ゴジラvsメガロ




 ゴジラはシートピアを見据えた。その目は捉えていた。圧倒的に巨大な円盤、その都市一つをかつて抱えていた構造物の中にある急所一点をゴジラは知っていたのだ。
 それを知り得たのは伊勢湾で僅かな肉片にまでその身を失った破壊光線を受けた瞬間。その時に知った。ゴジラは観察していた。自身の眼球を失い、視力を失った瞬間も、触覚、聴覚、嗅覚、味覚、凡ゆる感覚を消失するその瞬間までゴジラは頭上の円盤都市を観察していた。
 そして、既にゴジラはシートピアに一矢報いることのできる一点を見据えていた。

グォォォォォォォォォォォォ……………

 ゴジラは息を吸った。その吸引力は周囲に渦を巻き起こす。背鰭を光らせる。強烈な光は背鰭のみでなく、背鰭から全身へ、まるで樹木が根を這わせるように枝分かれして広がり、遂に全身に光を纏わせた。

ゴォッフォンッ!

 刹那、ゴジラの喉が鳴り、その口から放射熱線が放たれた。しかし、それは最早従来のそれと同一に語れるものではなかった。確かに紛れもなくそれはゴジラの熱線であり、これまでのものと同質のものであり、他と同じ系に連なる。それでも他の派生、応用、発展技とは全く異なる。一線を画していた。
 色は青や白のコントラストにして紫がかっているが、些細な違い。放射熱線とビームに明確な分け隔てが定義づけられている訳でもなく、見たものが感覚的に、本能的に捉え、表したに過ぎず放射熱線は便宜上ゴジラの熱光学攻撃に対していつの頃かつけられた固有名詞である。が、それを見た者は誰一人例外なく理解する隔たりがそこににあった。アレは放射熱線でなくビーム。
 
 細く強烈な青紫がかった白色の光となった線。

 それがシートピアのバリアは愚か、堅牢な構造物の一点を貫いた。
 貫いたのは、ゴジラの体を一度消滅寸前までに消失させた破壊光線の発射口……ではない。発射口からやや逸れた地点からシートピア中心部のドーム横の地点にかけての一直線に、僅か長径30センチの穴で貫かれていた。
 狙いが外れたのではない。シートピア上部にあるのはドームだけでない。ドーム横に聳えるモアイ像、その根本に装置があった。その装置こそ、シートピアが世界中の通信を掌握、改竄、支配していた通信制御装置であった。装置の大きさは一辺40センチの立方体。光の線はその中心を正確に貫いていた。
 即ち、シートピアは一瞬のうちに地球全土の人間社会を掌握した力を、一瞬のうちに失ったのだ。
 最早、シートピアに聳えるモアイ像はただの電波塔。ただのシンボルだ。

『ゴォォォォジィイラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアッ!』

 アントニオの憎悪と怒りが込められた叫び声がシートピアから轟いた。
 しかしながらそれは既に世界は愚か日本全土にも届かない。スピーカーから聞こえるただの拡声。ゴジラの咆哮を前に掻き消されれる雑音に過ぎなかった。

ギャガゴァァァァァァァァァオォンッ!




「通信! 復活しました!」

 超高速で飛行し、基地へと向かう機内で隊員がイブキへ言った。

「待ちなさい。罠かもしれない。敵は通信情報を改竄できるのよ。…………いえ、間違いない。これは本物。シートピアの通信操作が無効となっているわ!」

 イブキはコンピュータを操作し、すぐに結論を出した。既にイブキは通信操作の対抗こそできないが、その存在の有無を判別する方法を見つけていたのだ。

「では、我々の基地到着前から準備が可能です!」
「そうよ。今すぐに基地へ連絡を! レイコさんに戦う為の体を送るのよ! ジェットジャガーの体を!」



 
 まもなくイブキ達の到着を待たずして、対怪獣兵器として開発された巨大な本来のジェットジャガーの機体を発射させる為の準備が始められた。
 格納庫に直立する100メートルの巨体。その背後に警告音と警告灯の黄色いサイレンと共に誘導される運搬装置にはジェットジャガーとほぼ同じ高さの巨大なロケットミサイル。それを二基並べ、ジェットジャガーの背に設置、固定する。
 巨大ロボットを飛行させる推進装置にしては、あまりにそれは大き過ぎた。当然、空を駆け抜けるような優雅な飛行など不可能。あくまでもミサイルのロケットブースター。言わずもがな、消耗品。
 なぜこの様な装備を身に付けるのか。理由は至ってシンプルだ。メカゴジラの様に移動性能に優れた分離形態をもたない人型巨大兵器のジェットジャガーは、輸送が最大の問題であった。自律走行は即ち二足歩行であり、貴重なエネルギーを戦闘前に消費してしまう。しかし、その巨体故に運搬も困難。
 その結果導き出された輸送方法が、これである。基地から作戦地点へ直接射出。豪快かつ乱暴な手段であるが、払い下げの旧式ミサイルを使い捨てブースターとして流用するこの方法は、ジェットジャガーの輸送手段の中で最も低コストかつ即応性に長けていた。
 まもなく基地に到着したイブキの計算に基づいた指示により、基地地上部の発射口が解放される。格納庫は地下にある。そして、ミサイルブースターを身につけたジェットジャガーは背後に設置されたレールに脚部とミサイルを接続。レールは真っ直ぐ上に伸び、頭上から外の明かりが差し込む。地上にぽっかりと口を開いた円形の発射口にレールは真っ直ぐ続いており、更にレールが伸びて発射口から空に向かう。

『5……4……3……2……1……』

 カウントダウンに従って、ジェットジャガー背後から白煙が立ち込める。ロケットに点火されたのだ。
 そして、基地の最高責任者である初老の司令官が野太い声で叫んだ。

『発射ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!』

 同時に、ロケットは轟音と共に火を噴き、ジェットジャガーはレールを凄まじい速度で滑り上がり、基地上空へと射出された。
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