ゴジラvsメガロ




 東京上空を浮遊するシートピア。その上では穴から現れたメカゴジラが口を大きく開き、円盤の中心部に聳えるモアイ像、そしてアントニオのいるドームに向けて威嚇した。

『陣川、まさかここまで地球人が、ゴジラがやるとは………。どうやら、我々はお前達を甘く見ていたらしい。陣川、地球人に敬意を払ってやろう! 自ら相手をしてやろうではないか!』

 ドーム中央に立つアントニオが両腕を広げ、声高らかに言い放つと、彼の足元から無数のケーブルが触手の様に生える。そして、それは彼の体を貫き、全身を包みこむ。瞬く間にアントニオはケーブルに取り込まれ、そのまま床の中へと姿を消した。
 刹那、シートピアが揺れる。小刻みに、振動する。シートピアを頂く銀色のモアイ像が振動しながら上昇する。土台が盛り上がっている。地面が盛り上がるのではない。地面から生える無数のケーブルが蠢き、モアイ像を押し上げている。モアイ像の下部には無数のケーブルが連なり、尚も地面から生えるケーブルが重なり合い、縒り合う。束となったそれはまるで肉体を形作る筋繊維の如く、合わさり、束なり、太くなる。
 それはまさに肉体であった。人の形を成したのだ。それもただの人型ではない。鍛え上げ、屈強に仕上げた筋骨隆々とした大男の様な肉体だった。それを無数のケーブルで形作っているのだ。その肉体の頭部に、モアイ像はまるで仮面や兜の様に存在していた。

『陣川ァァァ……っ! 相手ぉ、してやるぅぅぅぅ!』

 モアイ像ロボからアントニオの声が聞こえる。彼はこの中にいる。

『望むところだ。お前の姿の……お前が踏み躙ったアントニオの尊厳を取り戻すっ! 覚悟しやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーっ!』

 陣川の怒声はメカゴジラの全身を奮い、燃え盛る怒りの炎を象徴させるかの如く、その眼光は真紅に染まる。

キシャァァァァアアアアァァァォォンッ!

 メカゴジラは自身が機械であることを忘れ、獣の如く野生味溢れた敵意を込めてモアイ像ロボに威嚇する。
 先に動いたのはやはりメカゴジラであった。シートピア上の瓦礫や土砂を脚部の噴射口からの噴射の勢いで吹き飛ばし、露出した床を陥没させて踏み込むとそのままの勢いで大きく開いた口からモアイ像ロボへと襲いかかる。

『ぐっ! ……無茶だ! 有人機でこの動きは限界がある!』
『だったらぁ、そこで降りるか気絶してろぉ! 手指へぇ充填……っ! 砕けろォォォォォォォォォォォォォォォ―――――っ!』

 陣川は佐々木の制止を無視して操縦権限を奪い、そのままメカゴジラはその手指にエネルギーを充填する。メカゴジラの手指はガンダルヴァの砲身であるが、手指となることを考慮し、その強度は他のそれと一線を画す。耐熱性はゴジラの熱線を想定し、結果として本来砲身で考えられる運用と異なる攻撃手段を獲得した。
 飽和したエネルギーは手指の砲身全体を纏うプラズマと化し、それは閃光を帯びた手指、そして先端の砲口から伸びるはまさに爪の如し。
 メカゴジラは上半身を大きく捻り、腕を振りかぶった。
 光が残像となり、光の刃を宙に描く。三日月状のそれはモアイ像ロボの右腕を吹き飛ばし、千切れたケーブルが周囲に飛び散る。束ねられていたケーブルは結束を失い、散り散りになる。
 モアイ像ロボは、一歩後退りした。

『っ! 地球人風情に……っ! この…………星雲人がっ! 一歩…………一歩引いた……だと? 我々は……恐れたのか? 目の前の……メカゴジラに……、いや地球人共にっ! 恐れの余り、前に踏み出し反撃をする筈の一歩を、………後ろに退いてしまったっ! …………なんという屈辱感っ! ………おのれぇぇぇぇぇぇえええええっ! 地球人共ォォォォォォォォォォォォッ!』

 アントニオは確かに「敬意を払う」と言った。「相手をしてやる」とも。
 しかし、それは自らが相手よりも格上、相手が圧倒的な強者である自身に挑むと考えていたことによる言葉に他ならない。そのアントニオが、第三期のM宇宙ハンター星雲人が格下に見ていた地球人に恐怖して後退りすることは認められない屈辱的な事実であった。
 そして、メカゴジラはここで生じた隙を逃さない。まだ、その手は光り輝いている。

『まだまだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』

 メカゴジラは身を翻し、再びその手をモアイ像ロボへと振り翳す。
 刹那、モアイ像ロボの胴が砕け散り、無数のケーブルがバラバラとなって周囲に飛び散る。
 今度は攻撃の衝撃によって、明確にモアイ像ロボは後退した。

『陣川、排出させろ。時間だ』
『ちっ!』

 佐々木に言われた陣川はメカゴジラの腕をモアイ像ロボに向けて構える。
 直後、溢れ出ていたエネルギーは一気にメーサー光線となって排出され、胴の抉られたモアイ像ロボの肩に大きな穴をあけた。
 これ以上の充電状態を維持させることはできない。その時間制約がこの偶発的に生み出された技の唯一の欠点であった。
 しかし、十分に戦況を決定させるだけのダメージを与えるに至っていた。メカゴジラが圧倒的な優位。
 同時に、空から地上へ高速の飛来物が落下する様が見えた。

『どうやらジェットジャガーも到着したらしい』
『さっさと地球から追い出すというのも方法だが………俺達はそんなに優しくない。徹底的に、完膚なきまでに倒す!』

 佐々木と陣川の会話に対して、劣勢に追い込まれているモアイ像ロボだが、アントニオは不敵に笑う。
 
『ククク………中々やるなぁ、地球人。この屈辱には相応の償いをしてもらわねばならぬ。否、我が不覚によるものだ。………この手で清算を果たさねばならぬ!』

 シートピアが振動し、床から再び無数ケーブルが生え、モアイ像ロボを再生させる。失った腕も、胴も元に戻った。
 更に、モアイ像の後頭部から太いケーブルが列を成して生える。襟足やマントの様にロボの背後に生えたそれは、左右に触手の様に広がった。

『さぁ次のラウンドを始めるぞ、地球人っ!』
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