ゴジラvsメガロ
シートピアに対して一矢報いたゴジラをアントニオが一方的に激昂するばかりではない。通信による情報操作は不可能となったが、通信機能そのものが失われた訳ではない。円盤都市シートピアに太古の、第二期のM宇宙ハンター星雲人が作った装置に過ぎない。
アントニオ、第三期のM宇宙ハンター星雲人達にはもう一つ装置がある。即ち、地球へ飛来する前、母星から持ち込んだ装置だ。第二期のM宇宙ハンター星雲人から第三期のM宇宙ハンター星雲人へと継承され、彼らにとってもゴジラ、彼らの文明にとっての脅威であったガイガンを御した装置は、まだ生きている。
そして、ガイガンもまた力を温存していた。
キェェェェェェェェェーッ!
崩壊した海ほたるの瓦礫がその下部から放たれた光の刃によって粉砕される。同時に刃と同質の光を帯びた鎌を構えたガイガンがその中から、海水を巻き上げて姿を現し、両腕を一振り。水飛沫となって宙に浮いた海水は霧散した。
『行くのだ、ガイガン。そして、行け! メガロ!』
メガロも両腕を合わせたドリルで崩壊した第二ターミナルの瓦礫を粉砕して姿を現せる。更に両腕を合わせていたドリルを回転させたまま両腕を広げる。半円錐状の左右両腕に付いていたドリルはまるで元々2本の円錐状ドリルがそれぞれの腕に付いていたかの様に、ドリルは二つに分かれた。
『通信操作装置を破壊したが、こちらを破壊しなかったのは失敗したな。ゴジラ! 今度こそ肉の一片も残さず消し炭にしてやる!』
アントニオの声と共に、シートピアの下部中央に破壊光線のエネルギーがチャージされる。
ガイガン、メガロ、円盤都市シートピア、三方から狙われたゴジラだが、一切怯むことなく背鰭を発光させる。
恐るべきゴジラ。戦いの中で引き出した切り札と思われた線にまで研ぎ澄ました放射熱線のビームの準備段階である全身に広がる光を既に放っていた。ただの一発。それだけでゴジラは放射ビームを切り札の大技でなく、常用技に、自分のものにしてしまっていた。
それだけではない。戦いの中で一度でも編み出した技は、その時点で体得し、更に練度を高める。それこそが怪獣王の由縁。強敵と対峙すればする程に王はその強敵よりも強くなる。
ガイガンが鎌を一振りし、光の刃が放たれる。
メガロの両腕のドリルはナパームの炎を帯びてそのまま渦巻く円錐状の炎弾となって放たれる。
シートピアからあの破壊光線が放たれた。
同時に、ゴジラは放射ビームを放つ――瞬間、それを飲み込む。行き場を失ったエネルギーは体内から周囲へと拡散する。元々ゴジラの編み出した技の一つの全身放射だが、放射ビームでは全身からエネルギー波が球状拡散する程度ではなかった。拡散するエネルギーは無数の細い放射ビームとなって広がった。
メガロのナパームドリル炎旋風と呼ぶべきそれは、猛烈な破壊力を持ちつつもゴジラに到達する前に威力が落ち、ガイガンの光刃もゴジラへと到達するが全身を両断するに至らず、腹部に深い傷を負わせるのが限界であった。続くシートピアの破壊光線もまた拡散する放射ビームに阻まれ、相殺。
しかし、圧倒的なエネルギー消費と内部から放つ諸刃の攻撃には、如何に驚異的な再生能力を有するゴジラと言えども相当な反動ダメージを受けていた。
それをガイガンとメガロが逃すはずもない。
キェェェェェェェェェーッ!
ギュェェェェェェェェグェェェェェンッ!
二体はゴジラに再び光刃とナパームドリル炎旋風を放つ。今度はゴジラの背鰭が発光しない。代わりにプラズマと稲光を帯びた蒸気が立ち上っている。
オーバーヒート状態に陥ったゴジラはその場に立ち尽くし、攻撃をただ受けるだけだ。
『させるかぁぁぁぁぁあああああああっ!』
陣川の叫び声と共にガイガンの光刃を上空から急降下したガルーダがその翼で受け止めた。
爆発を伴う火花が翼に起こる。
刹那、ゴジラの前で光刃は消失したが、ガルーダは片翼を切断され、本体と翼に分かれた。翼は地面に回転しながら落下し、ターミナルの瓦礫に刺さって停止した。
一方、本体はきりもみ状態となりながらも飛行する。
同時に、黒く焦げたガンダルナーガがスタンディングモードでガルーダに飛び込む。
『『『合体っ!』』』
三人の掛け声が重なり、きりもみ状態のガルーダと空中での合体を成功させ、後頭部から地面を滑走して倒れ込む姿になりながらもメカゴジラは再び参戦した。
ここで二つの疑問が生じる。ゴジラへ迫っていたメガロのナパームドリル炎旋風は消滅しており、ガンダルナーガは黒く焦げていた。それは何故か。
それぞれの答えはその二つの疑問が示していた。
ガルーダが翼で光刃を受けた時、ガンダルナーガはナパームドリル炎旋風に向けて自らをタンクモードからスタンディングモードへと変形させながら飛び込み、盾となったのだ。
メカゴジラが盾となったことでゴジラは、全身拡散放射ビームによる反動から復活した。
グォォォォォォォォォォォォウォォンッ!
