ゴジラvsメガロ
邂逅を果たしたゴジラとガイガン。
先に動いたのはガイガンであった。
否、ゴジラが息を吸う間も与えぬ刹那の内に上空からゴジラの頭頂部へと右腕の鎌を振り下ろしていた。
次の瞬間には二体の怪獣の姿は海上から消え、代わりに天高く上がった水柱と海水を巻き込んだ衝撃波が周囲を襲った。
その衝撃波は数キロ離れた川崎貨物駅の架線上に魚が吹き飛ばされる程であった。
海岸線には大波が襲い、滑走路上にいた機兵はレイコさんを巻き込んで湾内へと攫われる。
『赤木! 体制を整える! ナーガと合体するぞ! 陣川、お前は上空からの哨戒』
『了解。ガンダルナーガはタンクモードで構えてな』
『ガンダル……勝手に名前をつけるな!』
『呼びやすいから良いだろ』
実際、合体の中間形態に正式な呼称はなく、ナーガとガンダルヴァの合体した陣川曰くガンダルナーガは合体フェーズ1、可変して立ち上がった形態のスタンディングモードをフェーズ2、ガルーダとの合体段階をフェーズ3としているが、実戦中にこの呼び分けを現場ではされていない。そもそも中間形態ながらガンダルナーガのタンクモードとスタンディングモードは共に重心が高く洋上では転覆してしまうことや長時間運用の想定をしていない直立二足歩行と、バランスが非常に悪いデメリットがある。実戦の中でこの形態のメリットが発見されたのだ。
海水が残った滑走路上でナーガにガンダルヴァが合体し、“両腕”の砲身が稼働する。メカゴジラとしての機体の運動性と飛行能力はガルーダとの合体が不可欠であるが、武装の大分はこのガンダルナーガに集約されている。それはつまり、『動くトーチカ』である。
元々対怪獣決戦兵器として開発されたメカゴジラであったが、怪獣を想定しなければガルーダとガンダルナーガという運用は一つのアンサーであったかもしれない。
一方、湾内は渦を巻き、荒波を生じながらも元に戻ろうとする。
その海中では海底まで頭部を叩きつけられたゴジラとそこに追い打ちとばかりに左腕の鎌を下から構え、ゴジラの首へ打ち上げる。
土砂が舞い上がる海中にゴジラの血が舞う。
そして、水流がガイガンの腹部で巻き起こる。ガイガンの腹部に一列で生えた刃はチャーンソーの如く回転をし、動きの鈍くなったゴジラの頭部を両鎌で固定するとそのまま腹部の凶器に押し付けた。
ゴジラが暴れ、周囲の海水が赤く染まる。
勝利したとガイガンは判断し、海上へと浮上し始める。
ゴガァァァァッ!
キェェェェェッ!
浮上しようとしていたガイガンの背中を長い尾が鞭の様に叩きつけ、海水が裂ける。
振り返ったガイガンの視界には土砂と血を巻き込んで激しく渦巻く水流の中から頭部を激しい損壊によって失っている筈のゴジラが腕を伸ばし、ガイガンの尾を掴む姿であった。
ガイガンの目が赤く発光する。
しかし、同時にゴジラの背鰭も青白く発光していた。
刹那、口すらまともに原形を留めていない頭部の根本、即ち喉に相当する位置から放射熱線が放たれた。
!
