ゴジラvsメガロ




 それは突然の出来事であった。イースター島の住民とその時海域にいた輸入品を積んだ日本船籍のタンカーの乗組員は突然明るくなった夜空を見上げて、空を煌々と照らして迸る閃光に仰天した。
 彼ら以外にその事態を見ていたのは、遥か遠い天文台の観測者達であった。彼らはコンピュータの画面に表示した隕石の形状、大きさを確認し、慌ただしく電話をかけた。
 彼らは隕石の研究者であるが、この時に彼らの行うべきことは隕石の成分や由来を調べることでも、サンプルを回収する為に現地へと赴くことでもない。隕石が洋上に墜落することによって生じる津波から被害者を減らす為に、該当する地域の政府へと避難を促す緊急の連絡を入れることであった。
 まもなく、墜落した隕石によって生じた津波はイースター島を始めとした太平洋の島々に達した。イースター島は海岸付近で甚大な被害を与えたものの、人的な被害は避難が早く行えていたことで最小限に留まった。同じ太平洋にある日本もその例外ではないが、被害は軽微であり、人的被害はなかった。しかし、その時ほぼ墜落地点の直上にいた先の船舶は消息を絶った。
 そして、陣川はこの海難した船舶の調査に派遣する一団と同行することになった。


 

 一方、隕石墜落の瞬間。隕石は急制動をかけていた。そうでないと隕石は津波に留まらず、地表に衝突し、巨大なクレーターを作って地上を壊滅させてしまう為であり、何よりも隕石自身が地中深く埋まってしまうからである。
 隕石が海に接した瞬間、その高熱によって水蒸気が発生。真っ白い煙を含んだ爆発が起こり、海を蒸発させながら真っ赤に光り輝く隕石は海中深く沈んでいく。
 海中ではその衝撃によって海そのものが吹き飛び、盛り上がる。津波が波紋状に生じ、海を泳ぐ魚達も巻き上がった土砂を含んだ黒い海水に巻き込まれて吹き飛ぶ。
 そして、隕石はスピードを落としながら海底へと沈む。次第にその表面の熱も冷め、黒く固まる。
 遂にゆっくりと海底へと着地した隕石は海底にある大きな岩に接触した。岩はかつてシートピアの中心にあった“シード”だ。
 刹那、隕石は黒色になった表面を砕き、金色に輝く円盤の姿を現した。同時に“シード”もその岩肌の隙間から光りを溢れさせ、岩全体に光放つ亀裂を生じさせる。
 そして、今まで岩であったその殻は砕けちり、中に眠っていた本体が姿を表した。それは球体状の繭に包まれたサナギであった。サナギは蝶や蛾のそれではなく、頭部に角を生やし、背に甲殻を模った甲虫、カブトムシのサナギに似た姿であった。
 サナギは繭の中で黄色い光を胎動の様に点滅させ始めた。


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 一カ月後、霞ヶ関駅の構内口に陣川が近づくと、その行き先を見知った顔が道を塞いだ。イブキだ。

「何度も言っただろ。いくらお前でも教えられない」
「教えられないってことは何かあったんでしょ」

 嘆息して何度目かわからない同じ返答を陣川は口にする。しかし、イブキは頑として引き下がらず、彼に詰め寄る。
 イースター島近海への調査に陣川が同行派遣されることになったのは隕石墜落の翌日。そして、航海による往復と現地調査など、すべてを終えて帰国したのは先週のことだった。
 その後の約一週間、イブキは連日陣川へ連絡をし、遂には待ち伏せになった。恐らく明日は庁舎まで来るだろう。
 そんな予測にうんざりしつつも、陣川は歯を噛み締め、イブキをあしらう。

「あ、ちょっと! 待ちなさいよ!」
「何度言われても答えは同じだ。話したくても話せない!」
「話せないようなことがあったのね?」
「あ、いや…………なかった。何もなかった!」

 揚げ足を取るイブキに顔を顰めつつ、陣川はそう断言して構内へと足早に進んでいく。
 イブキもまだ冷静だった。度を越して付き纏わない。彼を階段の上から見送っていた。




 改札を抜けて発車前の地下鉄に乗り込むと、陣川はドアの脇に体を寄り掛からせて嘆息した。
 嘘をつけなかった。

「はぁ………」

 再び嘆息した。陣川はイブキに真実を口にしていた。
 調査をした結果は、“何もなかった”というものだった。否、より正しくはあるはずのものも含めてそこには何も残されていなかったのだ。
 陣川は調査船舶の中で海底探索を行なっていた時のことを思い出す。現地は津波被害もあり、調査は日本から全て持ち込むことになった。故に往復の航海という工程であった。
 海底探索は国土省の直営団体から派遣された無人海底探査機によって調査された。送られてくる映像はカメラによる光学映像と音波によるレーダー画像になっており、それをリアルタイムで処理された3D映像が別のモニターに表示されていた。専門知識のない陣川は主にこのモニターを眺めていた。

「まもなく目標深度に到達します」

 機器を操作する作業員の言葉を聞いて、陣川は前に乗り出す。モニターには次第に海底を描写し始めた。
 しかし、それは離れた海底を示しており、探査機の周囲はまだ何も映さない。隕石によるクレーターかと考えるが、国土省の担当者が隣で「クレーターができているなら、津波で日本諸共太平洋側の地域は全滅している筈だ」と言った。
 更に探査機は深く潜り、遂に海底に到達した。そして、海底に沿って周辺を探査していくと、次第に海底の全貌が見えてきた。

「これは……クレーターなんかじゃないですよね?」
「クレーターがこんなすっぽり穴をあけるものではありません」
「それよりも隕石がない。地中に埋もれた可能性はあるが………」
「船舶もです。潮流に流されたか、隕石の直撃を受けて残骸すら残さなかったか」

 彼らはモニターを前にして口々に疑問を呟いた。
 モニターには、大きな穴のあいた海底を映していた。それは綺麗な円形であり、壁は垂直に切り立っていた。地面が陥没したとしても納得しづらいほどに大穴は綺麗な円であった。穴は全貌を知った彼らの視点で捉えた表現である。深さは約30メートル。直径は14〜15キロにも及ぶ円形であり、穴の底はほぼ凹凸のない平坦な面になっていた。
 それは地面が抉れて穴があいたと考えるよりも、直径十数キロ、深さ30メートルの地面が隕石と船舶諸共海底から消滅したと考える方が合点のいく光景であった。
 これが帰国までに日数を費やした最大の理由であった。
 しかし、期日を迎えても誰一人、真相を明らかにすることはできなかった。


 

 その後もイブキは姿を現していたが、陣川もこれ以上の言葉を彼女に伝えることはなかった。
 しかし、僅か3日後に事態は一変した。
 太平洋の怪獣島近海で洋上警戒中であった海上防衛隊の艦艇が消息を絶った。
 艦艇からの最後に届いたメッセージは『巨大な物体が移動中』というもので、添付されたデータは直径約14.4キロ、高さ約30メートルの円盤状の影であった。
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