頭を左右に振り、眼を開く。それはゴジラの復活を告げるサインだ。咆哮の余韻を残しつつ、ゴジラは自身の近く、多摩川沿いの環八通りに倒れて着地したメカゴジラを一瞥する。
メカゴジラは片翼を失ったものの、ゆっくりと起き上がる。
『飛行能力に著しい損害だ。推進装置はバランスを取ることと精々デカいジャンプをするくらいだ』
『損傷軽微! まだ行ける!』
『……有川さんから通信です。ジェットジャガーの射出が成功したそうです』
メカゴジラの三者三様な声が聞こえる。それをゴジラはさも理解しているように嘆息し、ジロリとシートピアを見上げた。シートピアは再びエネルギーをチャージし、破壊光線を準備している。
キャエンッ! ゴゴォォォンッ!
ゴジラはメカゴジラに声をかける様に鳴き、喉を鳴らして顎でシートピアを示す。
『なんでぇ、ゴジラァ? 共闘と行こうってか?』
『だが、今のメカゴジラの飛行能力ではあの高度に達するのは困難だ。せめて半分が限界か』
陣川と佐々木の言葉にゴジラは、またも言葉を理解した反応を示す。
ゴガァァァァァァァァァッ!
『なっ!』
『まさかっ!』
『面白いっ!』
ゴジラは咆哮を上げながら、自らの脚を大きく上げると、渾身の力を込めて地面を、自身の足元にある環八の高架道路共々その橋桁の大地を踏み込んだ。
刹那、轟音と共に地面が捲れ上がり、その上にある高架道路は更に反り返る。それは格闘ゲームの畳返しの如く豪快な技。銘するならば、大地返し。
そして、メカゴジラの前には先まで平坦であった地面が傾斜のある地面に変貌し、更に捲れ上がった高架道路が発射台のレールの如くシートピアへと伸びていた。
瞬時にゴジラの意図を理解したメカゴジラは、推進装置からジェットを噴出させ、両脚の車輪をフルスロットで回転させると、一気にゴジラが作り出した発射台を駆け上がった。
メカゴジラにとっては綱渡りのロープのように細い高架道路がその重量に耐えられる筈もない。崩壊する。崩れていく綱を崩れるよりも早く、その細い道を滑走。渡りきる。
そして、飛翔。
『メガァァァバスタァァァァァァァーッ!』
天高く飛び上がった片翼のメカゴジラは口を大きく開き、チャージを完了させようと今まさにしている破壊光線発射口へと迫り、至近距離でメガバスターを放つ。破壊光線の発射直前、その付近はシートピア自身も強固なバリアを展開することはできない。ゴジラの異常な破壊力を有する強力な放射ビームでなくても、そこは守りの盲点! メガバスターであっても貫ける!
ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!
シートピア下部で爆発が起こり、ゴジラの周囲にもその破片が降り注ぐ。
巨大な円盤都市シートピアは依然として墜落することなく上空に浮遊し続けている。
しかし、最早その脅威はかつてと比較にならないほどに軽微になっていた。世界の情報を支配して侵略と蹂躙をした情報操作装置、ゴジラを消滅寸前までに追い込んだ破壊光線、その両方を失った今、シートピアは名実ともに浮遊するただの円盤都市に過ぎない。
そして今、メカゴジラは地上に降りてこない。落ちてくるのは破壊された発射口の破片のみ。その黒煙に今尚包まれている破壊された破壊光線発射口には怪獣一体分の大穴が空いていた。
『アントニオォォォォォォっ! また来てやったぜェェェェェェェェェェェェっ?』
シートピアの上部には、銀色のモアイ像とドームの目の前に空いた大穴、そしてその穴から飛び出してきたメカゴジラの姿があった。