ガイガンも同時に目から光線を放つ。
収束されたガイガンの赤い光線はゴジラの喉元を貫く。
しかし、ゴジラの熱線は貫通した喉の穴からも放たれる。熱線を受けたガイガンの動きが鈍り、海中に一瞬漂う隙が生まれた。
ゴジラはそれを逃さない。目も耳も失っているゴジラが如何にしてそれを認識しているのかはわからない。
しかし、ゴジラはガイガンの動きを把握していた。その一瞬の隙をゴジラは渾身の一撃にかえた。身を翻し、長い尾が海水を切り裂き、ガイガンへと打ち付ける。ただの尾を振るうだけでない。ゴジラの尾にも伸びている背鰭が発光していた。
通常、口へと集約されるその発光は、この時、尾の先へ向かって集約されていた。
ガイガンに尾がぶつかる際、ゴジラの尾は青い閃光に包まれ、ガイガンへ触れたその瞬間、それは放出された。
それは乾燥した冬場に指先から走る静電気の如く、ガイガンへと青い閃光が迸り、ガイガンの体は後ろへと吹き飛ばされる。
まもなく、海ほたるが大きな衝撃と水柱を上げて爆砕した。海中でガイガンが激突したのだ。
そして、頭部を失ったはずのゴジラはゆっくりと浮上する。
上空ではガルーダがシートピアと距離を取りつつ湾内の様子と合わせてその動向を確認していた。
「ちっ! 距離を詰めようとすると自動で反応するのか!」
シートピアへ向けてチャフを撒くとシートピア表面が発光し、細かいレーザー光線が照射されてそれらを破壊する。バリアーに見えていたものの正体だ。
陣川はそれを確認して舌打ちする。
シートピアの破壊光線は円盤下部に砲口がある為、高度を上げればターゲットにはならないが、有効な策とはいえない。
朝日が昇ったことで視界は良くなった。シートピアを警戒しつつも、ガンダルナーガの援護、そして今も海中から出てこないレイコさんの所在を探す為、陣川は海上を見下ろしていた。
「! 佐々木、赤木! 海中からメガロがそっちへ向かっている」
『了解。援護を頼む』
ガンダルナーガは下部のナーガから魚雷を発射する。
同時にガルーダも高度を下げ、爆雷を投下する。
メガロに着弾して水柱が次々に上がる。
海面が盛り上がり、メガロが攻撃に怒った様子で咆哮した。
ギュェェェェェェェェグェェェェェンッ!
そして、口を開きナパーム弾を滑走路上のガンダルナーガに向かって放とうとするが、その角を背後から投げられたワイヤーによって後ろに引かれ、ナパーム弾はガンダルナーガの手前に着弾した。
『まだ私も戦えますよ』
片目が損傷し、肩や腕も破損しているが、レイコさんの操る機兵はワイヤーを握りって滑走路に近い川崎浮島の岸壁に立っていた。
しかし、メガロは攻撃を妨害されたことによって標的をレイコさんに変えていた。メガロは再びナパーム弾を放とうとする。今度はレイコさんに向かってだ。
「オラオラオラオラァァァァァァッ!」
上空から陣川が叫びながらガルーダを急降下させながら、ビームを連射させてメガロを攻撃する。
ギュェェェェェェェェグェェェェェンッ!
メガロは両眼を光らせる。怒っているらしい。
メガロは翅を広げ、飛翔しようとする。今度はガルーダを狙っている。
しかし、メガロは飛翔することができなかった。
飛翔しようとしたメガロの体が海中に引きづり込まれたのだ。
ゴガァァァァァァァァァオォォンッ!
ゴジラがメガロを海中に引き摺り込み、自身の体をメガロの上にさせ、両足でメガロを踏みつけようとする。
ギュェェェェンッ!
メガロも応戦する。両手のドリルを回転させ、ゴジラの腹部を貫く。
しかし、ゴジラはそれを全く意に解させない。
それは、海中からゴジラの姿が現れた瞬間に誰もが理解した。
「な…………」
『ゴジラの再生力の高さはこれまでにも多くの目撃があります。……しかし、これほどとは』
『怪獣なんて枠でもまだ収まりきらないってことか、奴は!』
海上に姿を現したゴジラの頭部は骨であった。厳密には骨に筋肉が形成されつつあり、眼球も露出した状態でギョロリと周囲を見つめていた。そして、その表面は湯気をあげながら小刻みに震えており、次第に筋肉、皮膚を再生させていた。そして、顎を大きく開き、咆哮する。
ギャガゴァァァァァァァァァオォンッ!