭する結果を招いた。機兵といった量産化の可能性を見い出すものもあったが、ごく一部である。
 そして、コストパフォーマンスが悪い一方で、怪獣に対抗できる戦力はつまり怪獣を作ることを意味している。機龍としつつも実際それは機械のゴジラであるメカゴジラだ。日本は特にそれが突出しているが、各国の対怪獣兵器とされる兵器群は同様である。
 ジェットジャガーの開発された頃、その武装はイブキと異なるチームが開発を行っていた。この薙刀はそのチームが完成させていたものである。各国でこの薙刀と同じ対怪獣兵器を仮想敵として開発した武器が存在する。
 理由は二つある。一つは数値化された明確な防御値があること。実際の怪獣は生き物であり、どこまでも異形の存在である為、数値化された推定値も推定値の域を超えない。対怪獣兵器の装甲はゴジラの平均的な放射熱線に対して一定時間を耐えられるか、ゴジラの爪に一回以上耐えられる装甲であるかといった指標のもと開発されているが、実際の強度は人工物である以上、明確に数値化されている。故に、その装甲を破る火力というのが一つの指標になるのだ。
 もう一つは、人工物であろうと怪獣は一騎当千にも及ぶ戦術兵器の側面をもつだけでなく、運用可能距離や潜航・飛行能力などによっては戦略兵器にもなり得る。核兵器に次ぐ大量殺戮兵器となる危険を有するからこそ怪獣に対抗する兵器となりえる。文字通りの仮想敵なのだ。
 そして、この薙刀はゴジラの過去に使用していた放射熱線に耐え、ゴジラは爪に一回以上耐えられる装甲を一刀で斬り裂ける刃を持つ。
 
 その刃が今、ガイガンの刃を受け止めた。
 
 受けた刃は削れ、欠けてしまっているが、まだ武具としてその刀身は生きてきる。

ゴガァァァァァァァァァオォォンッ!

 ガイガンはジェットジャガーとの鍔迫り合いに至らなかった。ゴジラの放射ビームがガイガンを襲った。
 咄嗟にガイガンは後退。ジェットジャガーも薙刀を引く。

ギュェェェェェェェェグェェェェェンッ!

 メガロが両手のドリルをゴジラに突き立てる。
 しかし、ゴジラはメガロのドリルに臀部に穴を開けられる中、身を翻して尾による強烈な一撃をメガロに与える。
 メガロは羽田の市街地に倒れる。

キェェェェェェェェェーッ!

 ガイガンは光刃と目からビームを繰り出しながらゴジラへ襲いかかる。
 ゴジラの体は光刃に斬られ、血飛沫を上げ、右肩をビームで射抜かれる。
 しかし、それだけだ。全身に刀傷を負っても、ゴジラは動じない。

グォォォォォォォ……………ッ!

 それはまるでボディビルダーが自らの鍛え上げた筋肉を隆起させるかの如く、ゴジラは傷口に力を込めた。

『っ! し、信じられない! 自らの力で傷口を塞ぎ、そのまま損傷箇所を再生させている! 何て再生力!』

 レイコさんは自身の高度な演算処理でも解析不可能な怪獣王ゴジラの深淵を見た。
 そして、戦闘の最中でありながら、人工知能としてあり得ない驚愕と絶叫をしていた。

グォンッ!

 刹那、ゴジラは力んで止めていた息を吐いた。
 息を吐いたのだ。ただ、それだけで空気は渦を巻きながら衝撃波として息は放たれ、ガイガンを突き飛ばした。

『!』

 ゴジラはジェットジャガーを一瞥した。否、睨んだ。
 それは敵意に近いものだった。味方を見る目ではない。獰猛な獣が縄張りを侵した相手への威嚇であった。
 レイコさんは戸惑った。理解不能だ。ゴジラは唐突に、共闘関係となっていると思っていたジェットジャガーを睨んだのだ。
 しかし、その意味は次のゴジラのアイコンタクトでレイコさんも理解した。

 ゴジラは視線をシートピアに向けたのだ。

『……つまり、私はあちらへ行けと。ジェットジャガーが足手纏いとでも言うのか? …………否、違う! ゴジラ、貴方は人類の想像以上に戦闘狂なのですね? ガイガンとメガロとの戦いに水を差す我々人類の兵器はシートピアで兵器らしく戦争をしていろと』

 レイコさんの問いに、ゴジラは鼻息のみで答えた。
 むしろ、ゴジラはこのまま敵対して三つ巴の戦いを望んでさえいる。それでもジェットジャガーをシートピアへ行かせようとしているのは、ゴジラが人類の、地球の味方に立つつもりがあるからだ。

『わかりました。メカゴジラの加勢に行きます。……しかし、人間も街を好きに壊されたい訳ではありません。好きに戦って構いませんが、ゆめゆめお忘れなき様に』
 
ギャガゴァァァァァァァァァオォンッ!

 跳躍と小型推進装置でシートピアへ向かって飛び上がったジェットジャガーに対して、ゴジラは眼前の2体の怪獣へ向けた咆哮で返した。
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